古谷実原作・園子温実写化「ヒミズ」
『ヒミズ』は2001年から2003年にヤングマガジンに連載された古谷実の漫画。天涯孤独の中学生・住田祐一の重苦しい日々と不条理なストーリ展開に連載当時、読者に衝撃を与えました。
2012年には鬼才・園子温監督によって映画化され国内外で高い評価を得ました。また、主演を務めた染谷将太、二階堂ふみがヴェネツィア映画際で新人賞をW受賞するという日人初の快挙を遂げ話題になりました。
映画版『ヒミズ』のあらすじ
東日本震災で被災したある町で、貸しボート屋を営む中学生・住田祐一。母親は蒸発し、蒸発していた父親が帰ってきたものの虐待される日々。そんな彼の夢は「普通に暮らすこと」でした。
しかし虐待に絶えられなくなったある日、衝動的に父親を殺してしまいます。「普通に暮らす」ことが許されなくなった現実に絶望し、“ある考え”を胸に街を徘徊することになります。そんな彼に希望は訪れるのでしょうか…。
絶望した少年・住田と不条理な大人達、住田を一途に想い続ける少女・茶沢をリアルに描いた群像劇です。
原作漫画との違い
原作漫画の設定と大きく違っていることが2つあり、1つは話の舞台が震災後の日本であること。もう1つはラストの展開です。
原作のラストでは、住田が絶望と自身のルールにがんじがらめになり自殺する最期を遂げます。しかし映画の中の住田は、自殺せずに生きる道を選びます。ここには、“過酷な現実の中で絶望するだけではやっていけない”という園子温監督自身のやけっぱちな思いがあったからです。
ヒミズのメインキャスト
住田祐一/染谷将太
染谷将太(そめたにしょうた)は東京都出身、1992年9月3日生まれの俳優です。『ヒミズ』では主人公の住田祐一を演じました。
7歳の頃から子役として俳優活動をしており、2009年には『パンドラの匣』で映画初主演を果たします。以前から、演技力に定評はありましたが、2011年に『ヒミズ』の主演を務めたことでヴェネツィア映画祭の最優秀新人賞を受賞しました。これが世に染谷将太の名前を知らしめる大きなきっかけとなり、その後も国内の新人賞を次々と受賞しています。
プライベートでは2015年に女優・菊池凛子と結婚し、2016年には一児のパパとなることを公表しています。
茶沢景子/二階堂ふみ
二階堂ふみ(にかいどうふみ)は沖縄出身、1994年9月21日生まれの女優です。『ヒミズ』では住田祐一を一途に想う少女・茶沢景子を演じました。
12歳の時に沖縄のフリーペーパーに掲載されたことがきっかけで芸能界入りし、2007年にはテレビドラマ『受験の神様』で女優デビューを果たします。2009年『ガマの油』で初めて映画に出演したことをきっかけに、映画作品の出演を増やしていきました。『ヒミズ』では主演の染谷将太と共にヴェネツィア映画祭の最優秀新人賞を受賞し、実力のある若手女優として注目を集めるようになります。
現在は多数のドラマ、映画に出演しつつ、テレビ番組『グルメチキンレース・ゴチになります!』でレギュラー出演するなど各方面で活躍中の女優です。
よく読み上げられていた詩の正体は?
