2018年11月9日更新

【レビュー】静かに心に残る『A GHOST STORY』ハロウィンコスプレ試写に行ってみた

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ゴーストストーリー
©︎ciatr

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『A GHOST STORY』ハロウィンコスプレ試写に行ったら、映画が最高すぎた【体験レビュー】

10月31日。都内渋谷は数多くの化け物とパリピが蔓延る街と化していた。そんな地に、筆者が「ハリー・ポッター」のハーマイオニー・グレンジャーの格好をして降り立ったのには、わけがあった。 来たる11月17日に公開される待望の新作映画『A GHOST STORY』のハロウィンコスプレ試写会に参加するためだ。街中が怪物やお化けで溢れかえる中、お化けが主人公の映画を観る……なんて粋なイベントなんだろう!

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当日会場には、本作を一足先にみたいと集まった映画愛溢れる方々がたくさんいた。皆、嬉々としている。 私の大好きな『IT/イット』のジョージーを見つけたので、お写真を撮らせていただいた。

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しかも、今回の試写会はクリアストーンというコスチューム会社さんともコラボしているようで、なんと先着順にコスプレ衣装を無料配布していたのだ! なんて太っ腹なんだろう!(AMOちゃんプロデュースのやつだ、かわいい)

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思い思いの仮装で着席し、みんなで記念撮影!(私はこの辺にいた) 映画のはじまり、はじまり。

『A GHOST STORY』

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©2017 Scared Sheetless, LLC. All Rights Reserved.

本作では、「バットマンvsスーパーマン」や『ジャスティス・リーグ』などのバットマンことブルース・ウェインを演じたベン・アフレックの弟ケイシー・アフレックが主演を務め、彼の妻役を『キャロル』のルーニー・マーラが演じている。 先述の通り、主人公のケイシー・アフレック演じるCは作曲家。Mと仲睦まじい夫婦生活を送っているが、引越しや孤独感を巡って夫婦の間で確執が生まれてくる。 Mは転居好きで、その度に前住んでいた空間に小さな紙切れで自分の言葉を残していく。そうすることで、過去の自分をピースにしてばら撒き、その場所に行けばそれに触れることができるからだ。

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しかし、ある日突然Cは家の前の道路で交通事故に遭い、不慮の死を遂げてしまう。病院で彼の遺体の上にかぶさるシーツを持ち上げ、確認をするM。湧き上がる悲しさを押し殺し、彼女はその場を後にする。 すると、シーツを被ったままのCが起き上がり、“ゴースト”となって家に戻ってくるのだ。 そこから、この世に残されて悲しみに暮れる妻、そして自分がいなくなった世界を見つめるCの旅がはじまるのであった。

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アーティスティックに描かれた死後の世界観がすごく、良い

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幽霊(ゴースト)がイラストになったとき、よく白いシーツで目の部分が開いたヴィジュアルで描かれていることに対して、疑問を抱いていた。なんで、白いシーツなんだろうと。 しかし、本作を観たときにハッとした。そうか、死んだ人の上にシーツが被さっているからか。 このヴィジュアルに関して監督は以下のようにコメントしている。 「ベッドシーツをかぶったゴーストの姿が大好きだ。世界中の誰もがこの形を一目見ただけでなんだかわかるようなね」 さて、主人公は死後、言葉をほとんど失う。しかし意志と共に、時には意志に反してそこにいる。居続ける。 幽霊というものは、日本のホラーでは特にそのように描かれるが、“来る”というより“いる”というニュアンスが強いのではないかと考えている。良い霊も悪い霊も、死んだ時から土地や人に憑く。そして、生活をする我々のことを見守り続けるのだ。 そして時々、我々にその存在を知ってもらいたくて物を落としたり、音を鳴らしたりする。

