2018年7月5日更新

【ネタバレ注意】映画「パンク侍」の評価・感想をパンクにお届け!

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パンク侍、斬られて候
©エイベックス通信放送

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映画『パンク侍、斬られて候』の評価・感想をお届け候!

2018年6月30日より全国東映系にて映画『パンク侍、斬られて候』が公開されました。 昨今の映画製作では委員会システムが当たり前のようになっていますが、本作はなんとdtv単独出資です。この1社提供というのが映画製作にとって大きなカギとなります。 かなり大胆な表現や演出がなされている本作ですが、通常の委員会システムではコントロールが難しいところ。それが1社提供ということで不自由なく製作できた映画と言えるでしょう。 そんな状況も踏まえ、映画のネタバレも含め紹介していきます!

町田康原作の小説『パンク侍、斬られて候』

映画『パンク侍、斬られて候』の原作は、芥川賞作家町田康の同名小説です。時代小説のような体はとっていますが、内容は現代社会に通じるような風刺が存分に描かれてます。 2004年に刊行され、本作の監督・石井岳龍が映画化を意識したことからこの企画が始動しました。町田と石井監督との縁も深く、映画『爆裂都市 BURST CITY』や映画『鏡心・3Dサウンド完全版』に町田が出演しているのです。 そして今回も「ある役」で出演が叶いました。あっという間の登場なので、最初からよく目を凝らしてぜひお見逃しなく!

映画『パンク侍、斬られて候』のあらすじ

舞台は江戸時代。黒和藩の街道を歩く1人の浪人がいました。 名前は掛十之進(かけじゅうのすけ)。すると突然、掛は通りで物乞いをする親子の父親を斬りつけ殺してしまうのでした。 訳を聞くと、その父親はこれまで各藩を脅かしてきた宗教団体「腹ふり党」の信者であり、黒和藩を滅亡に追いやる前に阻止したのだと。実は掛の勘違いだったのですが、それを隠すためにハッタリをかますことになります。 そして、ハッタリがハッタリを呼び物語は徐々に思いもよらない展開に……。くせ者ぞろいの役人、狂喜乱舞する民衆、言葉をしゃべる猿に日本全国から集められた猿軍団。 何が虚構で何が現実か観ている方もわからなくなるような圧倒的な世界観。至極のエンターテインメント作品です。

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豪華キャスト陣があんな役やこんな役を!?

パンク侍、斬られて候
©エイベックス通信放送

今回のキャスティングは、掛十之介役の綾野剛をはじめそれぞれのキャラクターにこの人しかいない!と思えるような豪華メンバーばかり。町田の原作からして、かなり強烈で個性的なキャラクターぞろいです。 また、それぞれの登場人物の発するセリフもこれまた面白く時代劇らしからぬ言葉の数々。言葉の選び方は特殊ですが中身はなかなか核心をついており、それを至って真剣に演じている役者陣が本当に素晴らしいのです。 主要キャストには、それぞれの見せ場があって楽しめますよ!

1人だけセリフのない浅野忠信演じる茶山半郎

浅野忠信演じる茶山半郎は原作では自分で話しをする設定だったのですが、映画では付き人2人が代弁する形を取っています。要するに茶山にはセリフがない訳です。 そんな設定の中、浅野のアドリブのお芝居は本当に見事の一言に尽きます。そして、北川景子の美しさがヒロインという位置づけだけでなく、物語の狂気さをより際立たせていました。

石井岳龍流サウンドが炸裂!

