映画『この夏の星を見る』制作秘話【山元環監督×黒川想矢×星乃あんな】
辻村深月さんの同名小説を原作に、コロナ禍という不安と葛藤に揺れる日々の中、それでも星空に希望を託しながら懸命に生きる中高生たちの姿を描いた青春映画『この夏の星を見る』が、2025年7月4日より全国公開中です。 本作の公開を記念し、山元環監督、真宙役の黒川想矢さん、天音役の星乃あんなさんにインタビューを実施。監督が細部までこだわった星空の映像表現の秘話や、コロナ禍ならではの“マスクを着用した演技”への工夫など、貴重なエピソードが満載です。 さらに、黒川想矢さんが最近ハマっている「意外すぎるモノ」や、星乃あんなさんが「一番苦労したシーン」とは? ※インタビュー取材の模様を撮影した動画コンテンツをYouTubeのciatr/1Screenチャンネルで公開中!
タップできる目次
- 映画『この夏の星を見る』作品概要
- 【辻村深月さんの原作を読んで】映像的言語で表現することへの挑戦
- 【映画を鑑賞した感想】望遠鏡を覗くシーンが祈りに見えた
- 【実写化でのこだわり】コロナ禍を真摯に描くにはマスクでの演技が必須だった
- 【マスク着用での演技の難しさ】心の距離が縮まっても、縮まらないソーシャルディスタンス
- 【地域毎の星空や雰囲気】東京・茨城・長崎(五島)の色分けとは?
- 【星乃あんなさんが苦労したシーン】天音が真宙を誘うシーンの撮影秘話
- 【撮影時の印象的なエピソード】屋上で追いかけていたのは飛行機?
- 【山元監督の印象】撮影現場で生まれるものを大切にしてくれる
- 【生徒たちを支える大人たちの魅力】本当に「先生の感覚でその場にいてほしい!」
- 【黒川想矢さんの宇宙への興味】『この夏の星を見る』は運命
- 【実生活で情熱を注いでいるもの】星乃さんはギター、黒川さんはまさかの〇〇?
- 『この夏の星を見る』は今夏必見の青春映画!あの時を生きたすべての人へ贈る希望のメッセージ
映画『この夏の星を見る』作品概要
公開日 | 2025年7月4日 |
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上映時間 | 126分 |
監督 | 山元環 |
脚本 | 森野マッシュ |
キャスト | 桜田ひより , 水沢林太郎 , 黒川想矢 , 中野有紗 , 早瀬憩 星乃あんな |
音楽 | haruka nakamura |
主題歌 | suis from ヨルシカ |
映画『この夏の星を見る』あらすじ

2020年、コロナ禍により青春の時間を奪われた高校生たちがいました。茨城・砂浦に住む亜紗や凛久は、失われた夏を取り戻そうとスターキャッチコンテストの開催を決意。 一方、東京では孤独を抱える中学生・真宙が、同級生の天音に誘われる形で、この大会に関わることに。長崎・五島では、実家の観光業の行く末に悩む円華が、新たな出会いをきっかけに空を見上げるようになります。 手作りの望遠鏡で星を探す全国の学生たちは、オンラインを通じて画面越しに繋がり、それぞれの思いが夜空で交差していきます。やがて、その思いは、奇跡のような光景を捉えることに――。
【辻村深月さんの原作を読んで】映像的言語で表現することへの挑戦

本日は、『この夏の星を見る』の監督・山元環さん、安藤真宙役・黒川想矢さん、中井天音役の星乃あんなさんに、作品の制作秘話を伺っていきます。
Q:辻村深月さんの原作小説を読まれた際の感想をお聞かせください
山元監督
とにかくキャラクターの解像度が高く、キャラ数が多い、その印象がすごく強いですね。文章一つ一つとっても、やはり辻村先生ならではの本当に美しい文体で。 これを映像化していくにあたって、言葉以外の映像的言語で表現していくことが、とてつもない挑戦になるだろうなというのが一番最初の印象です。
黒川さん 登場人物みたいに、僕は全力でその時代を楽しむということはあまりできなかったような気がしているのですが――。その時に出会えた趣味とか、出逢えた人とかを思い出したりして、すごい懐かしい気持ちになりました。
星乃さん
文章でその時の感情を鮮明に受け取れる、そこがすごいと思いました。私もその時(コロナ禍)学生で、休講になったり制限されたりとかが多かったので、その時のことを思い出して「しんどかったな」と思い返したりしていました。
【映画を鑑賞した感想】望遠鏡を覗くシーンが祈りに見えた

