手塚治虫漫画原作の実写映画3選 評価が賛否両論となった理由を考察【『ばるぼら』劇場公開中】
漫画の神様、手塚治虫原作の実写映画は賛否両論?
『鉄腕アトム』をはじめとする名作を世に送り出し、漫画の神様と呼ばれた手塚治虫。彼の代表作は、最晩年まで描き続けたライフワーク作品『火の鳥』、『ブラック・ジャック』や『リボンの騎士』といった作品があります。 手塚は「生命の尊厳」や「善と悪の対立」などを主なテーマに、幅広いジャンルの作品を遺しましたが、映像化されたものは多くありません。数少ない実写映画も賛否を巻き起こし、成功したとは言い難いのが現状なのです。 そんな中、11月公開の『ばるぼら』は手塚の実子・手塚眞が監督し、主演の稲垣吾郎らがハマり役であることから前評判は上々!悪い流れを切ってくれるかも?と期待が寄せられました。 この記事では、『ばるぼら』公開を記念して手塚漫画原作の実写映画3選を紹介します!記事には作品のネタバレになる記述もありますので、未鑑賞の方はご注意ください。
『どろろ』(2007年)
漫画『どろろ』は1967年に「週刊少年サンデー」で連載が開始したものの、未完のまま中断。翌年に月刊雑誌「冒険王」で第2部が連載され、一応の完結を迎えました。 戦国時代を舞台に、主人公の百鬼丸と盗人のどろろが出会い、妖怪に奪われた百鬼丸の体を取り戻す旅に出るという物語です。連載当時は異色の時代劇の妖怪物で、格差社会の問題といった世相を反映した点も話題となり、カルト的な人気を得ました。 厳密には未完であるため、ゲーム、アニメ、コミカライズ化それぞれの展開が賛否を呼び、2007年には妻夫木聡と柴咲コウの共演で実写化。原作ファンからは、映画独自の舞台設定や結末に加え、“どろろが女の子だった”という原作最大のサプライズの扱いに対しても、厳しい意見が寄せられました。 その一方で、キャストの演技やワイヤーアクション、CGを駆使したアクションシーンには高評価が集まっているようです。 原作はコア層の熱狂的ファンが多いため、どうしても見る目が厳しくなるのでしょう。一部で指摘される構成の中途半端さは、当初は3部作の想定で制作された事情があり、続編を意識した作りになったのが理由かもしれません。
『MW -ムウ-』(2009年)
1976年から1987年まで、小学館の「ビッグコミック」で連載された漫画『MW』。過激すぎる内容から、手塚作品の中でも特に異色の問題作とされています。 16年前に発生し、政府によって闇に葬られた集団殺人事件。その生き残りである2人の青年が、事件にまつわる「MW(ムウ)」の謎を追い、復讐に身を投じる様が描かれます。同性愛やレイプ、一貫して悪に染まる主人公などのテーマ性から出資者に忌避され、何度となく映像化を断念されてきた作品でした。 しかし2009年、手塚治虫生誕80周年の年に、玉木宏と山田孝之の共演で実写化されました。タブーに挑んだ異色作の映画化!との宣伝に反し、実際はタブー描写が曖昧にされ、登場人物の大幅な変更も批判の的に。 岩本仁志監督によれば、原作の根幹と言える「同性愛描写」が排除されたのは、出資者の意向が絡んでいたようです。裏事情も影響して、もはや別作品になってしまったことが、評価の振るわない理由と言えるかもしれません。 映画の前日譚を描くSPドラマも含め、完全オリジナル作品として観た場合は、「壮大なスケールのサスペンス・アクションとしてまとまっている」と評価されています。
『ばるぼら』(2020年)
手塚治虫生誕90周年作品として、2020年11月20日より公開中の『ばるぼら』。原作は1973年から1974年まで、「ビッグコミック」で連載された同名漫画です。 耽美派の天才作家として成功を収める裏で、異常性欲に悩まされていた美倉洋介。彼はある日、アルコール依存症のフーテン娘、バルボラと出会ったことで、創作意欲が湧き上がります。バルボラというミューズに溺れ、壊れていく小説家の行く末とは……。 芸術とエロス、スキャンダル、オカルティズムといったタブーに挑戦した原作を、手塚の実子・手塚眞監督が初めて映像化しました。「ヴィジュアリスト」を自称する監督は、西洋の神話、哲学者や作家の名言などを織り交ぜた寓話的な世界観をどう表現したのでしょうか。 稲垣吾郎は手塚原作の舞台『七色いんこ』(2000年)で主人公を好演し、今回も浮世離れした芸術家の雰囲気にマッチしていることから、大きな話題を呼びました。二階堂ふみも『蜜のあわれ』(2016年)などで本作に近い役柄を演じたため、原作ファンの期待が高かったようです。
手塚治虫原作のアニメ映画も気になる
実写映画に比べると、手塚治虫原作のアニメ映画は数多く制作されてきました。 特に『メトロポリス』(2001年)は、同時期に公開されたスティーヴン・スピルバーグ監督作『A.I.』と比較されつつ、海外で高い評価を得ています。 2005年には代表作『ブラック・ジャック』を原作に、TVアニメシリーズと同じ手塚眞が監督を務めた『ブラック・ジャック ふたりの黒い医者』が公開。ブラック・ジャックが細菌に侵された患者の治療のため、孤島へ向かう「恐怖菌」をストーリーの軸として、複数のエピソードを再構成して制作されました。 また、2010年7月より、「手塚治虫のブッダ」と題したアニメ映画全3部作も展開中!同名の名作漫画を原作として、仏教の開祖、シッダールタの生涯が描かれます。声優キャストには、吉岡秀隆、吉永小百合、堺雅人ら豪華俳優も集結しました。 2020年11月現在まで、第1作目「赤い砂漠よ!美しく」(2011年)、第2作目「終わりなき旅」(2014年)が公開されています。
『ばるぼら』は手塚原作実写化の悪い流れを断ち切れるのか?
過去の実写映画で最も批判された点は、“原作と別物になっている”ということ。裏に大人の事情があるとしても、「手塚治虫原作」と宣伝する以上、ファンの期待は大きくなりますよね。 そこが上手く噛み合わず、何となく「手塚治虫原作の実写映画は微妙?」となっている空気もありますが、ようやくその流れが変わるかも……?『ばるぼら』が良い流れを作り、手塚作品に挑戦する監督が増えることも祈りましょう!