2021年1月7日更新

映画『ジョジョ・ラビット』ネタバレ解説!空想上の友達ヒトラーはなぜ生まれた?

『ジョジョ・ラビット』 ジョジョ ヒトラー
©2019 Twentieth Century FoxFilm Corporation &TSG Entertainment Finance LLC

2020年公開タイカ・ワイティティ監督の映画『ジョジョ・ラビット』はアカデミー賞6部門にノミネートされ話題となりました。原作にはいない「空想上の友達」ヒトラーはなぜ生まれたのでしょうか?本作のあらすじから考察まで深掘りして解説します。

目次

映画『ジョジョ・ラビット』が描く戦争と愛……心温まるヒューマンドラマを解説

2020年度アカデミー賞で6部門にノミネートされ話題となった映画『ジョジョ・ラビット』。第二次世界大戦下のドイツというシリアスなテーマを扱いながらも、軽快なコメディタッチで描かれたハートフルなヒューマンドラマです。 『ジョジョ・ラビット』を手掛けたのは、『マイティ・ソー バトルロイヤル』で日本でも一躍その名を知らしめたタイカ・ワイティティ。世界から注目を集める彼は、本作で監督、製作、脚本、さらにはアドルフ・ヒトラー役までつとめました。 今回は映画『ジョジョ・ラビット』について、物語をより理解する考察や原作小説との違いなどを深掘りして解説します!本作のカギともいえる「空想上の友達」ヒトラーが誕生した理由を探っていきましょう。

映画『ジョジョ・ラビット』のあらすじ【ネタバレ注意】

『ジョジョ・ラビット』 ジョジョ ヒトラー
©2019 Twentieth Century FoxFilm Corporation &TSG Entertainment Finance LLC

物語の舞台は第二次世界大戦下のドイツ。気弱な少年ジョジョは、青少年集団「ヒトラーユーゲント」の合宿に参加することに。「空想上の友達」アドルフ・ヒトラーの助けを借りて、立派な兵士を目指します。 早速、クレンツェンドルフ大尉(通称キャプテンK)のもとでキャンプが始まりました。しかし命令通りウサギを殺せなかったジョジョは、「ジョジョ・ラビット」という不名誉なあだ名を付けられてしまいます。 一方でジョジョの母親ロージーはナチスに傾倒するジョジョを心配しながらも、優しく見守っていました。 ある日ジョジョは、自宅の隠し部屋にユダヤ人の少女エルサを発見します。彼女はジョジョの母親ロージーによって匿われていたのです。ジョジョはパニックに陥りましたが、ユダヤ人の秘密を話せば自宅に住んでも良いという条件を出します。 こうしてエルサとの交流を始めたジョジョは、次第に聡明な彼女に惹かれていきました。さらにはユーゲントで教わってきたユダヤ人像が事実と異なることに気付き始めます。 そんななか、秘密警察ゲシュタポのディエルツ大尉が突然ジョジョの家に家宅捜索をしに来ました。ジョジョは2階に隠れているエルサが見つかってしまうのではないかと焦ります。

緊迫した空気の中、エルサが機転を利かせジョジョの亡き姉であるインゲのふりをしました。なんとかその場を凌ぎ、一件落着。 ある時、ジョジョは街で一匹の蝶を見つけます。蝶を追いながら辿り着いた広場の絞首台に、見覚えのある靴を履いた女性が……。なんとロージーが処刑されていたのでした。 ショックを受けたジョジョは、自宅にいるエルサにナイフを突き付けます。エルサはそのナイフを掴んで止め、ジョジョに寄り添いながら2人で涙を流しました。 ロージーが亡き後も2人で過ごしていたある日、突然爆発の音が聞こえてきました。敵軍が街を襲ってきたのです。あちこちで爆発が起こり次々と人が倒れていく中、ジョジョは建物に身を潜めていました。 騒ぎが収まり外へ出たジョジョ。荒れ果てた街を歩いていたところを、敵軍の兵士に捕らえられてしまいました。同じく捕虜となっていたキャプテンKに助けられますが、キャプテンKは銃殺されてしまいます。 ジョジョはエルサがいる自宅へ急いで帰ります。エルサに好意を告白したジョジョは、外に出ることを提案します。そして“ユダヤ人に惚れるなんて!”と激怒するヒトラーを思い切り蹴飛ばしました。 玄関のドアを開け外に出た2人。ジョジョが“何がしたい?”と聞くと、エルサは遠くから聞こえる音楽に合わせて踊り始めます。ジョジョも彼女に合わせて踊り始めたのでした。

