映画『遠い山なみの光』のネタバレあらすじ&考察!キャストや相関図も徹底解説

ノーベル文学賞の受賞経験を持つカズオ・イシグロが手掛けた小説『遠い山なみの光』が映画化、2025年9月5日公開です!メインキャストには広瀬すずや二階堂ふみ、吉田羊と日本屈指の俳優陣が集結し、公開前から大注目の作品。 この記事では、映画『遠い山なみの光』をネタバレありであらすじ解説!さらに小説のテーマや難解な「謎」にも迫ります。
映画『遠い山なみの光』のあらすじ【ネタバレなし】
公開年 | 2025年9月5日 |
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メインキャスト | 広瀬すず , 二階堂ふみ , 吉田羊 , カミラ・アイコ |
監督 | 石川慶 |
1980年のイギリス。日本人とイギリス人の間に生まれたニキ(カミラ・アイコ)は、ロンドンの田舎で暮らす母・悦子(吉田羊・広瀬すず)のもとを訪ねます。2人は長女が亡くなってから疎遠になっていました。 悦子はニキに対して、とある夢の話を語り始めます。それは1950年代に生まれ育った長崎を舞台に、佐知子(二階堂ふみ)とその娘・万里子と出会う夢でした。 『ある男』(2022)で、第46回日本アカデミー賞最優秀作品賞を含む8冠を達成した石川慶が、不穏な空気漂うカズオ・イシグロ作品を映像化しました。
映画『遠い山なみの光』を結末までネタバレ徹底解説
【起】近所に住む佐知子と万里子

物語は、ロンドンに住む母親・悦子のもとへ、次女・ニキが訪れる場面から始まります。悦子は最初の夫との間に生まれた長女・景子が7歳の時に、イギリス人の男性と再婚しました。 その後一家はイギリスへ移住しますが、景子は新しい環境に馴染めず引きこもりがちになります。そして、しばらくして景子は自ら命を絶ってしまいました。 ニキの滞在中、悦子は景子を身ごもっていた、日本の夏の出来事を懐かしむように語り始めます。当時、彼女は最初の夫・二郎と長崎の郊外で暮らしていました。 悦子は近所に住む佐知子と親しくなります。佐知子には娘・万里子がおり、悦子は親しくなろうと試みますが、万里子は打ち解けてくれません。
【承】緒方の来訪

佐知子は裕福な家庭の出身でしたが、夫と家族を戦争で失い生活が一変。佐知子は再び人生を軌道に乗せるため、現在の恋人・アメリカ人のフランクとともにアメリカへの移住を計画していました。 一方、悦子のもとには義父・緒方が訪ねてきます。緒方は原爆で家族を失った悦子を、引き取ってくれた恩人です。 緒方は、かつて国民学校の校長を務めていました。同僚であった松田が、教育雑誌に古い教育制度は排除されるべき、と主張していたのを緒方が目にします。息子の二郎も松田の意見に同調しているようです。 ついに長崎で、緒方と松田が対面。「旧世代の教えは危険な嘘だった」と松田は意見しました。悦子は父のように慕う緒方への辛辣な言葉に「下らないことを言う、見下げた話だ」と憤慨。夫・二郎と意見が割れてしまいます。
【転】万里子の告白

アメリカ移住を計画していた佐知子の元から、パートナーのフランクがいなくなってしまい、彼女は不本意ながらうどん屋で働いていました。やがて彼女はフランクを見つけ、2人は再び関係を取り戻します。 フランクはアメリカ行きの船の仕事を見つけ次第、佐知子と万里子にチケット代を送ると約束。荷造り中、佐知子は万里子に対して、世話していた子猫たちを連れて行けないと告げます。そして、佐知子は箱に入った子猫たちを川へ持っていき、溺死させたのでした。 夜になり、悦子は万里子を探しに行くことに。橋の縁に座る万里子はアメリカへ行きたくないと告白します。しかし悦子は「アメリカが気に入らなければ戻ってきてもいい。だけど試してみる必要がある」と説得しました。
【結】ラストに明かされる悦子の思い

現代に戻り、朝食の会話の中でニキは亡き父親が連れ子であった景子に対して冷たかったと語り、悦子は父が理想主義者で、イギリスで景子も幸せになれると思っていたと反論しました。しかし一方で、悦子は「景子がイギリスで幸せになれないだろう」と感じていたことを明かします。 電話があり、ニキはロンドンへ帰ることに。彼女はまた、悦子の人生を詩にしたいという友人がいるため、日本の写真が欲しいと頼みました。 悦子は長崎港の風景が写った古いカレンダーを手にします。それは景子と港のロープウェイに乗った、楽しい思い出が蘇る景色でした。 悦子は家を売ろうと考えていましたが、ニキは断固として反対します。ニキが家を出て振り返ると、悦子が門の前で見送っていました。
【解説】景子が佐知子・万里子の思い出を語る理由は?

