早世したアニメ界の巨匠・今敏の代表作『千年女優』を徹底考察!
『千年女優』は今敏監督による2002年公開のオリジナルアニメ映画作品です。本作は文化庁メディア芸術祭で『千と千尋の神隠し』と共にアニメ部門の大賞を受賞、スピルバーグ率いる映画会社ドリームワークスに世界配給され海外からも高い評価を受けています。 女優・藤原千代子が初恋の人を追いかけ続ける人生。映画と現実の世界を往復して語られるその世界観に圧倒された人もいるのではないでしょうか。 虚実入り混じる謎多き物語の魅力を紐解きます。ネタバレを含むため未見の方はご注意を!
大女優・藤原千代子の半生と映画の境界が溶け合う『千年女優』あらすじ
引退した千代子のもとへ、映像制作会社社長の立花源也がカメラマンの井田を連れ取材に訪れます。 源也が差し出したのは小さな鍵。それは若き日の千代子がある絵描きから預かった「一番大切なものを開ける」鍵でした。 千代子はその「鍵の君」に恋し、彼を探して女優になった半生を語ります。戦国時代や幕末など、千代子の話はいつしか映画の世界と混然一体に。 カメラを向ける源也と井田もその世界に入り込み、源也は千代子を助ける役回りとして自らも登場人物の一人になっていきます。
デビュー作のサイコホラー『パーフェクトブルー』と裏表の作品
今監督はデビュー作『パーフェクトブルー』と本作をコインの裏表に位置する映画だと説明しています。 アイドルの未麻が「女優」に転身する中でもう一人の自分の幻影に追われるホラー作品。未麻の分身を創っていたのは未麻自身と、熱狂的なファンでした。 この関係性は千代子と、映画の中の千代子に憧れてきた源也に引き継がれています。現実を超えた幻想を複数の人物が共有することが両作品の共通点であり、前作では恐怖を生んだその関係を、本作ではポジティブなものに昇華させています。
千代子のモデルは往年の名女優たち
千代子には、名匠・小津安二郎の作品などに出演した後に突如引退し姿を消した原節子、子役時代から活躍し、教師や銀座のママなど多様な役を演じた高峰秀子など数々の名女優のイメージが重ねられています。 千代子の出演作にも原の『晩春』のような昭和の家庭、高峰の出演した『無法松の一生』を思わせる人力車夫の姿が。 他にも往年の名女優たちのイメージが複数かけ合わされることで、千代子は実在のどの役者とも異なる、それでいて観る側の色々な映画体験を呼び起こす存在になっているのかもしれません。
「鍵の君」より源也とのラブストーリーが根幹?
撮影中に起きた地震で千代子を守ったのは、スタッフだった若き日の源也でした。 冒頭、若き千代子は現在の源也と会っても何も言いませんが、自分を必死に助けてくれる源也の存在を徐々に受け入れ、会話するようになります。 女優の千代子に憧れる源也は『パーフェクトブルー』の熱狂的ファンと同じです。しかし千代子の人生を「共有」したことが、2人の関係を変えました。 本作の原案も「鍵の君」より千代子と源也の関係が中心だったと監督は著書「KON’S TONE『千年女優』への道」で明かしています。
ラストの台詞「あの人を追いかけている私が好き」の意味とは?
「だって私、あの人を追いかけている私が好きなんだもの」。千代子の最後の台詞に裏切られたような気分に陥った人もいるかもしれません。 「思い出は逃げ込む場所じゃない」。今監督はかつて映画『MEMORIES』で脚本家としてそんな台詞を書いていました。 千代子の一番大切なものは「鍵の君」の思い出でしたが、彼女は逃げ込んだ訳ではありません。最後の台詞はそれを証明しているのではないでしょうか。 監督は生きていく中ではプライドも厳しさも備えた自己愛が必要なのではないかとの想いを込めたとDVDのオーディオコメンタリーで語っています。 死を描くラストが生命力に満ちて見えるのは、千代子が自分を肯定する強さを持って生きた証かもしれません。
何度も咲く輪廻の花のような映画『千年女優』は考察でもっと面白く
自分に素直に生きようという想いの込もった賛歌のような映画です。モデルとなった作品を観てから本作を観返すと深みが増すかもしれません。 輪廻の花のように力強く生きた千代子の人生を、何度も観て、あなたなりの本作の考察を深めてみてくださいね!