(C)2017 Florida Project 2016, LLC.

【是枝監督ファン必見】映画『フロリダ・プロジェクト』徹底レビュー

2018年5月18日更新

2018年5月2日より絶賛公開中の『フロリダ・プロジェクト/真夏の魔法』。その独特の色彩とキラキラと輝く子供達の演技で多くの注目を集めています。今回は、そんな「フロリダ・プロジェクト」のレビューを中心に作品について紹介していきます。

"真夏の魔法"が何をもたらすのか?

全編iPhoneで撮影された映画『タンジェリン』(2015)で大きな話題を集めたショーン・ベイカー監督が、今度は35mmフィルムで撮影するという真逆のアプローチで挑んだ最新作『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』が、2018年5月12日(土)に日本で劇場公開を開始しました。 ウィレム・デフォーがアカデミー賞をはじめとするアメリカを代表する数々の映画賞で助演男優賞ノミネートを果たしたことでも話題の本作は、独特の極彩色で描かれた美しいフロリダの風景と貧しい中でも全力で幸せに暮らす人々が織り成す、感動の物語に仕上がっています。 今回は、そんな儚げで美しいエモーショナルな名作となった『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』のレビューをお届けします。

「フロリダ・プロジェクト」のあらすじを紹介!

6歳のムーニーと母親のヘイリーは、サブプライム住宅ローン危機の煽りを受けて定住する家を失い、"世界最大の夢の国"フロリダ・ディズニー・ワールドのすぐそばにある安モーテル「マジック・キャッスル」でその日暮らしの生活を送っていました。 シングルマザーで仕事もないヘイリーは生活の厳しさに直面しながらも、それを娘・ムーニーに悟らせないように明るく振舞っています。ヘイリーの努力の結果、素直で明るく育ったムーニーが見ている世界はキラキラと輝き、その毎日は冒険に満ち溢れています。 しかし、次第に苦しくなっていく生活と立て続くトラブルの連続で、幸せな毎日の終わりはすぐそこに迫っていたのでした。

「フロリダ・プロジェクト」のキャストを紹介!

本作での演技が高く評価されているウィレム・デフォーや『スリー・ビルボード』(2017)の広告代理店経営者役が記憶に新しいケイレブ・ランドリー・ジョーンズなど、実力派俳優が名を連ねる中、メインキャストはほぼ新人という挑戦的な制作姿勢をとった本作。 中でもほぼ演技経験のない子供達の演技は純粋無垢で美しく、是枝裕和作品を思わせる自由奔放で楽しそうな姿に、筆者は胸を鷲掴みにされてしまいました。 こちらでは、ビビットカラーで彩られた世界の中で、素朴で繊細に輝くキャストたちを紹介したいと思います。

ブルックリン・キンバリー・プリンス/ムーニー

2010年5月4日に本作の舞台であるフロリダ州に生まれた、現在8歳の彼女は3歳の頃に子役としてデビューしました。 「スター・ウォーズ」シリーズや「ハリー・ポッター」シリーズ、『ワンダー・ウーマン』(2017)の大ファンで、撮影中は監督を「ミスター・ショーン」と呼んで非常に懐いていたそう。 本編では表情豊かないたずらっ子として、天真爛漫に走り回る姿を披露してくれており、見るものの心を豊かにする不思議な魅力を放っています。

ブリア・ビネイト/ヘイリー

リトアニア共和国に生まれ、6歳でニューヨークに移住した彼女は、常にクリエイティブなことへの興味を持ち続け、19歳で服飾デザインを始めます。その後、彼女自身の手でその商品のほとんどを作り上げて販売する「ChroniCal NYC」を立ち上げました。 ショーン・ベイカー監督は、新作「フロリダ・プロジェクト」の主人公である母親像を、たまたま見かけた彼女のインスタグラムからインスパイアされて作り上げました。 しかし、キャスト選びは難航しなかなか決まりません。そんな時にスタッフの一人が監督に言った「ブリアに直接頼んでみては?」という一声がきっかけで、彼女の出演が決まりました。

ウィレム・デフォー/ボビー

『プラトーン』(1986)で演じたグロージョン軍曹役で国際的な評価を獲得し、以降ハリウッドで欠かせない名俳優のひとりとして幅広い活躍を続けるウィレム・デフォー。『スピード2』(1997)やサム・ライミ版『スパイダーマン』(2002)などで、印象的な悪役を演じ一躍脚光を浴びました。 本作ではヘイリーとムーニーの暮らすモーテル「マジック・キャッスル」の管理人・ボビーを演じており、厳しくも愛のある優しい演技で、アカデミー賞やゴールデングローブ賞といった米国主要映画賞の助演男優賞に数多くノミネートし話題を呼びました。

監督を務めたのは『タンジェリン』のショーン・ベイカー!

