御年90歳!「ヌーヴェルヴァーグの祖母」アニエス・ヴァルダとは?【顔たち、ところどころ】

2018年9月10日更新

1950年代にフランスで生まれた新しい映画制作の動き、ヌーヴェルヴァーグ。その“祖”ともいえる女性監督がアニエス・ヴァルダです。90歳を超えてもなお精力的に活動を続ける彼女について、知っておきたい情報をまとめました。

ヌーヴェルヴァーグの祖母、アニエス・ヴァルダ

アニエス・ヴァルダ
© Picture Alliance/Photoshot

ベルギー出身の女性映画監督、アニエス・ヴァルダ。フランス映画界における映画運動、ヌーヴェルヴァーグを代表するクリエーターです。 彼女の新作『顔たち、ところどころ』も、2018年9月15日に日本で公開されます。そこで今回は、数々の名作を生み出し、御年90歳となった現在でも創作意欲が衰えないアニエス・ヴァルダについてご紹介します。

アニエス・ヴァルダのプロフィール

アニエス・ヴァルダは1928年にベルギーのブリュッセルで生まれました。1950年代にフランスで始まった映画運動“ヌーヴェルヴァーグ”の祖母と呼ばれる存在です。 生まれはベルギーですが、第二次世界大戦を逃れてフランスに渡りました。1950年代より写真家として活躍し、1954年に『ラ・ポワント・クールト』で映画監督としてデビューします。以降、ベルリン国際映画賞銀熊賞を受賞した『幸福』や、ヴェネツィア国際映画祭金獅子賞を受賞した『冬の旅』を始め、独創的な作品を数々発表しています。 社会から切り離された人物を主役に置き、ドキュメンタリー的手法で映画を制作することが多いです。また、映画制作に必要な役割を一つ一つ切り離さず、全工程を同時進行により一つのメッセージを作り上げることを重視しています。写真家だった経験を生かし、静止イメージを効果的に取り入れる事でも知られています。 2018年6月現在、90歳のアニエス・ヴァルダですが、未だに現役で創作活動を続けています。

新しい波、ヌーヴェルヴァーグとは?

ヌーヴェルヴァーグとは、フランス語で“新しい波”という意味です。広義では、1950年代から60年代中盤に制作されたジャン=リュック・ゴダールやフランソワ・トリュフォー、クロード・シャブロルジャック・リヴェットといった若い作家の映画を示します。その中でも、特にロケ撮影や同時録音、即興演出などの手法を用いた作品を指すことが多いです。 ヌーヴェルヴァーグはさらに、映画評論誌「カイエ・デュ・シネマ」で活躍していた作家達を指すカイエ派、セーヌ川左岸のモンパルナス界隈で活動していた作家達を指す左岸派に2分割されます。アニエス・ヴァルダと、彼女の夫ジャック・ドゥミは共に左岸派です。

夫ジャック・ドゥミについて

1931年生まれのジャック・ドゥミは、1961年に『ローラ』で監督デビューします。フランス西部の港町、ナントのキャバレーを舞台にした踊り子ローラの物語は“ヌーヴェルヴァーグの真珠”と言われる美しい名作です。1964年の『シェルブールの雨傘』は、カンヌ国際映画祭最優秀賞に輝いています。 アニエス・ヴァルダとは1962年に結婚。二人は、現在は俳優の息子マチューをもうけました。現在は映画衣装デザイナーのロザリーは、アニエス・ヴァルダとコメディアンのアントワーヌ・ブルセイエの娘ですが、後に養子としています。 他にも『ロシュフォールの恋人たち』や『ロバと王女』、『ベルサイユのばら』といった映画を生み出しましたが、1990年に亡くなりました。

アニエス・ヴァルダの作品をご紹介!

フィクションからドキュメンタリーまで、アニエス・ヴァルダが手がけた作品たちを12本ご紹介します。

1. 『5時から7時までのクレオ』【1961年】

映画監督アニエス・ヴァルダの名を知らしめた彼女の出世作です。 主人公は自分がガンかもしれないと疑うシャンソン歌手のクレオです。現在の時刻は5時。精密検査の結果がでる7時まで、クレオはパリの街に繰り出します。不安でいっぱいの彼女ですが、カフェでは誰も心配してくれず、久しぶりに会う恋人ですらまともに取り合ってくれません。 音楽家ボブが持って来た歌を歌ったところ、彼女の気分は絶望的に……あてなく公園に入ると、軍服姿の男性に話しかけられます。 ヒロインは、当時売り出し中だった歌手のコリンヌ・マルシャンが演じています。ロケ撮影をつかってクレオの心象風景を表現し、写真家の経歴を生かしたセンスあふれる映像が評価されている作品です。

2. 『幸福』【1965年】

主人公はパリ郊外に住む若い夫婦。休日には二人の子供とピクニックに出かける一家は、タイトル通りまさに幸福な生活を送っているように見えます。 しかし、夫は別の女性を愛してしまい、それを妻に打ち明けます。「家庭を捨てるつもりはない」という夫を、妻も「あなたが喜ぶならそれでいい」と受け入れるのですが……妻は悲劇的な運命をたどり、残された夫は別の女性と結婚します。 人にとって、特に女性にとっての幸福とは何か考えさせられる作品です。

