30年代〜50年代ミュージカル映画の忘れられない7つのダンスシーン!
名作だらけの黄金時代!1930年代〜50年代のミュージカル映画
時代背景と2人の大スター
サイレント映画〜トーキー映画(映像と音声が同期したもの)に移り変わっていった、1920年代後半。初トーキー作品と呼ばれる『ジャス・シンガー』(1927)の成功をきっかけに、トーキー映画、そしてミュージカル映画の時代が到来したのがこの時です。 当時ハリウッドではMGM(メトロ・ゴールドウィン・メイヤー)、パラマウント、20世紀フォックス、ワーナー・ブラザース、RKO(レイディオ・キース・オーフィアム・エンタテイメント)の"ビッグ5"と呼ばれる代表的な映画会社があり、各映画会社はこぞってミュージカル作品を製作。 中でも頭一つ抜きんでていたのはMGMで、「ミュージカルと言えばMGM」と誰もが答えるほどでした。 これに伴い、無声映画時代の俳優達に変わってブロードウェイなどで活躍していた実力派の舞台俳優たちが映画界に進出するようになります。そこにいたのが、ミュージカル黄金期を象徴する大スター、フレッド・アステアとジーン・ケリーです。2人はそれぞれの主演映画で、才能とアイディア溢れる素晴らしいダンスシーンを数多く見せてくれました。 今回はそんな2人の大スターを紹介しつつ、彼らの出演した映画の中から、印象的なダンスシーンを7つご紹介します!
フレッド・アステア
フレッド・アステアは4歳の時からダンス学校に通い、17歳でブロードウェイでデビューします。1933年に映画界に進出してからは、数々のミュージカル作品を世に送り出しました。 自分の踊るシーンは「なるべくワンカットで、全身を映してくれ。」と要求していたそうです。それは、編集の誤魔化しで見せるダンスでは無く、踊りの本質を見せたいという彼の思いがあったからだと考えられます。 彼のダンスは芸術そのもの。長い手足に優雅な身のこなし。そしてどんなパートナーでも、相手の魅力を引き出し、完璧に踊り上げます。その姿から、ハリウッドでは「フレッド・アステアは帽子掛けとでも踊れる。」というジョークが流行ったほどでした。
ジーン・ケリー
ジーン・ケリーが一世を風靡するのは、フレッド・アステアの活躍し始めた30年代から少し後。50年代を象徴するミュージカル俳優です。 彼もブロードウェイでダンサーをしていましたが、1941年にMGM入りし映画デビューを果たします。踊り手に徹していたフレッド・アステアと違い、ジーン・ケリーは踊り手でもあり、振付師でもあり、監督でもあり、脚本家でもあり、スタントまでもこなしていました。 彼の踊りは、どちらかというとアクロバティックでパワフル。弾けるような楽しげなダンスが多いです。そして、30年代には無かった沢山の新しいアイディアで私たちを楽しませてくれました。
①世界中のアーティストがカバー!『トップ・ハット』(1935)
フレッド・アステアはジンジャー・ロジャースと10本もの作品でパートナーをつとめており、その名コンビぶりは折り紙つきのもの。映画会社のRKOはこの2人の作品を多く製作し、人気を博しました。 フレッド・アステアとジンジャー・ロジャースが披露した中でも印象的なのが、映画『トップ・ハット』(1935)で「Cheek to Cheek」という曲に合わせて踊るシーン。タキシードを着たアステアに、繊細で美しいドレスを着たロジャース。曲名通り、頬と頬を寄せ合って踊る姿は優雅でとてもロマンティックです。 この映画の為に作られた「Cheek to Cheek」という曲は、エラ・フィッツジェラルドとルイ・アームストロングの2人をはじめ、その後も世界中の有名アーティストが歌っています。
あのレディ・ガガも!美しい名曲「Cheek to Cheek」
映画公開から約80年たった2014年には、レディ・ガガとトニー・ベネットがカバーしています。この曲が収録されているアルバム『Cheek to Cheek』では、他にもアメリカが煌びやかだった30年代のジャズが中心にセレクトされています。
②大人気のあのキャラクターとダンス!?『錨を上げて』(1945)
ジーン・ケリーとフランク・シナトラの共演作。ジーン・ケリーとフランク・シナトラはMGM製作のミュージカルで多く共演しています。そんな本作で注目するのは「Worry Song」が歌われるシーン。このシーンでは、ジーン・ケリーのダンスの相手として、なんと世界的に有名な人気キャラクターが登場しているのです!