Q:完成した映画をご覧になった際の率直なご感想をお聞かせください
黒川さん
望遠鏡を覗いているシーンが、僕には祈っているように見えたんですけど。祈っているってことは願いじゃないですか。願ってるってことは希望みたいなことじゃないですか。 映画を観て、みんなで希望を探しているように見えて。それで繋がっているのが素敵というか。ピントを合わせるみたいに、先が見えない何かに対しても積極的に挑戦していきたいという勇気をもらいました。
星乃さん
私は撮影時に完成した映像がどんな風に映るか全く想像できなかったので、いざスクリーンで見て迫力にまず圧倒されました。 本を読んでもその時は「懐かしいな、辛かったな」って思い出したんですけど。でも映像を観た時はしんどかったし辛かったけれど、こういう時期があってよかったなって観た後に思えて。 多分それは自粛期間だからこそ「今できることをやろう!」とか、そういう思いがすごく強く伝わったから、観た後にそう思えたのかなと思いました。
【実写化でのこだわり】コロナ禍を真摯に描くにはマスクでの演技が必須だった

Q:原作を実写化する上でこだわったポイントをお聞かせください。
コロナ禍を真摯に描くためにこだわったマスクでの演技

山元監督
まずひとつは(キャストに)徹底的にマスクを着けていただきました。 難しかったと思うんですよ。ただコロナ禍の物語を真摯に受け止めて、物語として昇華するにはある程度時代をちゃんと担う責任があると思うんです。 青春物語を作っていく上で、みんなの表情が見たいからといって、マスクを取ってしまうと、途端にその世界観が嘘になってしまうのではないかと思い。衣装合わせで「マスクをしっかり着けてやっていくからね」っていう宣言をみんなにひとりずつやっていきました。 それを見事に皆さん乗りこなしていただいたんで。相手のことを見るっていう動きから、体の中で感情を起こして躍動的に動いていく。 そういうプロセスをしっかりキャストの皆さんが踏んで、キャラクターたちを体現してくれました。そこはこだわった甲斐のあるコロナ禍を描いた映画になっていると思います。
こだわり抜いた星空の表現

あとはやはり星空ですね。星が出てくる映画はあるとは思うんですけど、そのどれとも違うビジュアルを今回は作り込みました。 デイフォーナイト(Day for Night)という撮影手法を取り入れていて。日中に撮った映像をすごいアンダーで撮影していくんですけど。 撮影した映像をグレーディングと呼ばれる色付けの作業で、最終的には疑似のナイター(夜)を作り込むっていう。そのやり方で今回撮影しました。 ビジュアルはリアリティーを追求しすぎてもダメで。星空ってファンタジーすぎてもダメなんですよ。 この真ん中のちょうどよいところで、表現の幅をどれだけ広げていけるかをものすごく探していく作業だったので、ビジュアルひとつ作るのに4ヶ月ぐらいかかりました。 どういう星空にするかをVFXチームとナイトカメラマンの竹本さんという方、制作陣でとにかく試行錯誤してやった甲斐のある夜空というか、星空になっています。 ぜひキャラクターたちに感情移入して、キャラクターたちの視点で見ていただけると、すごくよい夜空が見えると思います。
【マスク着用での演技の難しさ】心の距離が縮まっても、縮まらないソーシャルディスタンス

Q:マスク着用での演技をされた感想をお聞かせください
黒川さん

マスクをつけると顔が隠れるので、いつも顔で演技をするってことはしていないんですけど。 喋っていてもなにか、(顔の前に)何かがあるっていう感じで。コロナ禍だったので、実際のソーシャルディスタンスとそれに加えてもマスクも距離があって。その距離感っていうのがすごく難しかったなと思っています。 例えば話していて、だんだん心の距離が近くなっていくけれど、実際の距離がこのままだとか。
星乃さん

