2018年12月6日更新

映画『マチルダ 禁断の恋』公開で浮き彫りになったロシアの光と闇

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マチルダ 禁断の恋
(C)2017 ROCK FILMS LLC.

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ロシア映画史上最大の問題作!?映画『マチルダ 禁断の恋』公開で明らかになったロシアの光と闇

2017年10月。ロシアで一本の映画が公開されました。その映画では、かつての帝政ロシア時代最後の皇帝で、のちにロシア革命で虐殺されたニコライ2世が皇帝になる前の恋を描いています。 しかし、驚くことに、本作は公開される前から上映に対する抗議や妨害が続出。それは一体なぜなのか。そこには、ロシアという国の歴史が持つ光と闇がありました。 今回は、映画『マチルダ 禁断の恋』のあらすじやキャスト、登場人物と歴史的背景の解説、そしてロシアで本作の上映を巡って巻き起こった社会問題の顛末を紹介します!

映画『マチルダ 禁断の恋』禁断のあらすじとは?

マチルダ 禁断の恋
(C)2017 ROCK FILMS LLC.

19世紀末ののロシア帝国。王位継承者であるニコライには、イギリスのヴィクトリア女王の孫であるアリックスという婚約者がおり、将来は約束されたも同然でした。 しかしある時、彼はバレリーナのマチルダと出会い、一目惚れ。かくして禁断の情事がはじまります。 そんな最中、アリックスがロシアに到着。アリックスに激しい嫉妬心を抱かれるマチルダでしたが、身分違いの恋がうまくいくはずもありません。結局ニコライはアリックスと結ばれます。 一方で、いつかは王座を退いてマチルダのもとに戻ると誓うニコライ。しかし、そこに以前よりマチルダを一方的に愛していたヴォロンツォフ大尉が現れ、彼女の乗った舟に火を放ったのです。 絶望の中、戴冠式に臨むニコライ。するとそこに、死んでいたはずのマチルダが出現。果たして、彼らの恋の行方は?

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映画『マチルダ 禁断の恋』主人公は、ロシア最後の皇帝

ニコライ2世
©︎Ingram Publishing/Newscom/Zeta Image

本作の主人公は、ロシアのロマノフ王朝最後の皇帝・ニコライ2世です。 1868年、アレクサンドル皇太子(のちのアレクサンドル3世)と皇后マリア・フョードロヴナの間に生まれたニコライは、26歳で皇帝に即位。皇帝の専制政治(ツァーリズム)を強め、東アジアへの進出を目指すために三国干渉などを行う一方、露仏同盟を結んでフランスとの資本関係を深めました。 しかしその結果、日本との対立を生み、日露戦争が勃発。日本に敗れたことで民衆の不満が高まる一方で相変わらず専制政治を強めたため、第1次ロシア革命を誘発します。 その後はバルカン半島への進出を図り、オーストリアと対立。結果的にこれが第一次世界大戦を招く原因に。その最中で宗教家のラスプーチンを重用し、国政は混乱します。 民衆の怒りが爆発した結果、1917年にロシア革命が勃発。ニコライ2世は退位しますが、翌1918年、家族もろとも虐殺されてしまいました。 その後、1922年に史上初の社会主義国家であるソビエト社会主義共和国連邦(ソ連)が成立。以降、69年に渡って世界に大きな影響を与え続けたのです。

そもそもロシアの「皇帝」って?

マチルダ 禁断の恋
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そもそも、「皇帝」と「国王」というのは、どう違うのでしょうか。 まず、「国王」というのは、国家を統治する君主を意味する概念です。一方、「皇帝」の意味は実に複雑。ヨーロッパとアジアでも意味が異なるのですが、ここではヨーロッパの皇帝に限って解説します。 もともと皇帝という称号は、古代のローマ帝国における君主を指す概念「インペラトル」のことを指しました。しかしのちにローマ帝国が滅んでからも、それを継承している(と自称した)国々で「皇帝」という概念を使用するようになりました。 皇帝には単に民族を支配する君主としてだけでなく、キリスト教世界の「守護者」という宗教面における影響力も強いため、一般的に「国王」よりも力が強いとされています。 ロシアもまた例外ではなく、ロシアの皇帝はロシア正教と密接な結びつきを持っていました。そのため、ロシア正教においての皇帝はただの「支配者」ではなく、崇拝の対象ですらあったのです。

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「マチルダ」がロシアで論争を巻き起こした理由とは?

