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世界を挑発するイタリアの巨匠・ベルナルド・ベルトルッチ【徹底解説】

2018年6月26日更新

発表した作品がどれも世界にセンセーションを巻き起こしてきたイタリアの巨匠・ベルナルド・ベルトルッチ。ここでは代表作の紹介を軸に、彼の映画の唯一無二の魅力とキャリアに迫ります。

ドラマチックで官能的!イタリアの巨匠・ベルナルド・ベルトルッチ

イタリアが生んだ世界的巨匠ベルナルド・ベルトルッチ。半世紀以上のキャリアに比して決して多作ではないものの、強い作家性に彩られた作品は常にセンセーションを巻き起こしてきました。 ベルトルッチは1941年3月16日イタリア北部パルマに生まれ、若い頃は詩人だった父の影響で文学の世界に身を置きます。ローマ大学在学中に鬼才・ピエル・パオロ・パゾリーニの助監督を務めたことがきっかけになり、翌1962年に弱冠21歳にして監督デビューを果たしました。 その後は発表する作品がどれも大きな話題をよび、世界の映画祭で高い評価を得ます。ここではまず、名コンビともいえる撮影監督のヴィットリオ・ストラーロとの関係に触れ、続いて代表作13作品を紹介しながらベルトルッチのキャリアと魅力に迫りたいと思います。

ベルナルド・ベルトルッチ
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撮影・ヴィットリオ・ストラーロとの名コンビ!

ベルナルド・ベルトルッチのキャリアを語る上で、撮影を担当したヴィットリオ・ストラーロとの関係は欠かせません。 2人は、ストラーロが撮影助手をしていた1964年の映画『革命前夜』をきっかけに付き合いを始め、その後は長く続く名コンビとして数々の名作を生み出すことになります。とりわけ1970年の『暗殺の森』で見せた圧倒的な映像美で、2人は一躍世界で注目を集めることになりました。 ストラーロは『ラストエンペラー』でアカデミー賞撮影賞、『シェルタリング・スカイ』でニューヨーク映画批評家協会賞撮影賞に輝いていますが、ベルトルッチ映画以外でもフランシス・フォード・コッポラ監督の『地獄の黙示録』、ウォーレン・ベイティ監督『レッズ』でもアカデミー賞撮影賞を受賞している名キャメラマンです。

1. ベルナルド・ベルトルッチ、記念すべき監督デビュー作!【1962年】

ローマ大学を中退して取り組んだ、ベルナルド・ベルトルッチ21歳の監督デビュー作が『殺し』です。ピエル・パオロ・パゾリーニの原案がもとになっており、処女作とは思えない完成度の高さゆえ、上映されたヴェネツィア国際映画祭でいきなり大きな衝撃をもたらしました。 ローマ市内を流れるテーヴェレ川の河原で一人の娼婦の遺体が発見されます。警察は高利貸しや兵士、盗人団の一員など複数の容疑者を召喚して取り調べを行いますが、彼らの証言がことごとく食い違います。 無名の俳優ばかりでしたが、フラッシュバックを多用した斬新な演出が冴えわたり、ただ者ではない才能を発揮しました。たたみかけるような展開で行きつく終盤のダンスシーンは必見です!

2. ヌーヴェル・ヴァーグの影響を受けた自伝的作品【1964年】

スタンダールの古典『パルムの僧院』がベースになっていますが、内容的にはベルトルッチの自伝的色彩の強い作品として知られています。カンヌ国際映画祭に出品され、新進批評家賞を受賞しました。 主人公はイタリア北部のパルムに暮らすブルジョワ階級の青年・ファブリツィオです。教師の影響からすっかり左翼マルクス主義に被れていましたが、やがて理想と現実、恋や友情の狭間で己の思想に疑問を抱き始めます。 実際にベルトリッチの故郷であるパルムで撮影され、また随所にヌーヴェルヴァーグの多大な影響が見て取れます。悩めるファブリツィオをフランチェスコ・バリッリが演じました。

3. ドストエフスキーの小説を大胆に映像化した異色作【1968年】

文豪ドストエフスキーの小説『分身』を大胆にアレンジし、やはりヌーヴェルヴァーグの影響を受けた独特の映像美で描いた異色作です。ベルトルッチとしては初のオールカラーとなった作品としても知られています。 大学で演劇を教える青年・ジャコブは想いを寄せる教授の娘クララの誕生祝いの場で挙動不審な行動をとってしまい、追い出されてしまいます。するとその帰路、突然ジャコブの影が不可解な分身となって姿を現すのでした。 真面目で内気な青年と残酷極まる殺人者という2つの人格に引き裂かれていく主人公をピエール・クレマンティが演じています。幻想的、魔術的な世界観はベルトルッチ作品の中でも異彩を放っています。