『ヒミズ』の冒頭や、劇中でヒロイン茶沢が読み上げていた詩はフランソア・ヴィヨンの「バラッド」という詩です。
牛乳の中にいる蠅 その白と黒はよくわかる どんな人かは 着ているものでわかる 天気が良いか悪いかもわかる 何だってわかる 自分のこと以外なら引用:exblog.jp
絶望感や自分のルールに縛られて、自分自身を客観視できなくなった住田に対して、茶沢が投げかけるメッセージと受け取れます。
監督の園子温は元々詩人として活動していた経歴があるためか、2009年『愛のむきだし』、2011年『恋の罪』でも劇中で詩の引用されており、園監督特有の演出方法であることが伺えます。
その他の個性豊かなキャスト
夜野正造/渡辺哲
渡辺哲(わたなべてつ)は東京都出身、1950年3月11日生まれの俳優。
強面のインパクトのある顔で、ヤクザや叩き上げの刑事を演じることが多い渡辺哲ですが、『ヒミズ』では住田の貸しボート屋の敷地に住む明るいホームレス・夜野を演じました。
金子/でんでん
でんでんは福岡出身、1950年1月23日生まれの俳優です。
お笑い芸人として芸能界デビュー。しかし、1981年公開の映画『の・ようなもの』で若手落語家役を好演したことをきっかけに俳優として活動するようになっていきました。2010年園子温監督作品『冷たい熱帯魚』に出演した際は日本アカデミー賞助演男優賞を受賞し、現在も名バイプレイヤーとして活躍中です。
園子温監督作品にはよく出演している常連で『ヒミズ』では、住田から父親の借金をとりたてるヤクザの金子を演じました。
田村圭太/吹越満
吹越満(ふきこしみつる)は青森県出身、1965年2月17日生まれの俳優です。
1984年から1999年まで劇団WAHAHA本舗に所属しており、テレビドラマ、映画に出演するほか、年に一度ソロパフォーマンスの公演を行っています。
2010年『冷たい熱帯魚』で主演の社本を演じてから園子温監督作品の常連となり、『ヒミズ』では、渡辺哲演じる夜野と同様に住田の貸しボート屋の敷地内に暮らすホームレス・田村を演じました。
田村圭子/神楽坂恵
神楽坂恵(かぐらざかめぐみ)は岡山県出身、1981年9月28日生まれの女優です。
元々はグラビアアイドルであった神楽坂恵ですが、平行してテレビドラマや映画にも出演していました。2010年『冷たい熱帯魚』では主人公・社本の妻を体当たりで演じ、女優としての存在感を露にしました。
『ヒミズ』では吹越満演じる田村のセクシーな妻として登場。プライベートでは2011年に園子温監督と結婚しています。
住田の父/光石研
光石研(みついしけん)は福岡県出身、1961年9 月26日生まれの俳優です。
16歳で受けたオーディションで『博多っ子純情』の主演を勝ち取り俳優デビューを果たします。善人から悪人まで多様なキャラクターを演じる名バイプレイヤーとして多くのテレビドラマ、映画に出演をしている大ベテラン。
『ヒミズ』では金を無心する住田の父親を演じました。
住田の母/渡辺真起子
渡辺真起子(わたなべまきこ)は東京都出身、1968年9月14日生まれの女優です。
1986年にモデルとして芸能界入りをし、1988年には『バカヤロー!私、怒っています』で映画初主演を果たします。その後も、映画出演を重ね2012年『チチを撮りに』でアジア太平洋映画祭、アジアン・フィルム・アワードにて最優秀助演女優賞を受賞する栄光に輝いています。
『ヒミズ』では、男を連れて蒸発する住田の母親を演じました。
茶沢の母/黒沢あすか
黒沢あすか(くろさわあすか)は神奈川県出身、1971年12月22生まれの女優です。
10歳から子役として活動しており、1990年『ほしをつぐもの』で映画初出演を果たします。2002年にはある夫婦の歪んだ性愛を描いた『6月の蛇』で主演を務め、東京スポーツ映画大賞、シッチェス国際映画祭で最優秀主演女優賞を受賞。
『ヒミズ』では、娘を執拗に虐待する、茶沢の母親を演じました。
吉高百合子ら豪華キャストも見どころ
ミキ/吉高由里子
吉高由里子(よしたかゆりこ)は東京都出身、1988年7月22日生まれの女優です。
2006年園子温監督作品『紀子の食卓』で映画デビュー。吉高由里子は園監督によって発掘された女優であるということは有名なエピソードです。2008年『蛇にピアス』では劇中でヌードを披露するなどその体当たりの演技が評価され、日本アカデミー新人賞を受賞します。
『ヒミズ』では住田が街で出会ったスリ師の彼女を演じました。
