カンヌに愛された日本人!今村昌平監督のおすすめ映画8選

2018年5月21日更新

栄えあるカンヌ国際映画祭で2度のパルムドールを受賞した唯一の日本人監督である今村昌平。2006年に亡くなった巨匠の経歴とおすすめの代表作をご紹介します!

カンヌに愛された日本を代表する映画監督・今村昌平

世界三大映画祭のひとつであるカンヌ国際映画祭でグランプリにあたるパルムドールを2度も受賞した日本を代表する巨匠が今村昌平です。 今村は松竹と日活において名だたる監督のもと助監督や脚本家を経験したのち、自身で独立プロダクションを立ち上げます。資金面の問題もあって決して多作ではありませんでしたが、映画史に残る数々の名作を送り出し、また専門学校の創立など新たな才能の育成にも貢献しました。 1958年の監督デビューから2006年に他界するまでの間、遺した監督作はわずか20作品です。ここではその中からさらに選りすぐった文字通り代表作と言える8作品を、簡単なプロフィールに続きご紹介したいと思います。

今村昌平のプロフィール

今村昌平は1926年9月15日、東京の大塚にある耳鼻咽喉科の開業医の家に生まれました。早稲田大学第一文学部在学中は演劇部に所属し、そのころ観た黒澤明監督の名作『醉いどれ天使』に大きな影響を受けたと言います。 1951年に大学を卒業すると、難関を突破して松竹大船撮影所に入社しました。小津安二郎の助監督をつとめてその才能が評価されたのち、1954年に日活に移籍します。日活では川島雄三に師事し『幕末太陽傳』などの脚本を手掛けました。 監督デビュー作の『盗まれた欲情』に始まり、『赤い殺意』まで7本の監督作を手掛けたあと、1966年に今村プロダクションを設立して日活を退社します。その後は数年に1本のペースで作品を発表して世界的評価を得る一方、1975年に横浜放送映画専門学院(後の「日本映画学校」)を開校して多くの才能を送り出しました。 2006年5月30日、転移性肝腫瘍のため79歳で他界します。遺作は世界各国の映画監督が参加した2002年のオムニバス映画『11'09''01/セプテンバー11』となりました。

1.日本人初のベルリン国際映画祭主演女優賞に導いた傑作【1963年】

大正から戦後の安保闘争に至る日本の近代史を背景に、一人の女の奔放にして波乱に満ちた生き様を大胆に描いた傑作です。主人公の松木とめを演じた左幸子が日本人として初となるベルリン国際映画祭主演女優賞を受賞したほか、キネマ旬報でも年間第1位に輝きました。 母と浮気相手の間に生まれたとめは、血のつながらない父に近親相姦にも似た愛情を抱きながら育ち、やがて東北の寒村から上京して売春斡旋の女将まで上り詰めます。とめとその母、さらにとめの娘という女三代を軸に、たくましいほどの生命力を力強く描き上げました。 マーティン・スコセッシが学生時代に本作を観て衝撃を受け、これ以後今村昌平のことを師と仰ぐようになったというエピソードも有名です。

2.今村昌平の評価を決定的にした日活時代の代表作【1964年】

原作は何度も映像化されている藤原審爾の小説であり、今村昌平本人が自身の代表作と位置付ける日活時代の傑作が『赤い殺意』です。ある出来事をきっかけにしたたかに成長していく一人の女の姿を圧巻のモノクロ映像で描きました。 夫の出張中に忍び入った強盗に犯され、妊娠してしまう奥手で無気力な人妻の貞子。その後も強盗につきまとわれ、また強権的な夫にも打ち明けられない中で、次第にたくましく変貌していきます。 貞子を春川ますみ、強盗を露口茂、夫を西村晃、夫の浮気相手を楠侑子が演じています。とりわけ春川ますみのすさまじいまでの存在感、また貞子と強盗が走る列車の中でもみあう場面は映画史に残る名シーンとして有名です。

3.今村昌平初のカラー作品にして壮大なるリアリズムの叙事詩【1968年】

構想に6年を費やし、沖縄での長期にわたるオールロケなど巨費を投じた今村昌平初のカラー作品にして、徹底したリアリズムを貫いた渾身の大作です。キネマ旬報で第1位にランクインしたばかりか毎日映画コンクールなどの主要映画賞を総なめしました。 本作の舞台となるのは、現代文明から隔絶された、神話と因習が今も息づく南のある孤島。神への冒涜だとみなされた一人の男とその妹の姿を軸に、自然と神、人間と性の営み、さらには日本人の根源まで遡る壮大な叙事詩が描かれます。 主人公の根吉を三國連太郎、その息子を河原崎長一郎、知的障害のある根吉の妹を沖山秀子、さらに東京からやってきた測量技師を北村和夫が演じました。 本作によって膨大な借金を抱えたことから10年ほど新作を製作できなくなり、そのため今村作品前半期の集大成に位置づけられています。

4.実際の殺人事件をモチーフにしたノンフィクション小説の映画化【1979年】

実際に起きた連続殺人事件を題材にした佐木隆三の直木賞受賞作にしてベストセラー小説が原作です。熾烈な映画化権争いの末に今村昌平の手中におさまり、日本アカデミー賞やブルーリボン賞などを席巻したばかりか興行的にも大ヒットを記録しました。 5人の女性や老人を殺害しながら九州や東京で詐欺と犯罪を繰り返した残虐な殺人鬼・榎津厳。その生い立ちから捕まって死刑執行に至るまでを丹念に描きます。 主人公を緒形拳が狂気に満ちた迫力で演じたほか、彼をめぐる周囲の人間には倍賞美津子や小川真由美、三國連太郎、フランキー堺ら豪華スターを配し、愛憎極まる濃密な人間模様を織り上げています。

