坂元裕二は5回も鑑賞!是枝裕和が『三度目の殺人』の裏話を披露【『カルテット』との共通点】
是枝裕和×坂元裕二、映画『三度目の殺人』公開記念トークセッション
2017年8月25日、映画『三度目の殺人』の公開を記念して、同作を手がけた是枝裕和監督とドラマ『カルテット』などで知られる脚本家・坂元裕二のトークイベントが開催されました。 この記事では、約1時間にわたる2人の対談の様子を余すとこなくご紹介していきます。(なおこの記事には、ドラマ『カルテット』並びに映画『三度目の殺人』に関するネタバレ要素が含まれています。)
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坂元裕二が是枝監督を質問攻め!『三度目の殺人』と今までの是枝作品の違いとは?
イベント開始早々、坂元は『三度目の殺人』を「見れば見るほど面白くなる映画」と絶賛。2017年8月25日時点ではまだ一般公開されていない本作ですが、彼は既に5回見たそうです。 すっかり作品に魅了された様子の坂元は、本作とこれまでの是枝作品との違いの一例として「食事シーンがほとんどない」点などを指摘しつつ、是枝監督に本作に関する質問を次々と投げかけていきます。
福山雅治と役所広司、それぞれへのオファーの経緯とは?
本作の大きな見所として「福山雅治と役所広司の演技合戦」という点を挙げた坂元は、まずは是枝監督に俳優陣にどういった経緯でオファーしたのかという質問をぶつけました。 これ受けて、是枝監督は企画段階から『そして父になる』でタッグを組んだ福山と「また一緒に何か作りたいと思っていた」という、企画の成立経緯からキャスティングまでのエピソードを明かします。
「福山雅治ともう一度何か作りたい」という監督の思いから企画がスタートした
是枝監督は再び福山と仕事をするためにいくつかの企画を提案したそうですが、そのどれもがうまくいかなかったと言います。 その後『三度目の殺人』のアイディアを閃いた監督は、A4用紙3枚程度にあらすじをまとめた時点で福山に再度オファーをかけたそうです。こうして福山の出演が決定するまでのエピソードが明かされた後、監督は役所の出演経緯を語り始めました。
是枝監督にとっての役所広司とは?出演の経緯は謎の年賀状
これまでも様々な殺人犯の役に起用され本作でも殺人犯・三隅役を演じる役所ですが、坂元は本作で役所が演じる三隅という役は、「これまで(役所が演じてきた殺人鬼)のどれとも違う」と断言。 その上で是枝監督に、殺人犯に役所を起用した理由を尋ねます。
坂元の問いに対して、是枝は役所との仕事は「戦い」であり、「監督としていつかは向き合わなければいけない俳優」と考えていたという思いを語ります。 そして役所を一流の役者として認めているからこそ、「自分が彼にオファーするのはまだ早い」と思っていたと言う心情を吐露しました。
役所に対する思いを語った是枝監督は、彼にオファーした経緯として、2016年の正月に役所から年賀状が届いたというエピソードを明かします。 役所からの年賀状には、手書きで「そろそろですね」とだけ書かれており、監督は「一体何がそろそろなんだ?」と困惑したとのこと。ですがこれも縁だと考え、監督は役所へのオファーを決意したそうです。また、キャスティングの時点で福山が弁護士、役所が殺人犯というのは決定していたといいます。
是枝監督は俳優の「声」をヒントにあてがき
福山、役所のキャスティング経緯を聞いた坂元は、次に是枝監督にとっての「(演じる俳優を想定しながら台詞を執筆する)あてがき」について言及。これを受けて、是枝監督は少し考える様子を見せつつも、自分の考えるあてがきとは「声」であると説明します。 是枝監督は大まかに構成した脚本を読み、それを演じる俳優の声がイメージ出来た時点であてがきをスタートさせ、脚本の詳細を詰めるとのこと。ただし、監督自身も何がきっかけでそのイメージが固まるかは定かではなく、この点に関しては感覚的な部分が大きいそうです。
「あてがき」の話題を続ける中で、坂元と是枝は本作のキャストたちについても言及。 是枝は福山本人のことを「明るいエンターテイナー」とした上で、自身が福山を想定して脚本を執筆すると、どんどん役が嫌な奴になってくると言う裏話を明かします。その上で、実際に演技を見ていても福山は相手を蔑すむような演技が上手いと、彼を絶賛していました。
