映画『マイ・フェア・レディ』のあらすじ・キャスト・見どころまとめ
『マイ・フェア・レディ』のあらすじ
貧しい花売り娘のイライザが声をかけた紳士が、たまたま言語学者であったことから物語は始まります。彼女の酷い訛りを聞いたヒギンズ教授は、格調高い言語であるはずの英語の衰退を嘆き、自分の手にかかればイライザほどの酷い訛りも半年で矯正できると大口を叩きます。 よりよい暮らしを夢見る彼女はこの言葉を間に受け、翌日ヒギンズ教授の家に押しかけ、自分に教育を施してくれるように懇願。はじめは嫌々だった教授も、友人のピクリング大佐がこの話に乗り気になり賭けを提示したことで気を変えます。イライザを自宅に住まわせ、半年間で貴族たちが集まる舞踏会に行けるようになるまでにすると約束。 しかし上流階級の生活を知らない彼女にとって毎日は苦労に満ちたもの。彼女の強い訛りもなかなか治りません。そんな中イライザの父親がヒギンズ教授に詰めかけ、娘と引き換えに金を要求。娘の身を売るのかと道徳感覚を批判されますが、道徳なんというものは中流以上の階級の特権であると言い切り、貧困層の厳しい現実を露わにします。 そんなある日、日々の練習が実ってイライザの英語が向上。ヒギンズは実験として、彼女を競馬場に連れていき社交界に紹介しようと計画します。しかし、正しく発音することはできても、上流階級のマナーを知らない彼女は恥をかいてしまいます。しかしそんな彼女を見たフレディは、イライザに一目惚れするのでした。 悲観的なピクリング大佐とは対照的に教授はイライザの教育を継続。そしてついに舞踏会の日を迎えた彼女は、完璧にその夜を切り抜け、ハンガリーの皇族の出身に違いないと間違われるまでに。ヒギンズとピクリングは大成功を祝って喜びますが、彼女の気は重いものでした。 イライザは自分勝手で自分を見下してばかりいたヒギンズ教授に失望していたのです。彼女に対する褒め言葉もなく、実験が終わって用済みになった自分を気にかけないヒギンズとイライザは喧嘩し、彼女は家を飛び出します。自分の出身である下町に戻ってみるも、昔の友人は誰も彼女に気付きません。もう自分は元には戻れないのだと痛感し、将来に対する不安を抱きます。 一方でヒギンズ教授のイタズラにより思いもよらず金持ちになってしまったイライザの父親も、今までは無縁だった責任感と道徳感覚に戸惑い、気楽な幸せを享受できない境遇を悲しみます。しかしもう後戻りはできない状況に。 ヒギンズ教授も教授で、イライザがいなくなったことに対する悲しみを素直に表現できずにおり、またしても彼女と喧嘩。彼女は自立して生きる決心をし、ヒギンズは空っぽになった家でイライザの面影を懐かしむのでした…。その時、教授は聞き慣れたイライザの声を聞きます。彼女は帰ってきたのです。
『マイ・フェア・レディ』のキャストまとめ
イライザ・ドゥーリトル/オードリー・ヘプバーン
本作の主人公、貧しい花売り娘から優雅なレディへと変貌を遂げるイライザ・ドゥーリトルを演じるのは、言わずと知れた大女優オードリー・ヘプバーン。美しい衣装に身をまとったレディ姿のヘプバーンはもちろん様になっていますが、淑女教育を受ける前のイライザもまた驚くほどにはまり役です。 彼女は米国映画協会選出の「最も偉大な女優」リストでは3位にランクインしており、またアカデミー賞、グラミー賞、エミー賞など演劇界の最も有名な賞を全て受賞した数少ない女優の一人でもあります。 オランダ人の母とイギリス人の父の元にベルギーで生まれた彼女はバレリーナとして活動しますが、高い身長と戦時中の栄養失調によりバレエの道を諦め、女優を目指します。 1940年代からオランダを中心にヨーロッパで多くの舞台・映画に出演するようになりました。 大きな転機は1953年の名作『ローマの休日』の主演の座を射止めたこと。監督は彼女に一目惚れし、また彼女のパフォーマンスは大絶賛されました。ヘプバーンは今作でアカデミー主演女優賞を受賞し、一躍世界にその名を馳せます。
ヘンリー・ヒギンス教授/レックス・ハリソン
イライザに英語の発音教育を施すひねくれ者の言語学教授ヘンリー・ヒギンスを演じるのは当時のミュージカル界の巨人レックス・ハリソンです。彼は舞台版の『マイ・フェア・レディ』でもヒギンス教授役を務めており、映画で続投する形になっています。 1908年にイギリスで生まれたハリソンは、1936年からブロードウェイの舞台に出演。陽気なコメディに多数出演し、また上品で洗練された演技で多くのファンの心をつかみました。また整った見た目と恋多き性格から(生涯で6度結婚しています)女性からの人気も高いものでした。 30年代から数多くの映画に出演していますが、本作が最大の当たり役となり、アカデミー主演男優賞とゴールデングローブ賞を獲得しています。 この役には当初より映画界での知名度の高いケーリー・グラントが起用される予定でしたが、グラントは「自分の自然な喋り方は矯正を受ける前のイライザに近く、言語学を教える役は合わない」と言って出演を拒否。こうしてレックス・ハリソンが続投してヒギンズ教授を演じることになったのです。 本作で彼は、通常の喋りとほとんど区別のつかないような独特な歌のスタイルを披露しています。