5.日本の古い因習世界を描いた最初のパルムドール受賞作【1983年】

深沢七郎による同名小説の2度目の映画化であり、カンヌ国際映画祭で日本人としては衣笠貞之助の『地獄門』と黒澤明の『影武者』に次ぐ3作目にあたるパルムドール受賞作です。 信州の山奥深くにある小さな村を舞台に、70歳を迎えた老母おりんを姥捨ての風習に従い、楢山に捨て置きに行く息子・辰平の姿を描きます。辰平を緒形拳、おりんを坂本スミ子が演じたほか、あき竹城や清川虹子、左とん平ら独特のユニークなキャスティングも話題をよびました。 カンヌでは本命視されていた大島渚監督の『戦場のメリークリスマス』をおさえての驚きの受賞でした。

6.広島原爆投下の悲劇を描いた井伏鱒二の名作を田中好子主演で描く!【1989年】

広島原爆投下によって被爆した人々の悲劇と哀しい人間模様を描いた井伏鱒二の名作小説を、濃密なモノクロ映像で実写化した作品です。日本アカデミー賞最優秀作品賞に輝いたほか、とりわけヒロインを演じた故・田中好子の演技は絶賛されて各映画祭の主演女優賞を独占しました。 1945年8月6日の広島原爆投下。広島郊外に疎開していた矢須子は直後に降った「黒い雨」を浴びてしまいます。その後、叔父夫婦のもとに身を寄せていた矢須子ですが、被爆したという理由で縁談は破談し、さらに矢須子の体自体にも異変が現れるのでした。 矢須子を温かく見守る叔父夫婦には北村和夫と市原悦子が扮しました。再び濃淡の強いモノクロ映像に立ち戻り、さらにキノコ雲など被爆の模様を珍しく特撮で撮影するなど野心に満ちた作品でもあります。

7.カンヌで2度目のパルムドールに輝いた男と女の物語【1997年】

吉村昭の小説を原作に、『黒い雨』から8年ぶりに今村昌平がメガホンをとった男と女の再生を描く人間ドラマです。キネマ旬報年間第1位、そしてカンヌ国際映画祭では日本人初となる2度目のパルムドールに輝きました。 浮気した妻を殺害した罪で8年間の服役を終え、今は理髪店を営みながら一匹のうなぎと孤独に暮らす男・山下拓郎。自殺しようとしていた一人の女性・桂子を助けたことから、仕方なく共同生活をすることになってしまいます。 唯一うなぎだけに心を開く拓郎を役所広司、ヒロインの桂子を清水美砂が演じました。淡々とした静かな味わいの中、ユーモアのあるしみじみとした人間ドラマが熱い感動をよびました。

8.一人の風変りな医者を取り巻く人間模様をユーモラスに描く【1998年】

小さな漁師町に住む一人の風変りな町医者と彼を取り巻く町民たちを独特のユーモアと皮肉交じりに描きます。原作は坂口安吾の小説であり、カンヌにも特別招待されました。 まだ戦時下にあった昭和20年、岡山県の小さな漁師町を舞台に、肝臓炎の診断しかしないことで「カンゾー先生」と揶揄される変わり者の町医者・赤城風雨と訳あり美人看護師のソノ子。ある日、一人のアメリカ人脱走兵を診療所に匿うことになり……。 主人公には柄本明、ソノ子を麻生久美子が演じています。戦時下という悲劇の時代背景にありながら、さらりと爽やかな味わいの作品となっており、その中に今村昌平らしい独特の滑稽さと風刺が込められています。

日本映画界への貢献と息子の天願大介

今村昌平が開校し、長らく校長及び理事長を務めた横浜放送映画専門学院は日本映画大学へと名を変え、現在まで多数の人材を育成してきました。 卒業生には三池崇史や本広克行、李相日、俳優の長谷川初範ら映画関係者のみならず、芥川賞作家の阿部和重、ウッチャンナンチャンやバカリズム、ニッチェら、幅広い分野で活躍する多彩な人材を輩出し続けています。 現在の学長を務めているのが、今村昌平の長男である天願大介です。『うなぎ』や『カンゾー先生』で父とともに共同脚本を手掛けたほか、三池崇史監督作『十三人の刺客』の脚本を担当したり、自身も監督作『デンデラ』などを発表しています。

黒澤や小津らとは違う、独自の世界を築き上げた巨匠・今村昌平

日本映画の黄金期を支えた巨匠というと、黒澤明や小津安二郎ら複数の名前が挙がりますが、そんな中でもカンヌ国際映画祭でパルムドールを2度受賞したのは今村昌平だけ。海外に拡げてもフランシス・フォード・コッポラやダルデンヌ兄弟、ミヒャエル・ハネケらと並ぶわずか8組のうちの一人です。 作品の特徴は今村昌平自身が命名した「重喜劇」とも言われ、オールロケを基本としたリアリズムの中に潜む人間存在そのものの可笑しさと独特のエロスは、他の監督らとは決定的におもむきを異にします。 『楢山節考』などパルムドールを受賞した後期の有名作から今村作品に入った人には、ぜひ初期の『にっぽん昆虫記』や『赤い殺意』などより武骨な今村ワールドを鑑賞してみることをおすすめします!