2018年7月13日更新

「ミューズって言葉、嫌いよ」ステイシー・マーティン、世界を虜にする彼女が語る『グッバイ・ゴダール!』【インタビュー】

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『グッバイ・ゴダール!』ステイシー・マーティンの素顔に迫る!

ステイシー・マーティン
©ciatr

ステイシー・マーティン。彼女は、話す事なくその場に佇み、少し微笑むだけで誰をも魅了する存在。鬼才ラース・フォン・トリアー監督による『ニンフォマニアック』では、一糸纏わぬ姿で主人公の少女期を熱演し、鮮明な女優デビューを果たした。あの激しいキャラクターから一点、新作『グッバイ・ゴダール!』では、かのゴダール監督に恋をする献身的なアンヌ・ヴィアゼムスキーを演じた彼女。 その素顔はかなり気さくで、キュート(こんな言葉ではもう到底、彼女の魅力を言い表せないんだけどあえて言わせて)で、終始顔に笑みを浮かべていた。そんな彼女にインタビューで『グッバイ・ゴダール!』について、そして彼女自身が好きな監督や映画業界について思う事を余す事なく伺った。

ステイシー・マーティン、コメディ作品への初挑戦

本作は、60年代後半のパリを舞台に、映画監督ジャン=リュック・ゴダールと彼の当時の妻となったアンヌ・ヴィアゼムスキーの日々、そして別れを描いた作品だ。勿論、ゴダールファンは存分に楽しめる程、各所にゴダール作品へのオマージュを感じさせるような演出がある。しかし、本作の特徴は決してゴダールのファンでない、映画を観た事のない観客でも楽しめる作品だという事だ。

ステイシー・マーティン
©ciatr

ステイシー・マーティン「この映画はチーキー(生意気)なコメディ作品なの。まさに、ミシェル・アザナヴィシウス監督らしいスタイルで、物語をコラージュのように構成していく。本当に彼らしい作品だと思っています。また、仰ってくださったように、この映画はどんな人でもアクセスしやすい映画になっているはずです。 ゴダールって聞くとシネフィルのようなファンにだけ受けるという印象を与えてしまいそうだけど、誰もが楽しめる作品だと断言できるわ。これは、ゴダールを描いた作品というより、コメディタッチなラブストーリーなの。」

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本当にその通りだと感じました。本作に出演してみた感想は?

ステイシー・マーティン
©ciatr

ステイシー・マーティン「最高だったわ!初めてのコメディ作品ではあったけど、ミシェルやルイ(・ガレル)と一緒に仕事をするのがとても楽しかったわ。私は台詞があまりないのだけど、決してどのシーンでも受け身にならないように心がけたの。役作りも、どのようにアプローチしていくかという点でいつもと違う事を求められたのが、難しかったけど、素晴らしい挑戦でもあった。 本作の原作はアンヌ・ヴィアゼムスキーさんが書いた、彼女の記憶を辿って書いたものだから、その記憶に忠実でありながら、如何に自分たちで物語を作っていくかを考えたの。 コメディって独特のリズムが必要になってくるし、タイミングが大切でテクニカルなものと考えているわ。それを監督と話し合いながら、自分なりに見つけて行く。そこから学んだ事は、これまでフリーフォール(自由落下)のように演技ができていたけど、今回はよりコード(掟やルール)があるなかでの演技だった。」

「愛していた人が、ゴダールが、かつて愛していた人でない事に気づくの」

それにしても、本作で描かれるゴダールは才能があってチャーミングな男であるが、物語を観ていると何故アンヌは彼と一緒にいるのだろうと思ってしまうことも確か。ステイシーは彼女を演じるにあたって、どんな所に心情を投影したり、共感したのだろう?

ステイシー・マーティン
©ciatr

「私が重要だと思うのは、自分の演じるキャラクターを良いとか悪いとかで決してジャッジしないことなの。やはり特に、ある人間関係、恋愛関係というのは当事者にしかわからない。外からみても分かるものではないので、「こうじゃないか」と決めつけるのは違う気がする。 アンヌはゴダールがアーティストである事を勿論理解していたし、リスペクトしていたし、愛していた。でも、途中で気づくの。愛していた人が、ゴダール自身が変わっていって、かつて愛した人ではなくなっていることを。そして色々な事を考えて、自分は違う道を歩もうと、彼と別れる事を決めた。もう、愛した人ではないという事がわかったからね。 彼女の強さというのは、彼に対する怒りや嫉妬心からで別れを決意したのではなく、二人が添い遂げる事は無理だと思ったから、という点にあると思うわ。違う人間だし、違うものを求めるのは当たり前。そんな風に、あの若さでそんな選択ができた事は、とても聡明だし成熟しているなと思ったの。特に、あんな状況の中でね。 やはり役者というのは、キャラクターの世界に飛び込まないといけないと思うわ。映画の素晴らしいところって、自分が違う考え方をしていても、どこかで共感できたり、完全に理解できなくても寄り添えることだと思うの。」