ジーン・ケリーのお相手はなんと………
トムとジェリーの可愛いねずみ、ジェリー!本作では、実写のジーン・ケリーとアニメーションのジェリーのスペシャルコラボが見られます。ジーン・ケリーが右にステップを踏めば、ジェリーも右に軽やかにステップを踏む。一緒に飛んだり跳ねたりと、息ぴったりな2人のダンスシーン。見てると自然に笑みがこぼれてしまいます。 このシーンは先にジーン・ケリーの踊りを撮影し、次にそのシーンを1コマずつトレース。ジェリーの絵をそこに書き加えていくことで完成しました。この映画の試写会では、観客みんなが仰天したそうです。
でも実は、ジェリーは代役だった!?本命はというと………
監督のジョージ・シドニーはこのシーンを思いついた時、最初はミッキーマウスとのダンスを考えていたそうです。ジーン・ケリーと共にウォルト・ディズニーの所へ出向き、出演交渉をしましたが、あっさり断られてしまいます。そして次に声をかけたのが、ジェリーでした。 ミッキーマウスとジーン・ケリーのコラボ。こちらも実現していたら、大きな話題になっていたことは間違いないでしょう。
③仰天アイディア!『恋愛準決勝戦』(1951)
『雨に唄えば』(1952)の監督として知られるスタンリー・ドーネン。そんなスタンリー・ドーネンとフレッド・アステアの初タッグ作品が『恋愛準決勝戦』(1951)です。知名度はそこまで高くないですが、実はこれが見所ばかりの一本なんです!ミュージカル映画に興味を持ち始めた方に、ぜひ見て欲しい作品でもあります。
ハリウッドに言い伝えられていた、あるジョークから生まれた名シーン!
先ほど、フレッド・アステアの紹介で記述した「フレッド・アステアは帽子掛けとでも踊れる。」というジョーク。そのジョークを面白がったフレッド・アステアが本作で実際に帽子掛けと踊ってみせます。彼が残した数あるダンスシーンの中でも、特に有名なのが、この帽子掛けとのダンスです。 フレッド・アステアは帽子掛けでさえも華麗にエスコートし、見事に踊り上げます。そして、この印象的なシーンはのちに有名なバンドによってライブで再現されるのです。
『STOP MAKING SENSE』(1984)でデヴィッド・バーンが再現!
アメリカのロックバンド、トーキング・ヘッズのライブを収めた映画『ストップ・メイキング・センス』。ライブ中盤での「This Must Be The Place」の歌唱中に、ヴォーカルのデヴィッド・バーンがスタンドライトをパートナーにダンスをします。女性をエスコートするように、スタンドライトと踊るその姿は、フレッド・アステアの帽子掛けとのダンスシーンにそっくりです。 ちなみに、ライブのオープニング「Psycho Killer」の間奏で、デヴィッド・バーンが"よろめきダンス"と呼ばれるパフォーマンスをします。映画のコメンタリーで、このダンスも『恋愛準決勝戦』でフレッド・アステアが披露する「I Left My Hat in Haiti」に合わせたダンスを参考にしていると語っています。
④どうなってるの!?壁や天井を自在に行き来しダンス!
そして本作『恋愛準決勝戦』では、もう一つ大きな見所があります。それは「You're All The World To Me」が歌われるシーン。部屋の一室でソファに腰かけたフレッド・アステア。そこで何気なく歌い始めるのですが、立ち上がりダンスを始めるとあら不思議!重力から解放され、部屋の壁や天井を行き来しながら優雅にステップを踏んでいます。 映画で見える画面は正しい上下の状態で固定されているのですが、実はこれ、セットの部屋を実際に360度回転させながら撮影しています。ぐるぐると回るセットの天地に合わせアステアが動き、ダンスをしているのです!