なぜオープニングでビートルズ?隠された皮肉なメッセージを考察

『ジョジョ・ラビット』撮影風景 タイカ・ワイティティ
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さっそく本作を紐解くポイントを解説していきます。 まずはオープニング、ジョジョが“ハイルヒトラー!”と叫びながら走り出すシーンに注目しましょう。このとき流れるのがビートルズの『抱きしめたい』でした。 第二次世界大戦中のドイツの物語である本作でなぜビートルズの楽曲が使用されたのか、疑問に感じた人も多いのではないでしょうか。実はそこに、皮肉なユーモアが込められていたのです。 『抱きしめたい』と共に映し出されたのは、アドルフ・ヒトラーに熱狂する民衆の映像。当時の少年少女たちは本作でのジョジョと同様、まるでアイドルやスターに夢中になるようにヒトラーを信奉したのです。 つまり圧倒的人気を誇ったビートルズの楽曲を使用し、ヒトラーに熱狂するドイツの民衆を重ねることで、風刺的なオープニングに仕上げているのですね。

戦争映画らしからぬコミカルな描写と美しい色彩!監督の意図は?

『ジョジョ・ラビット』 ロージー ジョジョ
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映画『ジョジョ・ラビット』は戦争映画ながらも、軽やかなコメディ要素と鮮やかな色彩に溢れています。 第二次世界大戦末期のドイツという大変な時代のさなかといえど、少年ジョジョの視点で描かれる世界は純粋で美しく、本作一番の魅力となっています。ジョジョのお腹の中で蝶が飛び回るシーンは、アニメのようにコミカルで可愛らしい演出でした。 また映画全体を通して印象に残るのは、カラフルな色彩ではないでしょうか。色鮮やかな街並みや洋服が本作独特の雰囲気を作り出しています。だからこそ、美しい色彩と暗い現実のギャップに胸が締め付けられますね。

タイカ・ワイティティらしいコメディセンスで難しい題材に挑戦!

タイカ・ワイティティ
©2019 Twentieth Century FoxFilm Corporation &TSG Entertainment Finance LLC

一方で、ユダヤ人の虐殺というシリアスな題材をコメディとして描くことに対して抵抗感を示す人もいます。そんな人たちに対し、タイカ・ワイティティは本作を“憎悪と偏見についての直球の映画にしたくはなかった”と振り返りました。 彼は自身が持つコメディという武器で、戦争というテーマに果敢に挑戦したのです。 史実は守りながらも既成概念にとらわれず、ナチス時代のドイツを描いた作品としては型破りな本作。その斬新さが人々の心を掴んだのかもしれません。

ジョジョを取り囲む魅力的なキャラクターたち【ヨーキーやキャプテンK】

ロージー/ジョジョの母親

『ジョジョ・ラビット』 ロージー
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シングルマザーとしてジョジョを育てる母親ロージーは、勇敢で愛に溢れる女性です。密かに反ナチ運動をしながらも、ジョジョが自分自身で正しさを身につけるよう見守っていました。 反対運動をしていたことや、エルサを匿っていることが秘密警察ゲシュタポにバレてしまったのでしょうか。彼女は吊し台で処刑されてしまいました。 暗い時代でも毎日を明るく前向きに過ごし、「愛の強さ」を信じるロージー。その精神は現代の私たちの心にも強く響きます。

エルサ/ユダヤ人の少女

『ジョジョ・ラビット』エルサ ジョジョ
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ロージーが自宅の隠し扉に匿っていたユダヤ人の少女エルサ。彼女の境遇はアンネ・フランクを彷彿とさせますね。実際、エルサを演じたトーマシン・マッケンジーは『アンネの日記』を読んで演技に望んだそうです。 “すべてを経験せよ 美も恐怖も 生き続けよ 絶望が最後ではない”ーー。教養深い彼女が敬愛する詩人リルケの詩は、本作のエンドロールにも登場しました。