超低予算というインディーズ映画のデメリットを逆手に取り、その革新的なアイデアとシンプルな映画言語を巧みに使いこなす新進気鋭の映画監督ショーン・ベイカー。 彼の代表作でもある『タンジェリン』(2015)は、たった3台のiPhoneで全編撮影された上で高い評価を獲得しており、例えスマートフォンであろうと「カメラと被写体がいれば良い映画は作れる」という事実は、金銭的に恵まれない多くの若手クリエイターに希望を与えました。 今作でも、色調を変えることなく実在の街のカラーリングをそのまま利用することで、煌びやかなパステルカラーの中に潜む薄暗い部分を描写することに成功しており、さらなる進化を遂げ続けている映画作家のひとりです。

「フロリダ・プロジェクト」の評価・評判は?

ショーン・ベイカー監督の前作『タンジェリン』とは反対に、本編を35mmフィルムで撮影されていることで注目を集めている『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』。 中でも主人公の住むモーテルの管理人役を務めたウィレム・デフォーの演技が高い評価を獲得しており、ゴールデングローブ賞、アカデミー賞など数多くの助演男優賞にノミネートしました。厳しく管理しなければならない仕事上の立場と接してきた時間が育んだ不思議な愛情の間で悩み苦しむという難しい表現を、その表情で完璧に演じきっていたことが、評価の理由と言えるでしょう。 それと同時に主人公の娘・ムーニーを演じたブルックリン・キンバリー・プリンスをはじめとする子役の演技・演出も素晴らしく、多くの映画ファンを虜にしました。

自由奔放に遊ぶ無邪気な子供たち!

フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法
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ショーン・ベイカー監督自身も撮影前に『誰も知らない』(2004)を見直したと言うほど、強く是枝裕和監督の影響を受けているこの「フロリダ・プロジェクト」。子供達の無邪気な演技は、本作の大きな魅力のひとつとなっています。 唾を吐いて人の車を汚したり、詐欺まがいの行動でアイスクリームを手に入れたり、空家に忍び込みものを壊すなど、やっていること自体は決して褒められたものではありませんが、それでも貧困に喘ぎ苦しむ子供の姿そこにはなく、底抜けに明るく今を楽しもうとする彼女たちにあなたもきっと、胸を打たれることでしょう。 現場での指示のみで子供に演技をさせる是枝監督と違い、事前に脚本を渡しセリフをしっかりいれた上で撮影に挑んだという本作。決まったセリフでここまでナチュラルかつフレッシュな演技が実現したことには、筆者もとても驚かされました。

豊かな彩りとは裏腹に落ちていく影

フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法
(C)2017 Florida Project 2016, LLC.

本作は「フロリダ・ディズニー・ワールド」という世界有数のテーマパークのすぐそばにある安モーテルで暮らしているという、「夢」と「現実」に目に見える確かな境界線が敷かれた構図で展開されます。 天下のディズニー様の"おこぼれ"を頂戴しようと、わざとらしく色彩豊かな街に仕上がっているフロリダの風景が虚しく描かれており、辛い現実を感じさせまいと笑顔を見せる本作に登場する母親たちの気持ちとリンクして胸が苦しくなりました。 ディズニー・ワールドから打ち上がる花火を遠目に祝う誕生日や、盗んだチケットを使わずに転売する姿が近くて遠い夢の世界との不変の距離を思わせ、思わず涙してしました。

最後に訪れる叙情的なラスト

フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法
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素行は決してよくないけれど、明るく楽しい生活を送ってきたムーニーとヘイリー二人の物語に、終止符が打たれる瞬間が突如として訪れます。 これまで「夢」を見続けることで生きてこれたムーニーに災害のように襲い来る「現実」は、恐ろしいほどに強大で彼女の小さな胸では受け止めることができませんでした。 これまで笑顔を絶やすことのなかった彼女が最後に見せた"感情"に、多くの観客が心を震わせたことでしょう。 唯一iPhoneで撮影されたというラストの1カットは、この物語の結末に対して確かな効果を発揮しており、絶望と希望が入り混じる唯一無二の魅力を放っていました。

「夢」と「現実」の間で生きる親子の物語!

フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法
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以上、ここまで『フロリダ・プロジェクト/真夏の魔法』についてご紹介させて頂きましたが、いかがでしたでしょうか。 破天荒な母親と自由奔放な娘が織り成す「夢」と「現実」の物語である本作を見た後に残る感情は、簡単な言葉では言い表せない美しき儚さを帯び、頬を伝う涙となって放出されます。 虚構的な極彩色と裏に潜む闇との間で、もがき苦しみながらも笑顔を失わない親子の姿は、仕事や学業で疲れきった5月病のあなたの心に、静かな勇気と活力を与えてくれることでしょう。 この映画を見て、大切な人と一緒に肩を並べて涙を流す。そんな休日を過ごして見るのはいかがでしょうか。