2021年7月8日更新

映画『スワロウテイル』幸福とはなにか?独特の世界観や主題歌のもつ魅力を解説・考察

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スワロウテイル(1996年)

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『スワロウテイル』は究極のヒューマンドラマ!架空都市「円都(イェンタウン)」が舞台【ネタバレ注意】

スワロウテイル

1996年9月に公開された映画『スワロウテイル』は、独特な色彩と情景美に定評がある、岩井俊二監督の初期代表作です。 架空都市「円都(イェンタウン)」を舞台に、移民たちの繰り広げるヒューマンドラマを描いたこの映画。独特の映像美や、劇中歌を収録したCDシングル、アルバムがオリコンチャートで週間1位を獲得するなど大きな話題になりました。 こういった点が高く評価され、映画『スワロウテイル』は日本アカデミー賞で優秀作品賞、話題賞、優秀賞(照明賞)などを受賞しています。 この記事ではこのような映画『スワロウテイル』の世界観や主題歌の魅力を解説・考察します。

映画『スワロウテイル』のあらすじを紹介

映画『スワロウテイル』の舞台となるのは、架空の歴史をたどった日本のある大都市です。 日本の通貨である円が世界で1番強かった時代。円を求めて日本の大都市にやってきた移民たちは、そこを「円都(イェンタウン)」と呼びました。 一方、このような移民たちを日本人たちは「円盗(イェンタウン)」と呼んで軽蔑していました。 この映画は、このような「円都」に住む「円盗」たちの物語です。 「円盗」の娘である名もない少女(伊藤歩)は、唯一の肉親である母親が殺されて身寄りがなくなってしまいました。 彼女を引き取ってくれたのは、彼女の母親と同じく移民で売春婦のグリコ(CHARA)。少女はグリコの胸に彫られているアゲハチョウのタトゥーにちなんで「アゲハ」と名付けられ、グリコの恋人・フェイホン(三上博史)のもとで働き始めます。

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アゲハとグリコのタトゥーの関連性を考察、アゲハの名前の意味とは?

伊藤歩が演じる主人公の少女は、映画の冒頭、彼女の母親の葬儀の場面では名前がありません。 彼女を妹として引き取ってくれたグリコの髪をとかしているとき、少女はグリコの胸にアゲハチョウのタトゥーが彫られているのを見つけます。 グリコは、アゲハチョウのタトゥーは身寄りのない自分のIDカード代わりである、と言います。そしてグリコは少女の胸に、「あんたは子どもだから芋虫ね」と言ってペンで芋虫の絵と「アゲハ」という名前を描きました。このときから少女はアゲハと呼ばれるようになります。 ちなみに映画のタイトル『スワロウテイル』とはツバメの尾のことで、後翅がツバメの尾のように細長くのびた、アゲハ属のチョウを指す英語です。 映画の後半でライブハウスが潰れたとき、アゲハはある決意を胸にアヘン街の医師のもとを訪れ、胸にグリコと同じアゲハチョウのタトゥーを彫ってもらいます。 そして、映画の結末でフェイホンの葬儀の準備をしているとき、アゲハは「芋虫がチョウになったよ」と言って、胸のタトゥーをグリコに見せるのです。 冒頭と結末をアゲハにとって大切な人の葬儀で囲み、アゲハチョウのタトゥーで大人として自立するアゲハの自覚を象徴する、印象的なストーリー展開と言えるでしょう。

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美しく詩的な映像美が圧巻!『スワロウテイル』の世界観に迫る

架空都市「円都(イェンタウン)」

映画『スワロウテイル』の舞台である「円都(イェンタウン)」は、架空都市ならではの独特な世界観が魅力です。 円都は車のナンバープレートが品川であったり、警察官のセリフが日本語であったりするため、東京がモデルであることは明らかです。 同時に、移民たちが住む水辺のスラムなど、アジアのどこかを感じさせる舞台設定になっています。 このように架空の世界でありながら、現実の世界でないかと錯覚させる映像で、大胆なストーリー展開が可能になりました。 桃井かおりが演じる雑誌記者が「なにこれ、戦争」と絶句するクライマックスの圧倒的なシーンは、この世界観でなければ説得力がなかったでしょう。 さらに美しく詩的なセピア色の映像を多くしたことで、この映画がアゲハ視点の物語であるという印象を強固なものにしています。

言語の多様性

さらに映画『スワロウテイル』の世界観で独特なのは、劇中で登場人物が英語・中国語・日本語など複数の言語を話すことです。 これは、この映画が多様な移民の生活にフォーカスした物語であることを反映しています。登場する移民は中国系ばかりでなく、黒人や白人なども混じっています。 特に注目すべき点は、アゲハの使う言語です。中国人を母に持ちながら日本で育ったアゲハは、日本語と英語は使えますが、中国語はあまりできません。このためアゲハはライブハウスの開店準備の面接ではフェイホンの通訳をする一方、フェイホンからは中国語を習っていました。 現在、日本をはじめ先進国では移民の2世、3世の数が増えています。彼らは自分の両親や祖父母の出身地の言語は得意でない一方、育った国の文化にアイデンティティーを見出すことにも困難があります。 映画『スワロウテイル』の世界観には、このような移民が抱える問題へのするどい切り口が見られるのです。

