2018年1月24日更新

英国ロイヤルファンは必見!『ロイヤル・ナイト 英国王女の秘密の外出』の魅力とは?

ロイヤル・ナイト

英国のエリザベス2世が、1945年のヨーロッパ戦勝記念日にお忍びで外出したという史実に構想を得て制作されたインディペンデント映画『ロイヤル・ナイト 英国王女の秘密の外出』。ストーリーを追いながら、そのポイントを詳しく解説します。

19歳、戦勝記念日の夜。未来の女王がお忍びでロンドン市街地へ!

1945年5月7日。時の首相ウィンストン・チャーチルが終戦を告げ、歓喜に沸く人々でおもちゃ箱をひっくり返したような騒ぎの英国の首都、ロンドン。中心地に建つバッキンガム宮殿では、19歳のエリザベス王女と14歳のマーガレット王女が国王夫妻を相手取り、必死の懇願を続けていました。 世紀の夜に、宮殿の外で皆とお祝いがしたいーー。喜びに身を任せ、思うがままにダンスを楽しみたい! それはこの日のロンドンに生きる若者にとって、ごく自然な思い。しかし、未来の君主としての重責を背負うエリザベスは、市街地への自由な外出など未だかつて許されたことがありませんでした。 断固反対する母のエリザベス皇太后をよそに、父で国王のジョージ6世は、ついに外出の特別許可を与えます。そして、父と娘の間で一つの約束が交わされることに。

英国王と王女の約束

今晩ラジオで放送される父の戦勝記念演説。その「英国王のスピーチ」を国民と共に聴き、彼らの反応をありのままに報告する。エリザベスは父にそう約束し、念願の外出が実現します。 弾かれたようにバッキンガム宮殿の廊下を駆けてゆく、喜びいっぱいのマーガレット王女。期待に胸を躍らせる若き姉妹のこぼれるような笑顔で、映画は幕を開けます。

史実に見るエリザベス女王と、王室の人々の人物像

最強のボンドガール?2012年のロンドンオリンピックでは007と共演

2015年に英国史上最長在位記録を更新したエリザベス女王。孫のザラ・ティンダルが総合馬術団体で銀メダルを獲得したロンドンオリンピックの開会式では、ジェームズ・ボンド(ダニエル・クレイグ)と共演を果たしました。 父のジョージ6世が「私の誇り」と評したというエリザベス2世は、宮廷内で家庭教師による教育を授けられ、同世代の子どもたちとは滅多に交流することのない隔離された少女時代を過ごしたといいます。そして18歳より公務を開始した女王は、1945年当時、補助地方義勇軍と呼ばれる陸軍の女性部隊に所属していました。従って「ロイヤル・ナイト」劇中のエリザベスも軍服姿で登場しています。 本作品でエリザベスを演じたのは、カナダ出身ながら英国式アクセントを巧みに操るサラ・ガドン。若き日のエリザベスを演じるに相応しい責任感や機知を兼ね備えていたことを監督のジュリアン・キャロルに認められ、主演に抜擢されました。

妹、マーガレット王女

一方、父のジョージ6世が「私の喜び」と評するほどに、人々を惹きつける愛嬌を兼ね備えていたというマーガレット王女。映画では、14歳の少女らしいお茶目さと奔放さを発揮する明朗な王女として描かれています。演ずるは、英国のドラマや演劇で活躍するベル・パウリー。 マーガレット王女は恋多きお洒落なプリンセスとしても注目を集め、2006年には英国のブランド、バーバリーが、60年代の彼女のファッションスタイルを基に考案したラインを発表しています。

父、国王ジョージ6世

『英国王のスピーチ』で主役となったエリザベスとマーガレットの父、ジョージ6世。吃音を乗り越えたことで知られています。王座に就いていた兄のエドワード8世が、米国人女性ウォリス・シンプソンとの恋の末に退位したため、国王に即位しました。 ジョージ6世の突然の即位は、エリザベスとマーガレットの王位継承順位をも押し上げることになり、これを機にバッキンガム宮殿へと移り住んだ姉妹の生活は大きく変貌しました。 演じるのは『アナザー・カントリー』や『ベスト・フレンズ・ウェディング』にも出演のルパート・エヴェレット。

母、エリザベス皇太后

『奇跡の海』や『ほんとうのジャクリーヌ・デュ・プレ』で知られるエミリー・ワトソンが演ずるは、王女たちの母、エリザベス皇太后。第二次世界大戦中は、王女二人と共にカナダへの疎開を促されましたが、国王を残しての出国を断固拒否。一家揃って国民と共に戦火の苦難を乗り越える道を選びました。その責任感と意志の強さは、劇中の皇太后にも反映されています。

父のスピーチは、未来の女王にどう響いたか

さて、二名の護衛と共にバッキンガム宮殿を後にした姉妹が最初に訪れたのは、ピカデリーに位置する高級ホテルのリッツ・ロンドン。 しかしここで待ち受けていたのは、王室の公務とそう大差のない堅苦しいパーティでした。刺激的なクラブで流行のスウィングダンスを踊ることを夢見ていたマーガレットは、護衛の隙をついて民衆の集うトラファルガー広場へと姿を消します。 妹を追い、ホテルを飛び出すエリザベス。生まれて初めてのバスの中で出会った軍服姿の青年ジャック(ジャック・レイナー)と共にロンドン市内を奔走し、計らずも随所で英国社会の断片を垣間見ることになります。

