2026年9月10日更新

中野量太監督生涯ベスト映画3選―『私はあなたを知らない、』公開記念

このページにはプロモーションが含まれています

映画『私はあなたを知らない、』作品概要・あらすじ

公開2026年8月28日(金) 全国公開
上映時間126分
原案・脚本・監督中野量太
音楽世武裕子
撮影岩永洋
出演西山夕平役/坂口健太郎 , 東浜朝子役/早瀬憩, 東浜紗月役/堀田真由, 東浜朝子(幼少期)役/倉田瑛茉 , 町村善一役/滝藤賢一 , 東浜道代役/原田美枝子
製作日仏共同製作(共同製作:Pyramide Productions)
配給クロックワークス
公式サイト公式サイトはこちら

西山夕平(28)は、天涯孤独の身。黙々と働き、自分で決めたルーティンを繰り返しながら、ひとりであることに寂しさすら感じず生きてきました。そんな彼の日常が変わり始めるのは、職場に新しくやってきたパート職員・紗月と出会ってからです。 彼女との出会いによって、生きる喜びを知っていく夕平。少しずつ彩りを帯びていく日々のなか、ある日、紗月から5歳の娘・朝子を紹介されます。実は紗月はシングルマザーでした。紗月と朝子と過ごす時間を通して、これまで知らなかった“家族”という幸せの形に触れ、夕平は少しずつ心を開いていきます。しかし——。 愛とは何か。憎しみとは何か。そして、人を赦すとはどういうことなのか。『湯を沸かすほどの熱い愛』(2016年)や『長いお別れ』(2019年)などで一貫して家族を描いてきた中野量太監督が、10年ぶりとなる完全オリジナル脚本で挑んだ、日仏共同製作のヒューマンサスペンスです。

中野量太監督 プロフィール

中野量太監督
(c)IDKYPs./Pyramide Productions
名前中野量太(なかの りょうた)
生年月日1973年7月27日
出身京都府
経歴大学卒業後に日本映画学校(現・日本映画大学)へ入学し2000年に卒業。助監督やテレビディレクターを経て映画監督に
長編デビュー『チチを撮りに』(2012年 , 自主製作)
商業デビュー『湯を沸かすほどの熱い愛』(2016年)
監督作『チチを撮りに』(2012年) , 『湯を沸かすほどの熱い愛』(2016年) , 『長いお別れ』(2019年) , 『浅田家!』(2020年) , 『兄を持ち運べるサイズに』(2025年) , 『私はあなたを知らない、』(2026年)
主な受賞『チチを撮りに』でSKIPシティ国際Dシネマ映画祭2012 監督賞 , 『湯を沸かすほどの熱い愛』で第41回報知映画賞 新人賞・新藤兼人賞 金賞 , 『浅田家!』で第63回ブルーリボン賞 監督賞
本作での担当原案 , 脚本 , 監督

1973年7月27日生まれ、京都育ち。大学時代にはスカバンドでアルトサックスを担当していたという異色の経歴を持ちます。大学卒業後、日本映画学校(現・日本映画大学)へ進学し、2000年に卒業。卒業制作『バンザイ人生まっ赤っ赤。』は、TAMA NEW WAVEでグランプリを獲得しました。 卒業後は助監督やテレビディレクターとして経験を積む一方、短編『ロケットパンチを君に!』(2006年)など、自主映画の制作を続けます。大きな転機となったのが、自主製作による長編『チチを撮りに』(2013年)。SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2012で日本人初となる監督賞を受賞したほか、ベルリン国際映画祭ジェネレーション部門にも招待されるなど、国内外で14の賞を獲得。劇場公開へとつながりました。 商業映画デビュー作『湯を沸かすほどの熱い愛』(2016年)は、自身が脚本を手がけた完全オリジナル作品。第40回日本アカデミー賞では、宮沢りえが最優秀主演女優賞、杉咲花が最優秀助演女優賞を受賞し、中野自身も優秀監督賞・優秀脚本賞に選出されました。さらに、第41回報知映画賞新人賞、新藤兼人賞金賞も受賞しています。 以降は『長いお別れ』(2019年)、『浅田家!』(2020年)、『兄を持ち運べるサイズに』(2025年)と原作作品を手がけ、さまざまな角度から「家族」というテーマを描き続けてきた映画監督として知られています。『浅田家!』では、第63回ブルーリボン賞監督賞も受賞しました。 そんな中野監督が、約10年ぶりに完全オリジナル脚本へと立ち返った作品が『私はあなたを知らない、』です。

中野量太監督が選ぶ生涯ベスト映画3選——作家として影響を受けた3本

中野  生涯ベスト3って、みんな言うと思うんですけど、やっぱりなかなか選ぶのが難しくて。なので今回は、もちろんベスト3ではあるんですけど、「作家として影響を受けた3本は何だろう」と考えて選びました。

【生涯ベスト①『E.T.』】映画の面白さを教えてくれた“原体験の1本”

E.T.

