【ネタバレ】映画『アス』徹底解説 瓜二つの“わたしたち”に襲われる真の意味とは?
映画『アス』を徹底解説 一番恐ろしいのは“わたしたち”?
初監督作品『ゲット・アウト』(2017)でアカデミー賞脚本賞を受賞し、一躍注目を浴びたジョーダン・ピール。彼の最新監督作『アス』が全米で2019年3月22日に公開され、初登場ナンバー1ヒットを記録しました。 批評的にも称賛を集めており、米映画レビューサイトRotten Tomatoesでの批評家からの評価は、2019年9月6日時点で脅威の94%を記録しています。 そんな高評価続出の『アス』が2019年9月6日、いよいよ日本公開になりました!この記事では、本作のあらすじからキャスト、監督、作品のメッセージや謎に迫っていきます。 ※映画本編のネタバレを含んでいます。作品を未鑑賞の方は、ご注意ください。
異色ホラー『アス』のあらすじ
1986年。両親とともにサンタクルーズの遊園地を訪れた少女アデレードは、ビーチに建てられたミラーハウスに迷い込みます。そこで自分にそっくりな少女と出会った彼女は、ミラーハウスでのトラウマから失語症になってしまいました。 その後、成長したアデレードは失語症を克服し結婚して二児の母に。ある日家族とともに再びサンタクルーズのビーチハウスを訪れた彼女でしたが、過去のトラウマからいまひとつ休暇を楽しむことができません。そんななか、自分たち一家にそっくりな顔かたちをした4人組が現れアデレードたち一家は恐怖のどん底に突き落とされます。 いったい彼らは何者なのか?彼らの目的とはーー?
監督は『ゲット・アウト』のジョーダン・ピール
『アス』の監督・脚本を務めるのは、コメディアン出身で2017年のホラー映画『ゲット・アウト』で映画監督デビューを果たしたジョーダン・ピールです。 白人の恋人の実家を訪れた黒人青年に降りかかる恐怖を描いた前作『ゲット・アウト』は、無自覚な人種差別を鋭い社会風刺で切り取りながら、ホラーとコメディを見事に融合させたとして批評的にも興行的にも大成功をおさめました。 『アス』を“報酬に関係なく好きで製作した作品”と語るピール監督。黒人一家を主人公としながらも、「人種とは関係のない普遍的なストーリー」としています。本作は恐怖の対象として「ドッペルゲンガー」を描いており、「自分こそが自分の最悪の敵」がテーマなのだとか。 本作もホラーを通して語られる社会的なメッセージに注目が集まります。
映画『アス』の主要キャストを紹介
オスカー女優ルピタ・ニョンゴが主演を務める
本作の主演を務めるのは、2013年に『それでも夜は明ける』で長編映画初出演にしてアカデミー賞助演女優賞を獲得したルピタ・ニョンゴ。 その後2015年からは「スター・ウォーズ」続3部作にマズ・カナタ役で声の出演をしました。2018年には『ブラックパンサー』で主人公ティ・チャラの元恋人・ナキアを演じてマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)の仲間入りを果たすなど、ますます活躍の幅を広げています。 本作でアデレードと彼女のドッペルゲンガーを演じたニョンゴの演技は絶賛され、再びその実力を見せつけています。
そのほかキャストも実力派が集結
ニョンゴ演じるアデレードの夫、ゲイブ・ウィルソンを演じるのは『ブラックパンサー』のエムバク役などで知られるウィンストン・デューク。その娘ゾーラにはシャハディ・ライト・ジョセフ、息子のジェイソン役にはエヴァン・アレックスと注目の子役が起用されています。 また、アデレードたちの友人であるテイラー夫妻を演じるのは『ハンドメイズ・テイル 侍女の物語』のエリザベス・モスとコメディアンのティム・ハイデッカー。 実力派ぞろいのキャストのパフォーマンスにも注目です。
『アス』のテーマやメッセージを解説【ネタバレ注意】
“わたしたち”の正体、「テザード」とは
本作に登場するキャラクターたちのドッペルゲンガーは「テザード(Tethered)」と呼ばれています。
「テザード」は「つながれた者」という意味で、地上の世界にいる人間と魂を共有するクローンです。 アメリカ政府は実験によって人間のクローン(肉体)を作ることに成功しましたが、魂までは作ることができませんでした。そこでクローンのもとになった人間と、作られた肉体をつないだのです。実験の失敗により、放棄された施設ごと地下に閉じ込められたテザードたちは、本体の動くとおりに動く、意志のない操り人形でした。 しかし、幼いアデレードとミラーハウスで出会った彼女のクローン、レッドは知恵をつけ、テザードたちが地上の人間たちと入れ替われるように導いていました。
タイトル『アス』に込められた本当の意味とメッセージ
本作のタイトルは「わたしたち」を意味する「アス(Us)」ですが、このつづりから、もうひとつの意味を考えてみると、US=United States、「アメリカ」が思い浮かびます。
