2025年1月14日更新

映画『敵』の原作結末をネタバレ解説!筒井康隆が描いた敵の正体とは?

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『敵』(2025年)
ⓒ1998 筒井康隆/新潮社 ⓒ2023 TEKINOMIKATA

筒井康隆の同名小説を『桐島、部活やめるってよ』(2012年)や『騙し絵の牙』(2021年)などの吉田大八がモノクロ映像で映画化した『敵』2025年1月17日に公開されます! 本作では、長塚京三が12年ぶりに映画主演を務めることでも話題に。 元大学教授の平穏な生活を突如乱すことになった「敵」とはいったい何なのでしょう?この記事では原作の結末までのネタバレを紹介していきます。

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映画『敵』のあらすじ

公開年 2025年1月17日
メインキャスト 長塚京三 , 瀧内公美 , 黒沢あすか , 河合優実
監督 吉田大八

77歳の渡辺儀助(長塚京三)は大学教授の職を辞し、妻の信子(黒沢あすか)に先立たれ、祖父の代から受け継いだ日本家屋で平穏な日々を送っていました。 毎朝決まった時間に起床し、朝食を作り、衣類や文房具を丁寧に取り扱う。ときおり気の置けないわずかな友人と酒を酌み交わし、教え子を招いてディナーを振る舞う。そんな生活スタイルが今の預貯金でいつまで続けられるか計算しながら、日々は穏やかに過ぎていきます。 しかしあるとき、そんな彼のもとに「敵がやってくる」という不穏なメールが送られてきて……。

【原作ネタバレ】筒井康隆の『敵』結末までのあらすじ

【起】「敵」がやってくる

元大学教授の渡辺儀助(長塚京三)は、祖父の遺した日本家屋でひとり暮らしをしています。自ら朝食を作り、ゆっくりと食す。食後はミルで豆を挽き、丁寧に淹れたコーヒーを飲む。ときおり気の置けない友人と酒を呑み、教え子を招いてディナーを振る舞う。 妻・信子(黒沢あすか)に先立たれた彼は、そんな丁寧な生活を送っていましたが、今ある預貯金でその生活を維持できなくなったとき、自害すると決めていました。 しかしあるとき、彼はパソコン通信で「敵です。皆が逃げはじめています」という書き込みを目にします。

【承】崩壊していく日常

儀助はときおり亡くなった信子と空想の中で会話するようになります。一方で、教え子の鷹司靖子(瀧内公美)との情事を妄想したり、行きつけのクラブで知り合った女子大生の菅井歩美(河合優実)と仲良くなったりと、彼の少しずつ日常は変化していきます。 次第に現実と妄想の区別がつかなくなっていく儀助。空想の中の信子との口論で大声をあげてしまい、近所の人に心配されることも。 あるとき靖子と歩美の3人で食事をしていると、教え子の犬丸が突然やって来ます。彼は儀助の食事をほとんど横取りしていたので、歩美が「脅迫者がいる」と警察に電話をしました。そして私服警官がやってくると、犬丸は心臓が悪かったのか、その場で倒れて死んでしまいます。

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【転】支離滅裂な「夢」

儀助は夢と現実の境が曖昧になっている自覚がありますが、それを止めることはできません。 彼はそのうち、自分が学生だったときや、教授だったときとが入り混じった大学での「夢」を見るようになります。そのどれもが支離滅裂で、自分の教え子ではない歩美が授業を受けていたり、最前列でほかの教授陣が彼の授業を採点していたりと、冷や汗の出るような夢もありました。 ある日彼は友人の湯島や教え子の椛島、犬丸とともに戦場の最前線にいる「夢」を見ます。岩山から敵がやってくると思ったら、その真ん中に信子、歩美、靖子の姿が。犬丸が発砲しようとするので、儀助は彼を撃ち殺します。そして信子たちとピクニックをはじめるのでした。 そうこうしているうちに本当に敵がやってきて、儀助は蜂の巣にされてしまいます。

【結末】ついにやって来た「敵」 衝撃のラストとは?

