2019年9月5日更新

『ゲット・アウト』の謎をネタバレ解説!なぜフラッシュで鼻血が出た?【ジョーダン・ピール監督】

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人種差別をテーマにした異色のホラー作品『ゲット・アウト』を解説!【ネタバレ注意】

米国社会に潜む黒人差別問題をテーマにした異色のホラー映画『ゲット・アウト』。 自らも黒人であり、コメディアンとして活躍しているジョーダン・ピール監督による本作は、低予算ながらも、アメリカでは公開初登場で興行収入ランキング1位を記録。第90回アカデミー賞では主要4部門にノミネートし、そのうち脚本賞を受賞するという快挙を成し遂げました。 ホラー映画でありながらコメディタッチを取り入れ、多くの伏線を散りばめた社会風刺色の強い作品となっています。 この記事では、それらの伏線とその回収を解説し、そのなかから監督が本作に込めたメッセージを紐解いていきます。 ※この記事には作品の結末までのネタバレがあります!未鑑賞の方はご注意ください。

『ゲット・アウト』のあらすじ【結末までネタバレ!】

ゲット・アウト
© Universal Pictures

映画の主人公は黒人のカメラマン、クリス。彼は白人の恋人ローズの実家、アーミテージ家へ挨拶に行くことになります。彼は、白人の家庭を訪れることを不安に思っていました。しかしローズの両親からは、猛烈な歓迎を受けて一安心。 彼女の家には黒人の使用人ジョージーナと庭師のウォルターがいました。夜になり、クリスは彼らが庭を全力疾走したり、窓ガラスに映った自分の姿を見つめたりと奇妙な行動をとっているのを目撃します。 翌日、クリスはローズの亡き祖父を称えるパーティに参加しますが、招待客は白人ばかり。彼らはやたらとクリスを褒め、身体に触ったり、ゴルフのスウィングフォームを見せろ、などと不可解なことばかり言います。 その中に黒人の青年ローガンを見つけ、思わず携帯で彼の写真を撮ったクリス。するとローガンは鼻血を流し始め、クリスに向かって「出ていけ!」と襲いかかってきました。

ゲット・アウト
© Universal Pictures

不可解な出来事がつづき、なにかがおかしいと感じたクリスはローズにもう帰ろうといいます。そのころ庭では不可解なオークションが行われていて――。

不可解な出来事がつづき、なにかがおかしいと感じたクリスはローズにもう帰ろうといいます。そのころ庭では不可解なオークションが行われており、盲目の画商ジムが商品を落札しました。 クリスがローガンの写真を友人のロッドに送ると、彼はローガンは行方不明のアンドレという男ではないかと疑います。荷造りをつづけるクリスは、ローズの部屋でローガンを含む複数の黒人男性とジョージーナらと彼女が親しげに映った写真を発見。ローズの行動に疑いを持ったクリスは急いで家を出ようとしますが、ローズは彼に車の鍵を渡さず、彼女の弟ジェイミーに襲いかかられ、母ミッシーに催眠術で眠らされてしまいます。 クリスは目を覚まし、自分が椅子に縛り付けられていることに気がつきます。そこで彼は、黒人の肉体に白人の脳を移植して永遠の精神・生命を手に入れるという手術を、アーミテージ一家が祖父の代からつづけてきたことを知ります。ローズは黒人を恋人として騙し、その材料にしていたのです。ジムは視力を取り戻すためクリスの肉体を落札したのでした。

ゲット・アウト
© Universal Pictures

本性を現し始めた一家。果たしてクリスはどうなってしまうのか!?

催眠術の合図となるカップをかき混ぜるスプーンの音を聞かないため、クリスは耳に椅子の肘掛けから取った綿を詰めました。彼が眠っていると思いこんで拘束をときに来たジェレミー、ミッシー、そしてローズの父ディーンを倒して自力で脱出を試みます。 車で逃げようとするクリスに、ローズの祖母の脳を移植されたジョージーナと、祖父の脳を移植されたウォルターが襲いかかります。 車内でクリスともみ合いになったジョージーナは木にぶつかって死亡。そこにローズとウォルターが追いつきますが、クリスのカメラのフラッシュによって一瞬我に返ったウォルターは、クリスではなくローズを向かってライフルを撃ちます。しかしローズの祖父の意識が復活すると、孫娘を撃った罪悪感から自分の頭を打ち抜いてしまいました。 撃たれたものの生きていたローズは、ライフルでクリスを撃とうとしますが、彼は抵抗してローズの首を絞めます。しかし彼女を殺すことはできず手を緩めると、そこへパトカーに乗ってロッドが現れます。こうしてクリスはアーミテージ家を脱出し、無実の罪で裁かれることもありませんでした。

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【ネタバレ】伏線の山!印象的な「鹿」が意味するものは?

