【恋愛裁判公開記念】深田晃司監督生涯ベスト映画3選ー中学3年の時に衝撃を受けた1本とは?
2026年1月23日公開の映画『恋愛裁判』の公開を記念し、深田晃司監督に映画をテーマとしたインタビューを実施しました。これまで心に残ってきた作品や、生涯ベストとして挙げた3本の映画について語っていただいています。 さらに、幼少期の映画の原体験や監督を志すまでの道のり、現在の映画との向き合い方にも触れながら、深田監督がどのように映画と関わってきたのかを丁寧にたどっていきます。 ※インタビュー取材の模様を撮影した動画コンテンツをYouTubeのciatr/1Screenチャンネルで公開中!
映画『恋愛裁判』作品概要・あらすじ
| 公開日 | 2026年1月23日 |
|---|---|
| 監督 | 深田晃司 |
| 監督・脚本 | 深田晃司 , 三谷伸太朗 |
| キャスト | 齊藤京子 , 倉悠貴 , 仲村悠菜 , 小川未祐 , 今村美月 , 桜ひなの , 唐田えりか , 津田健次郎 |
| 上映時間 | 124分 |
実際の裁判に着想を得て、日本のアイドル文化に潜む矛盾を鋭く描く意欲作。華やかな熱狂の裏で、「恋愛禁止」などのルールに感情を縛られる現実がある。アイドルグループ「ハッピー☆ファンファーレ」のセンター山岡真衣(齊藤京子)は掟を破ったとして裁判にかけられ、孤独や犠牲と向き合いながら自己を取り戻そうと闘う。 恋愛がなぜ「罪」とされるのか。観る者の価値観を揺さぶり、「正しさ」の基準と心を縛るルールの本質を問い直す。監督は『LOVE LIFE』の深田晃司。第78回カンヌ国際映画祭カンヌプレミア部門正式出品。
深田晃司監督プロフィール

| 生年月日 | 1980年1月5日 |
|---|---|
| 出身地 | 東京都小金井市 |
| 出身校 | 映画美学校第3期フィクション・コース |
| フィルモグラフィー | 『歓待』(2010) 『ほとりの朔子』(2013) 『さようなら』(2015) 『淵に立つ』(2016) 『海を駆ける』(2018) 『よこがお』(2019) 『本気のしるし』(2020) 『LOVE LIFE』(2022) 『恋愛裁判』(2026) |
1980年1月5日生まれ、東京都小金井市出身。1999年に映画美学校フィクション・コースに入学し、自主制作を通じて独自の作家性を確立。日常の表層に潜む違和や倫理的緊張を鋭くすくい上げ、日本映画の現在を牽引する作家のひとりとして国内外で高く評価されている。 長編第2作『歓待』(2010)で注目を集め、『淵に立つ』(2016)ではカンヌ国際映画祭「ある視点」部門にて審査員賞を受賞。続く『LOVE LIFE』(2022)はヴェネツィア国際映画祭コンペティション部門に選出され、その評価を国際的なものとした。 説明を抑えた演出と、沈黙や“間”を大切にした映像表現によって、日常の中にひそむ違和感や人間関係の揺らぎを丁寧に描き出す。その映画世界は、観る人それぞれの受け取り方に委ねられ、静かな余韻を残す。
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深田晃司監督が選ぶ生涯ベスト映画

