2018年7月28日更新

ミステイクからスポンサー配慮まで、特撮NG大百科

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常に一発勝負の特撮にNGはつきもの

特撮映画の現場は非常にシビアです。本番でミスをすると取り返しがつかない場合があります。 ミニチュアを爆発させる場合、1回爆発させてしまえばもう2度とそのミニチュアは使用できません。撮り直しのためのミニチュアを用意するのにもお金がかかり、セッテイングの時間も必要になってしまいます。 フィルム撮影の時代には、どんな映像が取れているか現像するまで確認できないという問題もありました。普通の映画でも同じ問題はありましたが、趣向を凝らして普段見ているものとは違う世界を作り出す特撮では、そもそも狙ったものが撮れているかどうかも手探りです。 テレビ番組の場合には放送スケジュールの問題も発生します。他の番組の数倍の手間がかかると言われている特撮を週に1本仕上げるのは並大抵の苦労ではないのです。 今回は特撮ならではのものから、他の映像作品でも見られるようなミステイクまで、特撮のNGをまとめてみました。

ハイスピード撮影のはずがコマ落としに『ゴジラの逆襲』

特撮怪獣映画というジャンルの金字塔『ゴジラ』の続編『ゴジラの逆襲』。2代目ゴジラと新たな怪獣・アンギラスとの死闘が魅力の作品です。 特撮では大きなものほどゆっくり動く特性を利用し、ハイスピード撮影を行うことでスケール感を出します。本作で描かれる日本初の怪獣同士のバトルも通常の4倍、秒間96コマで撮影される予定でした。 ここで事件が起きます。スタッフが間違えて、カメラの速度をハイスピードとは真逆のコマ落としにしてしまったのです。 ミスに気づいて愕然とするスタッフに対し、現像されたフィルムを見て「これは面白い」と膝を打ったのは『ゴジラ』同様に特技監督を努めた円谷英二。素早い動きが獰猛な野獣のようだと感じたとのことです。 以降、本作の格闘シーンは全てコマ落としで撮影されました。他の作品では中々見られないハイスピードバトルは、若干ぎこちない印象はあるものの、確かに独特の迫力を持っています。

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過酷な撮影現場が名シーンを生んだ『空の大怪獣ラドン』

1956年公開の『空の大怪獣ラドン』は、『ゴジラ』の本多猪四郎・円谷英二タッグで制作されました。 前半は怪物・メガヌロンがメインに据えられ、後半は大怪獣ラドンが大暴れします。黒澤明の助言で季節感や前後半の対比が演出され、1粒で2度美味しい見ごたえのある作品となりました。 本作のクライマックス、ラドンが噴火する阿蘇山上空を舞うシーンでNGは起こります。噴火を熱で溶かした鉄で再現したためスタジオは高温となり、ラドンを釣っていたピアノ線のうち1本が耐えられず切れてしまったのです。 地に落ちたラドンは、残ったピアノ線に引っ張られもがくように地面をのたうちました。円谷はこれをスタッフのアドリブだと思い、カメラを回し続けるように指示します。 これにより、噴火という大自然の力に敗れるラドンの姿がスタッフの想定以上の迫力で描かれる名シーンが生まれました。災い転じて福となす好例です。

ゴジラ、本当にコケる『モスラ対ゴジラ』

ゴジラシリーズ第4作『モスラ対ゴジラ』。東宝特撮の主役怪獣モスラとゴジラが激突する娯楽巨編です。 本作ではゴジラが名古屋城を襲います。お堀で足を滑らせて、八つ当たりのように城を壊すという筋書きでした。 このシーンの撮影でNGが発生します。本番中に中島春雄演じるゴジラが本当にこけて、名古屋城に倒れ込んで壊してしまったのです。 図らずも筋書き通り本当にコケてしまったゴジラ。手の込んだお城のセットはスケジュール的にも予算的にも作り直せない状況でした。 唯一の救いは、カメラが回っている本番で起きたNGだったことです。スタッフは中島がこけていると分かる部分を編集で取り除き、ゴジラが豪快に名古屋城を壊したように処理して難を逃れました。 幸い映画はコケることなくヒットし、怪獣ブームの先鞭を飾った名作として長く愛されています。

