【ネタバレ解説】『へレディタリー/継承』伏線とともに結末を徹底考察!悪魔ペイモンとはどんな存在?
2020年には長編映画2作目『ミッドサマー』が公開され、さらなる衝撃ホラー映画を生み出したアリ・アスター監督。彼の長編デビュー作にして傑作の呼び声高い作品が『へレディタリー/継承』です。 物語は家族の崩壊をテーマとし、グラハム一家の悲劇を描いたもの。初めから数々の伏線が張り巡らされ、それを回収していくうちに次々仕掛けられた罠に打ちのめされていきます。 この記事では謎に包まれたストーリーを、伏線を回収しつつネタバレありで一つずつ考察。また、タイトルに隠された意味や、アリ・アスター監督が意図したことなども解説します。 ※この記事には、『へレディタリー/継承』の内容に関するネタバレが含まれます。作品を未鑑賞の方、ネタバレを知りたくない方はご注意ください。
『へレディタリー/継承』のあらすじ【ネタバレなし】
ミニチュア模型のアーティストであるアニー・グラハムは母エレンを亡くし、夫スティーブンと息子ピーター、そして娘チャーリーを伴って葬儀に出席します。 精神病を発症していたエレンとは仲が良いとはいえない母娘でしたが、アニーはその死に動揺し、グループ・カウンセリングに通うように。そこで父や兄も精神病を患い亡くなっていることを告白し、自身も夢遊病に悩まされていたことを語ります。 ある晩、高校の友人宅でのパーティーに行くために母の車を借りたいと頼むピーターに、アニーはチャーリーを連れて行くことを条件に許可します。ところがチャーリーはそこでアレルギーを発症するナッツ入りのケーキを食べてしまい……。
【ネタバレ注意!】『ヘレディタリー/継承』はどういう話だった?タイトルの意味とは?
タイトルになっている「ヘレディタリー(Hereditary)」は、「遺伝性の」「親譲りの」といった意味を持つ言葉です。本作では祖母エレンの悪魔崇拝の継承だけでなく、精神疾患の遺伝もこのタイトルに込められています。 精神疾患については病気そのものが遺伝するのではなく、発症しやすい「体質」が遺伝すると言われています。アニーの父が患っていたとされる統合失調症をはじめ、双極性障害や発達障害などが比較的遺伝のリスクが高いそうです。 劇中の出来事はすべて、悪魔・ペイモンを崇拝するエレンが、その召喚の儀式のために仕組んだことでした。彼女はこの計画のためにグラハム家を利用したのです。
エレンはペイモン崇拝者たちの長であるクイーンとして君臨しており、その血筋を受け継ぐものがチャーリーの魂であり、ピーターの体でした。ペイモンはクイーンの血を引く男性の体にしか宿らないため、チャーリーの体は捨てられ、ピーターが狙われたのです。 グラハム家はこの二つから逃れられない運命を背負っていたことがタイトルに示されていたわけですが、アニーはその運命に抗っており、ピーターが生まれた時にエレンが家族を操ろうとするため「不干渉ルール」を決めて息子から遠ざけています。アニーの兄もエレンに操られ、ペイモンを招き入れられそうになったため自殺に追い込まれたのでした。
映画『ヘレディタリー/継承』を結末までネタバレ!
ここからはストーリーを冒頭から振り返り、隠された伏線が張られたシーンを一つずつ解説していきます。ネタバレ情報を含むますので、未鑑賞の方はご注意ください!