Q.深田監督の生涯ベスト映画を3本ご紹介ください 深田監督 生涯ベスト映画は時期や体調、気分によって比較的変わるかもしれませんが、1本目、2本目は不動で3本目は日によって変わる感じです。
生涯ベスト映画①『緑の光線』(1986年)
1本目はエリック・ロメール監督の『緑の光線』です。魅力の言語化が難しいのですが、とにかくみずみずしく、ラフにスケッチのように撮っているような印象がありますが、目が離せない。 ロメール監督はすごくテキストにこだわる人で本当に脚本を作り込むし、俳優に脚本通りに演じてもらうことをすごい信条にしてる人らしいのですが、『緑の光線』はとても例外的な作品です。本当に俳優たちとフランスで旅をしながら、大まかな構成だけ決めて即興で作った内容らしくて。 それも手伝ってか、すごくみずみずしい。あとやはり構成の凄さですね。エリック・ロメールの映画の面白さは、圧倒的に構成が上手いところです。もちろんフランス人ということもあり自分の気持ちや感情表現をどんどん言葉にしていくのですが。 でも例えば、『緑の光線』は主人公の女性がバカンスに行ったものの、友達にドタキャンされてひとりでバカンスを過ごさなくてはいけなくなる。色々なコミュニティーに入ってくいくのだけれど、どこに行っても馴染めずにどんどん孤独をこじらせていく話なんですね その間、雄弁にたくさん喋っているんですが、その言葉がすごく"かるみ"を持っている。ロメール自身が台詞は"本当らしい”台詞と"必要”な台詞に分かれると分析をしていて、“必要な”台詞というのは物語を進めるための台詞だからどうしても嘘くさくなると。 その文脈だと『緑の光線』は本当に本当らしい言葉しか出てこない。物語を進めるための台詞ではなくて本当に生きた言葉というものが常に言葉にある。だから物語を背負っていない言葉なんですよね。それが本当に素晴らしく、さらに構成が圧倒的に強いから主人公の孤独が言葉では説明されなくても、ものすごく伝わってくる内容になっているのが本当に素晴らしいと思います。その上、人間が歩いているだけで、座っているだけで、太陽を見つめているだけで、それ自体がその瞬間に映画になっている。
『緑の光線』作品概要
エリック・ロメール監督『緑の光線』は1986年公開のフランス映画。夏休みをひとりで過ごす女性デルフィーヌが、旅先での出会いや孤独を通して自らの感情と向き合う姿を描く。 即興的な会話と自然光を用いた簡潔な演出により、内面の揺らぎを繊細に表現。終盤に現れる「緑の光線」は、作中で言及される稀少な自然現象として、物語の結末における重要な瞬間と結びつけて提示される。
生涯ベスト映画②『ミツバチのささやき』(1973年)
2本目はビクトル・エリセ監督の『ミツバチのささやき』です。 この作品を中学3年のときに初めて観たときは「映画でこんなことが描けるのか、こんな演出ができるのか」と本当に衝撃的で、映画の中に監督の世界観や哲学が表れていると思いました。 『ミツバチのささやき』はスペインのある田舎で暮らしている小さな女の子とそのお姉さんと両親の話で、お父さんが養蜂家という設定なんですね。そこにはものすごく明確な暗喩があると思っていて「盲目的に生きている蜂の生き方と、私たち人間の生き方はどこまで差があるのか?」ということが対比されているように思いました。 その対比、ある種哲学的な対比を一切台詞では示さない。どう示すかというと、主人公たちの住んでいる家の窓格子のデザインが蜂の巣と同じ形になっているんですね。さりげなくそれが見えるだけで蜂の生き方と人間の生き方には「どこまで差があるのだろう?」と観る人が考えざるを得なくなっていく。 そこには監督の思想や哲学があり、世界観がある。それを一切説明ではなく映像で伝えてくるのが凄いなと思いましたし、映画にはこんなことができるんだと感動しました。
『ミツバチのささやき』作品概要

ビクトル・エリセ監督が1973年に発表したスペイン映画。1940年の内戦直後の寒村で暮らす一家と、映画『フランケンシュタイン』に心を奪われた少女アナの内面を描く。光と影、沈黙を重視した詩的な映像表現により、子どもの視線から抑圧された時代の不安や想像力を寓話的に映し出す。
生涯ベスト映画③『人情紙風船』(1937年)
成瀬巳喜男監督や溝口健二監督の作品など、日本映画にはたくさん好きな作品があるのですが「どれか1本?」と問われたらこの作品を挙げたくなります。 1930年代の映画、山中貞雄監督の『人情紙風船』です。最初この作品のことを知ったときの自分は浅はかだったなと思います。『人情紙風船』というタイトルから江戸の人情話みたいなものを連想していました。ただ観てみると「人間の人情なんて紙風船みたいなものですぐに萎んでしまう」みたいな、むしろすごく暗い、ネガティブな意味になっていたことに驚きました。 実際に内容も人間関係のある種暗い部分や冷たい部分を徹底して容赦無く描き出すのですが、その描き方というのが本当に素晴らしい。感傷的だったり、感情を前面に出すような描き方を一切していなくて、常にカメラが少し引いて冷徹に人間関係の変容みたいなものを描いていく。そのショット一つ一つがまた美しい。 これはロメールの『緑の光線』とも通じると思うのですが、登場人物が本音を話して、自分の内面を言葉にそのまま移し変えて伝えてくるわけではない。登場人物が本音を喋っているか?どうかなんてわからない。それは私たち人間もそうですよね。 自分が本音で話しているつもりでもそれが本当に本音かどうか?なんて誰にもわからないし自分自身でさえわからない。なぜなら、私たちは常に自身の内にある無意識の影響を受けながら喋らされているし、行動しているから。 『緑の光線』もそうであるように『人情紙風船』もやはり登場人物たちの本音があらわになっているというよりも映画の中での時間の推移、あるいは人間関係の推移から観客は想像するしかない。でも観ていると、段々段々ゾッとしてくる、その作り方が本当に大好きです。
『人情紙風船』作品概要
1937年公開の日本映画で、山中貞雄監督の遺作として知られる。江戸時代末期の貧乏長屋を舞台に、浪人の新三とその妻、周囲の庶民たちの慎ましい暮らしを描く。軽妙な会話の背後で、貧困や閉塞感が静かに人物を追い詰めていく。簡潔で抑制の効いた演出により、時代劇の形式を用いながら市井の現実を写実的に映し出した名作。
【映画の原体験】中学3年で映画に没頭できる環境が整っていた