映画冒頭でローズの実家に向かっていたクリスたちは、道路で誤って鹿を撥ねてしまいました。 このシーンで死んでしまった鹿はブラックバックという種類のメスです。「Black Buck」には「粗暴で白人女性を襲う(という偏見にもとづいた)黒人男性」という意味のスラングもあります。また、鹿(Deer)はスラングで「彼女をつくろうとして失敗する男」という意味もあり、この時点ですでにクリスの運命が暗示されています。

【ネタバレ】「フラッシュ」の効果とは?現代の人種差別のメタファーを解説!

ゲット・アウト
© Universal Pictures

本作の主人公クリスの職業はフォトグラファー。劇中ではカメラの「フラッシュ」が重要なアイテムとして機能します。

アーミテージ家やその友人である白人の脳にすげ替えられた黒人たちが、フラッシュで一瞬だけ正気に戻る様子がたびたび描かれています。ここでポイントなのは、これが“スマートフォンのカメラ機能の”フラッシュであるということです。 2014年、NYで黒人男性が彼を逮捕しようとした白人警官に押さえつけられて窒息死するという事件が起こりました。その一部始終が通行人によってスマートフォンで撮影され、裁判の証拠になったのです。それ以降アメリカでは、似たような事件の抑止力として注目されるようになりました。 この描写はそういった現代の差別に対する抗議活動のメタファーになっていると考えられます。

『ゲット・アウト』は人種差別がテーマ!監督が伝えたかったこと

ゲット・アウト
© Universal Pictures

人種間の対立と共存をテーマにした本作が面白いのは、「差別主義」の描写が違和感とミスリードを誘い、すべてが明らかになったとき、観客も自分の中にある差別意識に気付かされるところです。 たとえば映画冒頭の鹿を轢くシーンでは、運転していたのはローズだったにもかかわらず、駆けつけた白人警官はクリスに免許証の提示を要求し、ローズはそれに反発しました。アメリカでは、こうした状況におかれることはよくあることらしいのですが、ローズの真意を知ったとき「よくある」と思っていた自分の差別意識に気付かされるのです。 このシーンだけを観れば、ローズが人種差別に反対しているとみることができます。しかし実際は、これから行方不明になる予定のクリスと自分が一緒にいたことが警察の記録に残ってしまうことを懸念しての行動だったのです。 監督のジョーダン・ピールは、黒人と白人の両親を持つ自身のアイデンティティを活かして、そのどちらの人種も興味を持ち、ショックを受ける内容にしたいと考えていたのだとか。 人種差別はアメリカでは切実な、非常に身近な問題で、リベラルを自称する人々や有色人種の人々は、自分は差別主義者ではないと考えています。しかし、本作に大量に仕込まれた伏線やミスリードが、観客の無知や差別的な考えを浮き彫りにし、映画の内容以上に自分の隠れた差別意識にショックを受ける仕掛けになっています。 それに気づかせること自体が監督の目的でした。

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『ゲット・アウト』のキャストは?

クリス・ワシントン/ダニエル・カルーヤ

ゲット・アウト
© Universal Pictures

主人公クリスを演じるのはイギリス出身のダニエル・カルーヤです。ウガンダ移民の家系を持つ黒人俳優です。 イギリスのドラマや舞台を中心に活躍しているカルーヤは、本作の出演で初めて国際的な注目を浴びたと言っても良いでしょう。 2013年に『キック・アス/ジャスティス・フォーエバー』にブラック・デス役で出演。2018年には『ブラックパンサー』に出演しました。

ローズ・アーミテージ/アリソン・ウィリアムズ

クリスの恋人で、不気味な使用人達と暮らしている両親を持つローズ。演じるのはアメリカ出身の女優アリソン・ウィリアムズです。 NBCニュース番組の司会者である父と、テレビプロデューサーの母の間に生まれたアリソンは、イェール大学在学中からコメディ劇団に所属し、女優として活動を開始。 2010年に彼女がYoutubeに公開したビデオが話題になり、2012年から放送されたHBOのテレビドラマシリーズ『GIRLS/ガールズ』でマーニー役を演じ注目されました。