4. ベルナルド・ベルトルッチとヴィットリオ・ストラーロが初タッグ!【1970年】

アルゼンチンの作家ボルヘスの短編『裏切り者と英雄のテーマ』を原作に、舞台をイタリアに置きかえて描いた人間ドラマです。ジュリオ・ブロージが父と息子の1人2役、『第三の男』のヒロイン役で日本でも人気の高いアリダ・ヴァリが父の愛人を演じました。 60年代を舞台に、ファシストに殺されたという父の死の謎を探るため北イタリアにある小さな田舎町を訪れた息子のアトス。英雄視されている父の姿が次第に明らかになりつつ、やがて意外な事実に辿り着きます。 ベルトルッチとヴィットリオ・ストラーロが監督と撮影でついに初タッグを組み、いよいよ2人の相乗効果による世界観が確立した作品とも言えます。ヴェネツィア国際映画祭ではルイス・ブニュエル賞を受賞しました。

5. 圧巻の映像美で描く濃密な人間模様!映画史に残る傑作【1970年】

第二次世界大戦直前のイタリアとフランスを舞台に、幼い頃のトラウマを抱えるファシストの青年が恩師を暗殺する姿と、その精神的破綻を類稀なる映像美で描いた傑作です。アメリカで全米映画批評家協会賞監督賞に輝き、また日本に初めて紹介されたベルトルッチ作品でもあります。 幼い頃、自分を犯そうとした同性愛者の男を射殺してしまった過去を持つマルチェロは、その後ファシズムの道を選択。そんなマルチェロに、パリに亡命している恩師を暗殺するよう密令が下り、新婚の妻ジュリアを伴いパリに向かいます。 ドミニク・サンダ扮する恩師の美しい妻アンナとジュリアのダンスシーン、雪に覆われた森での暗殺シーンなど、息を飲むような映像美が全編に散りばめられています。マルチェロ役は『男と女』で知られるフランスの名優・ジャン=ルイ・トランティニャンが扮しました。

6.ポルノか芸術か!?物議を醸し上映禁止になった問題作【1972年】

ひたすら激しい肉欲に溺れる男女の姿を赤裸々に描き、ポルノか芸術かの物議を醸し世界を騒然とさせた衝撃作です。本国イタリアでは、公開わずか4日目にして上映禁止処分となりました。 空き室だったパリのアパルトマンで偶然出会った中年男・ポールと若い娘・ジャンヌ。人生に絶望したポールがジャンヌをレイプしたにも関わらず、2人はその後も刹那的な逢引きを繰り返し、過激なセックスに溺れ続けます。 今は亡き2人、マーロン・ブランドとマリア・シュナイダーの迫真の演技は非常に高い評価を得たほか、ベルトルッチもアカデミー賞監督賞にノミネートされました。

7.米仏2大スターを起用した5時間16分の歴史大作【1976年】

異なる身分でありながら、同じ日に生まれた幼なじみの青年2人の人生を軸に、二つの大戦とファシズムに揺れる20世紀前半のイタリア史をダイナミックに描いた歴史大作です。 時代に翻弄される2人をロバート・デ・ニーロとジェラール・ドパルデューという米仏の2大スターが演じたほか、ドミニク・サンダやバート・ランカスターら国際的な豪華キャストが顔を揃えました。 1901年の同じ日に生まれた大地主の息子であるアルフレードと小作人の息子オルモ。友情を育みながら成長していく2人ですが、やがて階級ゆえに否応なく確執と対決に向かわざるを得なくなっていきます。 ベルナルド・ベルトルッチが最も脂の乗りきった最盛期の作品です。ヴィットリオ・ストラーロの撮影、エンニオ・モリコーネの音楽など全てが見事に組み合わさり、圧巻の5時間16分となっています。

8. 清朝最後の皇帝を描き、アカデミー賞で9部門を独占!【1987年】

幼くして清朝最後の皇帝に即位し、その後日本が支配する満州国皇帝となる溥儀の波乱の生涯を豪華絢爛に描いた歴史大作です。アカデミー賞では作品賞や監督賞、撮影賞などノミネートされた9部門全てで受賞を果たしました。 溥儀はまだ幼気な3歳のときに皇帝の地位に即位しますが、押し寄せる近代化と欧米や日本など列強による支配、また毛沢東による共産主義国家成立や文化大革命など、激動の波に翻弄されていきます。 主人公をジョン・ローン、そしてイギリス人教師をピーター・オトゥールが演じました。外国人として初めて撮影許可が下りたという北京の紫禁城における壮大な即位式の模様は、最大の見せ場の一つです。

