山下敦弘監督の11の映画に見る、それぞれの人生観

2017年7月6日更新

ほぼ毎年のように映画を公開し続けている映画監督・山下敦弘の作品には、リアルな人間の人生観がたくさん詰まっています。今回はそんな人間味が垣間見える山下敦弘の映画作品11選をご紹介します。

オフビートで"ゆるい"リアルを作り出す監督・山下敦弘

山下敦弘

出典: natalie.mu

山下敦弘は1976年愛知県出身の映画監督です。高校生の頃から自主映画を撮り始め、大阪芸術大学在学中の1999年には『どんてん生活』を製作しています。2005年公開の『リンダ リンダ リンダ』が大ヒットした事で一気に人気映画監督となり、コンスタントに作品を製作し続けています。

「日本のカウリスマキ」や「日本のジャームッシュ」との異名を持つ作風は、オフビートなゆるい笑いと、リアルなやり取りが特徴的です。また、自身が「面白い人を映画で紹介したい」と話しているように、どこか癖のある憎めない登場人物が多いのも魅力の一つとなっています。

うだつの上がらない人生の中で前向きに生きる二人の男

山下敦弘

パチンコを愛して先の見えない生活を送っている無色の青年・町田努(宇田鉄平)は、開店前のパチンコ店の前で特大リーゼントに赤いカーディガンという出で立ちの謎の男・南紀世彦(山本浩司)と出会い、意気投合します。無職だという努に紀世彦はアダルトビデオのコピーの仕事を持ち掛け、二人は共同で金儲けをすることに。

明日のご飯もままならないような、うだつの上がらない人生を送りながらも、「幸せになりたい」と思う二人の男の生活を描いたストーリーです。救いようのない男たちの退廃的な姿が淡々と描かれる様はまさに「どんてん生活」ですが、登場人物たちの情の温かさを垣間見える作品となっています。

どこか変な三人のリアルで奇妙な旅

インディーズ映画の駆け出し脚本家・坪井(長塚圭史)と映画監督・木下(山本浩司)はほとんど面識はなく親しくもない間柄でしたが、旅行を計画していた共通の友人が現れなかったことで仕方なく二人で温泉街を旅することになりました。

訪れた温泉街は風変りな街で、二人は宿を求めて彷徨います。海岸で二人が話していると、服や持ち物を海に流されてしまったという全裸の女が走ってきます。二人は女に服を買い、宿を共にすることに。やがて二人の有り金は底をつき・・・。

『リアリズムの宿』はつげ義春の同名漫画を原作にしたロードムービーです。どこかにありそうな街、どこかにいそうな三人のリアルでシュールなやり取りが満載です。

文化祭に向けて疾走するガールズバンドの奮闘

とある地方都市にある芝崎高校に、軽音部所属の5人組ガールズバンドがいました。文化祭を数日後に控えたある日、ギターが骨折したことによってバンドは分裂。ギターとボーカルがバンドから離れることになりました。

残されたメンバー、山田響子(前田亜季)、立花恵(香椎由宇)、白河望(関根史織)の3人は文化祭でのステージを諦めきれず、たまたま目の前を通りかかった韓国から来た留学生ソン(ペ・ドゥナ)をボーカルに無理やり引き入れ、ステージでTHE BLUE HEARTSのカバー曲を演奏すべく練習を始めます。

山下敦弘がメジャー監督の仲間入りを果たすことになった『リンダ リンダ リンダ』は、高校を舞台にガールズバンドに奮闘する女子たちの心の揺れを爽やかに描いた青春映画です。文化祭間近の高揚感や、学生時代の刹那的な一瞬を思い出すことの出来る作品です。

鬱屈した田舎社会に巻き起こる一つの事件

山下敦弘

1990年代初頭、雪が降りしきる小さな田舎町・松が根に、東京から戻ってきて実家の牧場を手伝っている兄・鈴木光(山中崇)と、警察官の弟・光太郎(新井浩文)の双子の兄弟がいました。

ある日、国道で女(川越美和)の死体が発見されます。弟が検死していると、女は仮死状態から目を覚まし、自分を池内みゆきだと名乗りますが、事件の事が覚えていないと言います。そんなみゆきを刑事(光石研)は怪しく感じ・・・。

閉鎖的な町に巻き起こった一つの事件が、田舎ならではの鬱屈した騒動となっていく様を描いたブラックコメディです。新井浩文と山中崇など個性派俳優が醸し出す無気力な世界観が特徴の不条理劇です。

のどかな田舎で少女が成長していく一年間の物語

小中学校あわせて生徒が6人しかいない田舎の分校に、東京から大沢(岡田将生)という転校生がやってきました。

中学生の右田そよ(夏帆)は、都会の雰囲気漂う大沢にときめきましたが、彼の乱暴な言動に戸惑います。しかし、海水浴での出来事がきっかけに、二人の関係は変化しはじめ・・・。

