【岩崎裕介監督に聞く】映画『チルド』制作秘話―令和ロマンくるまの歯の演出の秘密、「AnyMart」の向かいはなぜキッシュ屋?
CM監督として活躍し、短編『VOID』がロッテルダム国際映画祭などに選出された岩崎裕介監督。その長編映画初監督作となる『チルド』は、映画レーベル「NOTHING NEW」が手がける実写長編第1作です。 舞台は、24時間明るい光に照らされ、同じ商品、同じ挨拶、同じ作業が繰り返されるコンビニエンスストア。誰もが見慣れた均質な空間を通して、システムに管理され、知らず知らずのうちに自らの意思を奪われていく人々の姿を描く“社会批評的ホラー”です。 ciatr編集部では、岩崎裕介監督にインタビューを実施。実家がコンビニだったという自身の経験から生まれた企画の原点をはじめ、“何もしない主人公”を成立させるための脚本上の挑戦や、主要キャストを起用した背景について伺いました。 さらに、ジャンプスケアに頼らない恐怖の設計、笑いと狂気が入り混じる独特の演出、架空のコンビニ「AnyMart」の徹底した作り込み、そして映画祭でも話題を呼んだシーンの舞台裏まで、たっぷりと語っていただきました。 ※インタビュー取材の模様を収録した動画コンテンツも、YouTubeのciatr/1Screenチャンネルで公開中!
タップできる目次
- 映画『チルド』作品概要
- 【企画の成り立ち】“コンビニのせがれ”が見た、正常であることの異常性
- 【脚本の挑戦】“何もしない主人公”をどう成立させるか
- 【染谷将太のキャスティング】虚脱感と、0から100へ振り切れる瞬間
- 【オーナー/西村まさ彦】父をモデルにした“システムの化身”
- 【唐田えりかのキャスティング】異様な空間で渡り合う、目の力
- 【令和ロマン・くるまのキャスティング】親近感から生まれた“室田というバケモノ”
- 【恐怖の設計】ジャンプスケアに頼らない、日常に潜む怖さ
- 【AnyMartの作り込み】棚を全部入れ替えた、切り返しへの執念
- 【現場で生まれたシーン】小河が殴る「必然性」を補強した一言
- 【向かいの店の設定】キッシュとルーロー飯が象徴するもの
- 【今後の挑戦】“真っ向からのホラー”を作りたい
映画『チルド』作品概要
| 公開 | 2026年7月17日(金)より全国公開中 |
|---|---|
| 監督 | 岩崎裕介 |
| 出演 | 染谷将太、唐田えりか、西村まさ彦、くるま、長島竜也 ほか |
| 公式サイト | 公式サイトはこちら |
『チルド』は、CM監督として活躍し、短編『VOID』がロッテルダム国際映画祭などに入選してきた岩崎裕介監督の長編映画初監督作。映画レーベル「NOTHING NEW」の実写長編第1作となります。 均質化されたコンビニの空間に潜む違和感や日本社会の歪みを映し出す“社会批評的ホラー”です。主演は『寄生獣』や『爆弾』などの染谷将太。唐田えりか、西村まさ彦、令和ロマン・くるまらが共演します。
映画『チルド』あらすじ

24時間、灯り続けるコンビニ。同じ商品、同じ挨拶、同じ作業。繰り返される日常が、静かに狂い始める——。 都内の某コンビニ「エニーマート倉富町7丁目店」で働く堺は、日々を無感動に過ごしていた。厳格な店長・今井(44)に在庫管理のことで叱責され、同僚の室田や芳賀と軽い世間話を交わすものの、その会話には仕事や将来への漠然とした不安、社会に対する無力感が滲む。マッチングアプリで女性と会話することで孤独を紛らわそうとするが、どのやり取りも心の空白を埋めるには至らない。 そんな中、新人アルバイトとして小河が採用される。美容専門学校に通う彼女は、厳しい環境の中でも美容師になる夢を持ち、前向きに働こうとするが、次第に店の異様な秩序と閉塞感に圧倒されていく。オーナーの異常なまでの秩序への執着、厳格な規律、そして「管理されること」が常態化したこの場所で、彼女は何かがおかしいことに気付き始める。 逃げ場のないコンビニ、繰り返される日常の崩壊。堺は「秩序とは何か」「生きるとはどういうことなのか」という問いに向き合わざるを得なくなる。このコンビニから抜け出す道はあるのか? それとも堺もまた、店の秩序にとりこまれ、幽霊のようにこの場所に囚われてしまうのか――。
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【企画の成り立ち】“コンビニのせがれ”が見た、正常であることの異常性