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本作に出演する上で、ゴダールやトリュフォーの作品を観たステイシー

ゴダールがテーマの映画ということで、ゴダールやトリュフォーの作品を参考にご覧になったと伺いました。その中で特に気に入ったものがあればお聞かせください。

ステイシー・マーティン
©ciatr

ステイシー・マーティン「ちょうどこの作品をパリで撮影した際に、リマスター版の『男性・女性』が映画館でやっていたの。通常ならゴダールの作品は家で観ることしかできないものでしたが、映画館で見られるという素晴らしい体験だった。 『恋人のいる時間』も、とても参考になったわ。というのも、ミシェル監督も、この作品のゴダールの色彩を『グッバイ・ゴダール!』の画作りに反映させているの。 トリュフォーの『アメリカの夜』には、ユーモアの部分でとても影響を受けたわ」

なるほど。しかし、気になってくるのは普段の彼女が好きな映画である……ということで、聞いてみた。

あのステイシー・マーティンが好きな監督は誰!?

ステイシー・マーティン
©ciatr

「まずはトリアー監督。私たちの生きる時代の中で、最も革新的な監督の一人だと思うわ。彼の新作が今年のカンヌで正式上映されたのを観に行ったんだけど、彼が会場に入ったときに10分間のスタンディングオーベーションがあったの。通常はすぐに上映がはじまるのに。それはやはり、偉大なるアーティストが戻って来たことを祝福する瞬間だったと思うし、それに立ち会えて本当に光栄だったわ。 若いこれからの監督でもお気に入りは、一緒に仕事をしたこともあるブラディ・コーベット監督、マリー・モンジュ監督。独特なスタイルをもつタランティーノ監督も、凄く映画的なのと同時に娯楽性の高い作品作りをしていると思うわ。 うちのDVDの棚を今可能な限り思い出してるんだけど……(笑)永遠に続いちゃうな。」

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ステイシーさん今まで色々な作品にでていると思いますが、女優として一番大事にしている事はなんでしょう?作品選びとか?

ステイシー・マーティン
©ciatr

ステイシー・マーティン「監督ね。監督は私にとって全てのトリックをもつマジシャンであり、パレットや素材を使って全てを描く画家でもある。 コーベット監督、あるいはリドリー・スコット監督とも仕事したけれど、彼らの手にかかれば本当に素晴らしいものになるの!監督によって、作品は作られていく。役者として一番ワクワクすることは、彼らとのコラボレーションね。いかに自分がビジョンの一部になるか、彼らのカラーパレットの一部になるかということよ。」

建設的批判の精神をみせる、ゴダール監督への賞賛

今年のカンヌ映画祭でゴダールがスペシャルパルムドールを受賞していますが、現在のフランスやイギリス、ヨーロッパにおいてゴダールはどういう監督であると感じていますか?

グッバイ・ゴダール!
© LES COMPAGNONS DU CINÉMA – LA CLASSE AMÉRICAINE – STUDIOCANAL – FRANCE 3.

ステイシー・マーティン「やっぱり我々の時代にとって最も革新的な監督の一人だし、フランス映画にとっては「フランス映画ってこうだよね」というアイデンティティを生み出してくれた監督でもあると思うわ。 60年代、映画を作り始めた頃には誰にも理解されなかったけど、それがそういう見方をされていくうちに彼はヒーローとして受け入れられた。今回のカンヌでの会見でもFaceTimeで参加されていたりして、最初「え、大丈夫?」と不安に思った人もいるかと思うんだけど、凄く聡明だと思ったの。 FaceTimeで2018年のカンヌの会見に参加することによって、我々の生きる現代社会、人と人がどのようにコミュニケーションをとるかという事について、建設的批判の精神をみせたわけで、凄いなと思ったわ! ゴダール作品は50年たっても100年たっても私たちに響く、あるいは現代的だと思わせる作品としてあり続けるんじゃないかしら。常に映画はこうあるものだという定義、あるいは辞書を改めて自分自身で作り続けている人だと思うし、我々はそういう監督を必要としてる。ヨーロッパではやっぱり神様のように思われているかも。」

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先輩女優アンヌ・ヴィアゼムスキーを演じるうえで、本人に会わなかった?

