2017年7月6日更新

現実は映画よりも奇なり。実際の日本の事件とそれをモチーフにした映画を比べてみた

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冷たい熱帯魚

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実際の事件をモチーフにした邦画を紹介

クライムムービーやホラームービーは現実の世界ではあり得ないような設定で観ている人を恐怖に震え上がらせたり、ドキドキさせてくれます。でも、中には実際に起きた事件をモチーフにした映画があることを知っていますか? 世間を騒がせた連続殺人事件や未解決事件などを題材にした邦画とその元となった事件を紹介します。紹介する映画の中にはあなたが見たことのある作品も入っているかもしれません。 実際の事件を知ったら映画をより深く鑑賞できるでしょう。

女性の表と裏の顔を生々しく表現した『恋の罪』

2011年公開の園子温の『恋の罪』は1997年に起きた東電OL殺人事件を題材にした作品です。 渋谷区にあるラブホテル街の古びたアパートの一室で、頭の持ち去られた女性の変死体が発見されます。事件を担当するのは、エリート女性刑事、和子。 和子は捜査を進めるうちに人気小説家の妻いずみと、東都大学文学部助教授の美津子に辿り着きます。この映画は和子、いずみ、美津子の3人の女性を中心に表と裏の顔が生々しく描かれています。 とにかくセックスシーンが多い作品ですが、自分の欲望のためにもがく姿に切なさと苦しさを感じる作品でもあります。『踊る大捜査線』で有名な水野美紀のヘアヌードシーンがあることでも注目を集めた作品です。

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東電OL殺人事件

1997年に起きた東京電力の女性幹部社員殺人事件で、映画『恋の罪』の題材となっています。 東京都渋谷区のアパートの一室で女性の遺体が発見されたことから事件が発覚。被害者の女性は慶応大学卒業後、東京電力に新卒入社したという誰もが羨むエリートでした。しかし捜査を進めるうちに被害者女性が退社後に売春を行っていたことが判明します。 不法滞在のネパール人が被疑者として逮捕され、一度は有罪判決を受けるも冤罪であることが判明し2012年に無罪判決を得ています。つまり、2017年時点でも犯人は逮捕されていない未解決事件となっています。 マスメディアにより「昼は大企業の幹部、夜は娼婦」など大きく取り上げられ話題になりました。

実際の事件と映画の違い

作家の妻として出てくる主婦、いずみや女性刑事の和子は完全にフィクションの登場人物で、彼女らを取り巻く人間関係も映画オリジナルのフィクションです。 また、殺され方もマネキンと接合されているなど、映画独自の演出がなされています。東電OLという設定も変えられており、キャリアのある女性として大学教授の職業が与えられています。

猟奇殺人事件がモチーフ『冷たい熱帯魚』

2010年公開の園子温の監督作品『冷たい熱帯魚』は気弱な熱帯魚店のオーナー社本信行が凶悪犯罪に巻き込まれてしまう物語です。 小さな熱帯魚店を営む主人公の社本信行は娘の非行がきっかけで大型熱帯魚店のオーナー村田幸雄と知り合い交流を深めていきます。しかし、村田は恐ろしい裏の顔を持っていて、村田の悪行を目撃した社本はついには殺人の共犯者にされてしまいます。 殺人鬼の村田を演じたでんでんの狂気とも思える演技が高く評価され、日本アカデミー賞では最優秀助演男優賞を受賞しています。血まみれで残酷なシーンも多々あるにもかかわらず、それでも目が背けられないほどの熱演ぶりです。

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埼玉愛犬家連続殺人事件

1993年に埼玉県熊谷市周辺で起こった連続殺人事件で映画『冷たい熱帯魚』の元となった事件です。 高級志向のペットショップを経営していた夫婦は異常に高い値段でペットを売りつける詐欺的な商売で顧客とのトラブルを繰り返していました。そして、トラブルが起きた顧客計4人を、知人の獣医師から「犬を安楽死させる」という名目で譲り受けた硝酸ストリキニーネで毒殺しました。 犯人らが被害者の遺体は解体し肉片は川へ捨て骨は灰にして埋めるなどした点から「遺体なき殺人」と呼ばれました。 なお、関根元らは既に死刑が確定しています。