Q. 本作の企画が立ち上がった経緯についてお聞かせください。 岩崎監督 映画レーベル「NOTHING NEW」から「長編映画を作らないか」とお誘いをいただいて、いくつか企画を考えるなかで、3つ目くらいにできた企画が『チルド』でした。1つ目は「今やる意味があるかな」という時代性の問題、2つ目は「めちゃくちゃ面白いけれど予算的にはまらないよね」といった具合で、「どうしよう」となっていて。「当事者性のあるものでないと、長編の初監督作は走破し切れないな」という思いがあったんです。 考えていたら、企画メンバーの一人が「コンビニだよ、お前は」と言ってくれて。「ああ確かに、実家がコンビニなんだよな」と。時代の象徴にもなるし、考えてみるかと、まずは「コンビニをモチーフにした映画を作ろう」というところから始まりました。 僕はコンビニのせがれなので、当事者としての目線もありつつ、消費者としても「コンビニって怖いな」と思う瞬間がちょいちょいあって。たとえば仕事が忙しい合間に急いでコンビニに入って、サラダチキンをバーッと食べているときに、「え、これ何だろう」「別に食べたいと思っていないのに」「食わされている、俺の意思はどこに行ったんだ」と感じることが結構あったんです。 ある種、意志を剥奪する。明るくてどこにでもあって親しみやすいけれど、常に正常であることの異常性のようなもの。それはホラーとの親和性も高いだろうし、やってみようというところから生まれたのが『チルド』ですね。
【脚本の挑戦】“何もしない主人公”をどう成立させるか

Q. 脚本を書くなかで苦労された点についてお聞かせください。 岩崎監督 映画レーベル「NOTHING NEW」から「長編映画を作らないか」とお誘いをいただいて、いくつか企画を考えるなかで、3つ目くらいにできた企画が『チルド』でした。1つ目は「今やる意味があるかな」という時代性の問題、2つ目は「めちゃくちゃ面白いけれど予算的にはまらないよね」といった具合で、「どうしよう」となっていて。「当事者性のあるものでないと、長編の初監督作は走破し切れないな」という思いがあったんです。 考えていたら、企画メンバーの一人が「コンビニだよ、お前は」と言ってくれて。「ああ確かに、実家がコンビニなんだよな」と。時代の象徴にもなるし、考えてみるかと、まずは「コンビニをモチーフにした映画を作ろう」というところから始まりました。 僕はコンビニのせがれなので、当事者としての目線もありつつ、消費者としても「コンビニって怖いな」と思う瞬間がちょいちょいあって。たとえば仕事が忙しい合間に急いでコンビニに入って、サラダチキンをバーッと食べているときに、「え、これ何だろう」「別に食べたいと思っていないのに」「食わされている、俺の意思はどこに行ったんだ」と感じることが結構あったんです。 ある種、意思を剥奪する。明るくてどこにでもあって親しみやすいけれど、常に正常であることの異常性のようなもの。それはホラーとの親和性も高いだろうし、やってみようというところから生まれたのが『チルド』ですね。
【染谷将太のキャスティング】虚脱感と、0から100へ振り切れる瞬間

Q. 堺を演じた染谷将太さんのキャスティング背景についてお聞かせください。 岩崎監督 「染谷将太さんが出ている作品を観る」という感覚があるくらい染谷さんのファンで。彼の魅力は虚脱感というか、業界歴が長いこともあって、「やらなきゃ」と肩に力が入っていない。そこがすごくいい。かつ『ヒミズ』などを観ると、0から一瞬で100まで振り切れる感じもあって、今回の役との親和性がめちゃくちゃ高いなと。 「駆け出しのレーベルだし、初監督だし、無理だろうな」と思いながらオファーしたら実現して、「どひゃー」となりつつ、身が引き締まりました。そこで企画が1段階ドライブしていった感覚があったのは、鮮明に覚えていますね。
【堺の役作り】“何もしないこと”を努めて演じる難しさ

Q. 堺のキャラクター造形についてお聞かせください。 岩崎監督 役作りに関して、堺というキャラクターには「とにかく居てください」とお願いしました。観測者であり、得体の知れない存在。未発達でアダルトチルドレン的なところがあって、何も培わないまま年齢だけを重ねてここまで来てしまった人間。 染谷さんは「今回はいるだけ、“何もしないこと”を努めてやりました」とおっしゃっていて。これができるのは、実はすごく難しいんです。自分がやる意味や存在感を無意識に示してしまう人もいるなかで、それを完全に無にできる、キャンセルできるというのは、染谷さんならではだったなと思います。 ところどころ、マッチングアプリで会っている場面などでは「ここは芝居がかってほしい」と具体的に色々言いましたが、基本はほぼ演出せず。最初のがっつりした話し合い一発で堺というキャラクターはでき上がっていたので、もう安心しました。
【オーナー/西村まさ彦】父をモデルにした“システムの化身”