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CHARAが歌う主題歌「Swallowtail Butterfly 〜あいのうた〜」

CHARA

CHARAが歌う本作の主題歌「Swallowtail Butterfly 〜あいのうた〜」は、作中で結成されるバンド「YEN TOWN BAND」の曲。バンドのボーカルはCHARAが演じるグリコです。 劇中でこのバンドは、フェイホンが歌の上手なグリコのために、彼女をボーカルに据えて結成したバンドです。 彼らが歌う「Swallowtail Butterfly 〜あいのうた〜」は、桑田佳祐、サザンオールスターズのプロデューサーだったことで知られる、小林武史によってプロデュースされました。 歌詞は、岩井監督が出したテーマをもとにCHARAが「1人の人に歌うラブソング」として作詞したものを小林がリライトしました。 この詞に小林が書いたサビのメロディは、スティーヴィー・ワンダーを思わせるものです。 このサビの部分の成立について小林は、「スティーヴィー・ワンダーがMy Little Lover(小林も所属していたことのある音楽ユニット)の『ALICE』を『愛するデューク』みたいなアナログ志向のアレンジで歌っている」という夢を見たことにもとづいている、と語っています。

原作小説『スワロウテイル』の映画との違いは?

スワロウテイル

原作小説『スワロウテイル』は、もともと映画の原案だったもので、映画が公開される2カ月前に角川書店から刊行されています。 原作小説と映画の違いでストーリー展開に重要なのが、グリコのタトゥーにちなんで少女が「アゲハ」と名付けられる場面。原作小説でグリコが少女の胸に描くのは、成虫のアゲハチョウの絵でした。 映画では前述のとおり、グリコは蝶の幼虫である芋虫の絵を少女の胸に描きます。映画のほうが、アゲハが成長していく物語の印象をより強くする演出です。 さらに原作小説と映画では、登場人物、あらすじや結末が大きく異なります。 原作小説では、カセットテープの中身は国会議員の裏帳簿のデータで、国会議員に雇われた凄腕の殺し屋が取り返しにやってきます。 結末も小説は主要登場人物が次々に死んでしまう、かなり悲惨な終わり方で、未来の可能性のあるオープンな結末だった映画とは対照的です。

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映画『スワロウテイル』監督は岩井俊二

岩井俊二
ⓒ2019「Last Letter」製作委員会

映画『スワロウテイル』の監督と脚本を務めた岩井俊二は、1963年に宮城県仙台市で生まれた映像作家、音楽家です。 映画の脚本、編集、監督は言うまでもなく、小説や音楽も手掛ける多才なクリエイターである岩井監督。彼の映画は、丁寧に作り込まれた世界観や、人物描写と独特の映像美で定評があります。 岩井監督の代表作としては、『リリイ・シュシュのすべて』(2001年)、『花とアリス』(2004年)、『リップヴァンウィンクルの花嫁』(2016年)があげられます。

伊藤歩がすごい!他にも個性派キャストが勢ぞろい

伊藤歩
©️ciatr

※画像は伊藤歩 映画『スワロウテイル』は主演のCHARA、三上博史、伊藤歩を始め、江口洋介、渡部篤郎、ミッキー・カーチス、桃井かおりといった個性的なキャストも大きな魅力です。 グリコ役を演じるCHARAは劇中で歌う主題歌ばかりでなく、売春婦の演技も映画の雰囲気にピッタリ!フェイホン役の三上博史も、中国語と英語のセリフで上海系の移民を見事に演じきっています。 主役の3人のなかでも特筆すべきは、アゲハ役の伊藤歩の演技力です。 1993年に大林宣彦監督の『水の旅人-侍KIDS-』で映画デビューした伊藤歩は、『スワロウテイル』公開当時はまだ16歳。にもかかわらず彼女は日本語、英語、中国語のセリフを見事にこなしたばかりでなく、初めて上半身のヌードシーンを経験するなど、体当たりの演技を披露しました。 こういった点が高く評価されて、伊藤歩は第20回日本アカデミー賞で新人俳優賞と優秀助演女優賞を受賞しています。

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『スワロウテイル』の独特で美しい世界観を堪能しよう

この記事では岩井俊二監督の初期代表作『スワロウテイル』の世界観や主題歌の魅力を解説・考察しました。 伊藤歩を始めとする演技力の高い実力派キャストや、岩井俊二監督の作り込まれた世界観が大きな魅力の映画『スワロウテイル』。 日本や世界の移民の問題にも焦点を置いたこの映画は、公開から25年たっても色褪せない名作と言えるでしょう。