2020年7月22日更新

【ネタバレ解説】『へレディタリー/継承』伏線とともに結末を徹底考察!悪魔ペイモンとはどんな存在?

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ヘレディタリー
©2018 Hereditary Film Productions, LLC

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『へレディタリー/継承』の伏線と結末をネタバレありで徹底考察!【逃れられない“家族”という運命】

2020年には長編映画2作目『ミッドサマー』が公開され、さらなる衝撃ホラー映画を生み出したアリ・アスター監督。彼の長編デビュー作にして傑作の呼び声高い作品が『へレディタリー/継承』です。 物語は家族の崩壊をテーマとし、グラハム一家の悲劇を描いたもの。初めから数々の伏線が張り巡らされ、それを回収していくうちに次々仕掛けられた罠に打ちのめされていきます。 この記事では謎に包まれたストーリーを、伏線を回収しつつネタバレありで一つずつ考察。また、タイトルに隠された意味や、アリ・アスター監督が意図したことなども解説します。 ※この記事には、『へレディタリー/継承』の内容に関するネタバレが含まれます。作品を未鑑賞の方、ネタバレを知りたくない方はご注意ください。

『へレディタリー/継承』のあらすじ

ミニチュア模型のアーティストであるアニー・グラハムは母エレンを亡くし、夫スティーブンと息子ピーター、そして娘チャーリーを伴って葬儀に出席します。 精神病を発症していたエレンとは仲が良いとはいえない母娘でしたが、アニーはその死に動揺し、グループ・カウンセリングに通うように。そこで父や兄も精神病を患い亡くなっていることを告白し、自身も夢遊病に悩まされていたことを語ります。 ある晩、高校の友人宅でのパーティーに行くために母の車を借りたいと頼むピーターに、アニーはチャーリーを連れて行くことを条件に許可します。ところがチャーリーはそこでアレルギーを発症するナッツ入りのケーキを食べてしまい……。

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【ネタバレ注意!】伏線を確認しつつストーリー全体を解説

ここからはストーリーを冒頭から振り返り、隠された伏線が張られたシーンを一つずつ解説していきます。ネタバレ情報を含むますので、未鑑賞の方はご注意ください!

【ネタバレ】エレンの葬儀に集まった人々は……

冒頭のエレンの葬儀にはすでに本作の重要な要素である悪魔「ペイモン」の象徴が登場しています。

弔辞を述べるアニーが胸につけているネックレスには、ペイモンの紋章が。これはエレンの形見のネックレスです。 さらにアニーは弔辞の中で「見知らぬ人がたくさん出席している」と述べています。この人々は、ほぼ最後の方で登場する、ペイモンを崇拝するカルト集団の信徒たちと思われます。

【ネタバレ】チャーリーとチョコレートケーキが悲惨な事故を招く

エレンの葬儀中でも絵を描いたり、チョコレートを食べたりと気ままに行動する少し変わったチャーリー。これらのシーンでチャーリーの“普通ではない”感じが分かり、さらに板チョコを食べるチャーリーに父が言う「ナッツは入ってない?」という言葉に、彼女がナッツアレルギーであることもすでに示唆されています。

それを踏まえて、パーティーでのシーンを見てみましょう。チャーリーがチョコレート好きということ、そしてケーキに大量のナッツが入るであろうシーンも挿入され、その後起こることを何となく観ているわれわれに予見させているのです。 ところが、われわれの想像をはるかに超えてくるのがアリ・アスター監督!ピーターはアレルギー発作を起こしたチャーリーを慌てて車に乗せ、夜道をひた走リます。しかしチャーリーは息苦しいため窓から顔を出したところ電柱にぶつかり、頭部がもぎり取られてしまったのです。