実際の事件と映画の違い

登場人物の社会的地位や性格などは、実際の事件を元にしていると言って間違いないでしょう。事件の犯人も、普段は人当たりもよく、ユーモアのある人物だったと言われています。また、実際の事件にも映画に登場する社本と同じように、脅されて犯行を手伝わされたという男が関わっています。また、映画の中で登場する「ボディーを透明にする」という言葉も、実際に犯人が使っていた言葉です。 映画と事件の相違点としては、犯人夫婦は熱帯魚店ではなく、犬のブリーダーとペットショップを経営していたことでしょう。また知り合った経緯や細かい人間関係、犯人らが迎えるラストなどはフィクションです。

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名探偵金田一シリーズの名作『八つ墓村』

1996年に公開された『八つ墓村』は横溝正史の推理小説「金田一耕助シリーズ」が原作で1938年に起きた津山事件がモチーフとなっています。 天涯孤独の身となった寺田辰弥は、実は自分が400年続く資産家である田治見家の跡取りであることを告げられ、岡山県と鳥取県の県境にある八つ墓村を訪れます。しかし、辰弥が到着して間もなく、恐ろしい連続殺人が起こり始めたのです。 八つ墓村では400年前にも、村に伝わる落ち武者の祟りにより7人が犠牲となった連続殺人事件があり、村人たちは落ち武者の祟りの再来ではないかと恐れ始めます。 連続殺人事件は祟りの仕業か、それとも人間によるものなのか名探偵、金田一耕助が事件に挑みます。

津山事件(津山三十人殺し)

1938年に岡山県苫田郡の貝尾・坂元両集落で起きた大量殺人事件です。 犯人の都井睦雄が2時間ほどの短い時間で改造猟銃と日本刀を使い、村人を次々と殺害しました。この事件での死者は30名、重軽傷者3名の大きな被害が出ました。 都井は村人を殺害後、猟銃で心臓を撃ち抜き自殺。都井は遺書で、結核の疑いがかっかた自分の元を裏切り、去った女性たちへの復讐が殺害動機であるとのべています。 この大量殺人事件は、助けを懇願する老人や女性にも容赦せず手を下した冷酷さから「日本の犯罪史上最大の悲劇」とも言われ、事件をモチーフにしたドラマ、映画、漫画など多くの作品が存在します。

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実際の事件と映画の違い

物語のプロローグとなる「猟銃と日本刀で村民32人を殺害した」というエピソードは「津山三十人殺し」そのものに思えますが、『八つ墓村』は事件をモチーフに使っているのみであり、横溝正史自身が戦時中に疎開していた岡山で聞いた話をきっかけにしたにすぎないのでしょう。 大量殺人などの点は一緒ですが、祟り伝説や登場人物の設定、そして何より、金田一耕助の存在など、フィクションとして大幅に脚色されています。

無責任な大人に振り回された子どもたちの姿を描く『誰も知らない』

『誰も知らない』は2004年に公開された是枝裕和監督の映画作品で、巣鴨子供置き去り事件がモチーフとなっています。 母親のけい子と4人の父親の違う子どもたち明、京子、ゆき、茂は2DKの都内のアパートに引っ越してきました。子どもたちは全員出生届も出されておらず、学校にも行ったことがありません。 アパートの大家にさえも住んでいるのはけい子と長男の明だけと伝えており、他の3人の子どもたちは狭いアパートから外に出ることも許されていませんでした。そんな中、新しい恋人ができたけい子は子どもたちを残し、生活に必要な最低限のお金だけ置いて蒸発。子どもたちだけの生活が始まりました。 頼れる人もいなく、兄弟が離れ離れにならないように1人ですべて抱え込む明の姿と最後の結末に涙が止まらなくなる作品です。