3. 『ベトナムから遠く離れて』【1967年】

ベトナム戦争を傍観することはできない、という意図のもと、アニエス・ヴァルダをはじめとする6人の映画監督によって制作されたドキュメンタリーです。各々が自由な立場で、南ベトナム民族解放戦線への連帯意識を表明しています。 彼女の他には、アラン・レネ、ウィリアム・クライン、ヨリス・イヴェンス、クロード・ルルーシュ、ジャン=リュック・ゴダールが参加しています。また、メインの参加者の他にも、総勢150名のクリエーター達が本作の制作には参加しています。

4. 『歌う女・歌わない女』【1977年】

1962年のパリ。17歳のポムは大学進学よりも歌手になることを夢見ていました。そんな折、写真家ジェロームと彼の内縁の妻、シュザンヌと出会います。貧しいながら2人の子供を抱え、3人目を妊娠中のシュザンヌ。そんな彼女に、ポムは両親を欺いて得た200フランを渡します。 そのことをきっかけに、交流を始めたポムとシュザンヌ。時折交差しつつも、別々の人生を歩んでゆく二人の女性の友情を軸に、フランスにおける女性の幸福と自立の歴史を描きます。

5. 『冬の旅』【1985年】

南フランスの小さな農村の片隅で、寒さの中1人の少女が息絶えていました。所持金もなく、衣服もみすぼらしい彼女は共同墓地に葬られました。 彼女の名前はモナ。彼女がいったい何者だったのか、それを知るには彼女が死ぬ前に出会った人々の話を聞くよりありません。バイクの青年、ガソリンスタンドの主人、さすらいの青年ダビッドなど……さまざまな証言を元に、モナの軌跡を辿っていきます。 本作は実話をベースにしています。現代社会における自由と孤独というものを、客観的に淡々とした視点で描いた作品です。

6. 『カンフー・マスター!』【1987年】

40歳の女性マリー・ジェーンが、娘の同級生で25歳年下の少年ジュリアンに恋してしまう姿を描いたラブ・ロマンス。タイトルは、ジュリアンが夢中になっているテレビゲームから来ています。 マリー・ジェーンをジェーン・バーキンが演じ、娘ルシーをシャルロット・ゲンズブールが演じるという実の親子による配役も話題になりました。

7. 『アニエスv.によるジェーンb』【1987年】

『カンフー・マスター!』で主演を飾った女優ジェーン・バーキンの本質に迫ったドキュメンタリー。ジェーン・バーキンへのインタビューや、彼女のモノローグに加え、夢想劇のようなショートフィルムで構成されています。 女優というよりも一人の女性として、ジェーン・バーキンの魅力を描いています。

8. 『ジャック・ドゥミの少年期』【1991年】

1990年にエイズが原因で死亡した夫ジャック・ドゥミの少年時代を綴った作品。8歳のジャコことジャック・ドゥミ少年が映画制作にのめり込んでいく様子を描きます。 劇中には、ジャック・ドゥミの代表作のワンシーンや、晩年の彼の映像なども含まれています。

9. 『百一夜』【1995年】

映画が発明されてから100年を祝福した“形而上学的”コメディ。映画に対するイメージと、幻想の制度を解体するというのがテーマです。 まもなく100歳を迎えようとしているシモン・シネマ氏。博物館城に住む彼の元に、映画を学ぶ大学院生のカミーユが訪れます。監督、脚本家、製作者として映画制作に関わって来たシネマ氏の回想をカミーユは聞きに来たのでした。 映画そのものであるシネマ氏の枕元にはリュミエール兄弟の亡霊が立ち、マルチェロ・マストロヤンニやジェラール・ドパルデューといった映画俳優も訪ねて来ます。 カミーユの恋人、通称ミカは製作助手をしながら自分の映画を作ろうとしています。話を聞くうちに、シネマ氏唯一の肉親は10年前に行方不明なっていると知るカミーユ。彼の莫大な遺産を横領して、恋人の映画製作資金にしようと企むのですが…… カミーユの恋人役は、息子マチューが演じており、映画の衣装は娘のロザリーが担当しています。

10. 『落穂拾い』【2000年】

ある日パリの市場で、道に落ちている物を拾う人々を見かけたアニエス・ヴァルダ。彼女はそこからミレーの名画「落穂拾い」を連想します。そこに描かれているのは、落ちた麦の穂を拾って集める貧しい人々。 そして彼女は“現代の落穂拾い”を求めて、フランス各地を回り、そこで見つけた人や物をカメラに収めました。やがて自分自身についても見つめなおしていくドキュメンタリーです。 本作公開から2年後の2002年には『落穂拾い』に登場した人々のその後を中心に描いた『落穂拾い・二年後』が制作、公開されました。

11. 『アニエスの浜辺』【2008年】

『落穂拾い』に続き、当時81歳だったアニエス・ヴァルダが再び自身の人生を巡って旅にでました。 幼少期を過ごしたベルギーの浜辺、第二次世界大戦を逃れて渡ったフランスの港町、そして夫と渡ったアメリカ西海岸……彼女の人生に常にあった“浜辺”をめぐるドキュメンタリーです。

12. 『顔たち、ところどころ』【2017年】

88歳になったアニエス・ヴァルダ。今度は34歳のアーティスト・JRとフランスの田舎を巡る旅に出ます。 JRは一般の人から送られて来た写真を、特大サイズにプリントして返送、送った人がそれを好きなところに貼るという参加型アートプロジェクトで知られています。本作でも彼の手法は健在です。二人はスタジオを兼ねたトラックで旅し、行く先々で出会った人々を撮影、写真をプリントし、一緒にアート作品作っていきます。 カンヌ国際映画祭ほかさまざまな映画祭に出品され、第90回アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞にもノミネートされました。日本公開は2018年9月15日に予定しています。