2017年7月6日更新

映画『ノーカントリー』の完成度の高さがスゴイ!解説・ネタバレまとめ

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『ノーカントリー』

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コーエン兄弟が生み出した傑作スリラー『ノーカントリー』!

アメリカを代表する映画製作者であるコーエン兄弟の代表作『ノーカントリー』は、アカデミー賞4冠を始め、 各国の映画賞を総なめにした映画史に残る名作です。 映画自体が多くを語っていないため見る人によってはその解釈に悩むという本作。実はかなり完成度が高いと言われています。そこにはメッセージ性、ストーリー性、緊迫感を与えるスリラー、ユーモア、それらを表現する俳優陣、製作陣といった映画に必要な要素がほとんど揃っているのです。 キューブリック監督の作品を彷彿とさせるような、人々に疑問を持たせる難解さがさらに人を惹きつけているのかもしれません。今回はそのスゴイと言われる完成度の高さに迫ります!

題名『ノーカントリー』の完成度が高い?

『ノーカントリー』の原作はピュリッツァー賞作家コーマック・マッカーシーの「血と暴力の国」で原題が『No Country for Old man』。“ここは老いたる者たちの国ではない”という意味です。

題名はノーベル文学賞受賞詩人の詩から!?

『No Country for Old man(ここは老いたる者たちの国ではない)』は19世紀後半から20世紀前半に活躍したアイルランド出身の詩人、ウィリアム・バトラー・イェイツの詩集「塔」に収録されている「ビザンティウムへの船出」の詩の冒頭から引用。 当時の近代科学主義の流れに逆らうかのように詩に芸術性と人間性を求めたイェイツはノーベール文学賞も受賞しています。

題名は映画を一言で表していて完成度高し!?

映画では、イェイツの詩のように続く芸術やユートピアは一切描かれておらず、現実の“世界”を表現したという点で『No Country for Old Men(ここは老いたる者たちの国ではない)』という詩の冒頭のみを使ったタイトルは、映画を一言で表しているとも言えるでしょう。完成度高し!

演出テクニックの完成度の高さ!

ハビエル・バルデム演じるシガーがモスの妻、カーラを殺しに行ったシーン。彼がカーラを殺すかどうかを「コインで決める」といい、彼女は「決めるのはコインじゃなくあなたよ」と言います。 その後、描写がなくシガーが家から出てくるシーンがあるだけなのですが、そこで彼は靴の裏を見ていました。これはおそらく靴に血が付いていないか確かめたのでしょう。このシーンでカーラが殺されたことを私達は知らしめられます。 こういった間接的なシーンもコーエン兄弟ならでは。完成度が高いです。

実は前のシーンとつながっている?これも演出テクニックの完成度の高さ

シガーが賞金稼ぎのウェルズを殺すシーン。ウェルズの部屋で待ち伏せしていたシガーはウェルズを射殺。部屋に電話をかけてきたモスとその後と初めて話すことになるのですが(その間の置き方もなんとも言えず完璧!)、シガーはモスに彼の妻を訪ねることを話し、射殺されたウェルズから足元に流れてきた血を避けて足をベッドの上にのせます。 その後、約束通りカーラの元を訪れたシガー。そして彼女の家を出る際足の裏をチェックした行為は明らかに彼の殺人行為がなされたことを示すことになっているのです。

恐ろしいほど完璧なハビエル・バルデムの演技の完成度の高さ!

その髪型でも話題になった、不気味で冷酷非道な殺し屋シガーを演じたハビエル・バルデムの演技がスゴイんです。 話を最初にもらった時、運転もしないし、英語もヘタ。暴力は嫌いだと、一旦はオファーを断ったと言ったというバルデム。瞬き一つせず、目をギョロつかせ、表情一つ変えず人を次々と殺していく、まるでターミネーターのようなパフォーマンスは圧巻でした。 そして本作でひときわ強い印象を与え完璧にシガーを演じきった彼は、アカデミー賞助演男優賞を始め様々な賞を獲得しています。

バルデムの容姿も完成度高し!?