中野 本当に、原体験としての1本です。映画ってこんなに面白いんだ、映画館を出るときに、別世界のものを観て「なんて面白かったんだろう」と思える。そういう体験を初めて強くしたのが、僕にとっては『E.T.』でした。 大人になってから、ミラノ座が閉館するときに最後に上映されたのが『E.T.』で。それだけは観に行こうと思って、ミラノ座まで足を運びました。そしたら、もう泣けて泣けて。 改めて観てもやっぱり面白いし、本当によくできている。少年の頃から自分の中にずっと残っている気持ちまで揺さぶられて、「やっぱり、なんていい映画なんだろう」と思いました。 僕にとって『E.T.』は、ずっと大切な1本ですね。

『E.T.』作品概要

スティーヴン・スピルバーグ監督による、1982年公開のアメリカ映画。地球に取り残された異星人E.T.と、彼を偶然見つけた少年エリオットの交流を描くSFファンタジーです。エリオットは家族にもE.T.の存在を隠しながら、少しずつ絆を深めていきますが、やがてその存在を追う政府機関の手が迫ってきます。 第55回アカデミー賞では、作曲賞、視覚効果賞、音響賞、音響効果編集賞の4部門を受賞。子どもの目線で描かれる冒険や友情、そして別れの切なさが世代を超えて愛され続ける、映画史に残る不朽の名作です。

【生涯ベスト②『家族ゲーム』】「映画は現実のリアルを追うだけじゃない」と教えてくれた1本

中野  僕が本格的に映画を観始めたのは、大学3年生くらいの頃でした。当時は映画作りについて何も知らなかったので、とにかくたくさん観ようと思って、いろいろな作品に触れていたんです。その中で衝撃を受けたのが、森田芳光監督の『家族ゲーム』でした。 最初、家庭教師が海から船に乗ってやってくるんですよ。現実的に考えれば全然リアルじゃない。でも映画の中では、ものすごくリアルに感じる。有名な食卓のシーンも、家族が横一列に並んで食事をするなんて、実際の生活では不自然ですよね。でも映画の中では、それがすごく“家族”というものを表していて、リアルに見えるんです。 そのときに、「映画って、ただ現実のリアルを追いかけるものじゃないんだな」と思いました。映画の中でひとつのリアルを作り上げて、それを観客に本物だと思わせる。そのためにはもちろん、一つひとつリアリティを積み重ねていく必要があるんですけど、そうやって作られた世界を本当にリアルだと感じられたとき、映画はすごく面白くなるんだなと。 それを教えてくれたのが『家族ゲーム』でした。僕にとって、とても大切な1本です。

『家族ゲーム』作品概要

森田芳光が監督・脚本を手がけた、1983年公開の日本映画。本間洋平の同名小説を原作に、受験を控えた次男・茂之(宮川一朗太)のもとへやって来た風変わりな家庭教師・吉本勝(松田優作)が、平凡な中流家庭を揺さぶっていく姿を描きます。父・孝助を伊丹十三、母・千賀子を由紀さおりが演じました。 家族が横一列に並ぶ有名な食卓のシーンをはじめ、常識にとらわれない構図や演出、乾いたユーモアによって、家族の空虚さや歪みを鮮烈に浮かび上がらせた本作。第57回キネマ旬報ベスト・テンでは日本映画第1位に選出され、第7回日本アカデミー賞でも優秀作品賞、優秀監督賞、優秀脚本賞など7部門の優秀賞を受賞。宮川一朗太は新人俳優賞に輝きました。既存のホームドラマの枠を大胆に打ち破った、日本映画史に残る傑作です。

【生涯ベスト③『ギルバート・グレイプ』】「自分もこんな映画を撮りたい」と思わせてくれた1本

『ギルバート・グレイプ』 、ジョニー・デップ、レオナルド・ディカプリオ
© 1993 DORSET SQUARE FILM PRODUCTION AND DISTRIBUTION KFT TM & Copyright © MCMXCIII by PARAMOUNT PICTURES CORPORATION All Rights Reserved

中野  もう少し映画について学び始めて、「自分は何をやりたいんだろう」と考えたときに、家族ものにこだわって映画を作っていこうと思うようになったんです。その頃に観たのが、ラッセ・ハルストレム監督の『ギルバート・グレイプ』でした。 家族の面倒くささや、家族というものの呪縛、それでもやっぱり家族の愛おしさも描かれている。「家族って何だろう」ということが全部詰まっていて、僕が映画でやりたいと思っていたことが、そこに全部描かれていたんですよね。 最後に、母親が亡くなってしまって、その姿を人に見られることを避けるために家ごと焼くシーンがあるんです。あれは本当に驚愕しましたし、美しいと言うと少し違うかもしれないけれど、とにかくものすごいシーンで。「映画って、こんな表現ができるんだな」と思いました。 映画を作り始めた自分に、「こんな映画を撮りたい」と思わせてくれた。僕にとって『ギルバート・グレイプ』は、そんな大切な1本ですね。

『ギルバート・グレイプ』作品概要

ラッセ・ハルストレム監督による、1993年公開のアメリカ映画。アイオワ州の小さな町を舞台に、過食症の母と知的障がいのある弟を支えながら暮らす青年ギルバート(ジョニー・デップ)の日々を描きます。弟アーニーを演じたレオナルド・ディカプリオは、本作で第66回アカデミー賞助演男優賞にノミネートされました。 家族への責任や閉塞感を抱えながら生きる青年の葛藤と、その日常に差し込むささやかな希望を、静かなユーモアと温かさを交えて描いた一作。原作はピーター・ヘッジズによる同名小説で、脚本もヘッジズ自身が手がけています。家族の重さと愛おしさを同時に描いた、心に残る名作です。

【映画の原体験】「映画館を出るときに“面白かった”と思えること」が原点

グーニーズ
(C)Warner Bros. Entertainment Inc.

