世にも不快な飲んだくれ映画?『荒野の千鳥足』を徹底紹介!

2018年4月24日更新

その不快さに、あのマーティン・スコセッシ監督も絶句した!?なのに、意外と高評価!?知るひとぞ知るキョーレツな一本『荒野の千鳥足』を、監督・キャストから結末まで紹介します!

パロディじゃありません。ロッテントマト100%フレッシュの問題作

『荒野の千鳥足』、このユーモラスな邦題から、『荒野の七人』(1961)や『荒野のガンマン』(1962)といった名作のおふざけパロディだと思う方も少なくないでしょう。たしかにこの作品の舞台は荒野。けれども他の「荒野もの」とは一線を画す作品です。 1971年に初公開された本作は、そのあまりの過激さで物議を醸した問題作。カンヌ国際映画祭で初めてこの映画を見たスコセッシ監督は、不快さに絶句したのだとか。一度は元のフィルムも失われましたが、初公開から40年あまりを経て再リリース。2014年に日本でも劇場公開されました。 郡を抜く「不快さ」で知られているのに、映画批評サイトのロッテントマトでは100%フレッシュを獲得。奇妙でキョーレツな一本をご紹介します!

ビールを飲んで狂気の沙汰に『荒野の千鳥足』のあらすじ

この映画のいう「荒野」は、いわゆるアウトバック、オーストラリア内陸部の広大な土地のこと。田舎町のちいさな小学校に勤める新米教師ジョン・グラントは、故郷のシドニーに戻る道中とある町に立ち寄ります。砂漠地帯に佇むその町の名は、ヤバ。 ジョンはヤバの人々に歓迎されもてなされるのですが、彼らのおもてなしはビールを飲ませることでした。とにかく、ビール、ビール、ビール、飲めども飲めどもやってくるおかわり、浴びるように飲むジョン、酔っ払ってきたところでドクという元医者の男に出会います。ドクに翻弄されて、ジョンはギャンブルや女遊び、残忍なカンガルー狩りに手を出すことに。彼の自制心はどんどん失われていくのですが……。

『荒野の千鳥足』の主要キャスト

ゲイリー・ボンド

ジョン・グラント役を務めたのは1940年生まれのイギリスの俳優ゲイリー・ボンド。舞台俳優としてよく知られている俳優で、代表作は1972年の舞台『ヨセフ・アンド・ザ・アメージング・テクニカラー・ドリームコート』のヨセフ役。本作のほかに『ズール戦争』(1964)や『1000日のアン』(1969)といった映画に出演しています。 『戦争と平和』(1956)や『マイ・フェア・レディ』(1964)で有名な俳優ジェレミー・ブレッドと交際していた私生活でも知られています。

ドナルド・プレザンス

1978年から続く人気シリーズ『ハロウィン』への出演で知られるイギリスの俳優、ドナルド・プレザンス。『ハロウィン』は『13日の金曜日』(1980)や『エルム街の悪夢』(1986)の源泉とも言われる名作スプラッタで、ブギーマンこと殺人鬼マイケルの物語。ドナルド・プレザンスはブギーマンと敵対する精神科医ルーミス役を演じていました。 本作ではジョンを惑わすドクを怪演。飲んだくれで医師を辞め、その日暮らしだけれども他の町人とは違う空気を纏っている、そんなドクという男を見事に表現しています。映画のメインビジュアルにもなっている、目に銀貨をはめてニヤつく姿は印象的です。

テッド・コッチェフ監督による小説映画化の挑戦

本作の監督は、シルヴェスター・スタローンの代表作『ランボー』(1982)で知られるテッド・コッチェフ監督。『ランボー』の約10年前に手がけていた作品ということですね。 過激な内容の本作ですが、実は小説を映画化したもの。原作になっているのはオーストラリアの小説家ケネス・クックの『Wake in Fright』です。 つまり、オーストラリア人作家によるオーストラリアが舞台の物語、それを映画化するコッチェフ監督はカナダ人、脚本のエヴァン・ジョーンズもイギリス系ジャマイカ人。そんな体制でつくられた映画は欧米ではヒットするもオーストラリア人には受け入れられず……。 しかし今では、オーストラリアニューウェーブシネマの金字塔として知られるようになりました。