一見すると、歴史上の人物の恋愛を描いた典型的なメロドラマである本作は、公開前から大きな論争を巻き起こし、社会問題にまで発展しています。 一体、ロシアで何が起こったのでしょうか?

きっかけは、一人の政治家の調査要求

ナタリア・ポクロンスカヤ
© Photoshot

本作がまだ製作途中であった頃、一人の政治家がこの映画の製作に疑問を呈しました。彼女の名前は、ナタリア・ポクロンスカヤ。元々検察官であった彼女は、2016年に出馬。プーチン大統領と同じ与党「統一ロシア」に所属する下院議員になり、その美貌からネット上での人気も集めました。 そんなポクロンスカヤは、実はニコライ2世の熱烈な崇拝者。ロシア正教会の中でも特に皇帝を崇拝する保守グループの後押しを受けた彼女は、まだ公開には程遠い段階であるにも関わらず本作の製作に異を唱え、検察庁に調査を要求しました。 彼女たちは、ニコライ2世の禁じられた恋を描いた本作は彼の名誉を傷付けた「反愛国的」かつ「反教会的」なもので、ロシア正教徒に対する激しい冒涜である、と主張。さらに本作の上映を妨害するキャンペーンにも乗り出したのです。 ロシアにおいてはソ連時代とは違い、表面的には政治的な理由で映画を検閲することをしていません。にも関わらず政治的な理由で完成前の作品の上映を禁止しようとしたため、ロシアの政治家の間でも論争が勃発。 さすがのプーチン大統領も黙ってはいられず、「自身は本作のウチーチェリ監督のファンであり、中立の立場である」という旨を公言しました。

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それでも収まらない論争

しかし、それでもポクロンスカヤは行動を続けました。本作の上映禁止を求める署名運動を展開した彼女は、一万人分の署名を集め、ロシアの各省庁に提出。 さらにはロシア正教の過激派組織や右派も行動を開始します。いくつかのロシア国内の映画館が「本作を上映したら放火する」という旨の脅迫を受けて上映を見送ることに。これを受けて、本作のプレミア上映では「安全が確保できない」という理由から出演者が欠席する事態にまで発展しました。 さらにはウチーチェリ監督のスタジオが放火される事件まで発生。一時は公開そのものが危ぶまれましたが、結局、ロシア最大規模での上映が実現。200万人以上の観客が熱狂する大ヒットを記録したのです。

映画「マチルダ」キャストと演じた人物について紹介!

ニコライ2世:ラース・アイディンガー

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ロシア帝国最後の皇帝、ニコライ2世を演じたのは、ラース・アイディンガー。190cmという長身が特徴的です。 1976年、ドイツの西ベルリン(当時)で生まれたアイディンガーは、ドイツ座の舞台俳優としてキャリアを開始。ドイツのテレビドラマなどに出演した後、ドイツ国内外の映画にも進出し、国際的な活躍を見せています。 主な出演作に、近未来を舞台としたSFスリラー『HELL』(2011)、フランスの鬼才・オリヴィエ・アサヤス監督による『アクトレス ~女たちの舞台~』(2014)と『パーソナル・ショッパー』(2016)、第29回東京国際映画祭でグランプリを受賞した『ブルーム・オブ・イエスタディ』(2016)などがあります。

