音楽映画で登場するあのキラーチューンが知りたい!
ストーリーを盛り上げ、視聴者の感情に働きかける往年の名曲たち
1926年公開の『ドン・ファン』で長編映画へのデビューを果たして以来、スクリーンで重要な役割を担う「音楽」。今回お届けする記事では、マリリン・モンローやエルヴィス・プレスリーといったアメリカ文化史のアイコン的存在が歌唱した曲目を筆頭に、英米の有名ロックバンドのヒット曲や、クラシックなジャズナンバーをご紹介します。
「Diamonds Are a Girl's Best Friend」by ジューリー・スタイン&レオ・ロビン
1949年公開のブロードウェイ・ミュージカル『紳士は金髪がお好き』の劇中歌として制作された「Diamonds Are a Girl's Best Friend」。 「キスは素晴らしいけれど、ケチなアパートの家賃にもならない」「女の魅力が衰えても、スクエアカットやペアシェイプは永遠」といった挑発的なメッセージを含むこの曲は、1953年のハワード・ホークス監督による同名のミュージカル・コメディ映画で、マリリン・モンローが歌唱したことにより世界的な知名度を獲得しました。 ピンクのドレスを身につけたアメリカ人ショーガール、ローレライ(マリリン・モンロー)が、燕尾服姿の男性陣を従えて「Diamonds Are a Girl's Best Friend」を歌う場面は、映画史に残る珠玉のミュージカルシーンのひとつ。 2010年のミュージカル映画『バーレスク』の他、ドラマ『ゴシップガール』の100回目のエピソード「G.G.」で主演のブレイク・ライブリーによって披露されるなど、多数のオマージュが製作されています。
ニコール・キッドマンが歌う「Sparkling Diamonds」
2001年公開のバズ・ラーマン監督の『ムーラン・ルージュ』では「Diamonds Are a Girl's Best Friend」の歌詞や曲調にアレンジを加えた「Sparkling Diamonds」という曲が登場。高級娼婦サティーンを演ずるニコール・キッドマンによるパフォーマンスで、パリのキャバレーの一夜を煌びやかに演出しました。
『ムーラン・ルージュ』ではマドンナの「マテリアル・ガール」とマッシュアップ
アメリカが誇るポップの女王マドンナは、1984年に発表の「マテリアル・ガール」のミュージックビデオで「Diamonds Are a Girl's Best Friend」へのオマージュを捧げたことで知られています。 実利主義の世の中を生きる女性の価値観を表現した歌詞が特色の「マテリアル・ガール」。マドンナのビデオでは高価な贈り物よりも愛を選ぶ姿が描かれたものの、「Diamonds Are a Girl's Best Friend」とは歌詞のテーマに共通性が見られるためか、映画『ムーラン・ルージュ』の「Sparkling Diamonds」には「マテリアル・ガール」の一節が使用されました。
「監獄ロック」by ジェリー・リーバー&マイク・ストーラー
人種間の溝が音楽にも色濃く反映されていた1950年代のアメリカにおいて、リズム・アンド・ブルースとカントリー・アンド・ウェスタンの融合を成功させた人物として音楽史にその名を残すエルヴィス・プレスリー。 フィクションの世界においても、映画『トゥルー・ロマンス』(1993)のクラレンス・ウォーリー(クリスチャン・スレイター)や、ドラマ『フルハウス』のジェシー・カツォポリス(ジョン・ステイモス)など、エルヴィスに心酔するキャラクターは多く、彼の楽曲は様々な映画に登場しています。
映画『監獄ロック』(1957)
ジェリー・リーバーとマイク・ストーラーによって制作された楽曲「監獄ロック」は、エルヴィス・プレスリー主演の同名の映画の主題歌として使用され、アメリカン・フィルム・インスティチュートによる「アメリカ映画主題歌ベスト100」には、前述の「Diamonds Are a Girl's Best Friend」と共に上位にランクインを果たしています。 ミュージカル・ドラマ映画の『監獄ロック』(1957)は、州立刑務所に服役中のヴィンス・エヴァレット(エルヴィス・プレスリー)が、同房の元カントリーミュージシャンの手ほどきにより音楽の才能を開花させ、スターダムへと駆け上がる様子を描いた作品です。 劇中でテレビ向けのショーとして披露された「監獄ロック」のパフォーマンスは、エルヴィスの音楽スタイルを象徴するシーンとして多大な影響力を有し、ビートルズやクイーンといった大物ロックバンドも度々「監獄ロック」のカバー演奏を行いました。 映画界では『ブルース・ブラザース』(1980)や『キャスパー』(1995)でカバーされた他、先出の『フルハウス』のジェシーが、自身の結婚式で披露しています。
映画『ブルース・ブラザース』(1980)の「監獄ロック」
アメリカの人気番組『サタデー・ナイト・ライブ』から派生した1980年のミュージカル・コメディ映画『ブルース・ブラザース』は、刑務所から出所したばかりのジョリエット・ジェイク・ブルース(ジョン・ベルーシ)と弟のエルウッド(ダン・エイクロイド)が、生まれ育った孤児院を救うためにバンドを組み、資金集めに奔走するという物語です。 紆余曲折の末に逮捕されてしまった兄弟は、刑務所で囚人たちを前に「監獄ロック」を演奏。バンドが奏でる陽気なメロディーと、ダンスに興じる人々が織り成す一体感は、爽快の一言に尽きます。 なお、この映画に登場するミュージシャンは他に類を見ない豪華さを誇り、アレサ・フランクリンによる「シンク」や、レイ・チャールズがカバーする「シェイク・ア・テイル・フェザー」など、映画やドラマの挿入曲としてお馴染みの曲の数々が登場します。