Q. 中野監督と映画の原体験についてお聞かせください。 中野  僕は実は、全然映画少年でもなんでもなかったんです。映画の原体験といえば、小学生の頃がちょうどスピルバーグたちが大活躍していた時代で、『E.T.』や『グーニーズ』、『インディ・ジョーンズ』『スター・ウォーズ』『ロッキー』なんかを観ていました。 とはいっても、年に2、3本観るくらいで、本当にその程度だったんです。でも、あの頃に映画館へ行って、「面白かった!」と大満足して帰る。その体験が、僕にとっての映画の原点ですね。 映画館を出るときに「面白かった」と思えること。それが今でも、僕の中にある“映画”のイメージとして、ずっと残っているんだと思います。

【映画を志したきっかけ】「表現の最高峰は映画なんじゃないか」と考えた

Q. 映画にグッとのめり込んだきっかけがあればお聞かせください。 中野  実は、そこから一気に映画にのめり込んだわけではないんです。本当に一般の人と同じくらいで、年に3、4本、有名な映画を観る程度でした。 ただ、大学を卒業するときに「自分は何をしたいんだろう」と考えたんですね。大学時代はずっとバンド活動をしていて、何かを表現して人を喜ばせることが、やっぱり楽しかった。これを仕事にできたらいいなと思っていました。 それで、「表現の最高峰って何だろう」と考えたときに、音楽もあって、映像もある。「もしかしたら映画なんじゃないか」と思ったんです。そこから、ようやく映画をちゃんと観始めました。 だから僕にとって映画は、最初から特別に身近なものだったわけではなくて、表現する仕事を考えた先で出会ったものなんですよね。

【映画を観る頻度】制作中はあえてインプットを控える

急に具合が悪くなる
© 2026 Cinéfrance Studios – Arte France Cinéma – Office Shirous – Bitters End – Heimatfilm – Tarantula – Gapbusters – Same Player – Soudain JPN Partners

Q. 映画を観る頻度と、作品を選ぶ基準についてお聞かせください。 中野  話題作だったり、「面白い」と言われている作品は、なるべく映画館で観るようにしています。 ただ、自分が映画を作っているときは、実はあまりインプットしないんです。変に影響されそうな気がして。自分のアウトプットに必死になっているときに、余計なものを入れたくないという気持ちがあるのかもしれません。 ここ最近はずっと映画を撮っていて、実は3日くらい前まで撮影していたので、最近の作品はほとんど観られていなくて。濱口竜介さんの『急に具合が悪くなる』くらいしか観ていないです。 逆に、本当に時間があるときや、自分の物語をゼロから作り出すときは、やっぱりインプットしたくなるんですよね。そういう時期は比較的よく観ます。とはいっても、映画館に行くのは週に1本くらいですね。

【映画館のこだわり】満席よりも「6〜7割くらい埋まっている」のが好き

Q. 座席の選び方や、鑑賞前後で行うことがあればお聞かせください。 中野  申し訳ないんですけど、少し空いてから観に行こう、というのはありますね。本当に初日に観たい作品だったら、初日の朝一で行くこともあります。 僕は、映画館が6〜7割くらい埋まっている状態が好きなんです。満席でぎゅうぎゅうの映画館は、作り手としてはもちろん最高に嬉しいんですけど、観る側としては少し混みすぎているなとも思ってしまって。かといって、ガラガラの映画館もあまり好きじゃないんですよね。 作り手としては本当は100%満席にしたいんですけど、自分が観るときは、6〜7割くらい埋まった映画館で、少し端のほうの席に座って観るのが好きですね。

【映画監督として幸せを感じる瞬間】「3つの段階で、それぞれ幸せがある」

私はあなたを知らない、
(c)IDKYPs./Pyramide Productions

Q. 映画監督として一番幸せを感じる瞬間についてお聞かせください。 中野  幸せを感じる瞬間って、いろいろな段階であるんですよね。 まず一番最初は、脚本を書き上げたときです。僕は基本的に自分で脚本を書くので、特にオリジナル作品をゼロから作り上げて、最後まで書き切ったときは、もうたまらない興奮と幸せがあります。 それから、作っている過程では、やっぱり仲間ですね。スタッフたちと一緒になって映画を作っているんだと実感できたときも、すごく幸せです。 あとはやっぱり、完成した作品を観てもらって「面白かった」と言ってもらえたとき。そこはもう、めちゃめちゃ幸せですね。3つも言っちゃいましたけど(笑)。

▼取材・文:増田慎吾