アルフレッド・ドゥーリトル/スタンリー・ホロウェイ
この映画で意外にも重要な役どころであるのが、イライザの父親であるこのアルフレッド・ドゥーリトル。陽気でちょっと怠け者、でも厳しい貧困層の現実に適応した人生を送るアルフィーを演じるのは、スタンリー・ホロウェイです。 役者でありコメディアンでもある彼は、コミカルなこの役を見事に演じきっています。実は彼もまた、53年のミュージカルに続いて映画でも同じ役を続けて演じているのです。今作でホロウェイはアカデミー賞助演男優賞にノミネートされています。
ヒュー・ピカリング大佐/ウィルフリッド・ハイド=ホワイト
ヒギンズ教授がイライザを冷たく扱うのと対照的に、はじめから愛情たっぷりに優しく彼女を見守るのが、このピカリング大佐。紳士的な立ち振舞いが乱れることのない大佐を演じるのは、ウィルフリッド・ハイド=ホワイトです。『刑事コロンボ』シリーズの執事役でご存知の方もいるのではないでしょうか。 ハイド=ホワイトは善悪のサイドを問わない多様な役を演じる性格俳優として名を馳せました。本作のピカリング大佐役と、名作『第三の男』でのクラビン役が最も有名です。 イライザの発音を矯正したのが粗野で感情的なヒギンズ教授ならば、彼女に淑女らしい立ち振舞いやマナーを教えたのは彼が演じたピカリング大佐と言っていいでしょう。重要な立ち回りであるだけに、映画のラストで急に物語からいなくなってしまうのは残念です。
『マイ・フェア・レディ』を監督したのは誰?
会話がメインとなる舞台作品の映画化なら、名匠ジョージ・キューカー監督の右に出るものはいません。『マイ・フェア・レディ』もまたキューカーの監督作品であり、彼は本作で念願のアカデミー賞監督賞を受賞しました。 1899年生まれの彼は舞台監督としてそのキャリアをスタートさせました。1920年代にトーキー映画が発明されると、映画俳優に喋り方を指導する必要が生じ、そこでキューカーは映画界に引っ張りだされます。『西部戦線異状なし』の演技指導が評価され、彼は監督業にも意欲を見せるようになりました。 名を挙げた彼は『フィラデルフィア物語』『ガス燈』『スタア誕生』といったクラシック映画期の名作を次々に発表します。また表記はないながらも『オズの魔法使い』や『風と共に去りぬ』の女優たちに対する演技指導もしており、40−60年代のハリウッド映画には欠かせない存在です。 評論家の中には、キューカーにはこれといった特徴的なスタイルがないと批判する人もいます。しかし彼は出演する俳優たちの魅力を最大限に引き出すことに長けており、彼の監督作からオスカーにノミネートされた役者は21人にも及びます。『マイ・フェア・レディ』も例外ではありません。 本作では、ヘプバーンが変化していくイライザの役をうまく掴めるようにするため、イライザが登場するシーンは全て物語の順番通りに撮影されました。これは監督の意向によるものです。
『マイ・フェア・レディ』の美しい音楽の起源
映画版『マイ・フェア・レディ』に使われる楽曲は、全てが1956年初演でロングラン作品となったミュージカルから継続して使われています。その総数は15曲。まさに音楽に彩られた作品です。映画版の音楽はアンドレ・プレヴィンが担当し、アカデミー編曲賞を受賞しています。 しかし本来の作曲はフレデリック・ロウが、そして作詞(と映画の脚本)はアラン・ジェイ・ラーナーが担当していました。この2人は名コンビとして50年代から60年代にかけて活躍し、彼らの作った音楽は後世の名作『恋はデジャヴ』や『フォレスト・ガンプ』にも使用されています。 歌詞の多くは、ジョージ・バーナード・ショーの原作『ピグマリオン』の文章から取られています。ジョージ自身はミュージカル化に反対しており、彼が亡くなるまで上演はできなかったのですが…。
イライザ役は誰に?
大ヒットミュージカルが映画化されると決定した際、主役のイライザに誰をキャスティングするかが激しい議論となりました。多くの人はミュージカル版のジュリー・アンドリュースの続投を望みましたが、アンドリュースは当時まだ映画女優としては全く無名の存在でした。 『マイ・フェア・レディ』の製作に多大な費用がかかることを予測したプロデューサーは、より知名度と集客効果の高いオードリー・ヘプバーンを起用することを望み、他のキャストの反対を押し切って彼女をキャスティングしました。これにアンドリュースは失望し、ヘプバーンとライバル関係になったのです。 結局アンドリュースは同年、別のミュージカル映画である『メリー・ポピンズ』で主役に抜擢され、一気にスターダムを駆け上がることとなりました。 このメリー・ポピンズ役で彼女がアカデミー主演女優賞を受賞しましたが、その理由として『マイ・フェア・レディ』映画版の役を手に入れられなかった彼女に対する同情票が集まったこと、また歌声が実際にアンドリュースのものであったことが挙げられます。 そう、『マイ・フェア・レディ』のヘプバーンの歌のシーンは、マーニ・ニクソンによる吹き替えなのです。ヘプバーンは後に、自分の歌が吹き替えされることをしていたらイライザ役は受けなかった、と語っています。