疲れた大人に響く?最強の自己肯定映画『ソウルフル・ワールド』は子どもが観ても面白いのか【実際に観てもらった】
大人向きのピクサー映画?『ソウルフル・ワールド』は子どもも楽しめるのか検証【ネタバレ注意】
2020年12月25日から、ピクサー最新作『ソウルフル・ワールド』がDisney+(ディズニープラス)で配信開始となりました。ピクサー特有の美しい映像はもちろん、音楽も重要な要素として力を入れている本作は、人生についての大切な問いを描き、絶賛の声があがっています。 「ピクサー史上最も“深い”作品」といわれている『ソウルフル・ワールド』ですが、鑑賞した大人たちからは「子どもには難しい内容なのでは?」「子どもも楽しめるの?」という疑問があがってることも事実。一方で制作陣は子どもを対象とした試写会を行い、「5歳児でも楽しめる」と自信を見せています。 そこでciatrでは、実際にさまざまな年齢の子どもに本作を観てもらい、感想を聞いてみました!はたして『ソウルフル・ワールド』は子どもも楽しめるのでしょうか?また大人とは面白いと感じるポイントは違うのでしょうか? ※この記事には『ソウルフル・ワールド』のネタバレが含まれます。未鑑賞の方はご注意ください。
ピクサー史上最も“深い”本作の大人視点の面白さとは
まずは大人の視点から、本作の見どころや面白さを紹介していきましょう。
偉人ネタなど、知識・雑学の多さが面白さに繋がる
主人公ジョーに出会うまでに、多くのメンターたちが22番を地上に生まれさせるのに失敗してきました。そのなかには世界的な偉人が多く、彼らのイメージに沿ったパロディ的な描写が印象的です。大人が見るとこれらのシーンは、笑いどころとしてなかなか面白いものになっています。 しかしパロディというのは、「元ネタ」を知らないと面白さを感じられません。本作に登場する偉人たちを子どもが知らなかったとしたら、このネタは大して面白くないのではないでしょうか。
大人なら迷子のソウルに身に覚えがある
本作に登場する多くのキャラクターのなかでも特に印象深いのが、自分を見失ってソウルの世界をさまよっている「迷子のソウル」です。 ムーンウインドによると、迷子のソウルは“恐怖と強迫観念に支配されている”のだとか。大人の観客には、この「迷子のソウル」が身近なものとして感じられる人も多いのではないでしょうか。“自分のソウルも迷子になったことがある”と思った人もいるかもしれません。それでいて「国境なき神秘主義団」の存在によって、クスッと笑ってしまうようなシーンになっています。 子ども目線では、“恐怖と強迫観念に支配され、自分を見失う”という状態がわかりにくいのでは?と思ってしまいます。
「生きることに目的はなくていい、一瞬ごとにきらめきを見つけられる」というメッセージ
これまでのピクサー作品の主人公たちは「目的を達成するための冒険」をくり広げていました。『トイ・ストーリー』(1995年)のウッディも、『モンスターズ・インク』(2001年)のマイクとサリーも、そして『2分の1の魔法』(2020年)のイアンとバーリーも1つの目的を達成するために旅に出ました。 一方で本作の主人公の1人である22番は、生きる目的を見つけられずにいました。しかし彼女は、ジョーの体を借りて現実の世界にやってきたことで、彼の生活のなかに小さな「きらめき」をたくさん見つけていきます。 本作は「生きることに大きな目的はなくてもいい。一瞬ごとに人生はきらめき、それだけで生きる価値がある」と訴えかけてきます。その「きらめき」は、日々の生活のなかで見過ごしてしまうような小さなものであることも気づかせてくれるのです。 「生きることの意味とは」という人生についての最も大切な問いをテーマにした本作とそのメッセージは、大人の心にこそ響くのかもしれません。
実際に子どもに観てもらった【Tくん(11歳)&Rちゃん(14歳)の場合】
本作で子どもたちが面白いと思ったのは、どういったところだったのでしょうか。大人の視点と比べつつ、彼らの感想を紹介します。
子どもにとっての面白ポイントとは?
子どもからはテリーやムーンウィンドなど、コミカルなキャラクターが面白かったという感想がありました。 「好きなキャラクターはテリー。ジェリーの今した瞬きさえも数えていたり、数え切れないほどの資料から1人を見つけたりしていて、ものすごくきっちりしていて1周回って面白かった。」(Tくん11歳) 「好きなシーンは最後の方でテリーに話しかけて、あっさりそろばんの玉を変えていた所。その後に見知らぬふりをして騙すのに笑ってしまった。ムーンウィンドが現実世界で看板を使ってブレイクダンスをしていて面白いと感じたり、船と一緒に沈んでそのポーズを現実でもしていて面白かった。」(Tくん) コミカルなシーンや物語の緩急で、子どもも飽きさせないつくりになっていると言えそうですね。 一方で大人の視点で面白いポイントにあげた「偉人ネタ」は、やはり子どもにはあまりウケなかったようです。 さらに22番の本質を見抜き、その純粋さに惹かれたという意見も。 「私の好きなキャラは22番。問題児のようで、ただあの生まれる前の世界できらめきが見つからなかっただけの純粋な子だと思うからです。」(Rちゃん14歳) キャラクターの魅力は子どもにも伝わりやすかったようです。
迷子のソウルの皮肉ネタは中学生にも伝わった!
