今だから観たい、93年実写版『シティーハンター』を徹底レビュー【ジャッキー・チェン主演】
あの『シティーハンター』にはジャッキー・チェン主演の実写版があった!
2019年に29年ぶりの新作アニメ映画が公開された『シティーハンター』。同年11月にはフランス版の実写映画『シティーハンター THE MOVIE 史上最香のミッション』が公開されました。 海外にも多くのファンを持つこの作品が、1993年にジャッキー・チェン主演で実写化されていたということをご存知でしょうか?
原作は日本の東京を舞台にしていますが、実写版では舞台を香港に設定するなどの大きな違いがあります。この記事では、原作やアニメ版『シティーハンター』のファンの神経を逆撫でしながらも、B級映画好きには根強く支持されている本作の、基本情報から迷シーンまで詳しく解説! 原作とは違う面白さが発見できるかもしれませんよ!
原作は累計5000万部以上発行の大ヒットコミック
『シティーハンター』は、裏世界では屈指の凄腕でありながら女好きの始末屋、冴羽獠(さえばりょう)と、彼の相棒である槇村香(まきむらかおり)の活躍を描いた作品です。コミックスは全35巻、週刊少年ジャンプでは6年間に渡って連載されました。 ハードボイルド且つコミカルな作風がヒットし、単行本は累計5000万部以上の発行部数を誇っています(近年の作品だと、『銀魂』などの作品がこれに並ぶ発行部数です)。また、韓国では実写ドラマが放送されるなど、海外でも広く知られている作品です。 原作者である北条司のもう一つの代表作、『キャッツ・アイ』と共に長く愛されています。
また、TM NETWORKの『Get Wild』は、アニメ版『シティーハンター』のエンディングテーマとして知られており、本作を知らなくても耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。
ジャッキー・チェン版『シティーハンター』のストーリー
私立探偵の冴羽獠は、香港に家出した日本の新聞社の社長令嬢を探し出し、香港から日本へ連れ帰る仕事を依頼されます。任務の途中、令嬢の清子とパートナーの香が乗った豪華客船に獠も乗り込みますが、突然船がテロリスト集団に乗っ取られるという事件が発生。 果たして、獠たちの運命は如何に……。 豪華客船を舞台に、ジャッキー・チェン演じる獠がカンフーを駆使して敵をなぎ倒していく痛快アクションコメディー。映画の冒頭から原作無視も甚だしく、『シティーハンター』らしいシーンは殆どありませんが、雑な作りの中に奇妙な愛嬌がある怪作です。
あの俳優の出演に、B級映画ファン歓喜!
言うまでも無く主演はジャッキー・チェンですが、日本人キャストとして、1980年代に美少女カリスマタレントとして一世を風靡した、ゴクミこと後藤久美子が清子を演じていることでも本作は有名です。その他、香を台湾のスーパースターとして活躍していたジョイ・ウォンが演じています。 そして、敵の幹部であるキム役を務めているのが、実写版『北斗の拳』でケンシロウを演じたゲイリー・ダニエルズ。B級映画に多く出演してきた名脇役として、一部の映画マニアには馴染み深い俳優です。 監督を務めたのは、中国の映画監督バリー・ウォン。1981年のデビューから2017年まで100作以上もの映画を監督した人物として知られています。
原作ファンに全力でケンカを売るオープニング
物語は冴羽獠の自己紹介から始まりますが、冒頭から只のジャッキー・チェンにしか見えません。 原作の獠はハンサムで体格も良いキャラクターなのですが、本作の獠は何故かジャケットもブカブカのサイズを着ているなど、コメディアンのような出で立ち。更に、そんな彼がかつての相棒、槇村秀幸の死を振り返るシーンは、正に原作ファン激怒モノでしょう。 漫画では、秀幸の悲劇的な死は非常にシリアスな名場面とされていますが、本作では完全にコメディー調にされてしまい、悲壮感など皆無。このシーンも含めて開始から5分も経っていませんが、既に原作を木っ端微塵に破壊しています。
空腹の描写がやりすぎ?独特の映像センス
本作の獠はやたらとお腹を空かしているのが特徴で、それを表現する為に珍妙なテクニックが使われています。清子を追って豪華客船に潜入した彼ですが、あまりの空腹から食べ物の幻覚を見るように……。 水着の女性の体を見て、食べ物を連想する獠。画面にハンバーガーやフライドチキンの画像が点滅するという驚異の映像表現に、思わず笑ってしまうこと間違いなしです。 また、他のシーンでは船内のネズミを喜んで食べようとするなど、劇中での獠は食べ物関連では中々のクレイジーっぷりを見せてくれます。
あのヒット曲を広東語でカバー!理解不能な謎ミュージカル
豪華客船だけあって内部にはカジノもありますが、そこではテロリスト集団も含めて盛大にギャンブルが行われています。そんなカジノでのあるシーンは、本作でも特に謎な場面の一つでしょう。 何故か、とんねるずのヒット曲『ガラガラヘビがやってくる』の広東語カヴァーが唐突に流れ、ダンサーたちが踊り狂い始めます。物語に全く関係ないミュージカルをフルコーラス流すという狂気の沙汰には、多くの人が唖然とするはず。 日本人に向けてのサービスなのかもしれませんが、グダグダ感が漂う作中屈指の意味不明なシーンになってしまっています。
最早コント番組?あの名作ゲームを再現
本作でも特に有名なシーンが、人気ゲーム『ストリートファイターⅡ』のキャラクターに扮した獠とキムの決闘シーンです。何の脈絡もなくエドモンド本田やダルシムなどのコスプレで登場する両者の格闘シーンには、最早映画ではなくコント番組を見ているような何とも言えない気分になるでしょう。 しかし、アクションや効果音などは1994年の実写版である『ストリートファイター』などよりもよっぽど原作ゲームに忠実であり、『シティーハンター』とは全く関係ない部分で妙な本気を見せてくれます。 何故わざわざこのシーンに力を入れたのかは分かりませんが、これはこれで見応えのある内容です。
映画史に残る?緊張感の欠片もないダラダラ最終決戦
謎のコスプレバトルを挟みながらも敵を倒していく獠。テロリスト制圧部隊も船に到着し、いよいよ敵の親玉であるマクドナルド大佐との最終決戦が始まります。 ハリウッド映画であれば真剣なアクションが展開されるところですが、本作にそのようなシーンを期待してはいけません。コミカルな音楽が延々と流れる中、大佐とトンファーや棒などを使って楽しそうに戦う獠の姿は、これまた脱力モノです。 まだ序盤なのかと勘違いしそうになる程の緊張感の無いラストバトルは、ある意味必見。その後、ラストシーンで思い出したように原作要素をチラ見せして、映画は幕を閉じるのでした。
原作とは違った魅力を持つ、もう一つの『シティーハンター』
いかがだったでしょうか?ツッコミどころや豪快な原作無視は勿論ですが、俳優たちのコミカルな演技も楽しめる作品です。 原作にはギャグシーンだけでなくハードボイルドなシーンも数多くありましたが、本作は終始ふざけっぱなしなので、人によってはとんでもない駄作と感じるでしょう。しかし、コメディーアクション映画として見れば、気の抜けた独特の空気感がクセになるかもしれません。 古い作品ですが、AmazonなどではDVDが簡単に入手できますので、『シティーハンター』という作品の斬新な解釈として気楽に楽しんでみてはいかがでしょうか。