アデレードがレッドに「あなたは何者?」と訊いたとき、彼女は「私たちはアメリカだ」とはっきり答えていますが、いったいそれはどういう意味なのでしょうか。 アデレードの“影”であるレッドは、これまでの自分の悲惨な人生を語ります。彼女はアデレードと同じように結婚し、2人の子供を授かっていますが、それでしあわせというわけではないようです。アデレードは、夏休みに家族で貸別荘で過ごすことができるほど裕福ですが、一方レッドはアメリカの貧困層の象徴なのです。 本作は富裕層に対する貧困層の復讐を描いています。あなたが豊かさを享受している影で、誰かが不幸になっているとしたら?その誰かが目の前に現れたら?と観客に問いかけます。
「ハンズ・アクロス・アメリカ」
本作の冒頭で登場する「ハンズ・アクロス・アメリカ」は、1986年に慈善団体USAフォー・アフリカが主催したイベントです。この団体の活動としては、マイケル・ジャクソンやブルース・スプリングスティーンなど大物アーティストが集結しアフリカの飢餓を救うための募金を呼びかけた「ウィー・アー・ザ・ワールド」が有名です。 彼らがアメリカ国内のホームレスや貧困層を救うために呼びかけたのが、「ハンズ・アクロス・アメリカ」です。これは指定の金額を募金した人々で手をつなぎ、アメリカ大陸を太平洋から大西洋までつなげよう、という壮大な企画でした。
しかし、結果は大失敗。募金は思うように集まらず、アメリカ大陸を「善人の輪」でつなぐことはできませんでした。これは、いかにアメリカの人々が国内の貧困に対して興味がないか、見て見ぬふりをしているかを物語っています。 本作の終盤、テザードたちが手をつないだ列が延々とつづいている風景が映されます。これまで無視されてきた者たちが無視してきた者たちに復讐を果たし、今度こそアメリカ大陸を端から端までつないだのかもしれません。
エレミア書 11章 11節とは
作中でたびたび登場する11:11という数字。アデレード一家が最初にテザードたちに襲われたのも午後11:11でした。この数字がいちばん最初に登場するのは、幼いアデレードがミラーハウスに向かう途中のシーンです。曲がり角に立っていた男性が持つダンボールに「エレミア書 11章 11節」と書かれていました。
旧約聖書のエレミヤ書は三大預言書と呼ばれるもののひとつです。11章11節の内容は、神の言いつけに従わなかったエルサレムの人々に対して「お前たちの祈りは聞かない」と神が宣言する、というもの。 なかなか強烈な内容ですが、それまで地下のテザードたち(貧困層)の存在に気づかず安穏と暮らしてきたアデレードたちは、立派な「罪人」なのです。
ウサギが暗示するもの
テザードたちが暮らしていた地下の施設には、実験に使用されていたと思われる無数のウサギが放し飼いにされていました。英語圏でウサギといえば、日本でのネズミと同じく繁殖の象徴ですが、本作ではもっと他の意味もありそうです。
ピール監督へのインタビューによると、ウサギはアリスを地下の世界へ誘った存在であり、イースター(キリスト教の復活祭)でたまごを運んでくる存在でもあるとのこと。また彼は、本作は「(デザードにとっての)救世主が現れる物語」と語っており、これはレッドのことと思われます。 しかし一方で、アデレードたちの家に侵入したレッドは「私たちはウサギを生で食べていた」とも語っていました。旧約聖書では、ウサギは「汚れた生き物、食べてはいけない生き物、祝福を受けなかった生き物」とされています。これはまさにテザードたちを象徴しているのではないでしょうか。 キリスト教でもともと「祝福されなかった」とされていたウサギが、新約聖書の時代になるとキリストの復活を象徴するものになったように、レッドたちテザードは日の目を見ることになったということでしょう。
「自分の最悪の敵は自分自身」
ジョーダン・ピールは本作のテーマを「自分の最悪の敵は自分自身」と語り、ドッペルゲンガーに着想を得て脚本を書き上げました。その真意をどこにあったのでしょうか。 映画冒頭、アデレードたちは中産階級のいわゆる「普通の」家族でした。しかし、自分たちの生活を脅かすものが現れると彼らの態度は豹変します。
アデレードたちは自分や自分の子供に瓜二つの相手であっても、なりふり構わず殺そうとします。とくに家を破壊され、路上でテザードと死闘をくり広げる彼らは、相手となんら変わらない野蛮さや粗暴さ、狡猾さを見せました。彼らは裕福であることが「善人」であるための条件だったのです。 レッドはアデレードに「私たちも人間だ」と言いました。確かに、地上にいた「善人」たちと地下からやってきたテザードには、育った環境以外にはなにも違いはなかったのかもしれません。
アデレードの秘密、驚愕のラスト……!