この撮影技法は、のちにあの有名映画でも!
このセットを回し、無重力を表現するという撮影技法は、のちにスタンリー・キューブリック『2001年宇宙の旅』でも採用されます。あの有名なジョギングシーンや、女性がくるくると壁を回って歩くシーンはこの撮影技法が使われていたのです。ジャンルは違えど、「映画」というひとつのつながりを感じますね。
⑤ジーン・ケリーはすごい。でも、ドナルド・オコーナーがすごすぎる!『雨に唄えば』(1952)
ミュージカル映画として、一番に思い浮かべる人が多いのが本作ではないでしょうか。ジーン・ケリーが雨の中、歌い踊るシーンはあまりにも有名ですね。「Singin' In The Rain」はMGMのテーマソングでもあります。 しかし今回はジーン・ケリーでは無く、共演者のドナルド・オコーナーの素晴らしいダンスシーンにも注目ですよ!
驚異の身体能力、ドナルド・オコーナー
ドナルド・オコーナーはユニバーサル所属の俳優兼、コメディアン。監督のスタンリー・ドーネンとジーン・ケリーのラブコールによりMGMに貸し出され、『雨に唄えば』に出演することになりました。 劇中、ドナルド・オコーナーが歌い踊る「Make Em Laugh」。映画のセット裏で繰り広げられる4分間ほどのミュージカルシーンなのですが、彼が見せるダンスは驚きの連続。弾いていたピアノに飛び乗る驚異のジャンプ力、小道具の人形を使ってのコミカルなダンス、そしてセットの壁を勢いよく駆け上がり、そのまま宙返り! これには何のトリックもありません。本当に壁を駆け上がって宙返りをしているのです。彼の高い身体能力と、抜群のエンターテインメントセンスが光る素晴らしいシーンです。
⑥靴磨きがそのままダンスに!『バンド・ワゴン』(1953)
本作は、かつてタキシードで優雅なダンスを踊っていたミュージカル界のスターが、移りゆく時代の中で需要が無くなり失業状態………といったストーリーになっています。無声映画〜トーキー映画に移り変わる中で、仕事が無くなっていった無声映画時代のスター達。今度は、ミュージカル映画のスターも同じような窮地に立たされます。しかし、この映画にはそんなムードを吹き飛ばすような楽しいシーンがあります。 それが、靴磨きの黒人男性と踊る「Shine On Your Shoes」。"井戸の底みたいに暗い気分だったら、まずはパリッとめかしこもう。ネクタイはきちっと、ズボンは折り目正しく。最後の仕上げは靴をピカピカに!"というフレーズから始まるこの曲。 リズミカルに靴を磨き上げながら踊るこのシーンは、明るく前向きな気分にさせてくれます。実際のところ、靴は全然磨けてないんですが………!
⑦殺し屋レオンもうっとり。『いつも上天気』(1955)
最後に紹介する本作は、残念ながら日本では円盤化されていません………。しかし、この作品、見たことがある!という方は多いと思います。何故なら、リュック・ベンソン監督の『LEON』で、殺し屋レオンが映画館で見ていた作品なのです。クラシック映画が大好きなレオン。大きな瞳をウルウル、キラキラさせてこの映画を見ていたのが印象的でした。 そんなレオンもうっとり、ローラースケートのダンスシーンがこちらです!
スーツ×ローラースケートの組み合わせ!それがこんなにカッコ良く見えるのも、ジーン・ケリーの身のこなしが優雅で、美しいからですね。ローラースケートを履いたままのタップダンスも圧巻。タップシューズを履いている時の音とは違う、カチャカチャッという音が愉快に響きます。 「日本での円盤化も早く!」というのがファンの本音です。
これがエンターテイメント!
黄金期と呼ばれたクラシック・ミュージカル映画はそれぞれの作品に個性があり、さまざまなアイディアで私たちを楽しませてくれます。 気分が落ち込んだ日、何をしてもうまくいかない日はぜひミュージカル映画を!美しく、楽しく、ユニークなダンスシーンが心をパッと明るくしてくれるはずです。