真利子哲也監督に聞く生涯ベスト映画!堀越謙三さんに捧ぐ名作3本【Dear Stranger/ディア・ストレンジャー公開記念】
『ディストラクション・ベイビーズ』、『宮本から君へ』などの 真利子哲也監督の最新作『Dear Stranger/ ディア・ストレンジャー 』が2025年9月12日より公開に! 公開を記念して、真利子監督へのインタビューを実施。映画を鑑賞する頻度や作品の選び方、現在注目している映画監督など、真利子監督の映画観に迫る、貴重なエピソードを語っていただきました。 さらに真利子哲也監督に生涯ベスト映画を3本選出いただき、その作品の魅力を語っていただいています。 ※インタビュー取材の模様を撮影した動画コンテンツをYouTubeのciatr/1Screenチャンネルで公開中!
映画『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』作品概要・あらすじ
タイトル | 『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』 |
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公開日 | 2025年9月12日 |
上映時間 | 138分 |
監督・脚本 | 真利子哲也 |
キャスト | 西島秀俊 , グイ・ルンメイ |
ニューヨークで暮らすアジア人夫婦の息子が誘拐され、夫婦が抱える秘密と家族の崩壊が明らかになっていくヒューマンサスペンス『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』。 主演は『ドライブ・マイ・カー』『Sunny』で世界的評価を高める西島秀俊、妻役は『薄氷の殺人』『鵞鴨湖の夜』、さらに『言えない秘密』で知られる台湾の国民的女優グイ・ルンメイ。 監督は『ディストラクション・ベイビーズ』でロカルノ国際映画祭最優秀新進監督賞を受賞した真利子哲也。2024年冬に敢行されたオールNYロケではブルックリンやチャイナタウンを舞台にリアルな息遣いを収め、英語を交えたセリフとともに、人種の壁や孤独、他者と分かり合う困難を浮き彫りにする濃密な物語が、世界へ向けて放たれる。
真利子哲也監督プロフィール

生年月日 | 1981年7月12日 |
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出身地 | 東京都 |
出身校 | 東京藝術大学大学院映像研究科修了 |
フィルモグラフィー | ・『イエローキッド』(2009年) ・『ディストラクション・ベイビーズ』(2016年) ・『宮本から君へ』(2019年) ・『Dear Stranger ディア・ストレンジャー』(2025年) |
1981年東京生まれ。法政大学卒業後、東京藝大大学院を修了。自主映画で数々の映画祭を席巻し頭角を現す。長編デビュー作『イエローキッド』(2009)は学生映画ながら劇場公開され新人監督賞を受賞。 『ディストラクション・ベイビーズ』(2016)では暴力に駆られる若者像を描き、第69回ロカルノ国際映画祭で最優秀新進監督賞を獲得。続く『宮本から君へ』(2019)はブルーリボン賞など主要監督賞を受賞し高く評価された。作家性と娯楽性を兼ね備えた現代日本映画の旗手であり、2025年には新作『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』が公開された。
『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』制作インタビューはこちら
真利子哲也監督が選ぶ生涯ベスト映画3選

生涯ベスト映画とその選出基準!恩師・堀越謙三さんに捧げる3本
Q:真利子哲也監督に生涯ベスト映画を3本選出いただきました。まずは選出のテーマからお聞かせください。 真利子監督: 東京藝大のときからずっとお世話になり、ユーロスペースという映画館を作った方でもあるのですが、堀越謙三さんが先日亡くなられて。『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』も是非観てもらいたいと思っていました。 ずっと期待してくれていて、だからこそ今回3本選ぶときに堀越さんが携わった映画から3本選びたいと思います。
堀越謙三さんのプロフィール
1945年東京生まれ。1977年「ドイツ新作映画祭」を企画し、ヴィム・ヴェンダースやライナー・ヴェルナー・ファスビンダーらニュー・ジャーマン・シネマを日本に紹介。1982年に渋谷でミニシアター「ユーロスペース」を開館し、レオス・カラックス、アッバス・キアロスタミ、アキ・カウリスマキ、ラース・フォン・トリアーらを紹介してミニシアターブームを牽引。 1987年『ゆきゆきて、神軍』、1995年『スモーク』、2021年『アネット』などを製作・配給。1997年映画美学校を設立し、東京藝大大学院映像研究科教授、開志専門職大学教授・学部長として後進を育成。2008年仏芸術文化勲章シュヴァリエ受章。2025年6月19日、間質性肺炎で逝去。
真利子監督と堀越謙三さんの関係性について

東京芸大のときに卒業制作で撮った『イエローキッド』という映画は本来藝大の学内の上映で終わるはずだったものを、堀越謙三さんが全国で劇場公開をしてくれました。 そこから始まって自分は映画監督として活動していけています。「次作るのいつ」ってずっと新作を楽しみにしてくれていて、大体5年とか6年空いてようやく映画1本撮っているので、なかなかお観せする機会がなかったのですが。