クレンツェンドルフ大尉(キャプテンK)/ユーゲントの教官

『ジョジョ・ラビット』 ロージー ジョジョ キャプテンK
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ヒトラーユーゲントで子供たちに戦いの極意を教える大尉、通称キャプテンK。 実は彼、物語の中で2度もジョジョを助けていました。1度目はゲシュタポがジョジョの自宅を捜索しに来た際、エルサの嘘に気づきながらも彼女を見逃します。2度目は物語終盤、敵軍に捕まったジョジョを“ユダヤ人だ!”と叫びながら逃します。 ナチス党員でありながら、ロージーやジョジョを見守るようなキャラクターとして描かれているのはなぜでしょうか。 物語の中に明確な描写はあまりありませんが、本作のパンフレットでは彼がゲイのキャラクターであることが明かされています。ナチスは同姓愛者も迫害の対象としていましたから、彼もナチスの思想に対して疑問を抱いていたのではないかと考えられますね。

ヨーキー/ジョジョの親友

ジョジョにとって唯一の“実在する”親友ヨーキー。愛嬌たっぷりの彼は、ジョジョの世界を明るく照らすキャラクターの1人です。その可愛らしさに癒された人も多いのではないでしょうか。 ヨーキーを演じたのは、本作が初めての出演作となるアーチー・イェーツ。愛らしいキャラクターで話題となった彼は、Disney+で配信が予定されている『ホーム・アローン』リブート版の主役に抜擢されました。今後の活躍が楽しみです。

原作はもっとシリアス?映画『ジョジョ・ラビット』と原作小説の違い

『ジョジョ・ラビット』 ジョジョ ヒトラー
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映画『ジョジョ・ラビット』の原作となったのは、クリスティーン・ルーネンズの小説『Caging Skies(原題)』。小説にはコメディ要素が無い上に、全体としてシリアスな物語となっています。 母親に勧められ小説を読んだタイカ・ワイティティは、原作のメッセージ性を大切にしながらも自分流のアレンジを加えて映像化したいと考えたそうです。 原作小説と映画の大きな違いとしては、ジョジョの「空想上の友達」アドルフ・ヒトラーの存在です。監督自身が演じるヒトラーは映画において強烈な存在感を放っていますが、実は原作には登場しないキャラクターでした。

空想上の友達アドルフ・ヒトラー誕生の秘密【映画オリジナルのキャラクター】

『ジョジョ・ラビット』 ジョジョ ヒトラー
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映画化にあたり「空想上の友達」アドルフ・ヒトラーという強烈なキャラクターを加え、監督本人が演じることとなったのはなぜなのでしょうか。 タイカ・ワイティティはインタビューで“自分なりの新しい要素を加えたのは、どこかで観たことがあるようなありきたりの戦争映画にしたくなかったから”と語っています。本作のヒトラーは、彼らしいコメディセンスによって生まれたのでしょう。 イマジナリーフレンドがヒトラーというキャッチーで挑戦的な設定によって、従来の戦争映画とは一味違う、創造性溢れる作品に仕上がっているのです。 また、タイカ・ワイティティは母親がロシア系ユダヤ人というルーツを持っています。ナチスはユダヤ人を迫害していたわけですから、彼がヒトラーを演じることでナチスに対する辛口のユーモアを演出しているのではないでしょうか。

映画『ジョジョ・ラビット』は挑戦的なアイデアたっぷりの傑作!

映画『ジョジョ・ラビット』は、風刺の効いたユーモアを含みながらも素直な愛をもって"戦争とは何か"を問いかける物語でした。 「空想上の友達」アドルフ・ヒトラーという、一歩間違えれば誤解されかねない挑戦的なアイデア……。鬼才タイカ・ワイティティが施したこの大胆な創意工夫によって、本作は笑って泣ける壮大なヒューマン・エンターテイメントに仕上がっていたのです。