2018年5月17日更新

【「バーフバリ」監督の必見過去作】主人公は「ハエ」? 映画『マッキー』の魅力を徹底解説

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マッキー

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ハエに転生した青年の愛と復讐 インド映画『マッキー』

「バーフバリ!バーフバリ!」と王を称えるしかなくなってしまった方に朗報です。S・S・ラージャマウリ監督が2012年に撮った『マッキー』。それは恋敵に殺されてしまった青年がマッキー=ハエ(!)として生まれ変わり、愛する女性と協力して犯人の悪党に復讐するという他に類を見ないユニークな物語だったのです。 しかも本作の魅力は、ハエが主人公という奇抜な設定に留まりません。「バーフバリ」が日本で多くの観客の心を貫いたのと同様、他の映画にない物語や登場人物の力強さがありました。その「凄み」に迫ります。結末に触れていますので、未見の方はご注意を。

両想いが叶ったのに殺されてしまいハエに……! 『マッキー』あらすじ

慈善活動家の女性ビンドゥに恋する純粋無垢な青年ジャニはある日、勇気を出して彼女に告白します。念願叶って2人は両想いとなりますが、幸福も束の間、ジャニは無残にも殺されてしまいます。犯人は建設会社の社長で、裏でマフィアの顔も持つスディープでした。 ジャニはハエとして生まれ変わります。殺された恨みを晴らし、ビンドゥを守るため、復讐の鬼……いやハエと化したジャニは、小さな身体で人間スディープに立ち向かうのでした。

前代未聞の「愛すべきハエ」を実現した映像技術と演出の力

本作の魅力は何といってもハエの描写です。人間ドラマが一転、ハエに生まれ変わったジャニが水に溺れそうになったり、鳥に追われる序盤の展開は技術的にも圧巻ですが、無声アニメのようでもあります。 ラージャマウリ監督には喋る自転車が登場する『あなたがいてこそ』もありますが、『マッキー』のハエは喋りません。また、心を持ったロボットが暴走するSF映画『ロボット』のVFXチームが作り上げたその造形は『バグズライフ』に登場するハエのようなデフォルメされたものでなく、リアルな虫に近い姿をしています。 そんなハエを観客は「気持ち悪い」と思うどころか心と表情を感じ、次第に「感情移入」していきます。そして、VFXのハエ(つまり、撮影現場にはいない)と戦う難しい演技に挑んだのは役名と同じスディープ。『バーフバリ 伝説誕生』で衛士隊長カッタッパの姿に感銘を受ける武器商人を演じた俳優です。

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奇抜な設定だけじゃない? 純粋過ぎる愛を称えよ【ネタバレ注意】

「ハエが主人公」と聞くと、ハエと人間の身体が融合するホラー映画『ザ・フライ』を思い浮かべる人もいるかもしれません。しかし『マッキー』はどちらかと言えば、幽霊となった男が恋人を守ろうとする恋愛映画『ゴースト ニューヨークの幻』と同じ物語構造を持った作品と言えます。 「ゴースト」で幽霊となったサムの姿は誰にも見えません。サムは恋人に自分の存在を知らせるため霊媒師の力を借りるなど奮闘します。姿が変わってしまった人物を映画で描く場合、「気付いてもらう」ことは一つの関門となり、見せ場となります。 『マッキー』では、ハエになったジャニはビンドゥの涙で文字を書き、自分がジャニだと訴えます。簡単に信じるビンドゥ――。「え!?」と面食らう人もいるでしょう。映画として美味しいはずの、恋人に存在を伝える場面に過剰な葛藤がないのです。 またハエになったジャニに対しビンドゥは『ザ・フライ』のヒロインのように恐ろしいと感じたりしません(それどころかデートしたり、楽しくかくれんぼしたりします)。『美女と野獣』のように「見た目より中身が大切」ということに気付く感情のプロセスもないのです。アンチ『美女と野獣』の意味が込められた『シェイプ・オブ・ウォーター』以上に、その点が強く打ち出されています。

ジャニとビンドゥの間には、例えば「見た目より中身」のような道徳的な価値観を超えた、互いを信じる強い「肯定」があります。それは「バーフバリ」で従来の価値観に縛られないバーフバリやその妻デーヴァセーナの生き方が観客の心を捉えたのと通底するのではないでしょうか。 そして、狂気も。死闘の末、ジャニは再び命を落とします。しかしまたしてもハエに転生し、ビンドゥに近づく新たな男を攻撃する場面で映画は終わるのです。それは2人にとって、幸福なことなのでしょうか……。あるいは「本当に幸せかもしれない」と思わせてしまうことこそ、本作の狂気であり魔力であり、力強さなのかもしれません。

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『マッキー』が「バーフバリ」に魅せられた人にこそ観てほしい快作

「バーフバリ!バーフバリ!」と叫んでいる方、次は本作を観て「マッキー!マッキー!マッキー!」と歌い狂ってみませんか?「バーフバリ」と見比べて共通項を探してみるのも楽しいかもしれません。