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『ゲット・アウト』の監督はコメディアンのジョーダン・ピール

Ray Parker Jr. Is back!!!! #keyandpeele season 4

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本作を監督したのはジョーダン・ピール。ニューヨーク出身で、アフリカ系アメリカ人の父と白人の母の間に生まれました。 ピールはアメリカで人気のコメディ番組『キー・アンド・ピール(原題)』や、『マッド・ティーヴィー(原題)』などで知られるコメディアンです。本作はそんな彼が初めてメガホンをとったデビュー作となっています。 ホラーとコメディに共通点を感じていたというピール。長年ホラー作品を監督してみたかったそうで、コメディアンとしての経歴を活かした作品作りになったようです。また、黒人である彼自身の個人的な経験もストーリーに盛り込まれているそうです。

『ゲット・アウト』の続編が製作決定!?

なんと、今作の続編を監督・脚本を手がけたジョーダン・ピールが検討中とのこと。彼は本作について「世界観が好きだし、さらに語るべき物語がある」と語り、意欲的な姿勢をみせました。 差別問題を浮き彫りにさせる映画が近年急増する中、『ゲット・アウト』の続編はどのようなストーリーになるのか、そして公式に製作決定となるのか、楽しみですね。追加情報を待ちましょう。

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『ゲット・アウト』のトリビアを紹介

メインテーマの歌詞はスワヒリ語

『ゲット・アウト』のメインテーマを作曲したのはアメリカ人ミュージシャンのマイケル・エイブルスです。ブルースやジャズの要素を取り入れた、オーケストラ曲の作曲を得意としています。 そんなマイケルが作曲した本作のメインテーマの歌詞は殆どスワヒリ語で歌われています。歌詞の中で唯一”ブラザー”とう単語だけ英語が使用されていますが、この言葉は黒人の人々にとって特別な意味を持っている言葉でもあります。 ちなみに、スワヒリ語の歌詞の内容は、黒人の使用人たちの「助かるためにはここを逃げ出せ!」というクリスに向けたメッセージになっているそうです。

クリス役のキャスティング秘話

本作の主人公クリス役として、ピールは当初コメディアン兼俳優として国際的にも有名なエディ・マーフィーの起用を考えていたそうです。 しかし、単純に主人公の年齢設定からかけ離れているという理由で、そのアイデア無くなったそうです。その結果、56歳のエディー・マーフィーから26歳の若きダニエル・カルーヤへとチャンスが回ってきたのです。

急遽変更になった映画のロケ地

映画の撮影は、アメリカはアラバマ州のフェアホープとモビールという湾岸都市で行われました。しかしこのロケ地が決定したのは、撮影開始の直前だったそうです。 ピールは最初、アラバマ州ではなく大都市のロサンゼルスで撮影を行う予定だったそうです。しかし予算の問題で急遽ロケ地を変更することになってしまいました。 しかし、その結果作品がより素晴らしいものに仕上がったそうで、実際ロサンゼルスで撮影していたら全く違う作品になっていただろうとピールはコメントしています。

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ピールが映画を製作した背景は?

ピールは本作の脚本も兼ねています。彼が脚本を執筆していた時期は、ちょうどアメリカ初の黒人大統領バラク・オバマが誕生、任期の第一期を努めていたときでした。 もう人種差別など過去の出来事と言った雰囲気が漂っていた時期だったので、ピールは執筆中の映画はウケないと思い、ほぼ自分のためだけに脚本を書いていたそうです。 しかし、その後も黒人への暴力事件は絶えることなく、さらに2016年には差別的な発言をつづけるトランプが大統領選に勝利。ピールの思いは、今こそ人種差別がテーマの作品を発表するべきときだという確信に変わっていきました。

解説を読めば『ゲット・アウト』がもう一度深く楽しめる!

ゲット・アウト
© Universal Pictures

不気味な雰囲気と巧妙に仕組まれた伏線で、映画の内容はもちろん、自分自身の価値観にまでショックを与えるサプライズ・スリラー『ゲット・アウト』は、なにも予習せずに観ても楽しめますが、アメリカの黒人差別の歴史や現状を知っておくと、さらに目を見張る作品です。 この記事では解説しきれなかった謎や、違和感の正体もありますので、もう一度作品を観て確認してみてはいかがでしょうか。