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巣鴨子供置き去り事件

1988年に東京都豊島区で発覚した保護責任者遺棄事件です。 父親の蒸発後、母親も恋人と同棲するために4人の子供を残し育児放棄を1年近く続けていました。母親は14歳の長男に3人の妹たちを託し、時折数万円を送金しているのみ。 1988年4月に長男の友人が泣き止まないという理由で2歳の三女を暴行し、死亡。長男は埼玉県秩父市の雑木林に妹の死体を遺棄しました。 1988年7月にアパートの大家が子どもたちだけで暮らしている事実に気付き警察に通報し、一連の出来事が明らかになりました。育児放棄をした母親は懲役3年、執行猶予4年の有罪判決を受け、三女の殺害に関与した長男も家庭裁判所に一度は送られるも、状況を考慮して長女と次女と同様に養護施設に送られました。

実際の事件と映画の違い

映画には淡い恋物語のような要素もあったり、不登校の中学生・紗希、一緒に野球を楽しむ友達、相談に乗ってくれるコンビニ店員などが登場する点や、兄弟愛が描かれたりするなど、感動を呼ぶような演出がされています。ラストも映画独自のものです。また、兄弟構成も実際の5人兄弟から4人兄弟に変更されています。 実際の事件は、三男が死亡した状態で見つかり、妹が長男の友達に暴行され死亡、死体も遺棄されるなど凄惨なものでした。

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カルト教団の加害者遺族の心の葛藤『DISTANCE』

2001年に公開された是枝裕和の監督作品『DISTANCE』はオウム真理教の地下鉄サリン事件がモチーフになっています。 カルト教団が無差別殺人を起こし、その実行犯4人は教団により殺害されるという一連の事件が起こります。4人の加害者遺族は命日に、遺灰が撒かれた湖に訪れていました。しかし何者かに車とバイクが盗まれ交通手段を失ってしまいます。そのため、同じくバイクを盗まれたという元信者の坂田とロッジで一夜を過ごすことになります。 そこで5人は今まで目を背けていた家族との思い出や家族が起こした事件について見つめ直すことになるのです。 物語は静かに淡々と進んでいきます。加害者家族はどこにでもいるような普通の人たちで現実の世界でも彼らと同じように苦しんでいる加害者家族が存在するのかと改めて考えさせられます。

地下鉄サリン事件

1995年に東京で発生したオウム真理教による毒物を使用した無差別殺人事件です。 1995年3月20日午前8時に地下鉄内で、宗教団体オウム真理教により化学兵器で使用する神経ガス、サリンが散布されました。死亡者13人、重軽傷者約6,300人の大規模なテロ事件で、日本だけではなく全世界に衝撃を与えました。 この事件に関与した教団関係者は全員逮捕され、2017年時点では死刑判決もしくは無期懲役判決が確定しています。被害者や遺族の多くは20年以上経過した今でもPTSDに苦しみ、事件の傷跡は癒えていません

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実際の事件と映画の違い

この映画は事件を直接描いたわけではありません。オウム真理教が起こしたテロをモチーフに、カルト教団の無差別対象殺人に巻き込まれることとなった人々が、その後どう生きるか、ということを問いかけた作品となっています。 静かに、ドキュメンタリーのように進んでいく演出がリアリティを感じさせますが、登場人物などはフィクションとなっています。

映画を観るときはモチーフとなった事件と比べてみよう。

どの映画がどの実在の事件をモチーフに作られていることが分かるとその映画の見方も変わってきたのではないでしょうか? 映画を観ながら事件のモチーフになっているのはどんな点なのか?相違点はあるのか?と考えながら見るのもまた映画を観るのも鑑賞を深める手がかりになるでしょう。 映画を観ることで知らなかった凶悪事件を知ることができたり、事件のことを思い出して同じ過ちを2度と繰り返さないように意識したりするのも大事なことだと思います。 今回紹介した作品を鑑賞するときは事件のことを意識してみてください。