私は衣装合わせの時に監督から「マスクをするし、顔が見えないから、それはちゃんと把握した上で演技をしてね」っていうのを言っていただいて。 コロナ禍の当時、マスクをしていて面白い話をしてる時も、目が笑っていなかったのか「あんな笑ってる?」って言われていたんですよ。 そのやり取りを思い出して。それこそ(マスクをしたまま)演技をして、ちゃんとお客さんにスクリーンで天音の感情をちゃんと伝えられるかな?っていう不安がすごくあって。 その日から何度も目で演技をするっていうのと、身振り手振りとか、顔の向きとかで表現をするっていうのを考えて練習して撮影に挑みました。
【地域毎の星空や雰囲気】東京・茨城・長崎(五島)の色分けとは?
Q:本作は東京、茨城、長崎という3つの舞台で繰り広げられますが、それぞれ独特の雰囲気や魅力が映し出されていました。それぞれの場所での撮り分けやこだわりをお聞かせください
山元監督
あまり撮り分けはしてはないんですが、色分けはしました。 これは技術的な話なんですけど、東京は少しカラーの彩度を落として、コンクリートジャングル的に。五島列島は青とかを凄い引き立たせています。茨城はものすごく中間で、ビビットな感じの色合いにしていて。 でも全体的には閉塞感みたいなものがほしかったので、照明をぴたっと当てて、すごく明るくしなかったんですよね。 教室も基本的にはライトが横から差し込んできている陽の光をほとんど利用して撮影していたので、教室の後ろはワンカット撮るとちょっと暗いんですよ。 あの暗さがコロナ禍の閉塞感の感覚にちょっと近いというか。一つ一つのルックを決めるのも割と気をつけてやっていました。星空も茨城と五島と東京で、星の数、見える解像度と、あと夜空の黒の濃度というのも全体的に色を変えてやりましたね。 なので東京は一番街明かりがあるので濃くなっています。空が黒く見えるんですよね。五島は逆に光がないから空が白茶けて見える。月明かりがすごいし、照らす周りが綺麗に見えるから。 ちょうど真ん中が茨城。茨城が決まると東京と五島が決まるんですよ。だから茨城を集中的にずっと、「どういう夜空なんだろう?」と言いながら集中的に作っていきました。
【星乃あんなさんが苦労したシーン】天音が真宙を誘うシーンの撮影秘話

Q:天音が高架線の下で真宙を理科部に誘うシーンが印象的でした。あの場面の撮影秘話をお聞かせください。
星乃さん
冒頭に天音が柵の前で息を「フゥ〜」と吹きかけるシーンがあるんですけど、私的にはあの場面が一番苦戦して。 天音のキャラ的に好きなものには熱中するけど、極端に言っちゃえば人には興味がない。星が大好き。ただ星が好きで、いつも理科部にいるという、そういう感じで。 人にあまり興味がないから、どういう(真宙を)誘い方をしたらいいんだろと思っていて。その時に天音が緊張するっていうのがあまりわからなかったんです。 (監督が求められていたのは)緊張もあるし「よし行くぞ!」っていう気合も込めての感じだったんですけど、私は不安だけの表現の感じになってしまったりとか。 最終的には「よし行くぞ!」っていう感じをちゃんとスクリーンで観て、出してるなって思ったから良かったんですけど。あのシーンはすごい苦戦しました。
山元監督
そうだったんですね!案外サラッとやってのけたような印象でした。最初はちょっと弱かったから、もうちょっと大きく、緊張感っていう要望を出したら、どんどん良くなっていったので。
【撮影時の印象的なエピソード】屋上で追いかけていたのは飛行機?

Q:撮影時の印象的なエピソードをお聞かせください。
黒川さん
撮影に入る前に、東京、茨木、長崎のみんな全員で集まって星について学ぶ勉強会があって。リモートが多かったので雰囲気が掴めなかったんですけど、あの時間があったからリモートでも会話できたというか。 その時間は貴重だったし、すごく楽しかったです。
星乃さん
屋上でのシーンが多かったんですが、撮影前に望遠鏡に触れられたのが読み合わせの1回しかなくて、不安だったんですよ。 競技性もあるし、格好良く動かないといけない、感情を伝えなきゃいけないっていうのがすごく難しくて。だからカメラセッティングの時は黒川君とずっと飛行機を追いかけて、星っぽいのがあったらそれを捕まえて「これ星かな?」ってみんなで話したり。 (望遠鏡で)格好良い動きをする練習をするときは「団結感あるなぁ」って思いながら、楽しくできました。
【山元監督の印象】撮影現場で生まれるものを大切にしてくれる