エレンの葬儀に集まった人々は……
冒頭のエレンの葬儀には、すでに本作の重要な要素である悪魔ペイモンの象徴が登場しています。 弔辞を述べるアニーが胸につけているネックレスには、ペイモンの紋章が。これはエレンの形見のネックレスです。 さらにアニーは弔辞の中で「見知らぬ人がたくさん出席している」と述べています。この人々は、映画の最後の方で登場する、ペイモンを崇拝するカルト集団の信徒たちと思われます。
チャーリーとチョコレートケーキが悲惨な事故を招く
エレンの葬儀中でも絵を描いたり、チョコレートを食べたりと気ままに行動する少し変わったチャーリー。これらのシーンでチャーリーの“普通ではない”感じが分かり、さらに板チョコを食べるチャーリーに父が言う「ナッツは入ってない?」という言葉に、彼女がナッツアレルギーであることもすでに示唆されています。 それを踏まえて、パーティーでのシーンを見てみましょう。チャーリーがチョコレート好きということ、そしてケーキに大量のナッツが入るであろうシーンも挿入され、その後起こることを何となく観ているわれわれに予見させているのです。 ところが、われわれの想像をはるかに超えてくるのがアリ・アスター監督!ピーターはアレルギー発作を起こしたチャーリーを慌てて車に乗せ、夜道をひた走ります。しかしチャーリーは息苦しいため窓から顔を出したところ電柱にぶつかり、頭部がもぎ取られてしまうのです。
自責の念に苦しむピーターと過去の記憶
衝撃的な出来事にショックを受けたピーターはそのまま事故現場から走り去って家に帰り、両親にも何も言わずに急いでベッドへ。 翌朝何も知らないアニーが車に乗り込むと、そこには頭部のないチャーリーの死体がありました。 このことが、アニーとピーターの関係を悪化させていきます。元々アニーは自分が母親になれるのかという疑問を抱きながらピーターを産んだようで、ピーターに面と向かって「産まなければよかった」とさえ言い放ちます。 さらに夢遊病だったアニーに、ピーターがシンナーをかけられ火をつけられそうになった過去も明らかに。チャーリーを死なせたことを思い悩みながら、母親に殺されかけた記憶も蘇り、ここからピーターの苦悩が始まります。
降霊会に仕組まれた罠
チャーリーを失ったアニーは再びグループ・カウンセリングに向かいますが、入るのを躊躇しているところにジョーンと名乗る女性が声をかけます。話したくなったら連絡してと、電話番号をアニーに手渡す彼女。 ピーターとの関係も悪化して追い詰められたアニーは、ジョーンの家を訪ねます。そこで唐突にジョーンは霊と会話ができるという「降霊会」を行い、アニーは半信半疑のまま帰宅。しかしアニーはジョーンからもらった「呪文」を唱え、チャーリーとの交信に成功します。 実はこれがアニーへの罠であり、ジョーンは悪魔ペイモンを崇拝するカルト集団の信者でした。その罠にはまったアニーは夫と息子を降霊会に参加させ、まんまとチャーリー=ペイモンを呼び出してしまうのです。
亡くなったエレンとジョーンの関係
降霊会でペイモンを呼び出してしまったアニーは邪悪な存在に気づき、それでも必死で家族を守ろうとしていました。 ジョーンに不信感を抱き、エレンの私物を掘り起こしてみると、過去のアルバムにエレンと写るジョーンの姿が。 アニーはここで、ジョーンがエレンを「クイーン」とするカルト集団の信者であり、かなり側近だったことを知ります。すべては初めから、チャーリー=ペイモンの魂をピーターの体に降臨させるために、ジョーンに仕組まれたことでした。 しかし時すでに遅く、アニーはさらなる罠にはまっていました。チャーリーのスケッチブックを燃やそうと暖炉に放り込むと、燃えたのはスティーブンの方でした。
家族が迎える結末は……

アニーは一瞬パニックになりますが、すぐに落ち着きを取り戻しました。 いえ、彼女は落ち着きを取り戻したのではなく、正気を失って完全に邪悪なものに乗っ取られてしまったのです。そして壁や天井を這い、恐ろしい速度でピーターを追い詰めました。 豹変した母の姿に驚愕しながらも屋根裏部屋に這い登ったピーター。そこは墓場から掘り起こされたエレンの頭部のない腐った死体があった場所です。しかしすでに死体はなく、何やら儀式をした跡が。 ピーターがギコギコと変な音がする方を見ると、空中に浮きながら自分の首を切り取ろうとしているアニーの姿が目に入りました。恐怖に打ちのめされたピーターは窓から飛び降りてしまいます。
ついに現世に降臨したペイモン
ピーターの魂が抜けた体に、さまよっていたチャーリー=ペイモンの魂が入り込み、頭部のないアニーが浮きながら庭のツリーハウスへ上っていく後を追って入ると、そこには全裸でひれ伏す信者たちがいました。 チャーリーの頭部が天使像のようなものに飾られ、その前には頭部のないエレンとアニーがひれ伏しています。そして信者が、ペイモンとして降臨したチャーリーの魂が入ったピーターの頭に、王冠を授けるのでした。
『ヘレディタリー/継承』6つの謎を徹底考察!
謎①悪魔・ペイモンとは?
本作に登場するペイモンとはパイモンともいい、中世ヨーロッパに伝わる悪魔学に記された悪魔。イギリスの魔術書「ゴエティア」や、ヨハン・ヴァイヤーの「悪魔の偽王国」などに登場する地獄の王といわれています。ルシファーに忠実な序列9番目の王で、元は主天使の地位にあったとか。 この世には天使の軍勢を率いて王冠をかぶって現れ、人にあらゆる知識を与えるともいわれるため、信者たちは「王」としてペイモンを崇拝しているようです。ラストでチャーリーの頭部が天使のような像に祀られていたのも、最後にピーターに王冠を授けたのもそれが理由なのでしょう。 エレンはグラハム家の壁に「サトニー」や「ザサス」といった言葉を書き残していました。これは悪魔を呼び出すための呪文で、エレンが生前からペイモンをこの世に召喚するため、チャーリーとピーターを狙っていたことがわかります。
謎②ラストの儀式の意味は?なぜ死体には首が無い?
