映画『海よりもまだ深く』あらすじ・キャスト【是枝監督最新作】
是枝監督最新映画『海よりもまだ深く』
『海街diary』の是枝裕和監督最新作『海よりもまだ深く』が2016年5月21日に公開されることが決定しました。阿部寛が主演し、樹木希林、真木よう子、リリー・フランキー、池松壮亮と演技派キャストが脇をかためる期待作をご紹介させていただきます。
『海よりもまだ深く』あらすじ
団地で一人暮らしをしている淑子(樹木希林)の長男良多(阿部寛)は15年前に新人賞を一度取っただけの売れない作家。生活のために探偵事務所で「小説の取材」と称して働いています。かつては結婚していましたが、妻(真木よう子)に愛想をつかされ離婚。息子の養育費も払えないという状況です。
そんな元家族が淑子の家にたまたま集まりますが、台風のせいで翌朝まで帰れなくなり……。
『海よりもまだ深く』キャスト
良多/阿部寛
これまで映画『歩いても 歩いても』、『奇跡』、ドラマ『ゴーイング マイ ホーム』と是枝監督作品に3度出演している阿部寛が主人公良多を演じます。『歩いても 歩いても』で演じた主人公は横山良多で、ストーリーは15年前に亡くなった兄の命日に家族を連れて実家に帰省するというものでした。
今回の『海よりもまだ深く』とは「良多」「15年前」「家族と実家」といったことが共通しています。もしかしたらテーマなどのつながりがあるのかもしれません。
阿部寛は2015年にはドラマ『下町ロケット』に主演、高視聴率を記録しました。2016年には本作のほかに3月12日公開の映画『エヴェレスト 神々の山嶺』に出演することが決定しています。
淑子/樹木希林
『海街diary』で印象に残る4姉妹の大叔母役を演じた樹木希林が、主人公良多の母淑子を演じます。是枝作品には『歩いても 歩いても』『奇跡』『そして父になる』『海街diary』と出演しており、本作が5作目の是枝作品になります。
ちなみに『歩いても 歩いても』でも、阿部寛演じる良多の母親役を演じており、やはり何か意図的にかぶせてきている気がしてなりません。
2015年に出演した映画は『駆込み女と駆出し男』『あん』『海街diary』と抜群の作品選びを見せている樹木希林が出演することからも、本作への期待が高まります。
良多の元妻/真木よう子
『そして父になる』でリリー・フランキーの妻役を好演した真木よう子が本作では阿部寛の元妻を演じます。
真木よう子は本作のほかに2016年4月1日公開予定の映画『蜜のあわれ』に出演することが決定しています。
探偵事務所社長/リリー・フランキー
『そして父になる』『海街diary』と是枝作品に出演しているリリー・フランキーが、主人公良多が働く探偵事務所の社長役で出演します。
2016年には本作のほかに、『シェル・コレクター』『二重生活』『秘密 THE TOP SECRET』『お父さんと伊藤さん』『SCOOP!』と5つの映画に出演することがすでに決まっており、2015年同様、大活躍が期待されます。
探偵事務所の相棒/池松壮亮
『愛の渦』『紙の月』『MOZU』などで若手演技派俳優として注目を集めている池松壮亮が是枝作品に初出演を果たします。
池松壮亮は2016年に映画『セトウツミ』に主演するほか、2月公開の『シェル・コレクター』、3月公開の『無伴奏』、5月公開の『ディストラクション・ベイビーズ』に出演することが決定しています。
良多の姉/小林聡美
大林宣彦監督の『転校生』でスクリーンデビューを果たし、『かもめ食堂』『紙の月』などで注目を集める女優小林聡美も是枝作品に初出演。2016年4月1日公開の多部未華子主演映画『あやしい彼女』に出演することも決まっています。
淑子の憧れのクラシックの先生/橋爪功
2011年の『奇跡』以来の是枝作品出演となる橋爪功が、樹木希林演じる淑子の憧れのクラシックの先生を演じます。橋爪功は近年、『東京家族』『小さいおうち』『母と暮らせば』と山田洋次作品の常連となっており、2016年には山田洋次最新作『家族はつらいよ』に出演します。
監督・脚本・原案を是枝裕和が担当
©︎ciatr
日常、人生といったテーマの映画を撮ることに関して、日本のみならず世界的にもトップクラスと言えるであろう是枝裕和が本作の監督をつとめます。自身が9歳から28歳まで19年間住んでいた東京都清瀬市の旭が丘団地が本作の舞台となっており、是枝裕和自身が最も色濃く表現された作品になっているとのことです。
また、本作の主人公良多という名前は映画『歩いても 歩いても』で阿部寛が演じた主人公横山良多、ドラマ『ゴーイング マイ ホーム』で同じく阿部寛が演じた主人公坪井良多、映画『そして父になる』で福山雅治が演じた主人公野々宮良多とこれまでに3度登場しています。この「良多」という名前に関して、是枝裕和はツイッターで次のように答えています。
カンヌ国際映画祭に正式出品が決定!