「愛にすべてを」by クイーン
続いてご紹介するのはイギリス発の世界的ロックバンド、クイーンの代表曲で、リードヴォーカルを務めるフレディ・マーキュリーによる作曲の「愛にすべてを」(1976)です。 ギターのみならず鍵盤楽器の演奏でも類稀なる才能を発揮したフレディ・マーキュリー。彼の美しいピアノソロから始まる「愛にすべてを」は、その原題を「Somebody to Love」といい、生きることに憔悴した日々のなかで、愛を捧げる相手を必死に乞う姿を表現した曲です。 ゴスペルの影響が色濃いこの曲には「神様、誰か、お願いだから僕に愛する相手をくれ」「いつかこの独房を抜け出して自由になるんだ」と咆哮するかのように歌い上げるパートと、「大丈夫、僕はまだ出来る」と自分に言い聞かせるように歌うパートがあり、力強さの陰に潜む脆さが胸に迫ります。
歌い継がれる永遠の名曲
1991年に45歳でHIVによる合併症でこの世を去ったフレディ・マーキュリーですが、「愛にすべてを」は永遠の名曲として歌い継がれています。とりわけ『アン・ハサウェイ 魔法の国のプリンセス』(2004)のアン・ハサウェイや、ドラマ『Glee/グリー』シーズン1のキャストによる演唱は記憶に新しいところです。 また、愛の証に歌を捧げるコウテイペンギンたちの世界を描いた2006年のミュージカル・コメディ映画『ハッピー フィート』では、ブリタニー・マーフィが「愛にすべてを」をソウルフルに熱唱。作品は高い興行成績を記録し、第79回アカデミー賞の長編アニメーション賞に輝きました。
「シング・シング・シング」by ルイ・プリマ
1936年にジャズ・ミュージシャンのルイ・プリマによって作曲された「シング・シング・シング」。 アフリカ系アメリカンの音楽として認識されていたジャズをポピュラーミュージックの座に押し上げた伝説のコンサート、1938年のカーネギー・ホールのジャズ演奏会にて、クラリネット奏者のベニー・グッドマン率いるバンドにより披露され、スウィング・ジャズの代表的ナンバーとして高い知名度を得た楽曲です。 クラリネットによるソロパートが印象的なこの曲は、クラリネット奏者としても知られる映画監督のウディ・アレンが『ニューヨーク・ストーリー』(1989)や『マンハッタン殺人ミステリー』(1993)で挿入歌として採用。 2004年には日本映画『スウィングガールズ』のキャストによる実演奏が話題を呼び、『Glee/グリー』のシーズン1では、普段は対立関係にあるウィル・シュースター先生(マシュー・モリソン)とスー・シルベスター先生(ジェーン・リンチ)がこの曲に乗せてダンスパフォーマンスを行いました。
スウィング・ジャズ流行の裏で忍び寄る現実を描いた作品『スウィング・キッズ』
スウィング・ジャズが大流行していた1935年から1946年は「スウィング・エラ」と呼ばれています。誰をも笑顔にする軽快さが魅力のスウィング・ジャズですが、この明るい音楽が流行していた時代は、世界恐慌やファシズムの台頭、次第に高まる軍事的緊張という暗い本性を備えていました。 アメリカのミュージカルドラマ映画『スウィング・キッズ』(1993)は、第二次世界大戦が目前に迫るドイツを舞台に、敵国の音楽を愛しながらもヒトラー・ユーゲントへの入隊を強いられた青年たちを主人公に据え、人々や音楽の自由が脅かされてゆく様子を描写しています。 軽快な音楽に反して次第に追い詰められてゆく若者たち。この作品では、クリスチャン・ベールとロバート・ショーン・レナードが「シング・シング・シング」でスウィング・ダンスに興じるドイツの青年を演じました。
「お気に召すまま」by ジャーニー
70年代半ばから80年代にかけて人気バンドとしての地位を確立したアメリカのロックバンド、ジャーニー。キャッチーなメロディーがリスナーの心を掴む「お気に召すまま」(英題「Any Way You Want It」)は、トニー賞を受賞したブロードウェイ・ミュージカル『ロック・オブ・エイジズ』で劇中歌として採用されています。 2012年に公開された映画版『ロック・オブ・エイジズ』では、大物R&B歌手のメアリー・J・ブライジ、俳優で歌手のジュリアン・ハフとコンスタンチン・マルーラの3人により再度カバーされました。 「君が好きなようにやればいい」というポジティブなメッセージが込められたこの曲は、2015年公開のミュージカル・コメディ映画『ピッチ・パーフェクト2』でも歌われた他、2003年の『チャーリーズ・エンジェル フルスロットル』のエンドロールにも使用されています。
映画を聴く。その楽しみとは?
音楽を通して映画を多角的に理解するという行為には、格別の楽しみがあります。スクリーンでお気に入りの曲を見つけて演唱や演奏に挑戦するも良し、サウンドトラックを聴きながら作品の世界に浸るも良し。今日のヒットチャートを追っているだけでは出会えないクラシックな名曲の魅力を発見できるのも映画音楽の醍醐味と言えるでしょう。