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変身シーン初お披露目が遅れたのは予算の都合?『仮面ライダー』

変身ヒーローの代表格『仮面ライダー』。主演の藤岡弘、が事故で降板するという危機を乗り越えた本作は、佐々木剛演じる新たな主役・一文字隼人と仮面ライダー2号がバトンを引き継ぎました。 この際導入されたのが腕をぐるりと回す変身ポーズ。その初お披露目となるカットにNGシーンが残っています。 佐々木はジャケット下のベルトを出してポーズをとる段取りを間違え、先にポーズをとり始めてしまったのです。途中でミスに気付いた佐々木はベルトを出し、そのままの流れで変身を終えます。 普通なら取り直しになるこのカットは、そのまま本編に使われてしまいました。佐々木はその理由を「低予算だったからではないか」と述懐しています。 本作はフィルムで撮影されていました。フィルムは重ね撮りが出来ないため、予算が限られた制作環境では新たなフィルムを必要とするリテイクにも制限があったのです。

NGから公式設定が生まれた『スター・ウォーズ エピソード4 新たなる希望』

ジョージ・ルーカスがSFX巨編の面白さを世界に知らしめた世紀の傑作『スター・ウォーズ エピソード4 新たなる希望』。革命的な特撮技術を多数生むことになる本シリーズの第1作に、NGシーンが収録されています。 量産されたクローン兵、ストームトルーパーの1人がセットに頭をぶつけてしまったのです。このシーンは有名なNGとして世に知られ、ルーカスフィルムもDVD版リリース時にSEを追加・強調するなど小ネタとして扱うようになります。 そしてシリーズ第5作、時系列としては第1作の前に当たる『スター・ウォーズ エピソード2 クローン戦争』ではこのシーンを踏まえた追加設定が登場しました。ストームトルーパーの元となった兵士が、戦闘機のハッチに頭をぶつけるのです。 スタッフのコメントによれば、この頭をぶつける癖がストームトルーパーに遺伝したのだとか。NGが新たな設定を生むというのは、何とも奇妙な出来事です。

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宇宙船はどちら向き?『2001年宇宙の旅』

スタンリー・キューブリックが特撮技術を用いて宇宙旅行をリアルに描いた『2001年宇宙の旅』。NASA監修の宇宙船・ディスカバリー号の設計は先進的でした。 地面に対して後ろを向いて着陸するのです。離陸の時はそのままエンジンに点火すればロケットのように発射できます。 後のスペースシャトルを思わせる形状ですが、この設計がNGカットを生むことになりました。着陸する際にパイロットが地面を見下ろす、一見普通のシーンがNGカットです。 ディスカバリー号のコクピットは飛行機やスペースシャトルのように前を向いています。そのため、地面に対して後ろ向きに着陸するには、パイロットは宇宙を見ている必要があるのです。 観客からすると着陸シーンだとひと目でわかる映像になっているので、キューブリックは正しさを捨ててわかりやすさを選んだのかもしれません。NGなのか演出なのか、議論が絶えないカットです。

かっこいいライダーの意外な欠点『仮面ライダー555』

特撮のNGは、何も映像だけではありません。例えばヒーロースーツはかっこよさを強調するデザインを活かしながらアクションができるように作られなければNGとなります。 中には問題点が残ったまま撮影が続くこともあります。その典型的な例が『仮面ライダー555』です。 本作の主役・仮面ライダーファイズは頭部の殆どを占める目と体に流れる力の通り道・フォトンブラッドが生み出す光が印象的なかっこいいライダーですが、目が光るというのが問題となりました。 アップカット用のスーツは、目が光る仕掛けのせいでほとんど前が見えなかったのです。スーツアクターはアクションシーンをほぼ勘に頼って演じたと明かしています。 引きのシーン用のスーツはまだ視界が広かったとのことですが、それでも他のスーツよりもかなり視界が悪くアクションには向かなかったそうです。いわば全編がNGスーツで撮影されたと知った特撮ファンは驚きと驚嘆の声を上げることとなりました。