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主人公が唯一出会ったゴースト仲間は、隣の家にいた花柄のシーツをかぶったお化けで、誰かが来るのを待っていた。しかし、彼女が誰を待っていたのかを忘れてしまった瞬間、彼女は消えてシーツだけがその地に残る。 ピクサー映画『リメンバー・ミー』では、誰かの記憶に残れば、死者として死後の世界を“生きる”ことができた。しかし、忘れられると存在自体が消滅し、第二の死を迎える。 『A GHOST STORY』ではこれと逆のことが起きたのだが、もしかすると彼女は「待ち人に忘れられた」から「忘れた」のかもしれない。うーん、真相は誰にもわからない。 しかし、それがデヴィッド・ロウリー監督の素晴らしい点でもある。自身の実体験に基づいた疑問やアイデアをこんなにも美しく抽象的に描き、解釈の幅を持たせながらも一つの死後の世界観を写したのだ。

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ルーニー・マーラの感情を殺す表情、演技

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本作の魅力はそういったストーリーや映像に限らず、キャストの演技にもある。特に未亡人となったルーニー・マーラの息を殺すような演技が見所だ。 突然夫が亡くなってから生気を失った彼女を心配し、慰めようと知人が作った、まあまあ大きいパイを、ルーニー・マーラ演じるMは無言で一口食べる。もう一口、さらにもう一口と、キッチンに座り込み、どこか遠くを見つめながら、すすり泣きながら、どんどん口に掻き込んでいく。 丁寧に時間をとって描かれるそのシークエンスは、ただ泣き崩れるのとは違う、感情の行き場に困り果てた大人のリアルな姿を捉えていて、凄く良い。 ケイシー・アフレックはというと、劇中で作曲をしたり静かにMを抱きしめたり、派手ではないが確実に彼女を愛している男、というのを見事に演じきっている。やはりこの主演2人の感情を抑えめにした「表情」で語る演技が、何より素晴らしかった。生前一緒にいる時、体はくっついているのに遠くにいるように思っているその孤独感を、互いに目で訴える2人が切ない。 そして死後、彼女との繋がりを求めたり理解したいという気持ちが、彼女が家に残した“彼女の破片”が何なのかを突き止ようとするCの行為に繋がる。彼らの「表情」が、“破片”を手にするクライマックスに見合うカタルシスを構築しているのだ。

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監督の実体験から生まれたストーリー

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先述の通り、本作はデヴィッド・ロウリー監督自身の実体験に基づいている。CとMが引越しを巡って意見が食い違い、溝を作るシーンがあるが、これは監督が仕事のためにロサンゼルスに引っ越すか、テキサスに残るかという点で妻と話し合った際に喧嘩をしたことがモデルになっている。 監督曰く、それは今までで一番大きな夫婦喧嘩で、まるで映画のワンシーンのようだったとのこと。 さらに、監督は本作の画面についても強いこだわりを持っている。本作はスタンダードサイズという、アスペクト比1.33:1で撮られたものだ。この比率は、古典的なサイレントフィルム時代のものであり、監督はそうすることでどこか古風でノスタルジックな雰囲気を引き出すことを目指した。 その効果は覿面で、昔に撮ったポラロイド写真のような、どこかに懐かしさを感じるような色合いやニュアンスを我々は映画全体を通してフィルムイメージに抱く。これもまた、本作が“素敵”なわけの一つだ。

『A GHOST STORY』静かだけど、深みがあって、残る

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実は本作を届けてくれたのは、近年、映画史に名を刻みつつあるA24だ。なんなんだ、すごすぎる、この配給会社!めっちゃ良いじゃん……と思った映画はだいたいA24の息がかかっている、もうインディペンデント界のドンといっても過言ではない。主に映画やテレビ番組の製作、出資、配給をしていて、設立が2012年とまだまだ若い企業でありながらも『ムーンライト』、『レディー・バード』『ルーム』とアカデミー受賞作品を数多く手がけている。 『A GHOST STORY』も実験的な題材の作品なので、それを臆することなく製作してくれたA24に対して(もちろん監督に対しても)「このような映画を作ってくれて、嬉しい。ありがとう!!」と感謝の意を述べたい。 本作は静かな映画だ。セリフも少ないし、淡々と死んだ主人公の目線で「自分のいなくなった世界」を描く。しかしそんな中で、自分の生きた証を残すことや時間の経過、深い愛といった「生きること」を感じさせてくれる。噛めば噛むほど、自分が歳をとればとるほど、色々なものが見えてきそうな作品だ。 『A GHOST STORY』11月17日(土)より、シネクイントにて全国ロードショー。