【ネタバレ】自責の念に苦しむピーターと過去の記憶

衝撃的な出来事にショックを受けたピーターはそのまま事故現場から走り去って家に帰り、両親にも何も言わずにそのままベッドへ。

翌朝何も知らないアニーが車に乗り込むと、そこには頭部のないチャーリーの死体がありました。 このことが、アニーとピーターの関係を悪化させていきます。元々アニーは自分が母親になれるのかという疑問を抱きながらピーターを産んだようで、ピーターに面と向かって「産まなければよかった」とさえ言い放ちます。 さらに夢遊病だったアニーに、ピーターがシンナーをかけられ火をつけられそうになった過去も明らかに。チャーリーを死なせたことを思い悩みながら、母親に殺されかけた記憶も蘇り、ここからピーターの苦悩が始まります。

【ネタバレ】降霊会に仕組まれた罠

チャーリーを失ったアニーは再びグループ・カウンセリングに向かいますが、入るのを躊躇しているところにジョーンと名乗る女性が声をかけます。話したくなったら連絡してと、電話番号をアニーに手渡す彼女。

ピーターとの関係も悪化して追い詰められたアニーは、ジョーンの家を訪ねます。そこで唐突にジョーンは霊と会話ができるという「降霊会」を行い、アニーは半信半疑のまま帰宅。しかしアニーはジョーンからもらった「呪文」を唱え、チャーリーとの交信に成功します。 実はこれがアニーへの罠であり、ジョーンは悪魔ペイモンを崇拝するカルト集団の信者でした。その罠にはまったアニーは夫と息子を降霊会に参加させ、まんまとチャーリー=ペイモンを呼び出してしまうのです。

【ネタバレ】チャーリーの秘密がグラハム一家を崩壊へ導く

チャーリーの話に戻りましょう。エレンの葬儀の後、アニーがチャーリーに「あなたは赤ちゃんの時も泣かなかった。生まれた時でさえ」と言っていたことを思い出してください。

実はチャーリーは生まれた時から悪魔ペイモンの魂を持っていたのです。 さらにいえば、チャーリーが頭をもぎ取られた電柱には、はっきりとペイモンの紋章が刻まれていました。あの忌まわしい事故さえも、彼女の肉体からペイモンの魂を切り離すためにあらかじめ仕組まれていたこと。 これで、学校で死んだ小鳥の首をハサミで切り取って持ち帰るといった悪魔的な行為や、エレンがチャーリーを溺愛していたこともうなずけます。こうしてペイモンとしてさまようチャーリーの魂が、グラハム家を崩壊に導いていきます。

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【ネタバレ】亡くなったエレンとジョーンの関係

それでも降霊会でペイモンを呼び出してしまったアニーは邪悪な存在に気づき、必死で家族を守ろうとしていました。

ジョーンに不信感を抱き、エレンの私物を掘り起こしてみると、過去のアルバムにエレンと写るジョーンの姿が。 アニーはここでジョーンがエレンを「クイーン」とするカルト集団の信者であり、かなり側近だったことを知ります。すべては初めから、チャーリー=ペイモンをピーターに降臨させるために、ジョーンに仕組まれたことでした。 しかし時すでに遅く、アニーはさらなる罠にはまっていました。チャーリーのスケッチブックを燃やすと自分も燃えると信じて暖炉に放り込むと、燃えたのはスティーブンの方だったです。

【ネタバレ】家族が迎える結末は……

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©2018 Hereditary Film Productions, LLC

アニーは一瞬パニックになりますが、すぐに落ち着きを取り戻しました。

いえ、彼女は落ち着きを取り戻したのではなく、正気を失って完全に邪悪なものに乗っ取られてしまったのです。そして壁や天井を這い、恐ろしい速度でピーターを追い詰めました。 豹変した母の姿に驚愕しながらも屋根裏部屋に這い登ったピーター。そこは墓場から掘り起こされたエレンの頭部のない腐った死体があった場所です。しかしすでに死体はなく、何やら儀式をした跡が。 ピーターがギコギコと変な音がする方を見ると、空中に浮きながら自分の首を切り取ろうとしているアニーの姿が目に入りました。恐怖に打ちのめされたピーターは窓から飛び降りてしまいます。