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NGで差し替えたシーンもスポンサー決定でNGに『ウルトラQ』

特撮ではライブフィルム(過去の映像)を流用する事があります。1966年に放送された『ウルトラQ』では、いくつかの話でライブフィルムが大胆に使用されています。 特に印象的なのが第12話「鳥を見た!」。怪鳥・ラルゲユウスが暴れるシーンの殆どは『空の大怪獣ラドン』のライブフィルムです。 ラルゲユウスが暴れるシーンは撮影されましたが、監修の円谷英二を満足させられませんでした。そのためNGとなり、ライブフィルムに差し替えられたのです。 本作は製作開始後しばらくしてからスポンサーが決まったのですが、そこで再び問題が発生しました。「鳥を見た」で使用されたライブフィルムの中にスポンサー企業の看板が倒れるカットが入っていたのです。 スタッフはスポンサーに配慮して編集し直し、倒壊の瞬間を削除しました。本作では他にもスポンサー決定後に自主的に修正された話があり、一部は修正前のフィルムが発掘され、セルソフトに収録されています。

フィルムが足りない!見積もりミスで路線変更『ウルトラファイト』

1970年代初頭の5分番組『ウルトラファイト』。明らかにきぐるみの怪獣たちが野原でどつきあう映像が衝撃的ですが、これは円谷プロのミスで路線変更を余儀なくされた結果生まれたものでした。 番組開始当初、本作は『ウルトラマン』『ウルトラセブン』の戦闘シーンのフィルムを抜き出して制作されました。両作合わせて88話、複数回のバトルが展開される話もあるので、円谷プロは番組制作に困ることはないと考えたのです。 しかし、ここで見積もりミスが発覚します。5分番組にするには尺が足りないバトルが非常に多く、契約本数が用意できなかったのです。 埋め合わせのために放送途中で新規映像を作成する運びとなりましたが、フィルムを流用する前提だった本作の予算ではセットは組めません。きぐるみも最低限の補修しか行えず、ほつれや劣化が残ったまま使用されました。 結果として冒頭に書いた通りの衝撃映像が放送されたのです。

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スーツの経年劣化で過去怪獣の出演がNGに『帰ってきたウルトラマン』

第2期ウルトラシリーズの初作となった『帰ってきたウルトラマン』。その開始直後にトラブルが発生しました。 第3話「恐怖の怪獣魔境」製作時のことです。当初は『ウルトラマン』に登場したテレスドンの再登場が予定されていました。 これは円谷プロにあったきぐるみの再利用を意図したものでしたが、制作直前に問題が発覚します。テレスドンのきぐるみはヒーローショーや『ウルトラファイト』での酷使などが原因で、とてつもなく劣化していたのです。 見た目が変わるほどの補修が必要な状況だったため、円谷プロは別の怪獣として登場させることを決めます。新怪獣はテレスドンの弟怪獣・デットンと命名されました。 大きく補修された頭部を中心にテレスドンとの明らかな違いが生まれ、結果的に差別化に成功したデットン。今では誕生の逸話と共にウルトラ怪獣の一体としてファンに愛されています。

斜に構えても面白い、特撮の意外な一面

ミステイクを挽回した話から残ってしまったNGシーン、はては画面外の都合まで様々なNGをご紹介してきましたが、いかがでしたか? 他にも飛行機のミニチュアを釣るピアノ線がくっきり見えるようなミステイクは様々な映画に残っています。 「失敗したから」とセットを何度も組む余裕は特撮の現場にはまずありません。時には諦めてミステイクを採用するしかないこともあります。 不自然な映像を見つけたら、一度斜に構えて「どうしてそんな映像になったのか」を考えてみるのもおすすめです。取り返しがつかないNGを必至に隠そうとする編集スタッフの健闘に気づけると、少し映画の裏側が見れた気になれます。