2017年7月6日更新

艶やかだけど切ない、遊郭や娼館を舞台にしている映画が観たい!

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『花宵道中』

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数々の映画の中で描かれてきた遊郭

日本では安土桃山時代から存在していたと言われているのが遊郭です。もっとも、男たちに体を売る娼妓という仕事そのものは、遊女や女郎など様々に名称を変えながら、はるか昔から存在していました。 遊郭は単に色欲のはけ口だったばかりか、そこで働く女たちや彼女たちに群がる男たちの色恋の舞台であり、人間の業や濃密な欲望が渦巻くドラマチックな場所だったと言えるでしょう。 そんな遊郭を舞台にした物語は、これまで数々の映画や小説の中で題材として取り上げられてきました。その中からここでは映画にフォーカスし、その背景や特徴を踏まえながら代表的な作品をいくつかご紹介します。

そもそも遊郭とは?

古来から存在していた娼妓が、治安や風紀を守る理由で遊郭として一画に集められたのが、豊臣秀吉の治世である安土桃山の天正期だったと言われています。「娼館」や「花街」など様々な呼び名がありますが、それらを全部含んだ名称が「遊郭」です。 江戸時代には20以上もの公けの遊郭が全国で隆盛を誇り、大坂新町・京都島原・江戸吉原は三大遊郭と呼ばれていました。とりわけ現在も風俗街として知られる吉原は、規模においても華やかさにおいても際立っており、最盛期には300軒以上が軒を連ねていたと言います。 明治時代には芸娼妓解放令が発布されましたが、戦後1957年に売春防止法が成立するまで「赤線」と呼ばれる公娼制度が事実上存在し続けていました。 そんな長い歴史がある遊郭が描かれた映画を5作品、ここでは時代設定が古いものから順にご紹介しますが、その前にそれら映画の魅力を大きく2つのポイントにまとめてみます。

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魅力その1:遊女たちのきらびやかな衣装や豪華なセット!

江戸時代の遊郭は限られた人間だけの色街に留まらず、文化や流行の発信地と言えるほど華やかな隆盛を誇りました。庶民憧れの娯楽の場所とも言え、廓自体が特殊ながらも豪勢な作りになっていました。当然、映画ではそうした豪華な廓が忠実に再現され、大きな見どころとなっています。 さらに体を売る遊女たちも、ランキングされて美しさや人気を競い、トップに君臨する遊女に至っては「花魁」とも呼ばれ、芸事のみならず教養にも秀でた大変なインテリだったと言います。 彼女たちの貫禄ある佇まいや豪華な衣装は、遊郭を描いた映画の最大の見せ場の一つだと言えるでしょう。

魅力その2:切ない悲恋や波乱の半生が描かれる!

当時の遊女の多くは、貧しさゆえに家族から切り離されその道を選ばざるを得なかった者がほとんどであり、年季奉公の形で抱えた借金を完済するまで酷使されるのが実情でした。性病や流行り病に倒れる者も多く、体を売ることができなくなって死に近づいた遊女は手荒に処分されました。 もちろんその間、遊女たちが好きになった男たちと純粋な恋を貫くなどご法度であり、幸せな夫婦になるなどありえないことでした。特に吉原は出入りできる門が一つしかなく、門番の監視によって遊女は隔離され閉じ込められた状態だったのです。 現代の自由恋愛からは考えられない切な過ぎる悲恋と、女たちの波乱の生涯が描かれる物語に、激しく心を揺さぶられるのは当然です。

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伝説の浮世絵師の秘密と恋を描く『写楽』【1995年】

彗星のごとく江戸中期の画壇に登場し、わずかな期間におよそ140の名作を残した謎の浮世絵師・東洲斎写楽の正体に迫ったミステリータッチのドラマです。写楽を研究していたフランキー堺が企画し、篠田正浩がメガホンをとった松竹創業100年記念作として製作されました。 隠れた才能を版元に見出され、しがない大道芸人から謎の人気絵師となるも、嫉妬した喜多川歌麿の策略で追放される写楽の半生が描かれる一方、吉原の花魁である花里との悲恋が綴られました。写楽と花里は一時逃避行を図るも捕らえられ、花里は場末の女郎屋に売られてしまうという悲劇を迎えます。 写楽こと十郎兵衛を真田広之、花里を葉月里緒菜、歌麿を佐野史郎が演じました。キネマ旬報の年間第5位のほか日本アカデミー賞でも数々の賞に輝くなど高い評価を受け、カンヌ国際映画祭に正式出品されています。