Q.深田監督の映画の原体験をお聞かせください。 深田監督 幼少期に生まれて初めて映画館で観た映画は、小学校の時に父親に連れて行かれた『ぼくらの七日間戦争』だったと覚えています。 父親が映画好きで、家にVHSビデオが数百本あったり、かなり早い時期に映画の専門チャンネルに入っていてくれていたなど、中学3年生の頃には家で映画をひたすら観られる環境にありました。 お小遣いが少なかったので映画館には全然行けなかったのですが。その時にケーブルテレビか何かで深夜に観たビクトル・エリセ監督の映画『ミツバチのささやき』が本当に衝撃的でした。それまで自分が観ていた映画と全然違うと思ったんですね。それから加速度的に映画にのめりこんでいって、映画評論の本で紹介されるような映画を片端から見ていくようになりました。
【映画監督になるきっかけ】ユーロスペースで見かけた映画学校のチラシ

Q.映画監督になったきっかけをお聞かせください 深田監督 中学、高校と本当に映画ばかり観ていました。ただ、小説家になりたいとか、ゲームクリエイターになりたいとか色々と思っていたのですが、映画監督だけはその選択肢にずっと入っていませんでした。 映画は集団創作で自分にできるわけがないと思っていたのと、たまたま観ていた映画が古典や海外の映画ばかりだったりしたので。例えばその時に石井岳龍監督(『狂い咲きサンダーロード』などで知られる映画監督)の自主映画とかそういった作品を観ていれば、もう少し映画監督が身近に感じていたかもしれないのですが。なので自分が作る側に入れるという意識すらなかったですね。
ただ、大学2年生の時に渋谷のユーロスペースという映画館に映画を観に行ったら当時まだ始まったばかりの映画美学校のチラシが見かけたんです。映画学校なんてものがあると思っていなかったし、映画作りを学べることに驚いて、そのまま映画美学校に入学しました。
【映画の鑑賞頻度と作品の傾向】ピーク時は年間約400本を鑑賞

Q.映画の鑑賞頻度と鑑賞者として惹かれる作品をお聞かせください。 深田監督 大学時代など一番映画を鑑賞してたときは、年間350本〜400本くらい観ていたのですが……。これはあるあるですけど、映画を作り始めたら忙しくなって激減するという。それが社会人ってことなのかもしれないのですが。 比較的ここ数年は持ち直していて、それでも月20本ぐらいだと思います。全部映画館に行けているわけではなくて、テレビで観るのと映画館を含めてそのくらいのペースだと思います。 観る映画は、実写もアニメも雑食的に何でも鑑賞します。ただ古典映画に偏っていて昔の映画が8割、9割という感じです。
【映画監督として幸せを感じる瞬間】“映画らしい何か”が見えてくるとき

Q.映画監督として一番幸せな瞬間をお聞かせください 深田監督 幸せな瞬間は撮影を終えて、編集を始めるときですね。現場で撮ったバラバラの映像たちが映画らしいなにかに、組み上がり始めるときが幸せで、快感を感じます。 ▼取材・文:増田慎吾


