カンヌ国際映画祭最優秀ドキュメンタリー賞受賞!『顔たち、ところどころ』公開
偶然の一瞬を大切にしたい『顔たち、ところどころ』
映画監督のアニエス・ヴァルダと写真家のJRが送る、年の差54歳の二人旅
ヌーヴェル・ヴァーグの巨匠と若手写真家が、旅先で邂逅する一期一会の「顔たち」をフィルムに収めてゆく。様々な人々の生き様を詰め込んで完成する巨大なアート作品とはいかに? 穏やかな眼差しで個々の人生を見つめるフランス発のドキュメンタリー映画『顔たち、ところどころ』が、2018年9月15日(土)より日本全国の劇場で封切りを迎えます。 このたびの記事では映画の公開に先がけて、作品の見どころや日本全国の上映スケジュールを大特集。第70回カンヌ国際映画祭ルイユ・ドール(最優秀ドキュメンタリー賞)および第42回トロント国際映画祭観客賞ドキュメンタリー部門に輝くなど、世界が称賛したその魅力をお届けいたします。作中に登場する町や海岸についてのロケ情報も併せて掲載!
あらすじ
ヌーヴェル・ヴァーグの代表的映画監督として数々の国際映画祭での受賞歴を誇るアニエス・ヴァルダ。87歳の彼女が旅のパートナーに選んだのは、33歳の写真家のJRでした。ふたりは写真の撮影ブースを搭載した小さなトラックに乗り込み、フランスの田舎町を巡る旅に出ます。
炭鉱の町に住む女性や酪農家、郵便配達人、工場労働者、湾岸労働者の妻たちなど、世間から置き去りにされつつある人々と対話しながら、彼らの顔写真をフィルムに収めてゆくアニエスとJR。撮影した写真は拡大印刷され、それぞれの人生を祝福するためのモニュメントとして巨大な壁画に生まれ変わります。 やがてアニエスは、1958年より旧知の仲であるというジャン=リュック・ゴダール監督の私邸を訪ねるべく、スイス連邦・ロールに向かいます。しかし、そこでは思いもよらない事態が待ち受けていました。傷心のアニエスに、JRは細やかなプレゼントを捧げることを思いつき……。
ヌーヴェル・ヴァーグを牽引した女流監督、アニエス・ヴァルダ
1928年、ベルギー王国・イクセル出身
フランス人の母親とギリシャ人の父親の家庭に生まれたアニエス・ヴァルダは、ソルボンヌ大学やルーブル美術館大学、エコール・デ・ボザールなど、フランスを代表する名門校を卒業したのち、写真家としてキャリアをスタートしました。 1951年から1961年までは、フランス国立民衆劇場の公式写真家として活動し、好評を獲得。この間に自身初の長編映画『ラ・ポワント・クールト』(1955)で監督デビューを遂げます。 その後は、ドキュメンタリー的手法を持ち味とするヌーヴェル・ヴァーグ左岸派の映画監督として活躍し、1965年の『幸福』でベルリン国際映画祭銀熊賞を、1985年の『冬の旅』でヴェネチア国際映画祭金獅子賞を受賞しました。 なお、アニエス・ヴァルダの夫は『シェルブールの雨傘』(1964)でカンヌ国際映画祭パルム・ドールを受賞した映画監督のジャック・ドゥミ。1971年には、妊娠中絶の合法化を求める運動「343人のマニフェスト」に参加し、当時非合法行為とされていた中絶の経験を公にしたことも。 彼女の長年に渡る活動を讃えて、アメリカ映画芸術科学アカデミーはアカデミー名誉賞を、フランス国際映画祭協会はパルム・ドール・ドヌールを、そしてフランス政府はレジオンドヌール勲章を叙勲しています。
世界の街角で活動する写真家のJR
1983年生まれ、サングラスがトレードマーク
10代の頃よりグラフィティ・アーティストとしてパリの地下鉄や建物の屋上などをキャンバスに制作活動に没頭していたというJR。写真家としてのキャリアを開始してからは、主にモノクロで撮影した顔写真を拡大印刷し、壁画として街中に展示するというスタイルを用いて、一般の人々の生き様に題材を求めた作品を制作しています。
「The Wrinkles of the City(原題)」展、バレエ『Les Bosquets(原題)』
