投資銀行で働くってどんなもの?
映画はときにまだ見たことのない職業の裏側を覗かせてくれるもの。この企画では前編・後編の2回にわけて投資銀行を題材にした作品をご紹介します。センスの良いスーツに身を包み、的確な判断力で莫大な金額を扱っているように見える彼らの舞台裏は……? 前編では、日々めまぐるしく動く金融界をスリリングに描いた作品5本をご紹介します。金融危機はどのようにして起こり、そのとき人は何をするのか。専門用語を理解するのが少し難しいですが、金融の仕組みにも触れることができる作品たちです。
『マネー・トレーダー 銀行崩壊』(2000)
1995年にイギリスで起きたベアリングス銀行破綻事件。この事件を引き起こしたとされているのが、ベアリングスのやり手トレーダーだったニック・リーソンです。1996年に彼の手記が出版されたことで、事件の全貌が明かされました。 ジェームズ・ディアデンの『マネー・トレーダー 銀行崩壊』はその手記を題材に制作されました。ユアン・マクレガー演じるニックが、銀行きっての稼ぎ頭に登りつめながら不正取引に溺れていく様は鬼気迫るものがあります。 ちなみに原作となっている手記は日本でも翻訳版『私がベアリングス銀行を潰した』が出版されました。
『マージン・コール』(2011)
J・C・チャンダーが手がけた2011年の映画『マージン・コール』は2008年に起こったリーマン・ショックを題材に、金融危機を予期した投資銀行の24時間を描くフィクションです。キャストにはケヴィン・スペイシーやウィル・エマーソンらが起用され、実力派俳優たちによってリアルな投資の世界が表現されました。 タイトルにもなっている用語「マージンコール」は、大きな損失を避けるためのシステムのことです。実際に起こった事件を題材にしてはいますが、基本的にはフィクションな本作。だからこそ、リスク予測と対応の重要さが際立っています。
『ウォール街』(1987)
1987年、現実世界でブラックマンデーが起こった直後に公開された『ウォール街』はオリバー・ストーンが金融界にうずまく欲望を掘り出した作品。さらなる利益を求めるベテラン投資家ゴードン・ゲッコーをマイケル・ダグラスが、出世を望むあまり善悪の区別が曖昧になっていく若者バド・フォックスをチャーリー・シーンが演じています。 大物に認められようと必死なバド・フォックスは、ゴードン・ゲッコーに自分の父親がつとめる会社の内部事情を暴露。その情報が鍵となって一儲けしたゴードンはバドにもっと情報をもってくるよう言いバドも期待に答えようとし、彼らの行動はどんどんエスカレートしていく……。インサイダー取引とはなんたるかを描いています。 不況の最中に公開されたのだということを考えて見てみると、人間の生々しい恐ろしさが味わえる作品かもしれません。
『ウォール・ストリート』(2010)
1987年『ウォール街』の続編にあたる2010年公開の『ウォール・ストリート』。1作目に引き続き、ふたたびオリバー・ストーンがメガホンをとりました。 「街」が「ストリート」になっただけ?と思ってしまいますが、原題では『Wall Street:Money Never Sleeps』というサブタイトルがついています。そのタイトル通り、本作は懲役を終えたゴードン・ゲッコーが登場、マイケル・ダグラスが続投されました。また、主人公ジェイコブを演じているのはシャイア・バブーフです。 金融界での復活を目論むベテランと投資銀行の倒産に巻き込まれながら足掻く若者が、騙したり騙されたりしながらも1人の娘を介して繋がっていく、家族愛というテーマを取り入れつつも投資家たちの抜け目ない取引をみせてくれます。
『マネー・ショート 華麗なる大逆転』(2016)
