2019年1月15日更新

【ネタバレあり】映画『渇き。』の謎を分析したらヤバさが身に染みました。

2014年に公開され、激しい賛否両論を巻き起こした中島哲也監督の『渇き。』。この記事では、本作の難解なストーリーをあらすじ順に分かり易く徹底解説し、一体何がヤバいのかについて分析してみました。

『渇き。』の何がヤバいのか徹底解説【注:ネタバレ全開です……】

『下妻物語』や『告白』など、多くの話題作を手掛けてきた中島哲也監督が2014年に発表した映画『渇き。』。ベストセラーとなったサスペンス小説『果てしなき渇き』を実写化した本作は、2014年の邦画を代表する作品となりました。 豪華キャストの演技やスタイリッシュな演出、そしてハードな作風が評価された一方で、時系列のシャッフルやスピーディーな展開についていけない人も続出。難解で意味が分からなかったという意見も数多く見られました。 そんな人のために、この記事ではネタバレ全開で『渇き。』の疑問点を、映画のあらすじ順に物語を徹底解説することで解消していきます。本作の何がヤバいのか、これを読めば分かるはず! この記事はネタバレ情報を含みます。未鑑賞の人は注意してください。

『渇き』の大まかなストーリーラインを説明すると……

突然失踪した娘は何をしていたのか?事件は驚愕の真相へ

妻と離婚、そして娘の加奈子からも見放され、現在は荒んだ生活を送っている元刑事の藤島昭和(役所広司)。そんなある日、突然失踪した加奈子(小松菜奈)の捜索を妻から依頼された彼は、独自に調査を開始します。 手段を選ばず、強引に加奈子を捜索する藤島。そして、次第に誰からも慕われていたはずの愛娘の異常な一面を知ることになります。 一体自分の娘は何をしていたのか、そしてどこに行ったのか。捜査を続ける中、事件の裏側にあった巨大な闇と藤島の陰惨な過去も明かされていき、物語は思いがけないクライマックスへ……。

クリスマスから夏へ オープニングから伏線が大量に出てくる

加奈子の失踪事件が発生する8か月前のクリスマスイブの出来事が、本作のオープニング。いきなり男が罵声を発するシーンとクリスマスイブの様子が交互に映し出され、冒頭から観客を混乱させます。 すぐに分かりますが、この男は妻の不倫現場を発見したことで怒り狂っている藤島ですね。そして、突然舞台は8か月後の夏に飛び、コンビニで惨殺事件が起きた様子が描かれます。 殺された3人は後に加奈子と繋がりがあったと判明しますが、この時点では何も分かっていませんね。事件の第一発見者である藤島は、かつての部下であった浅井(妻夫木聡)から事情聴取を受けますが、彼自身はこの事件には関係ありません。

加奈子の捜索開始 瀬岡という少年が握る鍵とは?

事情聴取が終わり、藤島の荒んだ生活の描写がされます。この場面から作中でしばしば登場する不動産会社のCMは、藤島が求める幸せな家族への渇望を表現しているといえるでしょう。 そんな中、妻から加奈子の失踪を知らされた藤島は、彼女の部屋を漁り薬物を発見。加奈子が薬物関連の事件に巻き込まれたと考えますが、実際には彼女が薬を使って友人たちを支配していたことが後に分かります。 すると、突然3年前に遡り、瀬岡といういじめられっ子の少年視点の物語がスタート。自分に優しく接してくれる同級生の加奈子に彼が惹かれていることが描かれ、そこで再び現在に舞台は戻ります。

次第に増していく加奈子の謎。自殺した少年との関係は?

加奈子の捜索を続ける藤島は、彼女の友人だった森下(橋本愛)と長野(森川葵)という2人の女子高生に話を聞きます。長野が薬物中毒だと感じ取った藤島でしたが、結局聞き取りは上手くいかず。 しかし、森下が加奈子を恐れていることが分かります。その後も加奈子の通っていた神経科の辻村(國村隼)という医師や彼女の中学時代の同級生グループと会い、少しずつ娘のことを知っていく藤島。 そして中学2年の時、加奈子と親しくしていた緒方という少年が自殺していたという情報を得ます。さらには遠藤(二階堂ふみ)と松永(高杉真宙)という不良の話題も出てきて、事件はより複雑になっていきます。