今回(『Dear Stranger/ ディア・ストレンジャー』)アメリカでの撮影など挑戦が大きい映画でした。堀越さんも海外で活躍されていてニューヨークでの知り合いもいらしたので、だからこそ「真利子頑張ってくれ」と応援してくれて。 それこそレオス・カラックス監督が『アネット』で日本に来たときに、「真利子は日本で一番の監督だ」とカラックス監督に紹介してくれて……。ちょっと大きいなと思いながらも、そこまで言ってくれるほど本当に信頼してくれていました。 だから単なる学生と先生みたいな関係じゃなく、いろんな相談に乗ってくれました。人間味のある人で自分にとって本当に大きな存在です。
生涯ベスト映画①『スモーク』(1995年):NYブルックリンが舞台にした群像劇!何気ない会話が面白くもあり、痛みも伝わってくる秀作
真利子監督: 1本目はウェイン・ワン監督の『スモーク』を選びます。 順位とかではなく、ふと浮かんだ一本という感じです。『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー 』をニューヨーク・ブルックリンで撮影したのですが、『スモーク』も同じブルックリンのタバコ屋を舞台にした物語でした。 1990年代半ばの作品で、派手な出来事は起こらないけれど、何気ない会話がとても面白く、同時に痛みや傷みも伝わってくる。丁寧に人の気持ちを描いていて、今見ても心に響く映画だと思います。 Q:『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』への影響はあったのでしょうか? 真利子監督: 『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』に直接的な影響があったかと問われれば、そうではないかもしれません。 ただ『スモーク』に限らず、これまで見てきた映画や、自分の生活そのものが多分に影響しているのは確かです。改めて見直さなくても、心に残った映画はずっと自分の中にあって、それは『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』にも、そしてこれから作る作品にも必ずつながっていくと思います。
『スモーク』(1995年)概要・あらすじ
1995年公開のアメリカ映画。監督ウェイン・ワン、脚本は作家ポール・オースター。ブルックリンのタバコ店を舞台に、店主オーギー(ハーヴェイ・カイテル)や常連の作家ポール(ウィリアム・ハート)を中心に、人々の人生が交差する群像劇。日常の小さな奇跡や再生を温かく描き、ベルリン国際映画祭で銀熊賞を受賞した。
生涯ベスト映画②『ポンヌフの恋人』(1991年):大規模な予算を投じて制作された男女のミニマムな物語
2本目はレオス・カラックス監督の『ポンヌフの恋人』です。 堀越さんと二人三脚のようにされていた監督でそんなに多く映画を作ってる監督ではないのですが、全てが圧倒的で面白い。 『ポンヌフの恋人』も少なからずそうですが、映画って自由だっていう思わせてくれる映画監督です。『ポンヌフの恋人』はフランスにポンヌフの橋を作ってしまうなど、すごいお金をかけて作った映画なのですが、男性と女性のすごくミニマムな話ではあって。 カラックス監督の作る映画は観てるこっちに響いてきて、嘘がないし、やはり格好いい!『ポンヌフの恋人』に限らずですが、やはり凄く影響を受けた監督です。 Q:カラックス監督でそのほかにお好きな作品はありますか? 真利子監督:
全てですが、『汚れた血』は大好きです。それこそ堀越さんと上映イベントをやったときに、堀越さんが映画に携わったきっかけになったのが『汚れた血』っていうのを聞きました。 堀越さんがその場で35ミリフィルムで上映してくれたのですが、そのすごみたるや!デジタルで観る以上にフィルムに付いた埃とかそういうものもひっくるめて「映画だな」と思わせてくれる作品でした。 近作の『アネット』にしても、ミュージカルですけど、ご本人も出てきたりしてそのデタラメさも含めて映画は自由だって思わせてくれる映画でした。
『ポンヌフの恋人』(1991年)概要・あらすじ
1991年公開、レオス・カラックス監督。大道芸人アレックス(ドニ・ラヴァン)と、視力を失いつつある画家ミシェル(ジュリエット・ビノシュ)の激しい愛を描く。撮影は困難を極め、南仏に橋の巨大セットを建設。公開時は賛否が分かれたが、幻想的な映像美で後に高く評価され、カラックスの代表作とされている。
生涯ベスト映画③『キッズ・リターン』(1996年):カンヌ映画際でも評価された北野武監督の傑作青春映画
真利子監督: 堀越さんが直接プロデューサーとして関わった映画ではないのですが、北野武監督の『キッズ・リターン』を選びたいと思います。 北野映画というと暴力やバイオレンスのイメージが強いですが、この作品はボクシングを題材にしながらも、どこか違った青春映画として心に残っています。もちろん暴力的な要素は少なからずありますが、日常的な要素と混じり合いながら、見事に映画として結実したのが『キッズ・リターン』だと感じます。 また堀越さんから伺った話も印象的でした。当時、北野監督はまだ数本しか撮っておらず、海外での上映機会も少なかったそうです。 そこで『キッズ・リターン』をカンヌ国際映画祭に紹介したのが堀越さんで、それをきっかけに北野監督は“世界のキタノ”と呼ばれるほど高い評価を受けるようになりました。 北野さんの作品そのものの素晴らしさに加え、それを世界に広め、多くの観客に届けるきっかけをつくったエピソードも含めて、素晴らしい映画です。
『キッズ・リターン』(1996年)概要・あらすじ
1996年公開、北野武監督。高校を中退した親友シンジ(金子賢)とマサル(安藤政信)が、ボクシングやヤクザの世界に夢を託すが挫折する青春映画。乾いたユーモアと哀愁ある音楽(久石譲)が響き、敗者の再出発を静かに描く。カンヌ映画祭「ある視点」部門で上映され、国際的注目を集めた。
【映画監督を志したきっかけ】就職氷河期まっただ中に就職をせず映画の道へ

