2020年5月4日更新

大林宣彦監督おすすめ映画11選 一貫した実験精神と平和への祈り

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今だから観たい!大林宣彦作品を振り返る

最先端の映像技術や斬新な演出で「映像の魔術師」と称された、大林宣彦の監督映画からおすすめの作品を紹介します。大林監督は、2020年4月に多くの映画ファンに惜しまれながら他界しました。 最新作であり、遺作となる『海辺の映画館ーキネマの玉手箱』の公開が待ち望まれる中、過去の大林宣彦作品を振り返ってみましょう。

大林宣彦のプロフィール

大林宣彦は、1938年広島県尾道市に生まれました。自主製作映画から出発し、CMディレクターとしても活躍。1977年に『HOUSE/ハウス』で商業映画デビューを果たしました。初期の代表作には、故郷である尾道を舞台にした「尾道三部作」などがあります。 82歳で亡くなる直前までメガホンを取り続け、2004年春の紫綬褒章受章、2009年秋の旭日小綬章受章、2019年文化功労者に選ばれるなど、名実ともに日本を代表する映画監督です。 また、近年は戦争と真摯に向き合ったメッセージ性の高い作品を発表。遺作となる『海辺の映画館ーキネマの玉手箱』も、キャリアの集大成として平和への祈りを込めた作品となっています。

『HOUSE/ハウス』(1977年)

商業映画デビュー作となった『HOUSE/ハウス』は、さまざまな特殊効果を用いた、斬新な映像で大きな話題を呼びました。明るい色彩が特徴的な、ポップでファンタジックなホラー映画です。 主役は7人の女子高生。演劇部の合宿のために訪れた屋敷で、次々と恐ろしい事件に巻き込まれていきます。 7人娘のキュートなキャラクターも見どころの一つ。池上季実子が演じる「オシャレ」やその親友の「ファンタ」(大場久美子)、空手の達人の「クンフー」(神保美喜)、ピアノが得意な「メロディ」(田中エリ子)など、ユニークなあだ名で呼び合う彼女たちは、それぞれ個性があり、魅力的です。 少女たちの溌溂としたやりとりは微笑ましく、ホラー映画でありながらどこか可愛らしい、不思議な味わいのある映画です。

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『ふりむけば愛』(1978年)

当時大スターだった山口百恵と三浦友和の共演作。二人の主演作は軒並みヒットを飛ばし、ゴールデンコンビと呼ばれていました。その後二人は結婚し、山口百恵は人気絶頂の中で芸能界を引退。一切メディアに出ることがなくなり、今では「伝説のアイドル」と呼ばれています。 本作は、そんな「山口百恵・三浦友和コンビ」の主演第8作であり、初の海外ロケを敢行。東京とサンフランシスコを舞台にしたラブストーリーです。 主人公・杏子(山口百恵)は、旅行で訪れたサンフランシスコで、哲夫(三浦友和)と出会い、恋に落ちます。すぐに盛り上がり、結婚の約束をした二人ですが、杏子が日本に帰国した後、お互いの気持ちのズレやすれ違いなどが重なっていく……というストーリーです。 国民的人気者だった山口百恵・三浦友和の魅力が光る作品。主題歌の「ふりむけば愛」も三浦友和が歌っています。

『転校生』(1982年)

大林監督の故郷である広島県尾道市を舞台にした青春ファンタジー映画。大林監督はその後も続けて尾道を舞台にした作品を撮り、この『転校生』と翌年に公開された『時をかける少女』、『さびしんぼう』の三作品は、あわせて「尾道三部作」と呼ばれています。 原作は山中恒による児童文学『おれがあいつであいつがおれで』。本作以降も、何度も映画化・ドラマ化され、親しまれている物語です。あらすじとしては、尾道の中学校に転校してきた一美(小林聡美)が、幼ななじみの一夫(尾美としのり)と再会。ふとした拍子に二人の心と体が入れ替わってしまい、さまざまな騒動が起こります。 「二人の人物の心と体が入れ替わる」という設定のフィクションは多くありますが、この作品は二人が入れ替わるまではモノクロ、入れ替わった後はフルカラーという描き分けが大林監督ならでは。 ちなみに、大林監督は2007年に本作を自らリメイクした『転校生ーさよならあなたー』も発表しています。