JRは、スペイン・カルタヘナ、上海、ロサンゼルス、ハバナ、ベルリン、イスタンブールの各都市が抱える歴史を現地のお年寄りの顔に刻まれたシワの写真を用いて表現しようと試みる「The Wrinkles of the City」展を2008年より開催しました。 2014年には、ニューヨーク・シティ・バレエ団と共同で、2005年のパリ郊外暴動事件を題材としたバレエ『Les Bosquets』を制作。明くる年にはバレエの短編映画化が叶い、ファレル・ウィリアムスやハンス・ジマーなど大物ミュージシャンが劇中歌をプロデュースしたことでも話題を集めました。 このほかにも『Women Are Heroes(原題)』(2010)や『Inside Out: the People's Art Project(原題)』(2013)など、自身の展覧会の様子をドキュメンタリー化した映画の制作経験を持つJRは、2015年にロバート・デ・ニーロを主演に迎えた短編映画『Ellis(原題)』を発表し、さらなる新境地の開拓を図りました。
ロケ情報!素顔のフランスを巡る旅
『顔たち、ところどころ』には、日本に住む私たちにとってあまり耳慣れないフランスの町々が数多く登場します。北はブリュエ=ラ=ビュイシエール、シェランス、ル・アーヴル、南はボニュー、シャトー=アルヌー=サン=トーバン、グルトなど、主に小さな田舎町を中心に旅をしたアニエスとJRですが、彼らが訪ねた場所のなかから特に必見のスポットをピックアップしてご紹介いたします。
時代に置いてきぼりにされた町、ピルー・プラージュのゴーストタウン
フランス北西部ノルマンディー地方のコタンタン半島に位置する町、ピルー。英仏海峡を望む市内の景勝地には、12世紀に築城のピルー城が現存し、観光地として一定の人気を誇ります。このピルーの町中でアニエスとJRが着目したのは、ゴーストタウンとも称されるピルー・プラージュというエリアでした。 ここは1990年代に、とある不動産開発業者がホテルやテニスコート、80軒の別荘の建築を企画した挙句に倒産の憂き目に遭い、未だ30軒近くの建物が未完成のまま放棄されている場所です。事業が成功した暁には、およそ1500人の周辺住民の生活水準に前向きな変化をもたらすことが見込まれていました。 このゴーストタウンは、フランス経済の変動に耐え切れず、時代に埋もれてゆく郊外在住の労働者階級を暗に象徴する存在として映画に登場します。
白亜の断崖を仰ぐノルマンディーの海岸
サントーバン=シュル=メールは、アニエスが50年代に写真家のギイ・ブルダンと共に時を過ごしたという思い出の海岸。同時にここは、ノルマンディー上陸作戦におけるジュノー・ビーチとして知られ、フランス史上最悪とも言える凄惨な負の記憶を湛える場所でもあります。 この一帯の海岸には、第二次世界大戦中にナチス・ドイツが構築した防衛線「大西洋の壁」の爪痕が今日も残されており、アニエスとJRはサント=マルグリット=シュル=メールに現存するドイツ軍の掩体壕の一部をキャンバスとして使用し、アート作品を制作することに。然してアニエスの記憶とフランスの記憶、個人と共同体の双方に捧げる記念塔が完成します。
年齢や性別に拘らず、全ての人々におすすめしたい良作
本当に気の合う仲間を見つけるのは、奇跡にも似た幸運です。その幸せを謳歌するがのごとく、共に語り、共に歌い、共に旅を味わうふたりは、とびきりチャーミング。アニエスを車椅子に乗せたJRが、ルーブル美術館の館内を疾走するシーンは、観客の誰をも笑顔にすること間違いなしの温かさにあふれています。
日本全国の上映スケジュール
『顔たち、ところどころ』は2018年9月15日(土)に東京のシネスイッチ銀座、アップリンク渋谷、新宿シネマカリテで公開初日を迎えます。大阪のシネ・リーブル梅田、なんばパークスシネマ、MOVIX京都ほか、北海道、宮城、千葉、神奈川、愛知の劇場でも同日公開が確定しています。そのほかの地域では、9月から12月にかけての順次公開が予定されているとのことです。 映画公式サイトの最新情報をお確かめの上、ぜひスクリーンでお楽しみください。