Q:ここからは映画をテーマに真利子哲也監督にインタビューさせていただきます。まずは、映画監督を志されたきっかけについてお聞かせください。 真利子監督: 明確なきっかけというよりは、自然な流れでした。昔から映画が好きでよく観ていて、大学に入ってからは先輩たちと遊びの延長のような形で映画を撮るようになりました。その頃は本格的な映画という意識ではなく、撮って見せ合って楽しむというものでした。 ちょうど就職氷河期の時期でもあり、就職せずにそのまま映画を撮り続け、今に至ります。
【映画鑑賞の頻度と選ぶ基準】監督やレトロスペクティブなどの特集を重視

Q:どのくらいの頻度で映画を観られますか?また、どのような基準で作品を選んでいますか? 真利子監督: 仕事のタイミングによってバラバラですが、平均して週に2〜3本くらいですね。多いときは毎日観ているし、全く観られない時期もあります。 作品の選び方については、中身やあらすじではなく監督などで選ぶことが多いです。レトロスペクティブや時代特集などをきっかけにまとめて観ることもあります。
【注目している若手監督】映画祭の審査員時に目にした空音央監督と平井敦士監督の才能

Q:最近注目している監督はいらっしゃいますか? 真利子監督: 数年前ですけど、短編映画祭の審査員をやったときに短編を応募してくれた空音央監督と平井敦士監督が 素晴らしかったです。空音央監督はその後も長編(『HAPPYEND』)を撮ったりしていますし、平井監督も続けていると思うので、注目しています。
空音央監督

1991年生まれ、ニューヨークと東京を拠点に活動する映画監督・アーティスト。短編・ドキュメンタリー・PVなど幅広く手がけ、父は作曲家の坂本龍一。短編『THE CHICKEN』(2020)が世界各国の映画祭で注目され、長編デビュー作『HAPPYEND』(2024)はヴェネチア国際映画祭オリゾンティ部門に出品され話題となった。
平井敦士監督

1989年、富山市水橋に生まれる。東京の映像専門学校(バンタン映画映像専門学院・映画監督本科)を卒業後、2012年に渡仏。パリの映画学校(ESEC)で学んだのち、映画監督ダミアン・マニヴェルに師事し、助監督として多くの撮影現場に参加しながら映像制作を学ぶ。 地元・富山市水橋で撮影した短編映画『フレネルの光』が、第73回ロカルノ国際映画祭インターナショナル・コンペティション部門にノミネートされる。
【映画監督になって変わった視点】

Q:監督になってから、映画の見方に変化はありましたか? 真利子監督: 映画の楽しみ方は変わっていませんが、見える範囲は広がったと思います。自分で映画を作るようになって、単純に楽しむだけではなく、カメラマンやスタッフワーク、俳優さんのお芝居にもより注目するようになりました。そういう意味では映画は楽しんで観てるんですが、見える視点は広がったかなとは思います。
【映画監督として幸せを感じる瞬間】

映画監督として一番幸せを感じるのはどのような瞬間でしょうか? 真利子監督: 「初号」と呼ばれる、完成した映画をキャストやスタッフと一緒に初めて観るときです。俳優たちは緊張しながら自分の演技を見ていて、その中で自分が一人「この映画すごいよね」と思っている瞬間は、とても幸せです。 映画が完成してスタッフ、キャスト含めてみんなが集まって観る、初号という初めての上映です。自分だけが編集が終わって、音も最後まで確認して、完成してる状態を知っていて。俳優さんたちはみんな不安そうに来るわけですよ。 自分は今まで作った映画を自分で観て面白かったっていう印象が多いというか、全てそうなのですが、俳優さん達はその時初めて観るわけだから緊張していたり、自分の芝居を見てたりするんですね。 そのとき「この映画すごいよね」と思いながら盛り上がれているとき、ある種打ち上げのようなこの瞬間がもしかしたら一番幸せかもしれないです。
▼取材・文:増田慎吾