Q:監督からかけられた印象的な言葉やエピソードはありますか?
黒川さん
天音との距離感とかすごく一緒に話をしてくださって。ふたりがどういう近さで、どういう関係なのかっていうのは自分は全く分からなかったし。なので監督とか星野さんともすごく話してやったというのをすごく記憶に残っていて。 監督の撮影は撮影現場で生まれるものをすごく大事にしてくれるというか。すごい僕も一員として撮影にいられるんだなっていう感じと。もちろん監督からも言ってくださることもあるし、僕たちからも言うこともあって。そういう時間がすごく楽しかったし。 監督って(恐縮してしまう)みたいなイメージがあるんですが。山元さんがそうじゃないと言わないんですけど、すごく話しやすかったというか。
【生徒たちを支える大人たちの魅力】本当に「先生の感覚でその場にいてほしい!」

Q:生徒たちを支える大人たちの魅力が伝わってくる映画だと感じました。その点でこだわりがあればお聞かせください。
山元監督
大人の方々と話していたのは、あまりドライにならないでくださいと。今回はメインのキャストたちが全員若いから、本当に「先生の感覚でそこに立っていてほしい」っていう話を全員にしました。 なので森村役を演じた上川周作とかは、多分ふたり(黒川さん・星乃さん)とよく喋ってたりとかもしていたり、綿引先生役の岡部さんとか茨城チームで焼き肉食べに行ったりとか。 それぞれのチームにそのチームにしかない雰囲気とチーム感があって。子供たちのキャストの皆さんが作った空気感もありますけど、そこの中に大人として立ってるっていうのが、色濃く映画の中にも反映されたと思いますね。
【黒川想矢さんの宇宙への興味】『この夏の星を見る』は運命
Q;黒川さんはもともと宇宙に興味があって、大学で宇宙工学を学びたいとお聞きしました。今回の撮影にその興味が活かされたことはありましたか?
黒川さん
星とかじゃないんですけど、もともとすごく宇宙ロケットとか宇宙エレベーターとかすごく好きで調べていただけなんですけど。 この作品が来た時には「うわぁこれは運命だ!」と思ってすごく嬉しくて。撮影に活かされたっていうのは、望遠鏡を使っていたっていうのもあると思うんですけど。宇宙線の観測とか、今日は望遠鏡を作りますというときに、先生が監修に来てくださって、その時にいろいろ話を聞けたのがものすごく嬉しくて。 今まであまり星とかには興味がなかったんですが、この撮影を機に星について興味を持てたので、すごい楽しかったです。
【実生活で情熱を注いでいるもの】星乃さんはギター、黒川さんはまさかの〇〇?

Q:真宙(黒川さん)と天音(星乃さん)はスターキャッチに情熱を注いでましたが、おふたりは実生活で現在情熱を注いでいるものはありますか?
星乃さん
私は最近趣味を探そうと思っていて。スマホばかりいじってしまう癖があるので、それはちょっとやめようと。他のことに熱中しようと思って、最近ギターを始めたんですね。 指が痛すぎて今はめちゃくちゃ挫折しそうなんですけど……。ギターに熱中できていますね。自粛期間にギターを始めていればもっと早く成長できたかなぁと思って少し後悔しています。
黒川さん
僕はかつお節が大好きなんですよ(笑) 撮影終わった時にも監督に「このかつお節おいしいので食べてください」って渡していて。すごいぶつ切りにされてる鰹節なんですけど。
山元監督 めっちゃ美味しいかつお節をくれたんですよ。ハマって10袋ぐらい買って。数分でちょっとなくなっちゃうぐらい一気に食べちゃうんですよね。
『この夏の星を見る』は今夏必見の青春映画!あの時を生きたすべての人へ贈る希望のメッセージ

2020年、コロナ禍という制限のなかで――「自分たちに何ができるのか?」という問いに真っすぐ向き合いながら、未来への希望を星空に見出していく登場人物たち。そのみずみずしく力強い姿に、きっと胸を打たれるはず。 山元環監督がこだわり抜いた、本作ならではの美しい星空。そして、登場人物たちの想いが重なり合って生まれる、心に残るきらめき。その世界を余すことなく味わうためにも、劇場でご鑑賞いただきたい作品です。 映画『この夏の星を見る』は、2025年7月4日より全国で絶賛公開中。 ▼取材・文:増田慎吾