悦子は「佐知子との思い出話」を語りながら、自分自身を佐知子に、景子を娘・万里子に重ねて振り返っていました。作中でも悦子と佐知子がリンクする場面が、数多く登場します。 その代表的なものが、橋の上で万里子を説得する場面です。英語の原文でその置き換えがわかりやすく表現されています。 「アメリカが気に入らなかったら帰ってこられる」というセリフ。本来は佐知子と万里子の話をするなら「You」にするべきところを、悦子が万里子を説得するかのように「We」で書かれているのです。さらにこの一連の会話で、強調するように「We」が5回も登場しています。 悦子は娘・景子に対して、イギリス行きを同じように説得したのかもしれません。「景子はイギリスで幸せになれないかもしれない」と感じていながらも…。
【考察】何度も登場する「縄」の謎

本作の「縄」といえば、景子の首吊り自殺が連想されます。縄は悦子にとって娘を失ったショッキングなものでありトラウマ。だからこそ本作にも縄が頻出したと考えられます。 とりわけ【解説】でも触れた終盤の会話では、悦子の足元に絡まる縄を見て万里子が恐れおののき逃げいていく、という流れで回想が終わっています。これは悦子がイギリスへ無理やり連れて行ったがために、自殺に追いやったのでは、という後悔を表しているのではないでしょうか。 自殺を連想させるものは「縄」だけではありませんでした。悦子の夢で登場した少女はブランコに乗っています。正確には少女は「ブランコに乗っていると思ったら違った」と言う話でしたが、その光景は首を吊った景子の暗喩なのかもしれません。
映画『遠い山なみの光』の登場人物&キャストを解説!相関図も
『遠い山なみの光』は、悦子の回想が中心に語られていきます。1950年代という戦後復興期にシングルマザーとして娘を育てる佐知子との出会いが、彼女の心にどんな変化をもたらしたのでしょうか。 登場人物はそれほど多くありませんが、それぞれに秘密を抱え、謎の部分も多い人物ばかり。もちろん本作は悦子の回想がメインなので、悦子が話したくないこと、知らないことなどもあるでしょう。 ここではそんな登場人物たちを相関図付きで紹介します。
『遠い山なみの光』登場人物の相関図

緒方悦子役/広瀬すず

緒方悦子は長崎で被爆を経験し、戦後復興中の1950年代には夫とともに暮らしていました。そんなあるとき、彼女は謎めいた女性・佐知子とその娘・万里子に出会います。その後、日本人の夫と離婚してイギリス人の男性と結婚し、ニキを産みました。 悦子を演じるのは、映画『海街diary』(2015年)で注目を集め、『流浪の月』(2022年)、『ゆきてかへらぬ』(2025年)のほか幅広い作品で活躍する広瀬すずです。
1980年代の緒方悦子は吉田羊が担当

1980年代、悦子は娘のニキとは疎遠になっていました。しかし久しぶりに帰省してきた娘に請われ、悦子は自分の過去を語り始めます。 1980年代の悦子を演じるのは吉田羊。彼女は2008年に連続テレビ小説『瞳』への出演をきっかけにブレイクし、その後数多くの映画・ドラマのほか舞台にも出演しています。
佐和子役/二階堂ふみ

悦子が出会う謎めいた女性・佐知子。娘の万里子とともにアメリカで暮らすことを夢見て、駐留軍のアメリカ人と交際しています。しかし万里子を放任気味で、悦子は母子を気にかけるように。 佐知子を演じる二階堂ふみは、初主演映画『劇場版 神聖かまってちゃん ロックンロールは鳴り止まないっ』(2011年)で注目を浴び、ブレイク。2102年に公開された『ヒミズ』では、第68回ヴェネツィア国際映画祭で最優秀新人賞にあたるマルチェロ・マストロヤンニ賞を日本人として初受賞しました。
ニキ役/カミラ・アイコ
日本人の母とイギリス人の父を持ち、作家になるため大学を中退したニキ。彼女は戦後日本から渡英した母の半生を作品にしようと、疎遠になっていた実家に帰省します。母の話を興味深く聞くニキでしたが、どこか違和感を覚え……。 演じるのは、日系イギリス人のカミラ・アイコ。ブリストル・オールド・ヴィック演劇学校を卒業した彼女は、本作が映画初出演となりました。
緒方二郎役/松下洸平

悦子の夫である緒方二郎。戦争で負傷した元軍人で、会社員として忙しく働きながら、妊娠中の妻を気遣っています。しかし悦子が慕っている父の誠二との関係はうまくいっていないようで……。 二郎を演じるのは、シンガーソングライターで俳優の松下洸平です。2008年に歌手デビューした彼は、翌年にはミュージカル『GLORY DAYS』で俳優デビュー。その後、舞台・ミュージカルを中心に活躍し、2019年に連続テレビ小説『スカーレット』でヒロインの相手役に抜擢され、ブレイクしました。
映画『遠い山なみの光』は原作小説との違いはある?
『遠い山なみの光』の原作は、1982年に刊行されたカズオ・イシグロの長編デビュー作です。 内容は映画とそれほど大きな違いはなく、原作で謎が多い存在となっている万里子や佐知子と交際していたアメリカ軍人の「フランク」については、映画でも細かいことは描かれていません。 大きく違うのは、映画では悦子がニキに「家を売ろうか考えている」と話すシーンです。原作では悦子はニキが帰省したときすでに自宅を売却することを決めており、荷造りをしていたところにニキが帰省してきます。
原作小説『遠い山なみの光』の感想・評価


長編デビュー作でありながら、カズオ・イシグロの作風をしっかり堪能できる一作でした。常に読み手も息が詰まりそうな、ダークな雰囲気が漂っています。ナレーターとなる悦子も心情を極力入れずに話しており、ミステリーを読んでいる感覚でした。

多くを語らない純文学。なぜ自殺したのか、なぜ夫と別れたのか、なぜイギリスに渡ったのか、すべては謎のままです。悦子と佐知子も重なる部分が多くあります。佐知子は悦子の虚構なのか、はたまた境遇が似た友人なのか、どこまでも読者の理解や想像力が試される作品でした。
映画『遠い山なみの光』の公開は2025年9月5日!

カズオ・イシグロの原作小説を映画化した『遠い山なみの光』は2025年9月5日公開です! 広瀬すず演じる「悦子」と、二階堂ふみ演じる「佐知子」の複雑な関係性がどのように描かれるのか、今から注目です。