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『時をかける少女』(1983年)

尾道三部作の二作目となる『時をかける少女』は、原田知世の映画デビュー作としても有名です。原作は筒井康隆の小説。SFファンタジーの名作として愛され、度々ドラマや映画としてリメイクされています。 尾道の高校生・芳山和子(原田知世)は、ある日突然、時間を行き来する不思議な能力を身につけてしまいます。同級生の深町一夫(高柳良一)や幼なじみの堀川吾朗(尾美としのり)らとの関係を軸としながら、和子の不思議な体験と心の揺れを描く青春SF映画です。 当時15歳だった原田知世の素朴で初々しい演技が強い印象を残します。日本アカデミー賞新人俳優賞なども受賞。また原田が歌い、松任谷由実作詞・作曲の主題歌「時をかける少女」も大ヒットしました。

『さびしんぼう』(1985年)

尾道三部作の完結編です。主演の尾美としのりは『転校生』『時をかける少女』と続けて出演しています。大林宣彦作品の常連である尾美が本作で演じるのは、尾道の高校生ヒロキです。 そしてヒロインは富田靖子。ヒロキが密かに恋する女子高生・百合子、ヒロキの前に突然あらわれる不思議な少女「さびしんぼう」など一人で複数の役を演じました。「さびしんぼう」は、ピエロのように顔を白く塗り、突然あらわれたりいなくなったり、神出鬼没の不思議な存在。それに対して、百合子はピアノが上手でおしとやかな雰囲気の美少女です。異なるキャラクターを、どちらも可愛らしく、魅力的に演じています。 坂の多い道や船での登下校など、尾道らしい風景の中で展開する淡い恋と青春の物語。全編にわたって流れるショパンの「別れの曲」が切なく、美しく響きます。

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『異人たちとの夏』(1988年)

第一回山本周五郎賞を受賞した、山田太一の小説が原作です。映画も高い評価を受け、第12回日本アカデミー賞で最優秀脚本賞(市川森一)、最優秀助演男優賞(片岡鶴太郎)などを受賞しました。 離婚し、寂しい日々を送っていた40歳のシナリオライター(風間杜夫)が、死んだはずの両親と再会するというゴースト・ファンタジー。自分よりも若い姿の父(片岡鶴太郎)と母(秋吉久美子)が現れたことに最初は戸惑うものの、二人と一緒に食事をするなど、交流を持つようになります。また、突然現れた謎めいた女性(名取裕子)と恋人関係となり、ひと夏の不思議な時間を過ごすことに。 風間杜夫や名取裕子、秋吉久美子、片岡鶴太郎など名役者が勢ぞろい。「尾道三部作」に代表されるような青春アイドル映画とはまた違った魅力を持つ、大人のファンタジーです。

『ふたり』(1991年)

大林監督が再び尾道を舞台に展開したシリーズ「新尾道三部作」の第一作です。この『ふたり』と、後に続く『あした』(1995年)、『あの、夏の日 とんでろ じいちゃん』(1999年)が同シリーズとなっています。 原作は赤川次郎の人気小説。中学生の主人公(石田ひかり)のもとに、事故で亡くなった姉(中島朋子)が幽霊となって現れるファンタジー。成績優秀で何でもできる姉の力を借りながら、恋や友情、家族の問題などに立ち向かっていきます。 石田ひかりは、本作で報知映画賞など数々の新人賞を受賞。女優として脚光を浴びました。また、久石譲が手掛ける音楽も魅力の一つ。主題歌は、今となっては貴重な大林監督と久石譲のデュエット曲になっています。

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『青春デンデケデケデケ』(1992年)