加奈子の黒い交友関係 松永とは何者なのか

藤島が手掛かりを掴んでいく中、再び3年前に場面は展開。屋上で瀬岡がいじめられている所にやって来て、いじめグループを追い払う加奈子。 自殺した緒方との思い出の場所だったと語る彼女ですが、このシーンで緒方が彼女にとって特別な人であったことが示されます。そこで再度時間は現在へと戻り、藤島が中学時代の加奈子の担任であった東(中谷美紀)を訪ねている場面に。 東は、加奈子が緒方の死に苦しんでいたこと、そして彼女が松永や遠藤たちと交流を持っていたことを藤島に話します。藤島は松永たちが加奈子を巻き込んだと考え、東に詰め寄りますが、後に分かる通り実際は加奈子が自ら松永に近付いたというのが真相です。

藤島が刑事をやめた理由が判明、瀬岡に忍び寄る魔の手

松永という少年が事件に大きく関わっていると踏んだ藤島。さらに浅井から、コンビニで殺された3人の内の1人である小山という男が、松永と共にヤクザの下で薬を売っていたと聞かされます。 ここで、藤島がクリスマスイブに妻の不倫相手を半殺しにし、それが原因で刑事を辞めたことが明かされ、冒頭のシーンが何だったのかが判明。そして舞台は再び3年前に移り、松永が瀬岡へのいじめを止めさせたという出来事が語られます。 すぐ後で説明されるように、松永に瀬岡を助けさせたのは加奈子ですが、このことからも、加奈子の希望を叶えてやるほど松永が彼女に惹かれていたことが分かります。

松永発見!突然の襲撃の理由は?

そんな松永の居場所を掴むために彼の実家を訪れる藤島。強引に松永の母親を恫喝しますが、彼女も松永とはほとんど絶縁しているという状態でした。 その後も松永の捜索を続け、ついに彼を発見する藤島でしたが、突然松永の仲間に襲われ拉致されてしまいます。しかし、今度は松永たちが別のグループに襲撃され、藤島は何とか助かりました。 現場に到着した浅井からも説明される通り、松永たちを襲ったのは彼らと敵対しているヤクザです。つまり、加奈子のために組織を裏切った松永をヤクザが襲撃し、そこに偶然藤島が巻き込まれたという形になりますね。

パーティーに参加した瀬岡を待っていた悲惨な出来事とは

ここで再び3年前に戻ります。いじめから解放され、加奈子から松永たちも参加するパーティーに誘われた瀬岡。 ところが彼女に会うためにパーティーへ来た彼はそこで薬を飲まされ、男たちに犯されてしまいます。このことがきっかけで、瀬岡の人生は大きく狂わされてしまいました。 そして現在。ヤクザに襲われた藤島は、加奈子が隠している物のありかについて尋問されますが、何も知らない彼は殺されずに見逃されます。その翌朝、突然訪れた森下から長野が加奈子から預かっていた鍵を渡される藤島。 重大な情報を握っているらしい長野に会いに行った藤島でしたが、すでに彼女は惨殺されていました。

事件の裏には警察 徐々に明かされていく加奈子の過去

藤島は、彼女に託された鍵を使ってとあるロッカーから写真を手に入れます。それは、警察関係者を含む多くの権力者が買春をしているところを映した写真でした。 その中から加奈子が映った写真を発見し、絶叫する藤島。そして、長野の殺害現場から持ち出した彼女の携帯から、殺人事件の裏側には警察も関わっていると彼は確信します。 藤島は電話で浅井を問い詰めますが、そこを警察が口封じのために襲撃。容赦なく刑事を車で撥ねながら何とか脱出した藤島は、以前加奈子について聞き込みをした辻村が写真に映っていたことから、彼の元に向かいます。

裏切られた瀬岡は復讐を決意するが……

一方、変態に犯され放り出された瀬岡は、男に犯された屈辱と加奈子に裏切られたショックから精神のバランスを崩していました。加奈子が彼に親しい態度を取っていたのは、彼を売春組織に提供するためだったんですね。 彼女は、長野を含む多くの人を瀬岡のように陥れて利用していたのでした。そして、生前の緒方の記憶から、瀬岡は彼も自分と同じ目に遭ったのだと想像します。 加奈子に復讐しようとする瀬岡でしたが、遠藤たちに車に連れ込まれて脅されるなど、どこまでも酷い目に。しかし、もはやまともな状態ではなくなっていた彼は、遠藤のアパートに向かい彼女を襲います。

松永が組織を裏切った理由とは?