YOU/西島隆弘
西島隆弘(にしじまたかひろ)は北海道出身、1986年9月30日生まれの歌手、俳優です。AAA(トリプルエー)のメインボーカルとして活躍しています。
2009年園子温監督作品『愛のむきだし』では映画初出演ながら主演を演じ、毎日映画コンクールの新人賞を受賞。俳優のしての才能を吉高由里子同様、園監督に引き出された一人です。
『ヒミズ』では路上でギターを弾き語りするパフォーマーYOUを演じました。
テル彦/窪塚洋介
窪塚洋介(くぼづかようすけ)は神奈川県出身、1979年5月7日生まれの俳優、歌手です。
ドラマ『金田一少年の事件簿』で俳優デビューした窪塚は、その後『GTO』『池袋ウエストゲート』パークでのエキセントリックな雰囲気で絶大な人気を得ることになります。2001年に公開された映画『GO』では日本アカデミー賞最優秀男優賞を最年少で受賞する快挙を遂げました。2003年より一時活動を休止するものの、現在は復帰。俳優やレゲエミュージシャン・卍LINEとしても活動中です。
『ヒミズ』では、スリ師のテル彦を演じました。
ウエイトレス/鈴木杏
鈴木杏(すずきあん)は東京都出身、1987年4月27日生まれの女優です。
小学生の頃から子役として活動しており、2000年「ポカリスウェット」の爽やかな姿に注目を集めます。女優としてキャリアが長く、今までで多数の映画やテレビドラマに出演をしています。
『ヒミズ』にはオドオドしているウエイトレス役として出演しました。
シュウ/新井浩文
新井浩文(あらいひろふみ)は1979年1月18日、青森県出身の俳優です。
2001年『GO』で映画デビューを果たし、翌年『青い春』で映画初主演を務めます。鋭い眼光と181cmの長身で、ヤクザやチンピラ役での出演が目立ちましたが、テレビドラマ『ど根性ガエル』でゴリライモを演じるなど近年はコミカルな役もこなす俳優として活躍しています。
『ヒミズ』では住田に絡んだため刺されてしまう不良を演じました。
東日本大震災の関係
園子温監督は『ヒミズ』で描かれる若者のリアルに惹かれ、映画化を決意しました。しかし映画化を前に年3月11日に東北の震災が起きてしまいます。その中で監督は、
震災前の脚本は、原作漫画をそのまま忠実に脚本化したような内容でした。でも震災を経験したことによって、「2001年のリアルではなく2011年のリアルをやろう」と考えを変えたんです。中学生のビターな青春というテーマ自体は原作と変わりませんが、震災を無視して2001年のリアルをやっても意味がないと思いましたし、それを描くには3月11日の震災は盛り込まないといけない問題だと。引用:cinra.net
と感じ、震災後の日本を映画の舞台にすることに決めました。
園子温監督にとっての転換点にもなったヒミズ
以前までは『冷たい熱帯魚』『恋の罪』と、園監督の趣向を凝らしたグロテスクで絶望的な内容の映画を作り続けていました。しかし『ヒミズ』で東北大震災を背景にしたことで、プライベートな内容ばかりではなく社会状勢を含んだ映画作りをするようになった転換点といえる作品です。
ヒミズの感想
やっぱりラストシーンに胸をうつ!
0229Shiki
この映画を見てから原作漫画を読みました。原作漫画は震災とは一切関係のない世界でしたし、何よりエンディングが異なっていました。園子温監督が震災について絡め、恐らくそれによりエンディングを原作漫画とは違うものにしたんじゃないかと思います。震災後に被災地を訪れた経験があるので、エンディングでは胸が熱くなりました。
ちなみに私はこの映画を機に染谷くんのファンになりました。
染谷将太・二階堂ふみがスゴイ
Sanae_Murai
二階堂ふみさんと染谷将太さんの演技がすごすぎて、吸い寄せられるように引き込まれ、息をするのも忘れるくらい見入ってました。
なんか映画とは思えないくらいのリアル感。自分がその世界感から抜け出すのが時間がかかるくらい。
ただただすごい。
2015.3
園子温監督ならでは
utakatafish
救いがないどころか、どんどん落ちてくのが怖くて悲しかった
最後は爽やかだけど、それまでが泥沼みたいなかんじだったから違和感、ちょっと置いてけぼり
ああいう環境は日本中ありそうだけど、たぶんきっとわたしは体験することない、だけどその絶望だけはわかる気がする
二階堂ふみちゃんの最後の夜のセリフが好きだなぁ
園子温監督の作品は本当に同じ人たちが出ててひとつの大きな映画観てるみたいだ