劇中では、エレンの死体には首がなく、チャーリーが交通事故によって首を失い、アニーが自ら自分の首をノコギリで切り落としています。これは、ペイモン召喚の儀式には、生贄として3人の首が必要だったからです。 ペイモンの召喚には3つの生首と、1つの男性の体が必要でした。首は前述したエレン、チャーリー、アニーのもの。そしてペイモンが宿る「入れ物」としてピーターの体が捧げられました。 ペイモンは女性の顔をした男性の姿をしているとされているため、生首は女性のものである必要があったのかもしれません。
謎③チャーリーの正体とは?
エレンの葬儀の後、アニーはチャーリーに「あなたは赤ちゃんの時も泣かなかった。生まれた時でさえ」と言っていました。 実はチャーリーは生まれた時から悪魔ペイモンの魂を持っていたのです。 さらにいえば、チャーリーが頭をもぎ取られた電柱には、はっきりとペイモンの紋章が刻まれていました。あの忌まわしい事故さえも、彼女の肉体からペイモンの魂を切り離すためにあらかじめ仕組まれていたのです。 これで、学校で死んだ小鳥の首をハサミで切り取って持ち帰るといった悪魔的な行為や、エレンがチャーリーを溺愛していたこともうなずけます。こうしてペイモンとしてさまようチャーリーの魂が、グラハム家を崩壊に導いていきます。
謎④父親と犬はなぜ死んだ?
ペイモン召喚の儀式の直前に殺された犬とスティーブン。 犬はペイモンの存在に気づいていたから殺されたと考えられます。犬は一点をじっと見つめたり、異変に気づいているような行動をくり返していました。動物が人間よりも先に霊的な存在を察知するというのは、よくある描写です。 スティーブンは、グラハム家のなかで唯一まともな人物でした。彼はエレンと血が繋がっていないため、彼女の影響を受けなかったのでしょう。「なんとしても息子を守る」と言っていたスティーブン。彼は儀式の邪魔になると判断され、殺されたと思われます。 またスティーブンはアニーが正気を取り戻す最後の砦になる可能性がありました。彼が殺されたことで、アニーは完全に逃げ場所を失くしたのです。
謎⑤謎の光の正体はペイモン?
謎の光の正体はペイモンです。劇中を通して、謎の青い光はチャーリーの前に現れたり、学校でピーターの前に現れたり、スティーブンが炎に包まれたときにアニーの顔を横切ったりしています。 これらはすべてペイモンの動きを表現したもので、その光が登場人物たちに影響を与えているのがわかります。 もっともわかりやすいのが、花壇に落ちたピーターの体に青い光が入るシーンで、その後彼はツリーハウスに登り、信者たちに「ペイモン」として称えられます。
謎⑥アニーはなぜ夢遊病になった?
アニーは過去に、夢遊病状態でピーターを殺そうとしていました。それ以前にも、彼女はピーターを身ごもったときから、何度も流産しようとしていたのです。 これらはアニーが父や兄を亡くした過去から、息子にも悲劇が降り掛かってしまうのではないかと恐れての行動だったのではないでしょうか。もしかすると、彼女は潜在意識で悪魔の存在に気づいており、悪魔に乗っ取られるくらいなら、と自ら息子を手に掛けようとしていたのかもしれません。
【考察】家族の崩壊の物語とアリ・アスター監督

アリ・アスター監督は個人的な体験を元に映画を撮ることで有名。『ミッドサマー』は失恋の経験から作ったと語っていましたが、本作ではその体験が何だったのか詳細は明らかにしていません。 監督が本作に込めた意図を考察するには、アニーがミニチュア模型のアーティストであることが重要なポイント。アニーは自身の体験を元に精巧なミニチュアを作っています。例えそれがチャーリーの悲惨な事故現場だとしても。 つまりこれは一種の「箱庭療法」であり、トラウマ体験をミニチュアで制作することでセラピーの機能を果たしているのです。このことはそっくりそのまま、アリ・アスター監督自身の体験と映画制作にも当てはまるのかもしれません。 人は乗り越えられない試練と向き合った時には絶望を味わい、グラハム一家のように定められた運命に屈服させられることも多々あります。そんな状況でもアニーのように抗い、自らの悲惨な体験から立ち直ろうとすることも人の宿命なのでは?と問いかけられているようにも感じました。
「へレディタリー」は緻密に計算された恐怖の“運命”の物語
グラハム一家の悲劇は確かにオカルトそのもので、リアルなものとはいえないかもしれません。しかし人々を恐怖に陥れるオカルト・ホラーの中にこそ、人知では計り知れない「運命」といったものが存在するような気もします。 その逃れられない運命を初めから緻密に計算して物語に反映させ、あたかもグラハム家の人々自身がアニーのミニチュア模型のごとく「外」から操られていく様子には、もはや抗えない恐怖しか感じません!やはり本作を作ったアリ・アスター監督は、天才肌のアーティストといえるかもしれませんね。