瀬岡サイドがクライマックスに進む中、藤島サイドも更にヒートアップ。辻村を拷問し、加奈子がチョウという闇組織のボスと繋がっていたことを聞きだした藤島でしたが、同時に彼は自分がかつて加奈子に乱暴したことを思い出します。 ここでは加奈子から彼を誘惑したような描かれ方がされていますが、実際のところは曖昧になっており、映画では真実は明かされません。記憶が蘇り混乱する中、再びヤクザに拉致される藤島。 そこで、咲山(青木崇高)というヤクザのリーダーから瀕死の松永を見せつけられます。加奈子に惚れてしまった松永は、彼女のためにチョウを裏切って写真を盗み出したことで、ヤクザに捕まったのでした。

加奈子は復讐の鬼だった!明かされた悲劇の過去

なぜ加奈子が写真を盗み出したのかは、再び挿入される瀬岡サイドで語られます。遠藤のアパートで、彼女をカッターで拷問しながら真実を知ろうとする瀬岡。 実は緒方は、松永によって売春組織の餌食になったことが原因で自殺したのでした。松永やチョウに加奈子が近付いたのは、親密だった緒方の復讐のためです。 権力者たちを脅すためにチョウは彼らの売春写真を集めていましたが、加奈子がその写真を本人たちに送り付けたことで、組織は崩壊。松永も、彼女に利用されていると分かっていながら協力してしまったという訳ですね。 真相を聞き出した瀬岡は、遠藤の顔をカッターで傷付けてから、加奈子の元に向かいます。

加奈子は無事なのか?殺し屋との血みどろの戦い

ここで再び現在。咲山に愛川(オダギリジョー)というチョウの部下の抹殺を命じられた藤島は、加奈子の身の安全を条件に承諾します。 愛川は警察官でありながら邪魔者を消す暗殺者として、チョウの下で働いていたのでした。売春組織のカメラマンをしていた小山、そして加奈子の友人だった長野を口封じのために殺したのは愛川です。 殺し屋としては有能だったものの、あまりに限度を知らないために抹殺の対象になった愛川。藤島は愛川の妻と子供を人質にして、デパートの屋上に彼を呼び出します。 激戦の末に何とか勝利した藤島でしたが、愛川の車のトランクにはチョウの死体が。やりすぎを咎められたことで、愛川はチョウを殺していたのでした。

加奈子を殺せなかった瀬岡 そして藤島が向かったのは……

そして加奈子のいるホテルにたどり着いた瀬岡も、結局は彼女を殺すことができず、潜んでいた愛川に殺害されました。ここで緒方も自分が殺したと加奈子は瀬岡に話しますが、これまでの情報をまとめると辻褄が合いません。 つまり、加奈子の発言は嘘である、もしくは別の意味があると考えられますが、この映画版ではあえて曖昧にされています。加奈子のこのセリフは原作にはなく、より彼女の狂気に焦点を当てた映画版ならではの追加要素です。 瀬岡の物語はここで終わり、藤島サイドへ。現場に到着した浅井は、不祥事を隠ぺいするために愛川を自殺に見せかけ射殺します。 その隙に逃走した藤島が向かったのは……。

加奈子失踪事件の真相 雪山で描かれるエンディングとは

藤島が最後に辿り着いたのは、加奈子の元担任である東でした。実は加奈子が自分の娘にも売春させていたことを知った東は、加奈子を衝動的に殺害し、山奥に埋めていたのです。 真相を知った藤島は、東を拉致して雪が降り積もる冬山へと連れていきます。彼女に死体を掘り起こさせようとする藤島でしたが、彼女が強く反抗するため、結局は自分で掘ることに。 心身ともにボロボロになりながらも、加奈子への歪んだ感情に突き動かされながら掘り続ける藤島。 その姿は、完全に狂気に取り憑かれていました。

結局、加奈子は何をしていたの?

物語をまとめてきましたが、結局の所、加奈子は緒方の復讐をするために動いていたと考えられます。 恋人であった緒方を死に追いやった松永とチョウに近づき、彼らの信頼を得たところで組織を裏切り壊滅させました。この点だけを見ると加奈子が正義のように思えますが、チョウに信頼されるために、周りの人物を闇の世界に引き込み、破滅させたのも事実です。 復讐のためならどんな手段も厭わないというブレーキの壊れっぷりは、父親である藤島の自己中心的な性格を受け継いだといえるかもしれません。原作では描かれている彼女の人物像も映画では省略されているため、より狂った面が強調されることになりました。

『渇き。』がヤバいのはストーリーが難しいからじゃない!あなたは彼らに共感できますか?

時系列の交差に加えて、登場人物のほとんどが頭のネジが外れているため、『渇き。』という作品は一度見ただけでは非常に分かりにくい内容になっています。しかし、ストーリーが難解というよりは、共感できるキャラクターがほぼいないという点が本作のヤバい理由でしょう。 しっかりと集中して見れば、ほとんどのシナリオ上の謎の答えは作中で明かされていることが分かります。それでも藤島をはじめとする登場人物の壊れた心情を理解することは、不可能ではないでしょうか? そんなヤバい人間たちを最後まで描き切った本作は、例え何度見ても完璧には理解できない作品かもしれませんね。