世界三大映画祭として知られるカンヌ国際映画祭で、映画『海よりもまだ深く』が「ある視点」部門で出品されることが決まりました。
また是枝監督は『誰も知らない』『そして父になる』『海街diary』など、これまで実に5作品がカンヌ国際映画祭で上映されています。現地時間の5月11日に開催される映画祭には是枝監督ほか、本作の出演者も参加する予定のようです。
映画『海よりもまだ深く』は2016年5月21日公開です。
『海よりもまだ深く』のCiatrユーザーの感想・評価を紹介!
mazda620
ある家族の風景から切り取った、孤独な男の絶妙なきもちと人との距離感を巧みに描いた是枝監督の新作。
この人の映画ってほんと、良い意味ですごく邦画らしくて、邦画でしか伝えられないものをきちんと表現してくる。映画と観者との距離がすごく近くて、自分とまったく違う暮らしだとしても、自分の家族や日常を、観ながらふと思い出させる。今作はとくにこの監督の良さを再認識できる映画になったと思う。
仕事も一度成功し、家族とも一時は幸せな時間があったはずなのに自分の理想の形にはなってくれない落ちた小説家の良多。人生は自分が思うようにうまくはいかない。自分の中にある理想の「まる」が少しづつ、ぐねぐね、カクカクしていく感じ。形を変えてきれいなまるじゃなくなっていくのを、不器用な手で一生懸命きれいなまるになるように、ちょっとずつくずれていく形を何度も何度も修正する。優しくなりたいけど丁寧にはなれなくて、ガサツだし矛盾しているし、家族にも奥さんにも息子にも伝えたいことはいっぱいあるのに、「いい大人のプライド」が素直になりたい自分の心の邪魔をする。
「いい大人」になった自分をわかってるからこそ、現実は超かっこ悪い自分を手でふさぐみたいな隠し方で、お母さんの前でも奥さんの前でも見栄をはる。いい大人、できる男、かっこいい人、形だけでも守りたい。みんなにバレバレだけどね、俺は落ちこぼれてないってそういう振る舞いをすることで精一杯。人生は自分が思うようにはいかないのと一緒で、自分の理想像と現実の自分は違う。なりたい自分に簡単になれるわけではない。直せと言われてもなかなか直らないところみんな1つ2つもってる。ダメな自分の姿を自分で一度受け止めなければ、素直にはなれない。ダサくてもかっこ悪くても、それが今の自分なんだよって、離れる人もいるかもしれないけど、受け止めてくれる人だっているはず。
「あれだよあれ」 がすごく多かった良多。小説家のくせにね、いろんな言葉がのどの奥でつまってるのがすごくわかる。素直に伝えれない不器用な人間をすごく表現する、素敵な言葉遣いだった。「カレーにはグリンピース入れろ。色があれするだろ。」っていうのがあれあれのくだりで一番好きだった。
相変わらずキャスティング最高だったな。演技においては断トツ樹木希林、もう何も言うまでもないくらい、素晴らしかった。プロの人だってすごく思った。言葉を発するスピードも手つき、目つき、人の横に座る距離感もボディタッチも全てが良かった。
私的にはちょい役だったけどリリーフランキーと池松くんがめちゃめちゃいいキャラだったなって思う。池松くんは良多の職場の部下としてでてくるけど「できる人間」じゃなくて「できちゃう人間」として描かれるから良多のダメなところがより際立つ。できすぎくんみたいな人。できちゃう自分を自慢とかしないから嫌味にならない、ダメな良多を年下だけどわかっていて自分のお父さんを想うきもちと重ねて、優しい目で彼のことを見てる。かっこのつかない彼の見栄っ張りな性格をすごく理解してる、その演技がよかった。
リリーさんの「誰かの過去になる勇気をもつ」っていう言葉と樹木希林の「幸せはなにかをあきらめないと手に入らない」って言葉がものすごく響いた。崩れそうになるまるの形でも別にいいじゃんって思える。自分の理想とは違うかもしれないけど、新しい形を手にするのは怖いかもしれないけど、変化する自分のことを恐れたくない。
