2018年5月29日更新

「犬神家」の市川崑は野心家で愛妻家?おすすめ映画6選

長いキャリアの中で『犬神家の一族』や『ビルマの竪琴』など数多くの名作を送り出した日本映画界を代表する巨匠、市川崑。その経歴や創作の秘密、代表作についてまとめてみました。

世界的評価の名作から娯楽大作、実験的作品まで!幅広い顔を持つ巨匠・市川崑

世界的な映画祭でさまざまな賞を受賞した古典的名作から娯楽性の高い大作・テレビドラマ、新技術を駆使した実験的作品まで幅広いジャンルを手掛け、名実ともに日本映画界を代表する巨匠が市川崑です。 とりわけ妻であり同志ともいえる脚本家・和田夏十と共同で生み出した数々の作品、また自身の作品のセリフリメイクを多数手掛けたことなどでも他の巨匠とは一味違う異才ぶりを発揮しました。 ここでは、2008年に亡くなるまで生涯現役であり続けた市川崑の経歴やプロフィール、和田夏十との関係に続き、おすすめしたい映画を6作品厳選してご紹介したいと思います。

市川崑のプロフィール

市川崑は1915年11月20日、三重県宇治山田市(現在の伊勢市)に生まれましたが、父の急死や自身の病気を理由に大阪、長野、広島を転々として青春時代を過ごしました。ちなみに名前の「崑」は成人後に「儀一」から改名したものです。 若い頃は画家志望でしたが、伊丹万作監督の『國士無双』に感動して映画界を目指します。東宝京都撮影所の前身であるJ.O.スタヂオでアニメーターとしてキャリアをスタートさせたのちに伊丹万作らの助監督を務めるようになりました。 1948年に『花ひらく』で監督デビューを果たします。50年代から80年代にかけては毎年のように作品を量産し、国内外で輝かしい評価を得るとともに興行的にも数々の大ヒット作を連発して巨匠の地位を確立しました。 実験的作品から娯楽大作、テレビや話題のCM、セルフリメイクなど、常に現役であり続けましたが、2008年2月13日に肺炎のため92歳で他界しています。

まさしく同志だった妻である脚本家・和田夏十

市川崑は東宝撮影所で当時脚本の校正をしていた和田夏十(わだなっと・本名は市川由美子)と運命的な出会いを果たし、1948年に結婚します。その後は和田が市川作品のほとんどの脚本を手掛けるなど公私に渡るパートナーであり続けました。 ところが1965年の『東京オリンピック』のあと、和田が乳がんを患い第一線を退きます。それでも闘病を続けながら脚本上のさまざまなアドバイスをしていたと言います。 市川作品になくてはならない存在として、二人の関係はまさに同志とも言えるものでした。和田夏十は『細雪』の最後のシーンを執筆したのが遺作となり、1983年2月18日に62歳で先立ちました。

1. エディンバラ国際映画祭グランプリなど世界的名声を得た傑作【1956年】

竹山道雄の小説を原作に、当初は第一部と第二部の超大作として映画化された日活時代の代表作です。エディンバラ国際映画祭グランプリ、ヴェネツィア国際映画祭サン・ジョルジョ賞、米アカデミー外国語映画賞ノミネートなど、世界的名声を得るきっかけになった作品でもあります。 物語の舞台は太平洋戦争終結後のビルマです。いまだ抵抗を続けていた日本軍の説得に向かった水島上等兵が消息を断ち、やがて僧となって姿を現す心の動きを美しいモノクロ映像で描きました。 主人公を三國連太郎が演じ、実際にビルマでロケが敢行されました。また、1985年には新たに中井貴一を主演に迎え、市川崑自身の手でリメイクが製作されています。

2. 新しい現像技法によって生み出された映像美に注目!【1960年】

幸田文の同名小説が、市川崑監督のもと脚本・水木洋子、撮影・宮川一夫の豪華スタッフを配して映画化されました。キネマ旬報の年間第1位に選ばれたほか、市川が監督賞を受賞しています。 作家の父や義母としっくりこない日常を送るげんと碧郎の姉弟。素行が乱れ始めた碧郎のことを心配し、親身になって世話をするげんの姿を軸に、家族の再生がしみじみとしたタッチで描かれます。 当時の時代の雰囲気を再現するため「銀残し」と呼ばれる新しい映像処理技術が使用され、深みのある独特の映像美を生んでいます。姉弟を岸惠子と川口浩、両親を森雅之と田中絹代という当代きっての名優たちが演じました。

