【インタビュー】『バーフバリ』監督、バーフバリユニバースの可能性を語る
あの『バーフバリ 王の凱旋』のS・S・ラージャマウリ監督に直撃!
日本に旋風を巻き起こした『バーフバリ王の凱旋』を監督したS・S・ラージャマウリが完全版を引っさげて初来日を遂げた。日本での応援上映会での様子に感銘を受けた彼に、本作に関する事、また今後の展望などについて伺った。
初めての来日、日本の印象はどう?
監督「日本については本当に少ししか知識がなく、黒沢監督の映画も拝見しているものの、全て観ているわけではありません。私の知っている日本の事はまだ氷山の一角なので、コメントするには忍びない部分があるのですが……やはり45年の原爆によって広島と長崎があそこまで破壊されたのにも関わらず、復興したどころか経済的にここまで成長できた点が素晴らしいと思っています。 他の国ならこんなに戻っていないかもしれないです。」
脚本家の父の仕事の手伝いが、今日の自分を作り上げた
若くしてヒットメーカーになったラージャマウリ監督。本作を生み出すまえに、一体どのようなキャリアをつみ、何に影響を受けてきたのか。実は、脚本家の父との仕事が、今日の自身に繋がっている事を明かした。
監督「父のアシスタントとして、仕事の手伝いをしていました。私の仕事は監督たちに父の手がけた脚本のシーンを説明する等、シーン作りに貢献していました。そして実際に映画としてそれが完成されて観にいくと、実は失望する事が多かったのです。 思っていたのと違っていた、自分ならもっと上手く映画化できていた、と。シーンが生かしきれていない、むしろ殺していると思う気持ちもあったので、そこから監督を志す気持ちが芽生えました。 そして助監督となってCMなどの仕事をてがけるようになり、映画作りのチャンスがまわってきて映画監督をするようになりました。」
製作における一番の苦労、そしてジェット・リー『HERO』からの影響
『バーフバリ』はとにかく、丁寧で緻密に計算された絵作りが特徴的だ。監督にとって、本作を撮るうえで苦労した事は何だったのだろう?
監督「クルーの経験値が足りなかった、というのが一番の問題というか、難題でした。 一作目の話になりますが、このスケールの映画を作ることは、インド国内初の試みでもありました。なので、撮影クルーの経験値が非常に低かったのです。撮影を重ねて試行錯誤していくうちに、どんどん予算が桁違いに増えていってしまい……それを補うため、1日16、17時間みんなで働いて、生産性をあげようと苦労していました。 しかし、無事一作目がヒットしたおかげで続編はある程度余裕を持って製作する事ができたんです。」
さらに、数多くの映画のオマージュを感じさせるシーンが登場する点にも注目していただきたい。例えば、バラーラデーヴァ軍の放った大量の弓矢が降り注ぐシーンはジェット・リーの『HERO』を思わせる。監督は実際に影響を受けていたのだろうか?
監督「『HERO』は私が観た数少ない中華系の映画のうちの1本です。あと、『グリーンデスティニー』なども好きなのですが、『HERO』にはかなり影響を受けています。音楽とアクションの融合、そして非常に残忍な闘いのシーンが本当に優雅で詩的に捉えられているという、その点が素晴らしいと思っています。」
斬首などの残虐表現「ぬるくするつもりはない」
本作には指を切り落としたり、斬首する等の残虐なシーンがある。これから国際的な監督になると、これらは国によっては上映禁止になったり年齢制限を設けられる可能性が非常に高いのだが、それについて監督はどう考えているのだろう?
