芸術家夫妻の愛と戦いの記録、映画『キューティー&ボクサー』が最高!

2018年6月20日更新

ニューヨークを拠点にアーティストと活動を続ける篠原有司男とその妻乃り子。型破りな二人の夫婦生活に若きアメリカ人ドキュメンタリー監督が密着しました。アカデミー賞ノミネートも果たした『キューティー&ボクサー』について紹介します。

アカデミー賞ノミネート!注目のドキュメンタリー『キューティー&ボクサー』

ニューヨークはダンボ地区で夫婦それぞれアーティストとして創作活動を続ける、篠原有司男・乃り子夫妻。エネルギッシュな二人に魅了され、夫婦の波乱に満ちた生活を、ドキュメンタリー作品としてカメラに収めました。 第86回アカデミー賞の長編ドキュメンタリー部門にノミネートし、サンダンス映画祭のドキュメンタリー部門では監督賞を受賞した注目作品についてご紹介します。

ある芸術家夫妻の愛と戦いの記録

篠原有司男は、故岡本太郎が“ひたむきにベラボウ”と賞賛した現代芸術家。1969年に渡米してからニューヨークを拠点に活動しています。 そんな彼と共に暮らしているのが妻、乃り子。自分よりも21歳年上の夫・有司男を、悪態をつきながら金銭的にも生活的にも支えてきました。 そんな二人に魅了されたアメリカ人監督が、4年の歳月をかけて夫妻に密着。そうして、カメラに収めた愛と戦いの記録、それがドキュメンタリー映画『キューティー&ボクサー』です。

『キューティー&ボクサー』の登場人物

篠原有司男(しのはら うしお)

1932年東京麹町生まれの現代芸術家。ギューチャンの愛称で知られています。 東京芸術大学の油絵科に入学しますが、卒業はせずに中退し、アーティストとして活動を始めます。1960年に前衛アートグループ『ネオ・ダダイズム・オルガナイザーズ』を他の若手アーティスト達と結成。この頃篠原は、日本で初めて“モヒカン刈り”にし、話題になりました。 1969年、奨学金を得てニューヨークに渡ります。そのと時は前妻と子供も一緒でした。そして、ダンボールを使った彫刻などを作り始めます。しかし、当時のアメリカではあまり評価されず、作品の発表自体は日本で行なっていました。 アメリカで篠原がアーティストとして注目されだしたのは1990年代になってからで、2012年にニューヨークのドースキー美術館で初の回顧展が開催されました。

篠原乃り子(しのはら のりこ)

1953年富山県高岡市出身。有司男の二番目の妻であり、画家として活動するアーティストです。 幼い頃から芸術への関心を募らせ、1972年に美術学校アート・スチューデンツ・リーグで勉強するためにニューヨークへ渡ります。1年後、有司男と出会い、互いにインスピレーションを与えつつ制作活動を始めます。 当時、有司男はまだ前妻と婚姻関係にありました。にもかかわらず、1974年に二人の息子アレックス・空海が誕生します。有司男はアレックスが5歳になるまで離婚しなかったそうで、二人が正式に夫婦になったのは1979年でした。

監督はザッカリー・ハインザーリング

ハインザーリングは1984年にアメリカはテキサスで生まれました。学生時代の専攻は心理学と美術 でしたが、そこから映像制作へと興味が移っていきます。 卒業後はスタジオHBOで制作アシスタントとして働きつつ、ドキュメンタリー作品の制作を始めます。2012年にHBOを退社し、長編デビューとなった作品が『キューティー&ボクサー』でした。 ハインザーリングは初めて篠原夫妻に出会った際、“二人の顔、生活、アート全てから生み出される魂と美しさに打ちひしがれた”と語っています。ハインザーリングと篠原夫妻は、親子ほど年が離れています。そんな彼が魅了された夫妻の様子を、ハインザーリングは単純な記録映像ではなく、映画としてまとめあげています。

有司男の代名詞“ボクシング・ペインティング”

“ボクシング・ペインティング”とは、ボクシンググローブの先にスポンジをつけ、それを絵の具に浸してカンバスにパンチするという表現方法。有司男の代名詞とも言えるパフォーマンスです。 映画の冒頭では、当時80歳の有司男が、力強くカンバスに向かってパンチを繰り広げる姿を披露しています。 ちなみに、実はこのパフォーマンスはあくまでマスメディアに向けて行なったもので、始めた当初は芸術とは全く思っていなかったそうです。

乃り子にとって、有司男は“ブリー”?

有司男と暮らすようになってから乃り子が描き始めたコミックがあります。そのタイトルは『キューティー・アンド・ブリー』。かわい子ちゃんを意味する“キューティー”は乃り子の分身。一方、“ブリー”はいじめっ子の意味ですが、有司男の“牛(ブル)”にひっかけた言葉でもあります。 当時お金がなかった有司男に対し、乃り子は留学も私費で行うぐらい裕福な家庭で育ちました。そんな乃り子に、有司男は金銭的に依存していたそうで、出会って翌月には乃り子が家賃を払っていたそうです。 映画の中でも、乃り子が有司男に対して「あなたはわたしを無料のシェフで秘書でメイドだと思っている」という辛辣なセリフをぶつけるシーンが登場します。そして「あなたは私のお金が欲しいから一緒にいる」とも。 波瀾万丈な生活の中で、乃り子が有司男を“いじめっ子”だと皮肉を言いたくなる気持ちもわかります。しかしそんな厳しい妻に、「君が好きだから一緒にいるんだよ」と返す有司男はどこか憎めないのです。

アーティスト夫婦初の二人展開催までを追う

映画は、夫婦で取り組む初の二人展『Love Is A Roar‐r‐r‐r』のオープニングまでの日々を追いかけています。この展覧会は、映画の公開を記念して2013年12月に東京でも『Love Is A Roar‐r‐r‐r ! In Tokyo 愛の雄叫び東京篇』として開催されました。 展覧会タイトルを日本語に訳すと“愛は雄叫び”となります。二人の夫婦愛は、雄叫びのように激しくエネルギッシュということなのでしょうか。

観たらあなたも二人の虜に!

世間一般の常識を覆す、型破りな二人の生き様を描いた『キューティー&ボクサー』。 このエネルギーに溢れた魅力的な夫婦に、あなたも虜になってしまうはず!