2026年3月2日更新

『災 劇場版』関監督×平瀬監督に聞く生涯ベスト映画―監督集団「5月」創作の原点に迫る

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2026年2月20日より絶賛公開中の『災 劇場版』。 本作の公開を記念して、監督集団「5月」の関友太郎監督、平瀬謙太朗監督にインタビューを実施。おふたりそれぞれに、生涯ベスト映画を2本ずつ選出いただきました。 「5月」の作品づくりの原点や、『災 劇場版』にも通じるテーマを内包した作品とは何か――。選出作に込めた思いとともに、その魅力をたっぷりと語っていただいています。 さらに、映画をテーマに、鑑賞者としての向き合い方や、監督として幸せを感じる瞬間についても深掘り。おふたりの映画観に迫る、貴重なインタビューをお届けします。 ※インタビュー取材の模様を収めた動画コンテンツを、YouTubeのciatr/1Screenチャンネルにて公開中。

『災 劇場版』作品概要・あらすじ

斬新な映像表現が国内外で注目を集める監督集団「5月」の関友太郎と平瀬謙太朗が監督、脚本、編集を務める。長編デビュー作『宮松と山下』に続き、歴史あるサン・セバスティアン映画祭で2作連続かつコンペティション部門での正式招待という快挙を成し遂げた。 前作からの再タッグとなる香川照之が主演を務め、中村アンをはじめとする主役級のキャストが脇を固める。

『災 劇場版』あらすじ

『災 劇場版』
©WOWOW

家族や進路に悩む女子高生、ある過去を抱えた運送業の男、冴えないショッピングモールの清掃員と理容師、負債を抱えた旅館の支配人、平凡な主婦。ある日、彼らのささやかな日常が、なんの前触れもなく不可解な〝災い〟に襲われる。 警察にはすべて自殺や事故として処理されるが、何かがおかしい。刑事の堂本だけが妙な気配を感じ取り、災いの真相に迫っていく。一方でその災いの周辺には、いつもある「男」が紛れ込んでいたー。

『災 劇場版』制作秘話はこちら

監督集団「5月」関友太郎監督×平瀬謙太朗監督プロフィール

関友太郎監督のプロフィール

関友太郎監督 『災 劇場版』
©WOWOW
生年月日 1987年生まれ
出身地 神奈川県
出身校 東京藝術大学大学院映像研究科 佐藤雅彦研究室 修了

平瀬謙太朗監督のプロフィール

平瀬謙太朗監督
©WOWOW
生年月日 1986年生まれ
出身地 アメリカ サンフランシスコ
出身校 東京藝術大学大学院映像研究科 佐藤雅彦研究室 修了

Q. 監督集団「5月」の成り立ちとコンセプトをお聞かせください。 平瀬監督 もともとは、私と関が東京藝術大学大学院・映像研究科に在籍し、佐藤雅彦教授の研究室で学んでいたことが出発点です。 佐藤雅彦研究室では、教授も含めた形で映画制作を行っており、当初は監督が5人いました。そのメンバーで共同監督として映画を作り始めたのが、「5月」の始まりです。 卒業後もその活動は途切れることなく続き、形を変えながら現在の「5月」に至っています。 ひとりの作家性を前面に出すというよりも、複数の視点や発想を持ち寄りながら作品を立ち上げていくこと。それが、僕たちの原点であり、コンセプトでもあると思っています。

関友太郎監督が選ぶ生涯ベスト映画

「災」劇場版 関友太郎監督
©WOWOW

①『エレファント』(2003年)

映画 エレファント
© 2021 Home Box Office, Inc. All rights reserved. HBO® and all related programs are the property of Home Box Office, Inc.

関監督 「生涯ベスト」と言っても、そのときどきで「今はこれが一番好き」と変わっていくので、という前提付きにはなるのですが……。 その中でも挙げるとすれば、ガス・ヴァン・サント監督の『エレファント』です。 まず、企画性の強さに衝撃を受けました。「こんな物語の見せ方は観たことがない」と思ったんです。時系列の扱い方や視点の切り替え方など、単純にストーリーを追うだけではない構造があって、当時は本当に驚きました。 映像の構造やストーリーテリング、時間の操り方。そうした“見せ方”そのものが斬新で、自分はそこに強く惹かれるタイプなんだと気づかされた作品でもあります。 さらに、この映画の映像全体に漂う温度の低さや緊張感など、自分の好きな要素がすべて詰まっている。今でも折に触れて見返しています。 振り返ると、「5月」の映画づくりでやっていることにも通じています。物語ありきというより、まず構造や企画から出発するという姿勢。その感覚は、『エレファント』に出会ったことと無関係ではないと思います。 まだあの作品には到底及びませんが、「こんな物語の見せ方があったんだ」という驚きと喜びを鑑賞者に与えるような映画を作りたいと常々思っています。。そういった意味でも、今ベストを挙げるなら、『エレファント』ですね。