9. サハラ砂漠を舞台にした濃密ラブストーリー【1990年】

ベストセラーを記録したポール・ボウルズの同名小説が原作であり、サハラ砂漠を舞台に倦怠期を迎えた一組の夫婦の彷徨と葛藤を濃密なタッチで描いたラブストーリーです。『ラストエンペラー』の強力スタッフが再び結集しました。 第2次世界大戦終結まもない1947年、ニューヨークに住むポートとキット夫妻は、2人の行き詰まった関係を見つめ直そうと北アフリカに旅立ちます。ところが夫は現地の女と、妻は同行者と関係を持つなど、関係はさらに悪化していき……。 作曲家の夫・ポートをジョン・マルコヴィッチ、劇作家の妻・キットをデブラ・ウィンガーという2人の名優が演じています。歴史大作が目立ったベルナルド・ベルトルッチにとって、久しぶりに初期の作品に立ちかえったかのような官能ドラマが展開します。

10. ブッダの輪廻転生を描く「東洋三部作」の締めくくり【1993年】

ブッダの輪廻転生をテーマに、時空を超える物語を美しい映像と魅惑の音楽で織り上げた異色作です。『ラストエンペラー』から『シェルタリング・スカイ』、そして本作までの3作品は、ベルトルッチの「東洋三部作」と呼ばれています。 アメリカのシアトルに住む9歳の少年ジェシーのところに突然やってきたラマ僧。ジェシーはブッダの生まれ変わりではないかと言われ、ついに父とともにチベットに向かいます。少年の旅と古代インドに生きるブッダ(シッダールタ王子)の半生が交差し、壮大な物語が展開します。 ベルトルッチ作品には珍しくSFXを駆使した独特の映像世界が見どころです。シッダールタ王子にはキアヌ・リーブスが扮しました。

11. リブ・タイラーのフレッシュな魅力炸裂!15年ぶりにイタリアが舞台!【1996年】

イタリアののどかなトスカーナ地方を舞台に、一人の美しい少女の恋と成長をみずみずしくも官能的なタッチで描きました。ベルトルッチが15年ぶりに母国に戻って監督したことも大きな話題をよびました。 ニューヨークに暮らす19歳のルーシーは、自殺した母の詩をきっかけに出生の秘密を探ろうとトスカーナを訪れます。そんなルーシーのピュアで無防備な姿に、周囲の男たちが次々と魅了されていくのでした。 本作が初主演作となったリブ・タイラーのフレッシュな魅力全開です。衣装をジョルジオ・アルマーニが担当し、またジェレミー・アイアンズやジョセフ・ファインズ、ジャン・マレー、レイチェル・ワイズら豪華なキャストが脇を飾っています。

12. 映画愛と若者たちの歪んだ性愛が織り成す官能エロス!【2003年】

1968年、パリの左翼学生が引き起こした五月革命を舞台に、3人の若者の歪んだ性愛と無軌道な夢を、ヌーヴェル・ヴァーグやハリウッド映画黄金時代へのオマージュを散りばめて描いた異色の官能ドラマです。 パリに留学してきたアメリカ人学生・マシューが偶然出会ったのは、左翼運動に傾倒する双子のイザベルとテオの姉弟。マシューは近親相姦にも近い2人の異常な関係に強引に引き込まれ、やがて奇妙な三角関係に陥っていきます。 マシューをマイケル・ピット、テオをルイ・ガレルが演じました。そしてイザベル役で衝撃的なデビューを飾ったエヴァ・グリーンのみずみずしくも体当たりの演技は高く評価され、この後「007」のボンドガールや『ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち』主演など大きく飛躍していくきっかけとなりました。 ベルトルッチは本作以後しばらく闘病のため活動休止に入ります。しかしその間にも、これまでの功績に対して2007年にヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞、2011年にカンヌ国際映画祭で名誉パルムドールを授与されています。

13. ベルナルド・ベルトルッチ監督、50周年記念作【2012年】

『ドリーマーズ』以後、9年間の闘病生活を経て久しぶりにメガホンをとった作品です。また監督デビューしてから50周年となる記念作にも位置付けられています。 孤独好きで自閉気味だった14歳の少年ロレンツォは、スキー合宿に行くと母に嘘をついて地下室に閉じこもります。一人で好きなことだけをして過ごすつもりが、異母姉である麻薬中毒のオリヴィアが出現したことで状況が一変することに……。 少年の成長と再生がテーマとなっており、『ぼくは怖くない』が有名なニコロ・アンマニーティの同名小説が原作です。50周年記念であるばかりか、ベルトルッチにとっておよそ30年ぶりとなるイタリア語だけでの作品でもあります。

新作の準備中であることを発表したベルナルド・ベルトルッチ

2013年に開催された第70回ヴェネツィア国際映画祭で2度目となる審査員長を務めた以外、『孤独な天使たち』を最後に新作など新たな活動のニュースはありませんでした。 ところが、「ヴァニティフェア」誌イタリア版の2018年4月号に掲載されたインタビューの中で、ついに新作の準備中であることを発表しました。新作のテーマは「愛」、そして「コミュニケーションとその欠落」だと語っています。 ベルナルド・ベルトルッチは2018年6月現在77歳です。新作の公開がいつになるのかは未定ですが、首を長くして、しかし気長に待ちましょう!