Q. オーナーのキャラクター造形とキャスティング背景についてお聞かせください。 岩崎監督 オーナーは僕の父親がモデルで、基本的にああいう感じなんです。服装や佇まいを含め、バックヤードにいてモニターを見ている——いわば“システムの化身”ですよね。化身であってシステムそのものではないから、ところどころ人間としての不快感やフラストレーションが垣間見える瞬間があって、それが緊張感を生んでいる。完全に無機質ではないんです。 西村さんは『黒い家』などの印象が強くて「やばい人」というイメージもありますが、一見そうは見えないじゃないですか。今は『古畑任三郎』の印象もあって、気さくなおっちゃんというか。最初は「独特なおじさん」くらいで、ホラーの恐るべき存在には見えないようにしています。変ではあるけれど。それがだんだん「あれ?」となっていく方をやりたかったんです。 システムの化身なので、返答は一辺倒でシステマティックなんですが、それがだんだん歪んでいくのを“アハ体験”的に作っていく。その動線の作り方はかなり工夫しました。

あとは肌の質感ですね。無機質なキャラクターなのに、肌にツヤを出したり、少し浅黒い感じにしたり。それを強調することで、「あくまで人間がシステムを代弁しているのであって、システムそのものではない」というニュアンスを出したくて。皮脂の感じにはこだわって、ハイライトを強めに当てたりしています。
【オーナーの「うん」】相づちか許諾か、得体の知れない一音
Q. オーナーの返事(「うん」)の仕方が印象的でしたが、あれはこだわって演出されたものだったのでしょうか? 岩崎監督 あれはもう、めちゃくちゃこだわって、完全に自分のなかにイメージがありました。あの「うん」が、相づちなのか許諾なのか、どっちなんだと。得体の知れない言葉を付けたかった。 実はあれ、1個の「うん」を編集して入れているんですよ。序盤はまだオーナーというキャラクターが完成しておらず、撮影を進めるなかで固まっていったので、序盤はもっと「うん…」という感じだった。でもここだけはこだわりたくて、全部同じ「うん」に差し替えているという裏話があります。あれはこだわりですね。
【唐田えりかのキャスティング】異様な空間で渡り合う、目の力

Q. 小河を演じた唐田えりかさんのキャスティング背景についてお聞かせください。 岩崎監督 唐田さんとは以前に一度お会いしたことがあって、「等身大の人だな」と思っていました。「自分が唐田えりかであること」と「自分の人生」が無関係な感じがすごく好きで。とても自然なので、コンビニで働いているという説得力が生じやすいだろうというのが一つ。 もう一つは、主人公としてあの異様な空間で孤軍奮闘しなければならないので、相当精神的に強くないと無理だなと。目に力があって、オーナーと渡り合える存在でなければダメだと思っていて。『極悪女王』を観て「強いな」と感じたので、唐田さんにお願いしました。
【小河の役作り】苦手なキャラが、演じられて好きになる

Q. 小河のキャラクター造形についてお聞かせください。 岩崎監督 小河は、僕のなかでは感情移入しにくいキャラクターでした。言っていることは正しいんだけど、「そりゃそうありたいけど、みんながみんな、そうはなれないよ」というような。全面的な正義の味方というよりは、「そのタイミングでそれを言う?」と思わせるところがあるキャラクターにしたくて。だから、全面的には好きになれないように狙って書いていたんです。 ただ、ご本人と話したところ、唐田さんと小河には通じるところもあるそうで。だからある種の誠実さがちゃんと芝居に乗っていて。僕は小河を少し苦手なキャラクターとして書いたのに、唐田さんが演じるとやっぱり好きになりました。「頑張れ!」と思わされる。化学変化というか、面白かったですね。唯一、現場のなかで造形が変わっていったキャラクターでした。
【令和ロマン・くるまのキャスティング】親近感から生まれた“室田というバケモノ”