コーエン兄弟は、シガーのヘアスタイルのアイデアをベル保安官役のトミー・リー・ジョーンズが持っていた本から得ていました。本は1979年の設定で、売春宿のバーに座っている男の写真が映画に出てくるシガーと同じようなヘアスタイルと服装だったそうです。 そしてなんとオスカー賞受賞ヘアースタイリストであるポール・ルブランクがヘアスタイルをデザイン。コーエン兄弟の“変で乱れた”ヘアスタイルという依頼に、ルブランクはイギリスの昔の戦士のマッシュルームカットと、1960年代に流行したヘアスタイルを基にしたと言います。 一見変に見えるヘアスタイルも実はかなり完成度の高いものだったのです。

人物像を浮かび上がらせる緻密な演出の完成度が高い!

大金を持って逃げる一見普通の中年男に見えるジョシュ・ブローリン演じるルウェリン・モス。しかし最初のモスの登場シーンの用心深さと、死体を前にしても動揺しない冷静さが、彼に只者でない感を与えています。 殺人鬼や賞金稼ぎに追われながらも、その状況に立ち向かい冷静に対処していける彼の行動の一つ一つが、彼は一体何者?と疑問を持たせ、実はベトナム帰還兵だったという納得の展開に。 徐々に疑問を募らせ人物像を浮き彫りにさせていく完成度の高い緻密な演出です。

原作本との相違も映画での効果を狙っての完成度の高さ!

原作本との相違点で最も注目すべきことは、原作本ではすべての章がベル保安官のナレーションで始まっているということ。そしてそのナレーションは物語における行動を一致させ、時には対比させています。 ベルのナレーションで映画は始まってはいますが、原作本で語っていることの大半は要約され他の形となって表現されていました。また、原作本で語られたベルの生い立ちのすべてもまた映画では反映されていません。 結果として映画はもっとシンプルでテーマにそった、そしてそれぞれのキャラクター達により輝く機会を与えられた完成度の高いものとなっているのです。

こだわりの映画音楽と音響効果の完成度の高さ!

コーエン兄弟は映画音楽の使用を最小限にとどめ、大半を音楽のないままにしています。このアイデアは兄弟のうちのイーサンのアイデアで、そのことに懐疑的だったジョエルを説得したそうです。
その数少ない音楽を生み出したのは彼らの映画を長年担当しているカーター・バーウェル。しかし、彼はほとんどの楽器は最小限の音を醸し出すのに合わないと却下します。そしてなんと仏具の一つであり、仏教徒が瞑想する時に使用するシンギング・ボール(鈴)を使い、それをこする時に醸し出される持続する音を使ったのでした。 その独特なサウンドは音がない時の静寂の効果と相まって、恐怖を盛り上げ、暴力シーンをよりシリアスでリアルなものにしています。

映画『ノーカントリー』はタイトルと結末の繋がりの完成度が高い!?

タイトルがイェイツの詩の冒頭の引用であるのに対し、結末で妻に語るベル保安官の夢も、生と死を象徴した有名な詩を暗示しています。 ベルの見た父親と雪の積もった山の中を進む夢。彼を追い越してどんどん進む父親に対し、その先に真っ暗な寒い場所で焚き火をして待っていてくれるはずという夢。 この夢で登場する雪の山道を馬で進む情景はアメリカ人に最も愛された詩人ロバート・フロストの最も有名な詩「Stopping by Woods on a Snowy Evening(行きの夕べ、森のそばに佇みて)」と重なっていました。 すでに死んでしまっている父親が先に着いて待っている場所とはあの世で、ベル保安官が歩み続ける雪の山道とは彼の人生。しかし真っ黒な寒い場所で、暖かい焚き火をして待っていてくれるというところに希望が見えるのです。 タイトルで『No Country for Old Men(ここは老いたる者たちの国ではない)』とイェイツの有名な詩の一節で現実の世界を投げかけて物語を始まらせ、エンディングにはまたフロストの有名な詩を用い、現実の厳しい人生の先にはそれでも希望があるということを伝えているコーエン兄弟。 映画『ノーカントリー』はタイトルとエンディングの完成度も高いまさに傑作です!