儀助は8年前に依頼された講演会でのことを思い出します。彼はハイデガーの説いた「死の先駆」について話しました。すると信心深い聴衆から哲学と「神」との関係について質問されます。それに対して儀助は無神論者だと無下にすることはできず、アリストテレスが神を証明したという話をしました。 ミカド・ファーマシーのお姐ちゃんは「ファシストがいる」と言い、儀助と一緒に逃げようとします。しかし街中に軍人が現れ、道行く人々を銃弾の穴だらけにしていきます。 ステージに立つ儀助。そこは全ての芸術と哲学が交錯する世界でした。現実と夢は、もう区別がつきません。 生涯で交わした会話が蘇ります。しかしそれは誰の声でもなく、儀助が反芻しているだけのもの。そのうち彼には、雨音しか聞こえなくなるのでした。

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【解説】「敵」の正体は迫りくる「老い」

主人公の儀助は、預貯金が尽き、自分が満足できる生活を送れなくなったら自害すると決めていました。しかし彼は財産が尽きるより先に、「老い」に追いつかれてしまったのです。 小説の中には「耄碌(もうろく)」という言葉がたびたび出てきます。これは儀助がもっとも嫌い、恐れていることで、「九十歳百歳まで老醜を晒し他人にさんざ迷惑をかけてから死ぬという儀助の最も嫌いな最期が待っている」とも語られています。 最初は夢であることがきちんと示されていた儀助の見ている世界ですが、徐々に現実を蝕んでいきます。本作での「敵」とは「老い」であり、もっと現実的な言葉で言うと「認知症」です。 儀助は自分が認知症になるリスクを考えていませんでした。これは、現代を生きる我々にも通ずるところなのではないでしょうか。

【考察】現実に起こり得る『パプリカ』

大学教授だった主人公の儀助は退職後、丁寧で気高い生活を送っていました。しかし、彼は財産が尽きる前に認知症になり、「気高い生活」を維持することができなくなってしまいます。結末から振り返ってみると、序盤に儀助が友人や教え子と交流するシーンも現実だったのか怪しくなってきます。 「老後資金2000万円問題」などが取り沙汰される昨今ですが、それは認知症になることもなく、死ぬまで健康で、自活できる場合の話だと思います。多くの人は、認知症など自分が人の手を借りて老後を送る想定ができていないのではないでしょうか。本作は、そんな我々に気づきを与えてくれる、というよりも恐ろしい現実を突きつけてきます。 原作は、序盤こそ執拗なほどに儀助の生活のディテールを描写していきますが、それが崩れ去っていく後半は、筒井康隆作品らしいユーモアを感じさせつつ、SF的な空恐ろしさがあります。現実と夢の境界が曖昧になっていく儀助の世界は、同じ筒井康隆の『パプリカ』と同様に支離滅裂な楽しさがありますが、これが自分に起こるかもしれないと考えると、笑ってはいられないでしょう。

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筒井康隆の原作『敵』の感想・評価

』の総合評価
4 / 2人のレビュー
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40代男性

老主人公の日常を「朝食」「友人」「物置」などカテゴリー別の詳細なディテールで積み重ねていく老人小説。“役者”がそろってからの後半は楽しく、終盤は圧巻。本当は小説内でほぼ全く時間が流れていないという語りの方法も面白い。

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50代女性

最初は儀助先生のチャーミングな人柄や綿密に重ねられてく日常を楽しく読んだ。設定が他人事と思えなかったせいか、最後の方は「ボケたのかなあ……」と怖かった。

映画『敵』の原作をネタバレ解説・考察

映画『敵』の原作ネタバレ解説を紹介しました。原作は細かな章に分かれ、儀助の生活を緻密に積み重ねていくと同時に、それが崩壊していく様子をテンポよく語っています。映画はモノクロ映像で綴られる、儀助の現実と妄想の世界に注目したいところですね。 映画『敵』は2025年1月17日公開です。