ヴィアゼムスキーといえば、女優として大先輩ですよね。彼女を演じるうえで意識した点やプレッシャーを感じた事はありましたか?

グッバイ・ゴダール ステイシー・マーティン プレス
© LES COMPAGNONS DU CINÉMA – LA CLASSE AMÉRICAINE – STUDIOCANAL – FRANCE 3.

ステイシー・マーティン「女優として、彼女の事は元々大好きでした。役者としての彼女は何もせずとも、何か力を感じさせるような方だと思います。ただ、物書きとしての彼女の側面は知らなかったんです。初めて監督から本作の原作となった2冊の本(『彼女のひたむきな12カ月』、『それからの彼女』)を読んで、本当に感嘆としてしまいました。 特にゴダールとの記憶って“痛み”を伴っただろうし、それこそ恨み言の一つ書かれていてもおかしくないのに、決して彼女はそんな風に記憶を辿っていない。凄くエレガントな形でこの物語を綴っている事に、とてもインスパイアされたの。 彼女の人となり、エッセンスというのは、この作品の物語に非常に染み込んでいて、溢れていると感じた。だから、彼女自身をコピーペーストするような形で演じる必要は全くないと思ったわ。」

撮影前、撮影中にあえて本人に会わなかったと聞きましたがそれは役作りのためですか?

ステイシー・マーティン
©ciatr

ステイシー・マーティン「それは私が本当にこの作品に関わる事が決まった最初の段階で、監督と話して決めたことなの。 もともとルックスも似ていないのに、模倣しようとすると特殊メイクだとか、色々そういった事が必要になってきて、無理がでてくると考えたのよ。作品自体に彼女の人格が表れているし、監督はこれを「伝記ではない」と言う風に言っていたわ。「そういうスタイルから離れたスタイルで描きたい、つまり僕たちが描くのはゴダールではなくジャン・リュックという人間だし、アンヌという女性である」と考えていたの。 なので、観ていただけるとわかるのだけど、ルイはよりゴダールチックな演じ方を“あえて”している。それとバランスをとるために、私の演じたアンヌは、本人というよりも抽象的な存在として「ゴダールの作品の女性達」あるいは「60年代を生きたフランス女性たち」という、様々な女性を象徴するようなキャラクターとして演じたの」

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その後、彼女とはお会いしましたか?

「実はカンヌ映画祭の公式上映の前に直接お会いしたの。凄く気さくな感じで挨拶させてもらったんだけど、映画については特に話さなかったわ。でも、それは良い事だと思う。私のモットーに「ニュースがない事は良い知らせだ」というものがあるの。 お互いに手を握ってカンヌの赤絨毯の階段をあがっていて、その時の沈黙や感じたリスペクトというのは、どんな分析よりも大きかったと思う。なんといっても彼女の物語なので、彼女は全てわかっていらっしゃるし、凄く心地の良い、シンプルな瞬間だったわ。」

ステイシー・マーティンの考える、ミューズとジェンダーバランス

この映画で描かれたような年上の監督が若い女性をミューズとする関係につい て、すごく美しいストーリーではあるものの今の時代においてはパワーバラン スも変わってきていますし、女性監督も増えています。監督とミューズの在り 方そのものが変わってきていると思いますが、どうお考えですか?

ステイシー・マーティン
©ciatr

ステイシー・マーティン「私、ミューズという表現、言葉が嫌いなの。とてもロマンティックに美化されているから。映画って、過去や今を生きる我々の生きる振る舞い、行動をディスカッションできる素晴らしい場だと思っていて、ジェンダーバランスもその一つとして変化していると感じている。 ある意味この作品というのは昔の時代の話なので、あるフラッシュバックのような作品じゃないかしら。そして、監督は最後にアンヌがある種の自立、そしてこの関係性から解き放たれていくことを自ら選んだというところで、「今の時代は違うから」という事を表現していると思うの。 ジェンダーバランスや関係性というのも変わってきたし、今の文化や我々、現代人はそうではないというのが、映画のラストに込められた意味だと感じるわ。」

ステイシー・マーティン
©ciatr

毅然とした態度で、しなやかに女優として、一人の女性として生きるステイシー・マーティン。はにかんだり、思い切り笑ったり……時には真剣な表情で映画について、自分自身について語ってくれた彼女の表面だけでなく、内に秘められた人間性に、恋してしまいそうだ。