地下での死闘の末レッドを殺し、ジェイソンを助け出すことに成功したアデレード。夫ゲイブや娘ゾーラと合流した彼女は、救急車を運転しながら幼い日のミラーハウスでの出来事を思い出します。 実はあのとき、レッドとアデレードはすでに入れ替わっていたのでした。 ミラーハウスでのトラウマから失語症になったと思われていたアデレードでしたが、実際は彼女はそれまで地下で暮らしていたレッドだったので、話すことができなかったのです。また、ひび割れた声とはいえ、テザードのうちレッドだけがまともに話すことができたのも、彼女がかつて地上で暮らしていたアデレードだったから、と考えることができます。 豊かな人生を手に入れ、それを守る事ができたレッドは思わず笑みをこぼします。それを助手席で見ていたジェイソンは、母の秘密を知っていたのでしょう。しかし彼はお面をかぶり、「見て見ぬふり」をしたのです。
『アス』のトリビアを紹介
監督とルピタ・ニョンゴの共通言語?
米エンターテイメントサイトJoBloによると、ジョーダン・ピール監督は、ホラー映画出演経験のないルピタ・ニョンゴに撮影中の「共通言語」となるよう10本のホラー映画を観させたのだとか。 その10本とは、『愛と死の間で』(1991)、『シャイニング』(1980)、『ババドック〜暗闇の魔物〜』(2014)、『イット・フォローズ』(2014)、『箪笥』(2003)、『鳥』(1963)、『ファニーゲーム』(1997)、『マーターズ』(2008)、『ぼくのエリ 200歳の少女』(2008)、『シックス・センス』(1999)です。 なお、ニョンゴは『愛と死の間で』と「ぼくのエリ」は気に入ったとインタビューで語っていますが、逆に『マーターズ』は好きではなかったようです。
タイラー家のスマートスピーカーの名前が……
アデレードたちの友人であるタイラー家は、彼らよりもさらに裕福な生活をしているようです。別荘は照明も音響もスマートスピーカーでコントロールされています。スマートスピーカーには、名前が着けられている場合が多く、日本でよく知られているのは「アレクサ」ではないでしょうか。 タイラー家のスマートスピーカーの名前は「オフィーリア」。皮肉なことにギリシャ語では「助けて」という意味になります。
『アス』は身近な恐怖が世界を侵食する名作ホラー
人種差別をテーマとした初監督作品『ゲット・アウト』が成功し、ジョーダン・ピールは一気に注目を集める存在となりました。最新作『アス』は、前作よりもさらに政治的なテーマを取り上げており、世界中の人々に身近な恐怖を感じさせるでしょう。 この記事では紹介しきれませんでしたが、本作では前作よりもさらに細かな伏線やメタファーが散りばめられ、期待に充分に応える作品に仕上がっています。 鬼才監督&実力派女優が贈る注目のホラー映画『アス』。全米大ヒットを記録した本作は必見!最大の“恐怖”と“驚愕”の結末が待ち受ける、『ゲット・アウト』を凌ぐ新たな悪夢があなたに襲い掛かります。