監督「“暴力”というのも、感情のひとつだと考えています。なので、無意味な暴力を描く事はしません。あの斬首のシーンも、観客に怒りを浸透させ、もう自分の手で首を切り落としたいぐらいのフラストレーションを与えた末に描いたものなんです。その行為を描く上で、そこに至るまでの前振りが一番重要であって、そこで憎しみを積み上げていかなければいけません。 他の地域でこういった表現が問題になるとしても、私はそれに対して心配していません。心配しないというか、特定のマーケットのためだったり、より大きな市場、多くの観客に観てもらうために映画を少しぬるくするつもりはありません。自分の作りたいものを作らない、という妥協はしたくないです。」
無神論者を公言する監督は、SF映画をこう捉える
『バーフバリ 王の凱旋』はインド神話をエッセンスに加えた作品である。監督も、幼少期から「マハーバーラタ」などをベースにしたアマル・チットラ・カター社のインド神話コミック を愛読していたとのこと。自身が無神論者であると公言している監督にとって、これらの神話はどう捉えられていたのだろう。
「マハーバーラタ」をずっと読んできた子供時代を経て思うに、そこに描かれていた事が実際に起きたら凄いと思いますが、あれは“神話”として描かれているから素晴らしいのだと思っています。 「マハーバーラタ」は私にとってコーランのような、聖典のような存在でしたね。物心ついた時から読んでいて、そこから読み取った微妙な心の機微や、非常に広がりのあるキャラクターの描かれ方というのは、今日においてディテールにこだわるという、私の映画作りに一役かっていると言えるでしょう。
無神論者であると同時に、超自然的なものを信じないという監督。しかし、以前監督した『マッキー』(主人公がハエになる)という映画は、ある意味超自然的なSFコメディジャンルの作品だった。
監督「実際に私はジャンルにこだわるというよりかは、ストーリーありきで映画を作りたい気持ちでいます。SFが嫌いというわけではないのです。私の一番好きなSF映画は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』なのですが、何が好きってトラウマレベルのチャレンジを抱える主人公が登場する事です。 自分がタイムトラベルで母と父の若い頃に戻ってしまい、彼らを引き合わせてくっつかせなければ、自分の存在が消滅してしまうんですよ?凄い状況ですよね。 この非常に興味深い“ドラマ”に、「タイムトラベル」というSF要素をツールとして使っているという点に、惹かれます。」
超自然的な力というのは、強いドラマをそこに生み出すと思っています。『マッキー』もそうですし、私が以前撮った『MAGADHEERA(原題)』という作品も、輪廻転生をテーマとして扱っています。個人的には輪廻転生を信じていませんが、何故それを扱うかというと、ドラマとして非常に強い要素を持っているからです。 SFだけでなく、ファンタジーという分野の映画も好きですね。やっぱり、自分のできない超自然的なことって、我々は憧れを抱いてしまうもの。そういうものはワクワクする、だからこそ、そこを描きたいという気持ちはあります。
ファン待望!?今後の「バーフバリ」ユニバースの展開について
さて、バーフバリ狂と化したファンにとって何より気になるのは、続編の可能性や今後の監督の手がける作品なのではないだろうか。伺ったところ、そんなファンの気持ちをかなり満足させるような回答をいただいた。
監督「各キャラクターに関して、彼らが生まれてから死ぬまでを書いたアイデアブックが存在するんです。それらの全ては映画の中で描き切れていないので、これらを生かさない手はないなと思っています。そこで、シヴァガミが生まれてから死ぬまでの彼女の人生を描いた「ザ・ライズ・オブ・シヴァガミ」というものがあり、それは既に本として出版されています。」 それがとても好調なので、今度これを実写映像化する企画というのが進行しています。
監督「もうひとつ、バラーラデーヴァとバーフバリの葛藤を深堀する、幼少期からの二人の衝突を描いた作品が「バーフバリ 失われた伝説」というタイトルで既にアニメ化されており、シーズンも増して行く予定です。 映画に留まらず、アニメ、リアリティ・ゲームなどで今後展開されていく、 “ワールド・バーフバリ”に是非期待していただきたいです!」
では、最後に皆さんご一緒に。
バリバリバリラーバリ!エイ!サホレバフバリ! エイ!エイ!バリバリバリラーバリ!サホレバフバリ! ジャヤハーラティニッケーバッタリーバッタリイ ブバナランニ!ジャイコターリ ガガナーレチャットパタリー! ヘーッサ!ルッタサ!ヘーソラバットサルッタサ! ヘーッサ!ルッタサ!ヘーソラバットサルッタサ! (インタビュー・文:アナイス)