アダム・マッケイによる2015年の『マネーショート 華麗なる大逆転』はアカデミー賞脚色賞受賞作。マイケル・ルイスのノンフィクション小説『世紀の空売り 世界経済の破綻にかけた男たち』を基にした本作は、リーマンショックの兆候にきづき、経済界の混乱を勝ち抜こうとした4人の男たちの物語です。 趣味も仕事のスタイルも全く違う4人をクリスチャン・ベール、スティーブ・カレル、ライアン・ゴズリング、ブラッド・ピットが演じていて、なかでもブラッド・ピットはプロデューサーも兼任しています。 「クレジット・デフォルト・スワップ」「モーゲージ債」など耳慣れない経済用語が飛び交いますが、世界的経済破綻の原因と発端をみることができます。
『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(2013)
マーティン・スコセッシがレオナルド・ディカプリオと5度目のタッグを組んだ2013年の『ウルフ・オブ・ウォールストリート』。ジョーダン・ベルフォードの自叙伝『ウォール街狂乱日記 「狼」と呼ばれた私のヤバすぎる人生』をもとに、彼が証券の世界でいかにして登りつめ、そして詐欺容疑で投獄されるに至ったかを描いた本作は、金融界の実情よりもジョーダン・ベルフォードの破天荒な生き様に目を奪われることでしょう。 稼ぐためには手段を選ばず、そのモチベーションを保つためならどんなことだってする。ドラッグ中毒になった彼がオーバードーズの果てに荒れ狂う様は必見です。
『ワーキングガール』(1988)
マイク・ニコルズが『ワーキングガール』で焦点を当てたのは、ウォール街で働く努力家の女性。メラニー・グリフィス、ハリソン・フォード、シガニー・ウィバーら、名だたる俳優陣が参加しました。 自分が秘書であることに不満をもっているのは、努力家な主人公テス。上司からのセクハラに耐えるばかりの業務に嫌気がさしていた彼女のもとに、同い年の女性で重役にのぼりつめたキャサリンが現れます。理解者になり得るかもしれない女性の登場に喜ぶテスでしたが、その期待は全く裏切られてしまうのです……。 ウォール街の実情に馴染みはなくても、自分の功績を横取りされるのがいかに悔しいかを想像するのは簡単なはず。登場人物の心情を汲みながら金融界を覗くことができる作品です。
『虚栄のかがり火』(1987)
ブライアン・デ・パルマがトム・ウルフの小説を映画化した『虚栄のかがり火』。トム・ハンクス、ブルース・ウィリス、メラニー・グリフィスが共演しています。 この作品の特徴は、回想形式で描かれること。とある記者がなぜピューリッツァー賞をとるまでになったのか。彼の記事は、とある敏腕トレーダーのスキャンダルを暴いたのでした。 なにもかも絶好調かと思われた人間が転落し、そのおかげでキャリアを諦め掛けていた人間が成功を掴み取る、ストーリーそのものが大逆転の取引を暗示しているようです。
『プロヴァンスの贈り物』(2006)
リドリー・スコットが友人の作家ピーター・メイルと組んで生み出した『プロヴァンスの贈り物』。投資銀行を舞台にした作品は殺伐とした雰囲気を持ちがちですが、この作品は一味ちがいます。 ラッセル・クロウ演じる主人公マックスは、ロンドンでトレーダーとして働く日々を送っていました。そんな彼が叔父の死をきっかけに叔父が暮らしていたワイン農園を訪れます。喧騒に包まれた日常とは全く違うのどかな暮らし、少年の頃の思い出、魅力的な女性との出会い……、証券マンの仕事と私生活を考えさせられる映画です。
『マネー・ゲーム』(2000)
ベン・ヤンガーの『マネーゲーム』は大学を中退して違法カジノで儲けている若者セスが主人公の物語です。主演はジョバンニ・リビジ、ほかにベン・アフレックやヴィン・ディーゼルが出演しています。 スリリングな商売に手をつけはじめた男たちが、ときに荒々しくときに慎重に行動していく様子は目が離せません。またストーリーの軸にはセスと父親の親子関係もあります。学業を投げ出して金儲けに走った息子と厳格な父、衝突することはあれど愛情は消えません。違法行為はするけれど確かな賢さをもっているセスというキャラクターもとても魅力的です。 いかがでしたか?投資銀行という普段目にすることの少ない業界を映画を通して知ることが出来ることも映画の大きな魅力の一つですね!