映画『流浪の月』ネタバレあらすじ解説!気持ち悪い?最後のシーンの病気は何だったのか考察
凪良ゆうの2020年本屋大賞受賞作を李相日監督が実写映画化した『流浪の月』。問題作と呼ばれた原作だけに、公開前から様々な議論を巻き起こしました。そんな本作のあらすじを結末までネタバレしつつ、タイトルの意味や文の病気、原作との違いを解説します。 ※映画『流浪の月』に関する重大なネタバレが含まれます。注意して読み進めてください。
映画『流浪の月』あらすじ
ある夕方、雨が降る公園でびしょ濡れになっても本を読み続けていた少女・家内更紗に、傘を差しかけた大学生の佐伯文。引き取られた伯母の家に帰りたがらない更紗を、自宅に連れて帰ります。 文の家で解放されたようにリラックスして過ごす更紗。そのまま2カ月もの間過ごしていましたが、その様子を周辺住民に訝しがられ、警察に通報されてしまいます。 その後文は「誘拐犯」、更紗はその「被害女児」という烙印を背負って生きていくことに。しかし事件から15年後、2人は偶然再会して……。
登場人物相関図
主演を務めたのは、『いのちの停車場』(2021年)で初共演した広瀬すずと松坂桃李です。 更紗の幼少期を演じるのは、天才子役と名高い白鳥玉季。横浜流星や多部未華子、ベテラン俳優の柄本明、内田也哉子ら豪華キャスト陣が集結しました。
映画『流浪の月』結末までのネタバレ
ここからは、映画『流浪の月』のネタバレあらすじを紹介していきます。未鑑賞の人は注意して読み進めてください。
【起】誘拐事件の真相
19歳の大学生・佐伯文は、土砂降りの公園で本を読む少女に傘をさしかけました。少女は家内更紗と名乗り、家に帰ろうとしない彼女を自宅に泊めます。 更紗の父は亡くなり、母は恋人と同居し始め、1人になった彼女は伯母の家に引き取られていました。しかし更紗にとって伯母の家は居心地が悪く、その息子から性的な虐待も受けていたのです。 文との生活は何の気兼ねもなく、更紗に自由な時間を与えてくれるものでした。文は「帰りたい時はいつでも帰っていい」と言いましたが、更紗はそのまま留まり続けていました。 それから2カ月後、更紗が行方不明になったとテレビで報道され始めます。2人で湖を訪れたところを警察に見つかり、「ロリコン誘拐犯」として逮捕される文。その後、更紗は「可哀想な被害者」として児童養護施設で育ちます。
【承】15年後の再会
事件から15年の年月が経ち、当時10歳だった更紗も今や25歳。彼女はバイト先の同僚・安西と訪れたカフェ「calico」で、偶然にも文と再会します。文はそこの店主として働いており、15年も経つのに少しも変わっていませんでした。 更紗は文が営むこの店に足繁く通うようになりますが、文は更紗に対しては何も言わず、ただ静かに佇んでいました。そんな更紗の様子を見た婚約者の亮は、カフェに突然現れたり、彼女を監視して暴力を振るうようになります。 文に声をかけたくて店の前で更紗が待っていると、文は女性と店を出てきました。文に恋人がいると知り、ようやく幸せになれたのだと安堵する更紗。 しかし亮は文の過去をSNSで暴露し、そのことを責めた更紗の頭部に怪我を負わせます。更紗は傷を負ったまま町へ逃げ出し、気がつくと文のカフェへ。これまでのことを詫びる更紗を文は介抱し、「生きていたからまた更紗に会えた」と伝えました。
【転】「ロリコン誘拐犯」のレッテル