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マチルダ・クシェシンスカヤ:ミハリナ・オルシャンスカ

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本作のヒロインである、皇帝との禁断の恋に溺れるバレリーナ、マチルダ・クシェシンスカヤ(ポーランド名はマティルダ・クシェシンスカ)は、1872年に生まれたポーランド系のルーツを持つバレリーナです。 ロシアが誇る名門マリインスキー・バレエ団に入ったマチルダは、瞬く間にスターへ。史実によると、1892年から2年ほどニコライとの愛人関係を持っていたようです。 ニコライ2世の即位後も皇室一家であるロマノフ家のセルゲイ・ミハイロヴィチ大公、アンドレイ・ウラジーミロヴィチ大公と三角関係になるなど、周囲を翻弄し続け、その繋がりから多くの資産を持ちました。 本作に出てきた主要な人物の多くがロシア革命の影響で亡くなったり不遇の人生を送っていますが、彼女はパリに移って先述のアンドレイ大公と結婚。その後はバレエ学校を開き、1971年に99歳で亡くなるまで恵まれた人生を送っています。 そんなマチルダを演じるのは、ミハリナ・オルシャンスカ。マチルダのルーツでもあるポーランド出身の女優です。 1992年にポーランドのワルシャワで生まれたオルシャンスカは、両親も俳優という芸能一家で育ちました。小説家や歌手、ヴィオリニストとしての顔も持つ彼女は、女優としても数々の賞を受賞したポーランド屈指の若手女優です。 2015年の『ゆれる人魚』では人魚の姉妹の片方を演じ、日本でも話題に。その他の作品に『暗殺者たちの流儀』(2015)、『ヒトラーと戦った22日間』(2018)などがあります。

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ヘッセン大公女アリックス(のちの皇后アレクサンドラ・フョードロヴナ):ルイーゼ・ヴォルフラム

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ニコライ2世の皇后となるアリックスは、1872年にドイツのヘッセン大公国にて、ルートヴィヒ4世とアリス妃(ヴィクトリア女王の次女)の間に生まれました。のちにニコライ2世の皇后となり、アレクサンドラ・フョードロヴナになります。 この映画ではあまり描かれていませんが、極端なロシア正教の信仰者であり、正体不明の僧ラスプーチンを崇拝。結果的にラスプーチンが政治にまで関わったため、大きな混乱を招きました。1918年のロシア革命時には、皇帝や一族共々虐殺されています。 演じたのは、ドイツ出身の女優ルイーゼ・ヴォルフラム。主に演劇で活動している女優ですが、Netflixの映画『シューベルトの愛し方』にも出演しています。

ヴォロンツォフ:ダニーラ・コズロフスキー

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本作で終始マチルダに想いを寄せるヴォロンツォフ大尉は、マチルダに一目惚れしたニコライに襲いかかるなど暴力的な人物として描かれていますが、捕まった後は拷問されたり医学実験を施されたりと、散々な目に。嫉妬のあまりマチルダの乗る舟に火を放つ場面は印象的でした。 演じているのは、ダニーラ・コズロフスキー。1985年にモスクワで生まれた、ロシアの若手実力派俳優です。 主な出演作に、全編主観ショットで描かれたアクション映画『ハードコア』(2016)やロシアの年間映画興行収入1位を記録した歴史大作『VIKING バイキング 誇り高き戦士たち』(2016)などがあります。

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映画『マチルダ 禁断の恋』公開日は?

マチルダ 禁断の恋
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度重なる抗議運動や上映の妨害により、昨今のロシア国内におけるナショナリズムの高揚を浮き彫りにしてしまった映画『マチルダ 禁断の恋』。 しかし、大ヒットを記録したことからも分かる通り、この映画で描かれているのは政治的なメッセージではなく、恋に苦悩する一国の皇帝の姿と豪華絢爛な帝政ロシアの美しい姿に他なりません。 そんな映画『マチルダ 禁断の恋』は、2018年12月8日に日本公開されます。 実は2018年は「日本におけるロシア年」。知っているようで知らない大国ロシアの魅力を、ぜひ歴史の面から楽しんでみてはいかがでしょうか。