福山&是枝を翻弄した役所広司の怪演
二人の次の話題は役所広司の怪演について。役所演じる三隅は、本当に殺人を犯したのか犯していないのかと言う点が曖昧な人物で、役所は徹底して三隅がミステリアスに見えるように演じていたと言います。 三隅が本当に罪を犯したかどうかは是枝監督も明確には設定していないため、役所の芝居を見るたびに「役所は三隅を殺人犯として演じているのか、冤罪の人間として演じているのか」がわからなくなっていったとのこと。 是枝はイベント中、折に触れて役所が自身の想定を超える芝居を見せてくれたと絶賛。思わず役所の付き人に「なぜ役所さんはあんな芝居が出来るんですか?」と尋ねてしまったと言い、付き人からは「誰よりも長く役のことを考えているからです」との返答があったそうです。
是枝監督はもちろん、福山雅治も役所の芝居に翻弄されたといいます。 撮影中、役所がどんな意図で芝居をしているのかと混乱した福山は、撮影半ばで思わず「役所さん、本当は殺した(という設定で演技している)んですか?」と尋ねてしまったそうです。結果、役所には「僕もわからないんです」とはぐらかされてしまい、福山は劇中のキャラクター同様、役所に翻弄される事になったといいます。
福山&役所の本読みによって脚本が大きく変更
『三度目の殺人』では当初、福山演じる弁護士と役所演じる殺人犯が対峙する接見の場面が5シーンほど想定されていたそうです。 もともとは少な目に設定されていた二人が対峙する場面ですが、福山と役所の初めての本読みを見た是枝監督は「ここが映画の縦軸になる」と直感。二人の芝居に合わせてラストも含めて台本を変更していき、結果として二人が対峙する場面は増えていったそうです。
二人の話題は、坂元のドラマ『カルテット』『それでも、生きてゆく』へ
役所広司と松たか子は似ている?ミステリアスな役を演じた俳優たちの共通点
二人の会話は一時『三度目の殺人』から離れ、坂元が脚本を担当した『カルテット』で松たか子が演じた巻真紀というキャラクターのエピソードへと移行します。 巻は『三度目の殺人』の役所同様、ミステリアスな女性。是枝監督は、坂元が松に対してどの程度キャラクターの事を説明していたのかと尋ねると、坂元は「(夫を)殺してはいない」と言う点のみを伝えていたと言います。その他の詳細な設定は伝えていなかったとのこと。 役所が是枝に役柄についての質問をしなかったのと同様に、松が坂元に何かを尋ねてくることもなかったそうです。
『それでも、生きてゆく』が『三度目の殺人』に与えた影響とは?
松を舞台女優として高く評価しつつ、これまでの松のドラマでの演技には満足できなかったという是枝も、『カルテット』での松の演技は「非常に良かった」と絶賛。更に同作と『三度目の殺人』の共通点をあげた後、映画『三度目の殺人』が坂元が脚本を手がけたドラマ『それでも、生きてゆく』の影響を受けている事を告白。 特に『それでも、生きてゆく』で風間俊介が演じた三崎文哉という幼女を殺した殺人犯や、殺人者に対する坂元の視点などは、『三度目の殺人』のシナリオや三隅のキャラクターにも影響を与えているそうです。
坂元と是枝の両名が広瀬すずを絶賛!三隅は役所と広瀬の共同作業で縁取られた
互いの作品についての言及を続ける二人のトークは終始盛り上がり続けましたが、イベントはこの後、会場の参加者からの質問タイムへ。 「映画を通して何を伝えたいか?」という質問に対し、是枝監督は「一番難しい質問」と言いつつ「あまり考えたことはなく、個々の作品を通して、何かを問うてみたい」と返答。三度目の殺人に関していうと、「人は人を裁けるのか?」という点を描きたかったそうです。 その他にも「お金を貰えなくても作品を作り続けるか?」といった質問に対して、坂元は「お金がどうこうという事よりも、俳優さんに演じてもらうのが好きなので、形にならないのであれば多分書かない」と答えていました。 また、イベントの終了間際、坂元は同作のもう一人の重要なキャラクターとして広瀬すず演じる被害者の娘の存在を挙げ、三隅と言うキャラクターは役所と広瀬との共同作業で成り立っていると指摘。広瀬に関しては、坂元、是枝の両名が賞賛の声を挙げていました。
映画『三度目の殺人』は2017年9月9日に全国公開!
このように、とにかく俳優陣の好演が絶賛されている映画『三度目の殺人』は、2017年9月9日から公開です!