見ていて辛くなる酔っ払いたち

乾いた埃っぽい空気、動物の死骸が転がり、ハエがそこらを飛び回る、殺伐としたヤバの町には気持ちが良いとは思えないようなものが溢れています。 とりわけ強烈なのが酔っ払った男たち。赤ら顔でビールを煽り、ニタニタと笑っている彼らからは、イヤな悪臭が漂ってくるよう。酔いに任せてギャンブルに興じる彼らは酷く愚かに見えるし、それに参加して一文無しになるジョンのどうしようもなさには辟易してしまう。 何もない退屈な町に愛想を尽かし、なんともいえない絶望感をビールと一緒に流し込んでいるような酔っ払いたちは、見ていて辛いものがあります。

見ていられない! 残忍なカンガルー狩り

本作の中でおそらく最も過激で最も見るに耐えないシーン、それはジョンがカンガルー狩りをするシーンです。 実際、オーストラリアでは皮や肉を採取するためにカンガルー狩りが行われており、それは先住民アボリジニの時代から続いてきたことです。 とはいえ、本作での表現はあまりにも残酷。ジョンは大きなカンガルーと殴り合いになり、ついにはナイフでメッタ刺しに。ただ抑えきれない興奮を満たすためだけに生き物を殺すのです。 このシーンはのちに動物愛護の観点で問題視され、監督が撮影でカンガルーを傷つけることは一切していないと弁明するはめに。土地に根付いた行為の残虐性ばかりを過剰に表現したことが、オーストラリアでヒットしなかった理由の1つなのかもしれません。

町から抜け出すにはどうしたらいい?

モラルの崩壊したヤバから一刻も早く抜け出したいと思うジョン。しかし彼の身なりは酷い有様で、手持ちの金もほとんどありません。窮地に陥ったと焦る彼は、ヒッチハイクでトラックに乗せてもらいます。彼は、トラックがシドニーに行くと思い込んでいたので熟睡、けれども目がさめると再びヤバの地に。 もう死ぬまでこの町から出ることはできないのか、ドクの仕業に違いない、ジョンはそんな妄想にかられ我を忘れてしまいます。ドクを殺さねば、そう思った彼はドクの家に向かうも留守。 何をしてでもヤバから出たい、もはや手段はないのかと途方にくれた彼は猟銃で自分の頭を撃ち抜くのです……。

物語の結末やいかに…

死をもってヤバから出ようとしたジョンですが、結局ドクの応急処置のおかげで一命を取り留めます。そして、ジョンは列車に乗ってあっさりとヤバを後にする……これが『荒野の千鳥足』の結末です。 ループのように抜け出すことができないと思っていたのは彼の妄想のせい。思えば、輸送トラックの目的地がヤバなのは何もおかしなことではないし、彼がたまたまそれを選んだだけ。ドクが何かの黒幕だというのも完全に思い込み。 酒の仕業か、彼の性格か、はたまた人間の本質か、過激な表現を乗り越えた先に壮大なテーマが浮かび上がってくる作品だと思います。

『荒野の千鳥足』はどこでみれる?

さて、ここまで繰り返し不快だと言ってきましたが、本作がほんとうに不快か・不快なだけなのかは是非各々の目で見極めていただきたいところです。レンタルビデオショップの旧作コーナーを探すか、あるいは動画配信サイトを使って本作を視聴できます。 ちなみに、数あるサイトの中でもU-NEXTとビデオマーケットで配信されているよう。アマゾンビデオにもラインナップされていますが、現在視聴不可だそうです。 映画史に刻まれた衝撃作『荒野の千鳥足』。ぜひご覧になってみてはいかがでしょうか?