東京のはしっこを感じる色褪せた黄色の電車西武池袋線と、ハナレグミのエンディング。西武池袋線に乗ってハナレグミを聞き過ごした高校生時代が重なってすごく感情移入して、あらゆる言葉が自分に言われてるみたいで。人との掛け合いが面白くてシアター内クスクスって笑いがこぼれるそういう映画だったけど、重なった部分にすごく感傷的にさせられてハナレグミの「深呼吸」を聞きながらポロポロしたままエンドロールだった。
是枝監督の作品は映画というよりドラマのような進み方をするけど、いつも、映画館で観ることでより深く感じさせるものを作ると思う。映画館で観る意味っていうのは迫力のあるアクションや映像美や音質だけじゃない。彼の映画はできれば全部映画館で観たいなと思える。
toshibakuon
冒頭から樹木希林と小林聡美の会話に聞き入りとてもユニークなのにナチュラルで面白かった。是枝監督のオリジナル脚本で監督が昔住んでいた団地もロケ地になっている。日常を切り取った自然な感じのストーリーで起伏は激しくないけれど阿部寛のダメ男で元妻に未練タラタラを好演。小さい頃思い描いた大人に俺はなれているのかな?・・割となれてる気がするので幸せなのかもしれない。
igagurichan
主人公。小説家。一発ドカンと上げたけど、それ以降はぱっとしなくて探偵業で生計を立てている男。
いい歳したオッサンダメ息子(主人公)
だけどやっぱり息子は可愛いと世話をやく母。
こっそり親のスネをかじってる要領の良い姉。
大人しそうに見えるけど、やたらとしっかりしてる主人公の息子。
団地の風景が、私が子どもの頃に住んでいた社宅にそっくりで懐かしかったです。
台所と直結してるベランダ。
カルピスシャーベットを作るモロゾフのプリンのあき容器。
家具でぎゅうぎゅうの部屋に布団を敷いて妹とピロートークをした思い出。
そんな風に一部の人に郷愁を与えてくれる。懐かしい。
失敗し後悔して挽回しようと思っても、叶わない事はある。特に対人相手。
幼い頃、家庭環境が最悪な状況でも、強烈な思い出って誰しもひとつはあるかな...と思えるような映画でした。
あの状況で元奥さんをあそこに呼んじゃう無神経さ!だから駄目なんだよー。とイラっとしたけど(笑)
まぁ台風一過を起点にして
新しい生活を見据える。
そんなふうに考えたら清々しくなりました。
Ryosuke_Ohba
是枝監督映画の中でベスト5には入る佳作です。ただ、昨年の『海街diary』がちょっと凄すぎたので、それと比べるとちょっと、という気はします。
キャスト陣はみんな演技巧者なので安心して観れます。子役の吉澤太陽くんも割とうまいと思います。
ちょっと気になったのは、相変わらず「アレ」が多い是枝脚本。『海街diary』でも連発されていましたが、今回もかなり使われてました。ただ、今回の「アレ」は『海街』の時の「アレ」とは使用意図が異なるだろうと思います。『海街』は「家族になるまで」、今回は「口下手な小説家」を表すのに使われているんだろうなと思いました。
個人的に印象に残ったセリフがふたつ。ちょっと正確ではないですが、探偵事務所の若い女の子が言う「女の記憶は油絵みたいなもの」というセリフと、樹木希林の「幸せはなにかを諦めないと手に入らない」というセリフ。
男の恋愛は名前をつけて保存、女の恋愛は上書き保存とは言いますが、「油絵」というたとえは美しいなと思いました。重ね塗りはするけど、ちゃんと残ってるっていう。
「幸せは何かを諦めないと手に入らない」というのは、その通りだなと、短い人生経験ながら思いました。諦めないから幸せになれんのだなと、私は。これまでに何十回と「おまえは幸せになれない」と言われたことがありますが、それはこれだったんだなと。
きっと本作の主人公も、今後幸せになれず、うだつの上がらない、未練たらたらな人生を歩んでいくんだろうなと思いましたが、それは、きっと、まぁ、そんなに悪いことでもないんじゃないかと。『NARUTO』で自来也先生も言ってましたが、幸せってやつは、男が求めるものじゃないんですよ、たぶん。
最後に、こんなストーリーの起伏の無い映画を成立させてしまう手腕はさすがだなと思いながら、『海街diary』を観返そうと思った次第であります。