Q. 室田を演じた令和ロマン・くるまさんのキャスティング背景についてお聞かせください。 岩崎監督 室田は僕がめちゃくちゃ好きなキャラクターで、物語上の役割がないぶん、ひたすら邪悪な心を持っていて、むしろ人間臭い。人の不幸が好き、というような、可愛げのあるキャラクターにしたいなと思っていました。 僕自身、くるまさんには、勝手に親近感を持っているところがあって。充実した学生生活から慶應に進学して、自分のテリトリーの中で成果を手にすることができた、なんでもできてしまうある種、器用な人。そこに共感できる部分が僕にもあるので、この作品のムードもなんとなく分かってくれるんじゃないかという直感がありました。 友達の友達だったので、お手紙を書いて。「このキャラクターと近いところがあるんじゃないですかね、分からないけど」と、えいっと送ったら、「出ます、脚本が面白いので」と言ってくれて。案の定、室田という“バケモノ”が出来上がりました。
【室田の歯】人間を無機物に見せる、寄りの一手

Q. 室田をアップで捉えたときの“歯”がとても印象的でした。あれは意識して演出されたものだったのでしょうか? 岩崎監督 あれは意識して演出しました。人間が人間じゃなく、無機物のように見える瞬間ってあるじゃないですか。くるまさんは歯がわりと特徴的で、「ああいう人って、ああいう歯だったりするよな」という。人間なんだけど無機物に見せる、というのを意識した結果があのシーンなんです。 とはいえ、あれはもう天性のもので、歯以外はほとんど演出していないんですよ。汲み取る力がとにかく強くて。ずっと引きで撮っていたのを、いきなり極端な寄りにして。あそこだけ、少し露悪的にやってみました。いいシーンですよね。
【恐怖の設計】ジャンプスケアに頼らない、日常に潜む怖さ

Q. 恐怖表現やホラー映画としての演出でこだわった部分についてお聞かせください。 岩崎監督 僕はジャンプスケアが好きではないんですよね。最大瞬間風速としては効果的だけれど、お化け屋敷も苦手だし、ジャンプスケアの多い映画も怖い。でもそれは生理反応であって、脳髄に来る怖さではないなと思っていて。映画館を出た後からが本番、という映画を作りたいと考えていました。 だからこそ、恐怖を与えるには何が作用するのかとか、日常に潜んでいるもの、実生活のなかでも無関係ではいられない怖さはどこから来るんだろう、ということをかなり考えました。 たとえば、すごく気さくで明るくていい人なのに、ここだけは触れてほしくない、というものがある人っているじゃないですか。それは誰にでもある。その闇のようなものと、僕らは常に隣り合わせで歩いている。ツンと刺したら割れてしまう風船が、ぎちぎちの状態で生きている——そんな緊張感を持って生きましょうよ、という。ホラーと言っていいのか分かりませんが、そこは意識しましたね。
【笑いと恐怖】線引きしない、玉虫色のバランス
Q. つい笑ってしまうシーンもありましたが、コメディとホラー要素のバランスでこだわった部分があればお聞かせください。 岩崎監督 難しいですね。もともとは、もっとガチで怖いものを作ろうと思っていたんです。『VOID』にも笑えるところがあったので、そんなにコメディにするつもりはなかった。 当初はもっとロジックがあって、作中で生者と死者の魂の総量が変換していく、という設定に基づく話だったんです。でも、この話の本質的な価値はやっぱり、コンビニのなかでシステム化された人間の内面や、それに抗おうとする心の揺らぎだよね、となって。コンビニで働く人間のディテールを描いていく方向にシフトしていきました。 その結果、どうしてもコメディライクになって、おもしろくなってしまう。それはそれでリアルだしいいか、と。もともと笑いと恐怖はかなり近いので、明確に線引きしなくてもいいのかなと思って。笑える人は笑えばいいし、怖い人は怖いと思えばいい。その猟奇的なところがむしろ、この映画の魅力かなと。だから僕自身、「ここは笑って」「ここは怖がって」というのはないですね。
【コックのシーン】映画祭でカルト化した、現場のハイ
Q. コメディ要素のシーンでは“コックのシーン”が印象的でしたが、そのシーンにまつわるエピソードがあればお聞かせください。 岩崎監督 意識的にやっている部分もありますが、現場のハイなテンションもありました。撮影が連日続いて、座組のみんながドライブ感に乗って、「おら、やっていくぞ」「いっちゃってください!」という空気で。 政修二郎さんという、いつもご一緒している俳優さんがいるんですが、「もう、やっちゃって!」と言ったら、あのシーンが出来上がりました。僕以外の全員が「え?」となっていました(笑)。でも僕がOKを出して、OKテイクがそれしかなかったし、何か迸るものを感じたので、あのかたちになったという。 あのシーンは各国の映画祭でも「やばい」とカルト化している気がしますし、僕も大好きなんです。なかなか出てこないシーンですよね。実は「NOTHING NEW」と唯一揉めたのもあそこで。「岩崎、本当に入れるんだね、あのシーン」「入れるよ、何言ってるんだ」と(笑)。僕とエディターで「絶対に守るぞ」と言って残しました。
【AnyMartの作り込み】棚を全部入れ替えた、切り返しへの執念