人気漫画を蜷川実花が映像化した『さくらん』【2006年】

吉原の遊郭に育った一人の少女が伝説の花魁になるまでを描いた、安野モヨコの人気漫画を世界的写真家の蜷川実花がメガホンをとり実写映画化したのが『さくらん』です。 8歳のときに吉原にある遊郭「玉菊屋」にやってきたヒロインを土屋アンナ、姉役となって世話を焼いてくれた花魁を菅野美穂、ライバルとなってくる女郎を木村佳乃、結ばれるはずのない恋の相手を成宮寛貴が演じています。 豪華絢爛な花魁に扮する女優陣の艶姿や大胆な濡れ場が見せ場となっているのはもちろんのこと、蜷川実花らしい鮮烈な色彩感覚にあふれた映像、さらに音楽監督を務めた椎名林檎の先鋭的な感性が加わり、独特のヴィヴィッドな世界観にあふれた作品となっています。

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安達祐実の大胆な熱演が光る『花宵道中』【2014年】

江戸時代も終わりに近づいた頃の新吉原を舞台にした宮木あや子のベストセラー小説が原作です。遊女としての長い奉公を終え、まもなく年季明けを迎えようとしていた朝霧が、半次郎という一人の青年と出会って恋に落ちたことで、思ってもみない波乱と悲運に巻き込まれる姿を描きます。 名子役だったときの『家なき子』以来20年ぶりの映画主演となった安達祐実がヒロインの朝霧を熱演しています。初オールヌードの大胆な濡れ場が評判をよんだほか、豪華な花魁姿で毅然と啖呵を切る圧巻の演技が高い評価を受けました。 指名手配の身だった半次郎を若手の淵上泰史が演じ、高岡早紀や津田寛治、友近ら個性あふれる実力派が脇を固めています。

舞台化・ドラマ化もされた五社英雄監督の名作『吉原炎上』【1987年】

斉藤真一の同名小説を原作に、『鬼龍院花子の生涯』や『極道の妻たち』など任侠もので独特の世界を切り開いた五社英雄がメガホンをとったのが『吉原炎上』です。明治に入った吉原の遊郭「中梅楼」を舞台にした花魁たちの壮絶な生きざまを描きます。 ヒロイン的存在の若汐を名取裕子が演じるほか、藤真利子、かたせ梨乃、西川峰子、二宮さよ子が演じる5人の個性的な花魁の群像劇でもあります。若汐の恋相手を演じる根津甚八、小林稔侍、竹中直人、井上純一ら豪華な男優陣に絡む女優陣の体を張った濡れ場も話題になりました。 数々の名シーンや名セリフを生み、熱狂的なファンがいることでも有名な作品です。タイトル通り、廓の炎上シーンが一つのクライマックスになっていますが、実際、吉原は江戸時代から明治にかけて何度も大火に見舞われ、多くの犠牲者を出してきたという史実があります。

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昭和初期の横浜を舞台にした異色ミステリー『花園の迷宮』【1988年】

原作は江戸川乱歩賞を受賞した山崎洋子の同名小説です。昭和初期の横浜真金町の遊郭「福寿楼」を舞台に発生する連続殺人事件を軸に、愛憎入り混じる人間模様が紐解かれます。 昭和17年、「福寿楼」で美貌の女主人・秋元多恵の夫や職人たちが次々と惨殺されるという事件が発生します。多恵に疑惑の目が注がれる中、新たな殺人が起こり、やがて隠された愛憎関係が露になってくるのです。 多恵を島田陽子、2人の若い女中に工藤夕貴と野村真美が扮しているほか、カギを握る男性を内田裕也と名高達郎が演じています。莫大な予算を投じて撮影所に作られたという「福寿楼」の豪華な内装も話題になりました。ストーリーの緻密な構成も高い評価を得ており、のちに斉藤由貴主演でスペシャルドラマ化されています。

遊郭を描いた映画が放つ不思議な魅力!

艶やかでありながら、哀しい女たちの涙と汗によって延々と営まれてきた遊郭。そこには壮絶なまでの人間の生き様があり、それゆえ遊郭を描いた映画や小説が私たちを惹きつけて離さないのでしょう。 ご紹介した映画の他にも、遊郭の末期の形である「赤線」を描いた作品も数々あります。溝口健二監督の遺作『赤線地帯』や川島雄三監督の『洲崎パラダイス赤信号』などは不朽の名作と知られておりおすすめです。 また、姿は変えども今も歓楽街として知られる吉原のほか、全国にある遊郭跡には一部当時の雰囲気を残す建物が残存しているところもあります。映画を観たあと、一度そんなエリアに足をのばして遊女たちの生き様を偲んでみるのもいかがでしょうか?