文に保護された更紗は、文の部屋の隣に引っ越してくることに。新しい生活も落ち着き、平穏を取り戻していきます。 ある時、更紗は恋人と旅行に行くという安西に頼まれて娘の梨花を預かりますが、安西は予定日を過ぎても帰ってきません。何度電話してもつながらない中、梨花が熱を出してしまい、仕事が休めない更紗に代わって文が梨花の面倒を見てくれることになりました。 そんな中、梨花の面倒を見る文の画像や、更紗との禁断愛を扱う記事が週刊誌に掲載。嫌がらせがエスカレートし、更紗は職場でもこの件で仕事を辞めるよう促されます。 更紗は亮を疑って会いに行きますが、彼は更紗が去ったせいか荒れた生活をしていて、暴露を否定し「ロリコンを気持ち悪く思う人間なんて腐るほどいるだろ?」と言い放ちます。そして更紗の目の前で突然手首を切り、自殺を図りました。 更紗への事情聴取が行われますが、聞かれたのは文に関する内容でした。過去の事件から、文の側に8歳の少女の梨花がいたことが問題視されたのです。
【結】文の秘密と2人が選んだ愛のカタチ
梨花は保護され、文は出頭させられますが、今回の件には事件性はないと判断され釈放されます。文の恋人が週刊誌を見て彼の過去を知り訪ねてきますが、自分と大人の関係を持たなかったのは小児性愛者だからかと問い詰められ、文はただうなずくのでした。 更紗は、文にこれまでの謝罪と感謝を伝えました。湖で文が更紗の手を強く握ってくれたことを思い、そのおかげでこれまで生きて来れたのだと。 しばらしくて突然文は、震えながら服を脱ぎ、全裸になって自分をさらけ出して「身体が大人にならない病気を抱えている」と秘密を告白します。泣いて抵抗する文を、更紗は強く抱きしました。 2人は誰も自分たちを知らない土地で生きると決め、「また気付かれたら?」と聞く文に、「その時は、また流れていけばいい」と更紗は答えるのでした。 原作で描かれた2人のその後はこちら
【感想・評価】気持ち悪いと言われる理由は?
レビュー
主演2人がすごいのはもちろん、モラハラDV男の横浜流星が個人的にMVP。顔はイケメンだけど……とか疑ってたのがめちゃくちゃ申し訳ない。退廃的な映像(特に湖のシーン)も美しくて、流石はホン・ギョンピョだなと思いました。
ラストはあ、そこで終わるんだ……とちょっと驚きました。原作より暗いと感じたのは、その後の2人のエピソードが削られた影響もあるのかな?自分は善意について考えさせられたけど、「気持ち悪い」って感想が多いのも理解はできます。
「気持ち悪い」「ロリコンの正当化」という評価も
作品全体の雰囲気や主人公2人の関係性、そして亮の歪んだ愛情や、文の全裸での告白などに対して「気持ち悪い」といった感想も見受けられた本作。 文が愛読しているのはエドガー・アラン・ポーの詩集ですが、ポーがいとこである13歳の少女と結婚したことは有名です。ラディカルなフェミニストからは“ロリコンを正当化している”という意見もありました。
文は小児性愛者ではない
「ロリコンを正当化している」というのは作品の誤解ではないかと筆者は思います。その理由は、結局ラストで文は小児性愛者でなかったと明かされるからです。 文のことを小児性愛者だと思い込んでいたのは世間と更紗です。彼は一度も幼い少女に恋愛感情を抱いたり欲情したりしていません。また大人になった更紗と肉体関係を持たなかったのは、彼が病気だったからです。 文はほとんど何も語っていません。にもかかわらず彼のことを「ロリコン」だと決めつけ作品を否定するのは、映画の中に出てきたSNSと同じくらい安直で残酷ではないでしょうか。
「気持ち悪い」は差別意識の表れ?