Q. もう一人の主人公とも言えるAnyMartの作り込みについてお聞かせください。 岩崎監督 セットではなく、実在するコンビニを部分的に美術で装飾させていただいて、AnyMartという架空のコンビニを作りました。外観はすべて合成です。作り込めないので。中はほとんど、実際の商品や棚のレイアウトを生かしています。 玄人好みの裏話なんですけど、すごく大変だったのがポップなカットでサラダチキンが映って、切り返すと堺がいる、という場面。あれをやるためだけに、本来は飲料が置かれている棚の中身を全部サラダチキンに入れ替えているんです。堺、サラダチキンの棚、その奥に飲料、という並びを成立させるために、とても大変な作業が発生しました(笑)。 ラストにかけてもそこが切り返しになっているのが大事なので、「マジすか」となりながらも、全員「やるぞ!」と言ってやり切ってくれました。
【朝礼のシーン】実家のコンビニで“本当にやっていた”こと
Q. 朝礼のシーンは、ご実家のコンビニを反映されているのでしょうか? 岩崎監督 もちろん文言は変えていますし、数も実際とは違うのですが、モデルとなるものはあって、それをモチーフにして作りました。実家のコンビニでは本当にやっているんですよ、毎日というか、シフトが変わるごとに。「マジでこれをやっているんだ」と衝撃を受けたので、作品に入れ込んでみました。
【現場で生まれたシーン】小河が殴る「必然性」を補強した一言
Q. 本作で、アドリブや現場で生まれたアイデアが生かされたシーンがあればお聞かせください。 岩崎監督 ほとんどないんですけど、パッと浮かんだのは万引きを捕まえるシーンですね。小河が万引き犯のところへ行って一悶着あり、最終的に小河が万引き犯に暴力を振るってしまう場面があるんですが、脚本上では取っ組み合いになっていたんです。ただ、現場で「殴るに至る理由がないな」「なんで小河は殴ったんだろう」となって。 その必然性を補強する意味で、万引き犯が暴言を口にする、それに対してパーンと、という流れが現場で生まれました。結構気に入っています。 本当に1週間で撮ったので、すべてを決めておかないと撮り切れないんです。「どうしようこれ」と言った瞬間に終わってしまうスケジュールだったので、ほとんど想定外のことは起きなくて。スタッフが完璧に準備してくれたし、俳優部の芝居も完璧だったので、あとは頭のなかにあったものがそのままカメラの前で起きている、という感じでしたね。
【向かいの店の設定】キッシュとルーロー飯が象徴するもの

Q. コンビニの向かいのお店がキッシュ屋やルーロー飯屋でしたが、こだわりはあったのでしょうか? 岩崎監督 「キッシュっていつ食べるんだろう」と思っていて。おやつでもないしご飯でもない、微妙なラインだなと。「キッシュ屋さんを作るって、相当個人的な思い入れがないとやらないよな」と思ったんです。 AnyMartは意思が一切介在しないものの象徴なので、その対立項として、“意思の結果生まれたもの”を象徴として出したかった。キッシュの絶妙さ——新婚旅行で行ったヨーロッパで食べて美味しかったんですけど——その絶妙さが象徴としていいなと。 ルーロー飯屋も、流行っているものとして選びました。キッシュに対して、肉が乗っているのが生々しくていいなというので選びましたね。
【今後の挑戦】“真っ向からのホラー”を作りたい

Q. 監督が今後挑戦していきたいことについてお聞かせください。 岩崎監督 僕がホラーを作っている理由は、自分が絶望したいからなんです。実生活で負の感情に苛まれることがなくて、人間としてそこにすごく違和感がある。だから、自分自身がずっしり食らえるようなものを作りたい。 どうしてもコメディライクになってしまうので、正真正銘、身の毛もよだつような本当に怖いホラーを作ることに挑戦したい。今考えている企画も、そういうものですね。 あとは、これまでは恐るべき対象が出てこなくて、設備やシステムそのものが怖い、という作りでしたが、次はもう少し前に出したい。幽霊のような“恐るべきもの”を出して、ちゃんと真っ向からホラー映画を作りたいという気持ちが強いです。
▼取材・文:増田慎吾