作品概要

2003年公開、ガス・ヴァン・サント監督によるアメリカ映画。1999年のコロンバイン高校銃乱射事件に着想を得て制作され、高校で起こる悲劇へと向かう一日を、生徒たちの視点から静かに描く。 説明を抑えた淡々とした語り口や長回しの移動撮影が特徴で、観客に解釈を委ねる作風が印象的。第56回カンヌ国際映画祭でパルム・ドールと監督賞を受賞した。

②『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(2007年)

『エレファント』は、どちらかというと“作り手として”一番好きな作品なんですが、逆に純粋な観客として「一番面白いと思った映画は何か」と考えると、ポール・トーマス・アンダーソン監督の『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』になります。 自分が一生かけても絶対に到達できないスケール感で描かれていますし、あまりにも完成度が高すぎて、作り手としては畏怖の念を抱かざるを得ない。圧倒的に面白い作品です。 あれだけ大きな物語でありながら、細かなところまでほころびがまったくない。衣装・美術・セリフ・サウンドデザイン、細部に至るまで徹底的に作り込まれていて、見るたびにいつも途方に暮れるような感覚になります。 人間の奥深い部分を描きながら、映像の構築も極めて高いレベルで成立しているので、何度見ても消費されない魅力を持っているんですよね。ストーリーを知っていても、この作品が持つ世界観に何度でも浸りたくなるんです。 映像美と人間描写、その両方をあれほどのスケールでやり切っている作品には、なかなか出会えない。自分にとっては、もうひとつの“生涯ベスト”と言える作品ですね。

作品概要

2007年公開、ポール・トーマス・アンダーソン監督によるアメリカ映画。アップトン・シンクレアの小説『石油!』に着想を得て、20世紀初頭のカリフォルニアを舞台に、石油採掘で成功を目指す実業家ダニエル・プレインビューの半生を描く。 資本主義の欲望や信仰との対立を重厚に描写し、緊張感ある演出と力強い映像美が特徴。主演ダニエル・デイ=ルイスは第80回アカデミー賞主演男優賞を受賞し、作品は撮影賞も受賞するなど高い評価を得た。

平瀬謙太朗監督が選ぶ生涯ベスト映画

災 劇場版 平瀬謙太朗監督
©WOWOW

①『シャイニング』(1980年)

シャイニング
© Warner Bros. Inc.

平瀬監督 同じくものすごく悩むんですが、「この瞬間の一番は?」と聞かれたら、『シャイニング』ですね。 キューブリック監督の代表作ですが、キューブリックはジャンルごとに決定的な1本を作っていくような作家だと感じています。歴史劇なら『バリー・リンドン』、SFなら『2001年宇宙の旅』というように。 その中で、恐怖映画というジャンルにおいて『シャイニング』がやっていることは、従来の枠組みの外にある怖さを提示しているように思います。「こんな恐ろしさの作り方があるんだ」と、観る側に突きつけてくる作品でした。 それは僕たちが作り手だからこそ強く感じる部分もあると思いますが、「怖さはこうやって作れる」ということを多く学ばせてもらいました。 正直、『シャイニング』でやられてしまったことを、そのままもう一度やることはできないと思っています。でも同時に、「まだその外側があるはずだ」と問いかけてくれる作品でもあります。

『災 劇場版』
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Q. 『災 劇場版』の制作にあたって、『シャイニング』を意識された点や影響を受けた部分はありましたか? 平瀬監督 具体的に「『シャイニング』のこの演出をやろう」といった参照の仕方をしたわけではありません。 ただ、“志”という意味では、非常に大きな影響を受けていると思います。関ともよく話していたのですが、『災』では「今までにない恐怖」「新しい怖さ」を作ろう、という目標を掲げていました。 それはある意味で、キューブリックが当時『シャイニング』で成し遂げた挑戦に通じるものがあると思っています。既存の恐怖表現の枠組みの中で完成度を高めるのではなく、恐怖の質そのものを拡張しようとする姿勢です。 もちろん、同じ地点に立てているとは思っていませんし、非常に大きな目標ではありますが、そうした“志”という意味では強く影響を受けています。 『シャイニング』が提示した問い――「怖さはまだ更新できるのではないか」という感覚は、今回の企画を立ち上げるうえで、背中を押してくれた存在でした。

作品概要

1980年公開、スタンリー・キューブリック監督によるイギリス・アメリカ合作映画。スティーヴン・キングの1977年発表の同名小説を原作に、雪に閉ざされたホテルに滞在する一家が次第に狂気へと追い込まれていく過程を描く。 主演はジャック・ニコルソン。対称的な構図や長い廊下を生かした移動撮影、不穏な音響設計など緻密な演出が特徴で、心理的恐怖を強調する作風で知られる。公開当初は評価が分かれたが、現在ではホラー映画の古典的名作と位置づけられている。

②『メッセージ』(2017年)

『メッセージ』
© 2016 PARAMOUNT PICTURES. ALL RIGHTS RESERVED.