3.クールでスタイリッシュな世界観が際立つ異色作【1961年】

和田夏十のオリジナル脚本をもとに、光と闇の洗練された構図、フィルムノワールともいえるクールな映像美で市川崑らしさが存分に生かされた異色ミステリーです。その斬新さが話題をよびながら長らく幻の作品と位置付けられていましたが、1997年のリバイバル上映を機にますます評価が高まっています。 妻と9人の愛人を持つテレビの敏腕プロデューサーである風松吉。そんな状態にたまりかねた女たちが手を組んで松吉の殺害を計画します。 主人公を船越英二、女たちを山本富士子、岸恵子、中村玉緒、宮城まり子、岸田今日子ら豪華な女優陣が演じました。2002年には市川自身の手でリメイクテレビドラマが製作されたほか、舞台化や再ドラマ化など近年ますます人気をよんでいます。

4.大論争を巻き起こしたオリンピック公式ドキュメンタリー【1965年】

市川崑が総監督を務め、1964年の東京オリンピックの模様を撮影した公式記録映画です。和田夏十、谷川俊太郎、白坂依志夫らが練り上げた共同シナリオ、名カメラマンの宮川一夫らによる斬新かつ画期的撮影が高く評価され、カンヌ国際映画祭の国際批評家賞や英アカデミー賞のドキュメンタリー賞を受賞しました。 高評価のみならず、興行的にも異例の大ヒットを記録しましたが、当時は記録か芸術かで賛否両論の大論争も巻き起こしました。 2004年には40周年を記念して市川自身が手掛けたディレクターズカット版も発表されるなど、今やオリンピック記録映画の金字塔として高く評価されています。

5.数ある横溝正史原作作品の頂点に君臨する不朽の名作【1976年】

70年代から80年代にかけて大ブームを巻き起こす角川映画の第1弾にして、横溝正史のベストセラー小説を原作にした市川崑監督と石坂浩二主演の「金田一耕助」シリーズ第1作でもあります。 信州の湖畔に豪邸を構える旧家の当主・犬神佐兵衛が死去。莫大な遺産の相続方法が記された遺言状をめぐって娘や孫らが骨肉の争いを繰り広げ、やがて残虐な連続殺人事件へと繋がっていきます。 おどろおどろしい物語でありながら斬新な映像世界、日本的風土を背景にした情愛に満ちた物語、役者たちの名演技、哀切なテーマ曲などどれをとっても秀逸な70年代の日本映画を代表する名作です。 2006年には、市川崑・石坂浩二コンビのままセルフリメイクが製作されています。

6.東宝創立50周年記念作となった豪華絢爛な文芸大作【1983年】

言わずと知れた文豪・谷崎潤一郎の小説が原作であり、東宝創立50周年記念作品として市川崑監督の手で3度目の映画化が実現しました。旧家の美人4人姉妹には岸惠子、佐久間良子、吉永小百合、古手川祐子、周囲の男たちを石坂浩二、伊丹十三ら豪華な役者陣が顔を揃えました。 まもなく戦争に突入する昭和13年、大阪の船場に本家を構える薪岡家の三女・雪子の縁談を軸にした個性的な4人姉妹それぞれの人間模様を四季折々の日本美を背景に描きました。 豪華な顔ぶれはもちろん、艶やかな着物や古き良き家屋の佇まいも必見です。市川崑自身が本作の映画化を20年来熱望していたことが知られています。

岩井俊二が製作したドキュメンタリー『市川崑物語』

『スワロウテイル』や『Love Letter』、『打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?』など独特の映像世界でファンも多い岩井俊二は市川崑を尊敬し、とりわけ『犬神家の一族』に大きな影響を受けたことを語っています。 そんな岩井俊二が、2006年に市川によるセルフリメイク『犬神家の一族』が公開されたのに合わせ、ドキュメンタリー映画『市川崑物語』を発表しました。 内容は市川崑の幼少時から現在に至る半生を独特の視点で捉えたものです。とりわけ若き日のアニメーター時代、また和田夏十とのツーショットなどファンなら必見の内容であるばかりか、ドキュメンタリー作品としても秀逸の出来栄えです。

野心家であり、愛妻家でもあった巨匠・市川崑

市川崑は1948年の監督デビューから2008年に亡くなるまで60年のキャリアを誇り、その間、数多くの作品を手掛けました。ここではわずか6作品の紹介に厳選しましたが、その他にも1958年の『炎上』、1960年の『ぼんち』などおすすめです。 そうした長きに渡る功績に対し、市川崑個人として1994年に文部省文化功労者、死後2008年には正四位/旭日重光章が授与されました。 また、新しい実験的手法や複数のセリフリメイクなど、巨匠になってなお野心的挑戦を失わなかったこと、さらに妻の和田夏十に対して最後まで感謝と賛美を忘れなかったことなど、野心家・愛妻家の一面も特筆すべきでしょう。