社会に飛び込み、初めて認識する自分の役割

治安の悪い地区で娼館を経営する武骨な男性。息子を軍隊に出し、空襲の痕跡が残る家で、たった独り生きる母。彼らの生きる傍らには、歴代英国君主の写真が飾られていました。そしてエリザベスは、ジョージ6世の渾身のスピーチに直立不動で耳を傾ける老若男女の様子を目に焼き付けます。 歓喜の裏側では、戦後の社会情勢に対する不安が渦巻いていた英国。国父の姿や声が国民に及ぼす力を目の当たりにした彼女は、将来自分が社会の中で果たすべき役割を初めて認識したのです。

未来の女王と空軍の脱走兵が共有する夢

エリザベスは次第にジャックと親しくなり、彼が空軍の脱走兵であることを知ります。育った環境も立場も全く異なる二人ですが、課せられた責務に戸惑いを抱いているという共通点があったのです。 本当の意味で他人と何かを分かち合う経験がなかったエリザベス。二人は「もし自由に生きられるのならば、何をしたいか」を語り合います。 パリのカフェでホットチョコレートを飲みたい。エッフェル塔に登ってみたいーー。 未来の女王と空軍の脱走兵が共有した夢。それは、とてもありふれたものでした。誰もが似たような夢を想い描き、誰もがそれぞれの責務に苦悩しているということに気が付く二人。夢から覚めて、新たな覚悟で人生に立ち向かいます。

史実における「ロイヤル・ナイト」

その日、本当に外出していたエリザベス王女とマーガレット王女

映画の公開を前に、英国のテレビ局では、ヨーロッパ戦勝記念日のエリザベス女王の外出に関するドキュメンタリーが制作されました。戦勝記念日の夜、エリザベスとマーガレットは、従姉妹や家庭教師、同年代の親しい友人、そして護衛の侍従で構成された16人のグループで、本当にお忍びの外出を楽しんでいたのです。 ドキュメンタリーによると王女たちは実際に、ホテル・リッツやザ・マルと呼ばれる大通りに繰り出したのち、バッキンガム宮殿前の広場で国民と肩を並べて、バルコニーに登場した国王夫妻の姿を見上げていたとのこと。また、この「秘密の外出」に同行したメンバーにはマーガレットの未来の恋人となる空軍将校で、ジョージ6世の侍従ピーター・タウンゼント大佐も含まれていたそうです。

私の人生で、一番記憶に残る夜

ヨーロッパ戦勝記念日が40周年を迎えた1985年のインタビューで、エリザベス女王はこの夜の思い出について、そう追懐したといいます。 戦勝記念日のロンドンは、興奮した人々の群れで騒乱状態に陥っていました。そのような状況下にもかかわらず、自由に街を歩いた経験のない10代の愛娘に外出許可を与えたジョージ6世の英断には、目を見張るものがあります。 スコットランドのバルモラル城や、イングランドのウィンザー城、バッキンガム宮殿以外の世界を知らない娘たちに対し、「世の中の楽しみを何一つ知らない」と憐れんでいたと伝えられるジョージ6世。特別な夜に父が与えた寛大なプレゼントは、確かに王女の心に響いたようです。

心弾む音楽に、公爵の大邸宅で撮影された映像。さらに楽しむロイヤル・ナイトの世界。

リンディホップが踊りたい!

軽快なダンスシーンが印象的な本作品では、当時流行のスウィングダンス、リンディホップが披露されています。アフリカ系アメリカ人の文化とヨーロッパのフォーマルなダンスの融合とも評されるリンディホップは、1920年代にニューヨークのハーレムで発祥し、1935年から1946年にかけて大流行を見せました。 劇中のダンスシーンやエンディングには、スウィング・ジャズの代表的ミュージシャン、グレン・ミラーがヒットさせた「アメリカン・パトロール」(原曲者はフランク・W・ミーチャム)や「イン・ザ・ムード」が使用されています。 アップテンポな曲に合わせて二人の王女が快活に踊るシーンには、底抜けの明るさがあり、思わず笑顔になること必至です。

公爵の館で行われた撮影

撮影には、英国中部に建つ公爵の大邸宅、チャッツワース・ハウス及びベルヴォア城が使われました。チャッツワース・ハウスは何度も映画化されたジェーン・オースティンの小説『高慢と偏見』で舞台となった邸宅のモデルとされ、キーラ・ナイトレイ主演の『プライドと偏見』(2005)の撮影も行われました。 チャッツワース・ハウスにはマーガレット王女が滞在した際に弾いたというピアノも現存し、マーガレット役のベル・パウリーは大いにインスピレーションを受けたといいます。ちなみに、チャッツワース・ハウスとベルヴォア城は、時期によって一般公開されています。

おとぎ話のようで、とても身近な物語

王女の秘密の外出というタイトルは、オードリー・ヘプバーンが主演した『ローマの休日』(1953)を連想させます。しかし、本作品を視聴した後で実際に胸の内に現れるのは、ローマの街中のアン王女の姿というより、現代社会を生きる自分自身の姿という方も多いのではないでしょうか。 大人を説き伏せ、初めて夜遅くまで外出した日。進学や留学、就職をきっかけに、初めて未知の世界に飛び込んだ日。それまでの環境から離れ、初めて自分の立場や役割を理解したこと。当時は無意味に思えた寄り道が、その後の人生で意味を成したこと......。 私たちが何年もかけて体験するこれらの出来事を、たった一晩で駆け抜けた王女たち。成長過程で誰もが経験する葛藤や驚き、高揚感を凝縮した本作品には、今まさにエリザベスとマーガレットの年頃の方も、大人の方もきっと共感できると思います。