僕はSFがかなり好きなんですが、現代の作家で特に好きなのはふたりいて、ひとりは厳密にはSF作家ではないですがクリストファー・ノーラン。もうひとりがドゥニ・ヴィルヌーヴです。 ヴィルヌーヴ作品の中でSFといえば『メッセージ』がありますよ。あの映画は、時間の扱い方によって物語を語っていく。頭から順番に出来事を並べるのではなく、見せ方そのものを工夫することで面白さを生み出している。 その姿勢に、僕は強く憧れています。ノーランもヴィルヌーヴも、物語の構造そのものを設計していく監督だと思っていて、その点に惹かれます。 それは「災」にも、少なからず影響していると思います。直接的に真似をしているわけではありませんが、物語の“見せ方”から出発する姿勢は、確実に受け継いでいる感覚があります。

作品概要

2016年公開、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督によるアメリカ映画。テッド・チャンの短編小説『あなたの人生の物語』を原作に、突如地球に現れた謎の飛行体と人類との接触を描く。 言語学者ルイーズ(エイミー・アダムス)を中心に、異星生命体との対話を通じて「言葉」と時間認識の関係を静かに掘り下げる。抑制された演出と静謐な映像、美しい音楽が特徴で、思索的なSFとして高い評価を受けた。第89回アカデミー賞で音響編集賞を受賞している。

【映画の原体験】

『もののけ姫』

Q. おふたりの映画の原体験についてお聞かせください。

関友太郎監督の映画の原体験

関監督 幼少期は、いわゆるテレビアニメの劇場版を親に連れて行ってもらうような、ごく普通の映画体験から始まりました。ジブリ作品を観て、「映画ってこんなに面白いんだ」と感じたのが最初の入口だったと思います。

ただ、本当に強く心をつかまれたのは、大学生のときに観た西川美和監督の『ゆれる』でした。 それまでは“観るもの”だった映画が、そのとき初めて「自分も作りたい」と思える存在になったんです。 確か、発売日にDVDを買って何度も見返しました。そして、自主映画で真似して撮ってみる、ということを始めた。自分にとっての原点は、あの作品との出会いだったと思います。

Q. 『ゆれる』はどういったところに惹かれたのでしょうか? 関監督 もちろんストーリーそのものが非常に面白かったというのがありますが、特に吊り橋の上で起きた出来事について、その解釈がひとつではないという構造が印象的でした。 当時学生だった自分にとって、解釈が1つではなく「どっちなんだろう?」と揺さぶられる体験はとても新鮮だったんです。物語に没入しながらも、ひとつの答えに回収されない。両方の可能性が提示されるカットがあることで、観る側が考え続けるしかない。その感覚に強く惹かれました。 画の力強さやシチュエーションの緊張感も素晴らしかったですし、オダギリジョーさんと香川照之さんの掛け合いも圧倒的でした。 「一度観ただけでは落ち着かない」と感じたのは、あの作品が初めてだったと思います。何度も観返したくなる、そして自分でも映画を作ってみたいと思わせる、強烈な引力を持つ映画でした。

平瀬謙太朗監督の映画の原体験

『もののけ姫』

平瀬監督 僕も小さい頃の映画体験は関と似ていて、アニメーション作品が多かったですね。 映画館で観た体験として強烈に覚えているのは、『もののけ姫』です。劇場で観たときに、「すごいな」と圧倒されたのを今でも覚えています。テレビで観ていたアニメとはまったく違って、「これは映画なんだ」と強く感じた瞬間でした。 中学生のときに劇場で観たのですが、身体に“ビリビリ”とくるような衝撃があって。 あの体験は、今でもはっきりと残っています。