監督の石井岳龍は石井聰亙と名乗っていた初期の監督作品『狂い咲きサンダーロード』や『爆裂都市 BURST CITY』に見られるように、サウンドデザインにかけて非常にこだわりを持っている監督として知られています。また自らがボーカルをつとめるバンド「石井聰亙&バチラス・アーミー・プロジェクト」での音楽活動などロック音楽が好きなんですね。 本作の主題歌のセックス・ピストルズ「アナーキー・イン・ザ・UK」も邦画の主題歌として使われるのは今回が初です。許諾にプロデューサーが1年間奔走したということですから、並々ならぬ思いが感じられます。

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宮藤官九郎だからこその完成度

本作の脚本担当が宮藤官九郎というのも納得の人選ではないでしょうか?彼自身もパンク好きなこともありますし、原作のぶっ飛び方やギャグセンスも宮藤本人が描く世界と似ているような描写もあります。 ただ、本作で脚本について感心するのはその構成力。ともすれば不可解な展開になりそうな作品を見事にまとめ上げていました。 また個性的なそれぞれのキャラクターにおいても原作のよさを損ねることなく、むしろそのままの設定で登場させていたことがうまく機能しています。そこに上手に俳優陣がハマっていましたね。

原作と映画の違いを熱く紹介!

映画『パンク、斬られて候』は驚く程、原作に忠実に作られているという印象を受けます。これは石井岳龍監督と宮藤官九郎両名の原作へのリスペクトがあるからではないかと思います。 もちろん完全に同じという訳ではありません。ボリュームのある原作を2時間ほどの尺にするため話をコンパクトにして、映画として見た時のオリジナリティや見やすさのため変更している箇所があります。

主人公の名前が違う

原作では掛十之進(かかりじゅうのしん)ですが、映画では掛十之進(かけじゅうのしん)になっています。これは監督のアイデアで、「かかり」が聞き取りにくいからだそうです。

登場人物たちの心の声を大臼によるナレーションに

冒頭から誰の声かわらないナレーションが入ってきます。その正体は大臼という言葉をしゃべる猿なのです。 作品の後半に登場するのですが、最初から起用することによりタネ明かしが効果的になっています。

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原作にいた内藤の部下である用人・菅原庸一が登場しない

映画には登場しない菅原の役割を幕暮孫兵衛に担わせています。この孫兵衛の使い方が実に効果的に使われています。 孫兵衛のキャラクターをより現代の若者に通じるような「ゆとり」世代という設定にして、腹ふり党に傾倒し物語をうまく転がしていきます。

黒和藩のお偉方が死んでいく方法が違う

黒和藩藩主・黒和直仁は民衆を説得しに自ら自滅、内藤帯刀と大浦主膳は原作なら腹ふり党の民衆に殺されてしまうのですが、映画では掛が斬ることにより物語を収束させています。

パンクな3つの魂が繋がった映画『パンク侍、斬られて候』

原作者・町田康、脚本家・宮藤官九郎、監督・石井岳龍は年齢こそ違えども共に「パンク」で繋がったいわば同志たちです。町田康は伝説的パンクバンドINUのボーカル、宮藤官九郎はグループ魂のメンバー「暴動」として活動する一方で映画『少年メリケンサック』などの創作活動においてもパンクな精神が根底に見受けられます。 また、石井岳龍においても、先に述べたように音楽活動や映画におけるパンク音楽の起用など、3人がそれぞれのパンクな世界を持っています。この3人が集まり製作された本作は、まさに必然を持って生まれた作品なのでしょう。

映画『パンク侍、斬られて候』は難解なのか?

映画『パンク侍、斬られて候』は本当に恵まれた企画です。出資会社が1社のみという身軽さに加え、これだけのスタッフ、キャストが一堂に揃い製作されたことは奇跡に近いと言ってもいいでしょう。 そんな本作は、この世界観にどっぷり浸かることができれば非常に面白い作品だと思います。他の人のレビューを見ると難解だったという意見も見かけますが、物語としてはひどく単純にできています。 観ている人間がどういうスタンスでいるのかで全く違う映画になっていくのでしょう。難しく考えようとすれば難しい映画に、単純に楽しもうと思えば楽しい映画にと。 そういう意味では感想を言語化するのが難しい映画かもしれませんね。映画の評価は賛否分かれる作品のようですが、ぜひ自分の目で確かめてみてください!