またRちゃんは、大人と同じく「迷子のソウル」という設定にも注目していました。 「面白いと感じた設定は、迷子になったソウルというところです。自分を見失うと、あんな風に何かを探し求めるようになることが表現されていると思ったからです。」(Rちゃん14歳) 迷子のソウルは現代人が陥りやすい心の問題などを表現したキャラクターですが、中学生にもなるとその背景を理解しているようですね。
作品のメッセージは伝わったのか?
大人の視点で「子どもには難しいのでは」と思われていた最大のポイントは、本作のメッセージです。しかしこれは意外にも、子どもたちにはっきりと伝わったことがわかりました。 「生きることの大切さや、いつも気にせずにしていたことがどれだけすごいことかや、一瞬一瞬がとても大事だということ(が本作のメッセージ)だと思った。」(Tくん11歳) 「メッセージは、『一瞬一瞬を大切に、かけがえのない人生を無駄なく生きること』だと思います。冒頭で、天界への通路にジョーが迷い込んだとき、戻るように通路にいる人に言っても戻ろうとしなかったのは、人生を無駄なく生きてきたからこそだと思ったのです。」(Rちゃん14歳) 何気ない日常の出来事に「人生のきらめき」を見つけ出した22番の姿は、ジョーと大人の観客たちに「人生の意味とはなにか」という問いの答えを示し、これまでの人生を肯定してくれます。一方で子どもたちには、これからの長い人生をどのように楽しむのかを教えてくれる存在なのではないでしょうか。 「ジョーの体に入った22番のように、美味しそうな匂いをかぐこと、ピザを食べて味わうこと、青空を見ること、風を感じること、音楽を聞くこと、花びらを触ることという何気ないことが大切なものであることもわかりました。自分の『きらめき』が何なのかを見極められるような生き方をしたいと思えました。」(Rちゃん)
Tくん・Rちゃんのお父さんのコメント
「自分は、「設定が難しいから理解出来るかな?」と心配してました。 少なからずともメンターやソウルなど「死生観」が絡み、そこに一度きりの人生に対しての仕事のやりがいや、生きがいに関して問う内容だと感じたので、子どもには難しいのかな?と思っていましたが、子ども二人ともそれぞれ「一瞬一瞬を大事に生きる大切さ」を感じ取ってくれたようで逆に子どもの成長を感じる事が出来ました。」
実際に子どもに観てもらった【Hちゃん(4歳)の場合】
4歳の子どもは最後まで映画を観られたのか……?
Hちゃん:「楽しくなかった……。ワンちゃんがいい……。」 お母さん:「猫よりも犬がいいってこと?」 Hちゃん:「うん……。ワンちゃんのほうが好き」 4歳のHちゃんは本編開始から44分ごろまで鑑賞していたそうです。だいたい現実の世界に戻ってきたジョーが、タクシーをつかまえようとするあたりですね。 残念ながら最後まで鑑賞することはできませんでしたが、Hちゃんのお母さんは「何分持つかな〜と思いながら観察していましたが、私が思っていたよりも長く観てられました(笑)!」とコメント。やはり4歳には少し難しかったようです。 『アナと雪の女王』が大好きだというHちゃん。『ソウルフル・ワールド』は「アナ雪」と比べてファンタジー要素が少なく、歌もないのでちょっと飽きてしまったのかもしれません。 一方で、大人や10代の子どもたちでもあまり注目していなかったセラピー・キャットに注目しているところは、幼い子どもならではの視点ではないでしょうか。
子どもらしい感想が楽しい!年齢によってはメッセージも理解している
今回は実際に子どもたちに『ソウルフル・ワールド』を観てもらって感想を聞いてみました。やはり5歳以下だと難しいようですが、10歳前後であれば楽しく鑑賞し、作品のメッセージが理解できるようです。またテリーやムーンウインドは、子どもにもウケがいいようですね。 思っていた以上に大人と同じように作品を理解していたり、子どもならではの着眼点があったりと、面白い結果になりました。それぞれの年代でそれぞれ違った楽しみ方ができる作品とも言えそうです。 子どもと一緒に本作を観る機会のある人は、鑑賞後に感想を言い合ってみるのも面白いのではないでしょうか。