【鑑賞者としての映画との関わり】

災 劇場版 関友太郎監督 平瀬謙太朗監督
©ciatr

Q. おふたりの映画を観る頻度と、作品を選ぶ基準についてお聞かせください。 関監督 観る頻度はかなりバラバラですね。制作が立て込んでくると、どうしても映画を観る余裕がなくなってしまいます。 その代わり、手元にあるストックの中から好きな作品を見返すことは多いです。特に制作中は、参考資料として観ることもありますし、作るために観る、という感覚に近いかもしれません。 ひとつの作品が終わって少し時間が空くと、逆に映画館に集中的に足を運ぶこともあります。なので、一定のペースというよりは、制作状況に左右される観方ですね。 作品選びに関しては、やはり作家性の強い映画や、映画祭に出品されていそうな雰囲気の作品に惹かれることが多いと思います。自然と、そういった作品に手が伸びやすいタイプかもしれません。

平瀬監督 配信も含めると、週に1〜2本は観ていると思います。新作だけでなく、古い作品を観ることもありますし、好きな映画を見返すことも多いですね。 自分の中では、お風呂に入っている時間が“映画を観ていい時間”になっていて。湯船に浸かりながら何かしら一本流している、というのが習慣になっています。すでに観たことのある作品であれば、何日かに分けて少しずつ観ることもあります。 映画館にも、比較的よく足を運んでいるほうだと思います。気になる作品があれば、公開中に必ず観に行く、というのは欠かさず続けていますね。

最近鑑賞して印象的だった作品

Q. 最近鑑賞されて印象に残っている作品はありましたか? 関監督 『見はらし世代』は、とても面白かったですね。 ああいう作品のように、“新しい世界に浸れる”感覚がある映画には特に惹かれます。「こういうタイプの映画は観たことがないな」と思えるものですね。予告編でその空気を感じた作品は、映画館で見るようにしています。 『見はらし世代』はまさにそうで、「これは新しいな」と感じながら観ていました。自分の中にない視点や感覚を提示してくれる作品は、やはり印象に強く残ります。

平瀬監督 最近というわけではないのですが、去年でいえば『ワン・バトル・アフター・アナザー』が一番衝撃的でした。純粋にものすごく面白かったですし、「こんな面白さの作り方があるんだ」と驚かされました。

ワン・バトル・アフター・アナザー、キャスト
© 2025 WARNER BROS. ENT. ALL RIGHTS RESERVED.

特別に突飛なことをやっているわけではないのに、体感としては“毎秒、毎秒、面白い”という感覚が続いていく。あの作品にはかなり圧倒されましたね。

【映画監督として幸せを感じる瞬間】

災 劇場版 平瀬謙太朗監督 関友太郎監督
©ciatr

Q. 映画監督として一番幸せを感じる瞬間をお聞かせください。 関監督 僕はかなりはっきりしていて、編集中ですね。 これまで「5月」の作品はすべて自分たちで編集してきました。編集は、全体の作業工程で言えば後半部分にあたりますが、まだ作品の可能性を広げられる絶好のタイミングだと思っています。つなぎ方を変えることで、どんどん良くなっていく。その感覚がとても好きなんです。

撮影現場は、どうしても時間的な制約がありますし、「これは危ないからできない」といった制限も多い。いろいろなブレーキがかかる環境です。

『災 劇場版』
©WOWOW

でも、編集は意外と一番自由なんです。自分の意のままに作品を操れるというか。香川さんのさまざまな表情やタイミングを、こちらで組み替えたり、活かし方を探ったり。それを自分の部屋で、好きなだけ試せる。 そうやってひとつの世界を組み立てていく。その時間が一番幸せです。

『災 劇場版』
©WOWOW

「5月」は編集にすごく時間がかかると言われますが、それは単純に好きだからなんです。もし締め切りがないなら、一生やっていたいと思うくらいです。「このパターンもいいけど、別の形も試したい」と、いくらでも考えてしまうんですよね。 現場で多くのスタッフが膨大な時間とエネルギーが注いで撮影された素材とその成果物を監督であり編集者として最後に触らせてもらえる。その時間はやはり特別だと感じています。

災 劇場版 平瀬謙太朗監督 関友太郎監督
©ciatr

平瀬監督 僕も編集の喜びはよく分かります。今、関が言ったことには「100%うんうん」と頷けます。 でも、自分が一番高揚する瞬間は少し違っていて、やはり企画が立ち上がっていくとき。最初のショートプロットが形になっていく段階ですね。 「こんなこともできる」「あんな展開もあり得る」「コンセプトはこうだ」と、可能性が一気に広がる瞬間がある。そこが一番楽しい。自分の中では、そのタイミングでいったん最高潮を迎えて、あとは「さあ、作るか……」という気持ちになります。 編集ももちろん楽しいんですが、僕にとってのピークは、あの“立ち上がり”の瞬間です。毎回、「やっていてよかったな」と思えるのは、あの時間かもしれません。

▼取材・文:増田慎吾