美しい海・山に囲まれた田舎町で進んでいく、友人や家族との日常を瑞々しく描いた心温まる物語です。

学生運動の高揚感を描いた青春物語

海外ではベトナム戦争が繰り広げられる一方、国内では激しい反戦運動が続いていた1960年代後半、雑誌編集社で働く新人ジャーナリスト・沢田(妻夫木聡)は、世界は変えられると信じ、日々活動家たちへの取材を続けていました。

ある日、梅山という活動家(松山ケンイチ)からコンタクトを受けた沢田は、武装決起するという話を聞きました。沢田は梅山の話を疑いながらも、奇妙な共通意識を梅山に感じ、スクープ欲しさに梅山と行動を共にすることになり・・・。

本作品は評論家・川本三郎のジャーナリスト時代の経験をもとに描いた社会派作品です。学生運動の熱に浮かされたような高揚感と、現代でも感じるようなリアルな人間関係を描いたヒューマンドラマとして評価の高い一作となっています。

どうしようもなく孤独な男が見放されながらも生きていく

1980年代後半、19歳で日雇い労働者の北町貫多(森山未來)は、稼いだ金のほとんどを酒に使い、家賃も払えない極貧生活を送っていました。卑屈な性格の持ち主の北町は人目を避けるように暮らしていましたが、ある日、専門学校に通う日下部正二(高良健吾)と親しくなり、行動を共にするようになります。

そんな中、北町は古本屋で働いている桜井康子(前田敦子)に恋をして、日下部に二人の中を取り持ってもらうことに。バブル期の裏側で、不器用に生きる孤独などうしようもない青年が、それでもなお強かに生きる姿が衝撃的な作品です。

自堕落な生活を送る23才女子の成長日記

東京の大学を卒業したタマ子(前田敦子)は、実家がある甲府に戻り、就職活動をするでもなく自堕落な日々を送っています。父親(康すおん)から仕事を探すよう言われても惰眠をむさぼり、起きている時間は漫画とゲームに費やす日々を送っています。

家事も手伝わず食っちゃ寝の生活を送るタマ子が小さな一歩を踏み出すまでの一年間をアンニュイに描いた作品です。

バツイチで娘に甘い父親に頼って安楽な生活を送るタマ子のどこか憎めない成長物語として多くの人の共感を呼びました。

記憶を失った男唯一覚えていたのは歌だった

大阪のとある屋外ステージで、バンドがライブをしている最中、記憶喪失の男(渋谷すばる)が突然舞台に乱入し、歌を披露しました。その男の声は騒然とした会場を圧倒し、彼に才能を感じたバンドのマネージャー・カスミ(二階堂ふみ)は彼を「ポチ男」と名付け、バンドのボーカルに迎え入れます。

バンド活動を続ける中で、ポチ男は無くした過去の記憶を思い出し始めますが・・・。裏社会で生きた記憶喪失の男が、マネージャーの少女と関わることで自分の人生を見つめ直す姿が描かれたユニークで人間味溢れるヒューマンドラマを、関西弁でユニークに作り上げた映画です。

絶望の中に一筋の光を見つける男女

東京で自由気ままに生きてきた白岩(オダギリジョー)は妻に見放され職を失い、生まれ故郷の函館で職業訓練校に通い始めます。漫然と毎日を暮らしていた白岩でしたが、同じく職業訓練校に通う代島(松田翔太)に誘われて入ったキャバクラで、不思議なホステス・(蒼井優)と出会い、人生に新たな風が吹き荒れます。

それぞれが絶望を抱えた中、人生を持て余しながらもお互い近づいたり離れなたりを繰り返しながら生きていく様を写し出す作品です。リアルな中にもどこか垣間見えるファンタジックな空間が魅力となっています。  

ぼくとおじさんの笑える冒険ストーリー

小学生の「ぼく」こと春山雪男(大西利空)は、作文コンクールの宿題に「自分の周りの大人について」という題目を出されました。題材探しに迷う雪男は、父の弟で、家に居候し怠惰な生活を送っているおじさん(松田龍平)を題材にすることを思いつきます。

ある日、無理やり参加させられたおじさんは、お見合い相手の稲葉エリー(真木よう子)に一目ぼれしましたが、ハワイの日系4世の彼女はハワイに帰ることになり、おじさんと「ぼく」は後を追ってハワイへ向かいます。大人じみた子どもの「ぼく」と、子どものような大人の「おじさん」の、どこか笑える相棒ストーリーです。

ゆるいテンポで描かれたオフビートの作品で、悪人が一人もいないため子どもと一緒に見ても楽しめると高評価の作品です。