【ネタバレ】ついに現世に降臨したペイモン

ピーターの魂が抜けた体にさまよっていたチャーリー=ペイモンの魂が入り込み、頭部のないアニーが浮きながら庭のツリーハウスへ上っていく後を追って入ると、そこには全裸でひれ伏す信者たちがいました。 チャーリーの頭部が天使像のようなものに飾られ、その前には頭部のないエレンとアニーがひれ伏しています。そして信者が、ペイモンとして降臨したチャーリーの魂が入ったピーターの頭に王冠を授けるのでした。

【ネタバレ解説】悪魔ペイモンとは

本作に登場するペイモンとはパイモンともいい、中世ヨーロッパに伝わる悪魔学に記された悪魔。イギリスの魔術書「ゴエティア」や、ヨハン・ヴァイヤーの「悪魔の偽王国」などに登場する地獄の王といわれています。ルシファーに忠実な序列9番目の王で、元は主天使の地位にあったとか。

この世には天使の軍勢を率いて王冠をかぶって現れ、人にあらゆる知識を与えるともいわれるため、信者たちは「王」としてペイモンを崇拝しているようです。ラストでチャーリーの頭部が天使のような像に祀られていたのも、最後にピーターに王冠を授けたのもそれが理由なのでしょう。 エレンはグラハム家の壁に「サトニー」や「ザサス」といった言葉を書き残していました。これは悪魔を呼び出すための呪文で、エレンが生前からペイモンをこの世に召喚するためチャーリーとピーターを狙っていたことがわかります。

【ネタバレ解説】避けられない運命「へレディタリー (Hereditary)」の意味

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タイトルの「へレディタリー」とは英語では「Hereditary」で、「遺伝的な」や「先天的な」といった先祖代々から受け継ぐ「何か」を意味しています。本作ではその「何か」が二つあり、一つは精神病、もう一つは悪魔信仰なのです。

エレンはペイモン崇拝者たちの長であるクイーンとして君臨しており、その血筋を受け継ぐものがチャーリーの魂であり、ピーターの体でした。ペイモンはクイーンの血を引く男性の体にしか宿らないため、チャーリーの体は捨てられ、ピーターが狙われたのです。 グラハム家はこの二つから逃れられない運命を背負っていたことがタイトルに示されていたわけですが、アニーはその運命に抗っており、ピーターが生まれた時にエレンが家族を操ろうとするため「不干渉ルール」を決めて息子から遠ざけています。アニーの兄もエレンに操られ、ペイモンを招き入れられそうになったため自殺に追い込まれたのでした。

【考察】家族の崩壊の物語とアリ・アスター監督

アリ・アスター監督は個人的な体験を元に映画を撮ることで有名。『ミッドサマー』は失恋の経験から作ったと語っていましたが、本作ではその体験が何だったのか詳細は明らかにしていません。 監督が本作に込めた意図を考察するには、アニーがミニチュア模型のアーティストであることが重要なポイント。アニーは自身の体験を元に精巧なミニチュアを作っています。例えそれがチャーリーの悲惨な事故現場だとしても。 つまりこれは一種の「箱庭療法」であり、トラウマ体験をミニチュアで制作することでセラピーの機能を果たしているのです。このことはそっくりそのまま、アリ・アスター監督自身の体験と映画制作にも当てはまるのかもしれません。 人は乗り越えられない試練と向き合った時には絶望を味わい、グラハム一家のように定められた運命に屈服させられることも多々あります。そんな状況でもアニーのように抗い、自らの悲惨な体験から立ち直ろうとすることも人の宿命なのでは?と問いかけられているようにも感じました。

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「へレディタリー」は緻密に計算された恐怖の“運命”の物語

グラハム一家の悲劇は確かにオカルトそのもので、リアルなものとはいえないかもしれません。しかし人々を恐怖に陥れるオカルト・ホラーの中にこそ、人知では計り知れない「運命」といったものが存在するような気もします。 その逃れられない運命を初めから緻密に計算して物語に反映させ、あたかもグラハム家の人々自身がアニーのミニチュア模型のごとく「外」から操られていく様子には、もはや抗えない恐怖しか感じません!やはり本作を作ったアリ・アスター監督は、天才肌のアーティストといえるかもしれませんね。