仲間とロックバンドを結成した、高校生の青春を描いた作品です。舞台は1960年代の香川。当時大流行していたアメリカのロックバンド・ベンチャーズの曲に触発された「僕」(林泰文)。仲間を集め、青春をバンド活動に捧げていきます。 芦原すなおの原作小説は、第105回直木賞を受賞しています。タイトルの「デンデケデケデケ」とは、ベンチャーズのヒット曲「パイプライン」のメロディから。 テンポの良い会話が心地良く、コミカルで気軽に楽しめる映画です。また、仲間を一人ひとり集め、アルバイトをしてお金を貯め、楽器を買い、練習場所を探し……と、さまざまな苦労を経てゴールを目指していく展開は、冒険物語のようでもあります。そして、仲間と思いっきり演奏できる喜び、高揚感に満ちたライブシーンは心が浮き立つ名場面です。 バンドメンバーとして、浅野忠信なども出演。ベテラン俳優の若い頃の瑞々しい演技を見ることができます。

『この空の花 長岡花火物語』(2012年)

「大林的戦争三部作」と呼ばれるシリーズの第一作。全国屈指の花火大会「長岡花火」が開催される長岡市を舞台に、戦争や震災など数々の苦難を乗り越えてきた人々の姿を描きます。 東日本大震災が発生した2011年の夏に、長岡を訪れた新聞記者の玲子(松雪泰子)。2004年の新潟県中越地震から復興し、東日本大震災の被災者をいち早く受け入れた長岡市に関心を持った玲子は、現地で取材をする中でさまざまな人と出会い、不思議な体験をします。 フィクションとドキュメンタリーが混ざったような作りになっており、実話に基づいたエピソードやインタビューがある一方で、演劇的な表現なども織り込まれた斬新な構成です。戦争や震災当時の状況を説明するナレーションは情報量が多く、長岡という場所や近現代の歴史も学べる内容になっています。

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『野のなななのか』(2014年)

『この空の花 長岡花火物語』に続く、実験的手法で戦争を描いた作品。舞台は北海道芦別市です。鈴木光男(品川徹)が亡くなり、その親族が芦別に集まってくるところから物語は始まります。そこに突然、清水信子という謎の女性(常盤貴子)が登場。彼女をきっかけに、今まで家族も知らなかった光男の過去が明らかになっていきます。 最初は、久々に集まった家族によるホームドラマのような雰囲気もありますが、徐々に過去と未来が交錯し、光男が終戦直前の樺太で旧ソ連軍による侵攻を経験していたことなどが明らかになっていきます。 常盤貴子や松重豊などの実力派俳優陣による演技にも注目してほしい本作。その中でも、独特の存在感を放っているのが安達祐実。物語の鍵を握る女性を演じています。

『花筐/HANAGATAMI』(2017年)

「戦争三部作」のラストを飾る作品。クランクイン前に‟余命3か月”との宣告を受けていた大林監督が、自身の病と闘いながら撮り上げた、渾身の一作です。第72回毎日映画コンクール日本映画大賞をはじめ様々な賞を受賞するなど、高い評価を得ました。 檀一雄による純文学「花筐」が原作。実は、大林監督は商業デビュー作の『HOUSE/ハウス』よりも前にこの『花筐』の脚本を書きあげており、40年越しに実現した映画化です。 太平洋戦争前夜の佐賀県唐津市。17歳の俊彦(窪塚俊介)は、学友たちや恋人と青春を謳歌しますが、次第に戦争の渦に巻き込まれていきます。 昭和のレトロでノスタルジックな雰囲気と、最新のデジタル技術を駆使した実験的な映像表現の融合は大林宣彦作品の真骨頂と言えます。 常盤貴子、満島真之介、長塚圭史、柄本時生、門脇麦など、ベテランから若手まで、豪華キャストの共演も見どころです。

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革新的な映画を撮り続けた、大林宣彦

アイドルの魅力を開花させた青春映画に、実験的な手法を取り入れたアバンギャルドな作品など、大林宣彦は幅広いジャンル・作風に挑戦し続けてきました。その姿勢が数々の革新的な作品を生み、日本映画界の進化を促してきました。今の映画界には、大林監督の作品の影響を受けた作家も多くいます。 ぜひこの機会に、大林監督の作品世界を味わってみてください!