複雑な事情を明るみにせず普通を装って生きる文や更紗のように、多かれ少なかれ人は皆“普通でない”側面を持ちながらそれを隠して生きています。時には自ら普通の「型」にはまりにいっていることすらあるのではないでしょうか。 皆、型にはめられることによって安心して生きています。だからこそ、型にはまらない人を見ると不安になって差別したくなることも。 「気持ち悪い」という感情は、私たちの意識の根底にあるそんな差別意識が呼び起こされた結果かもしれません。 『流浪の月』は、“普通でない”はずの自分たちを型にはめようとする「普通を装うことの気持ち悪さ」にむしろ気づかせてくれます。ポーの詩も、文の孤独な心を表現する上で重要な役割を果たしていました。
【解説】文の病気とは何だったのか
文は「大人になれない病気」ですが、原作でも具体的な病名は明かされません。 思春期を過ぎて第二次性徴(声変わりや性器の発育など)がないことから、男性ホルモンの欠乏を主な原因とする「思春期遅発症」や「クラインフェルター症候群」が考えられます。「カルマン症候群」も疑われますが、文には嗅覚異常の特徴が確認できません。
【考察】タイトルに込められた願い
タイトルにある「流浪」は、定住地を持たずに各地を転々と回ること。まさにラストの更紗と文のあり方で、「月」は2人を指していると思われます。 「地球(世間)からは全てが見えない、遠くをさまよう月(更紗と文)」のことであり、このタイトルにはさまよい続ける2人の願いが込められているのではないでしょうか。
流浪
更紗は実の父を亡くして母には捨てられ、伯母のもとで暮らすもののいとこには性的虐待を受けていました。そんな辛い過去と現状を忘れさせてくれたのが、文との自由気ままな時間です。 この物語の根底には、世間から色眼鏡で見られ続ける2人の、世間のルールや縛りから自由でありたいという切なる願いがあると考えられます。 原作小説の表紙が、更紗が幸せな幼い頃に夕食に食べていたアイスクリームであることも、彼女の“自由でありたい”という願いが表現されたものなのでしょう。
月
月が出てくる作中の台詞に、更紗の「事実と真実の間には、月と地球ほどの隔たりがある」があり、“事実と真実は違う”ことが何度も強調されました。 2人はお互いの存在に救われましたが、世間にとって文はロリコン誘拐犯で、更紗は加害者を慕う可哀想な少女でしかないのです。 独善的な善意を押し付ける人々には、更紗と文のほんの一部の事実しか見えていません。まるで、形は同じでも光の当たり具合で見える部分が変わる月そのもの。
「流浪の月」タイトルに込められたのは
これらのことから、タイトルに込められているのが「自由に流れていく月のようなあり方」を願う文と更紗自身であることがわかります。 誘拐犯と被害女児という表面的な「事実」だけで決めつけて、世間の常識で縛り付けて罰さないでほしい。どうか2人を自由に、そってしておいてほしいという願いが込められているのではないでしょうか。
【原作との違い】映画が“恋愛”じゃない理由とは
本作は一見恋愛映画のようではありますが、その本質は「孤独」と「必然性」が絡み合った複雑なヒューマンドラマになっています。
「孤独」「必然性」が強調された演出
原作から映画では、ストーリーやシーン、キャラクター設定がいくつか変更されています。これによって原作では恋愛ともとれたような2人の関係が、映画では恋愛を超越した絆だったことが強調されていました。 映画は原作以上にはっきりと2人の孤独を際立たせ「孤立した2人の世界」を作り上げているようです。 例えば原作では動物園だったシーンは湖畔という静かな場所に変更され、物語の順番も時系列ではなく過去と現在を交互に描き、2人を苛み続ける過去と孤独を強調する構成になっていました。 周囲のキャラクターも映画の方がいっそう毒が強くなっており、2人が互いを求めるのは「必然」だと印象付けられています。
原作で描かれた「その後」が削られた理由
原作のラストには更紗と文が長崎県でカフェを開き、梨花と再会するシーンがありました。しかし映画は、2人のその後を観客に託して終わります。 こうして観客に2人のその後を想像するように仕向けることで、一層2人の孤独を感じ、作品のテーマについて議論してほしいという意図が込められているのではないでしょうか。 2人を肯定し原作のような幸せな終わりを信じるか、それとも迫害されて流れ続ける運命を想像するか、結論は観た人に委ねられているようです。
原作は本屋大賞の傑作『流浪の月』
原作小説『流浪の月』(東京創元社刊)は、凪良ゆうの一般文芸における初単行本。 2020年に本屋大賞を受賞し、日販単行本フィクション部門、トーハン単行本文芸書部門で年間ベストセラー1位に輝いた傑作小説です。 当時本屋大賞に推した全国の書店員からは「何が正義で悪なのか、決めるのは周りではなく自分自身だと考えさせられた」、「理屈にならない想いを文学に昇華させた力量は素晴らしい!」といった絶賛の声が寄せられました。
原作者:凪良ゆう
凪良ゆうは2007年に作家活動を本格化させ、以降、各出版社でBL作品を刊行しました。 デビュー10周年目の2017年に、初の非BL作品『神さまのビオトープ』を発表。一貫して“世間から外れた存在”を描いていて、その他の代表作に『わたしの美しい庭』(2019年)や『滅びの前のシャングリラ』(2020年)があります。 著作の映画化は本作が初で、「以前から作品のファンだった李監督に撮っていただけると聞いて、 人生ってこんなことがあるんだなあと呆然とした」と語りました。
映画『流浪の月』キャスト&監督紹介
家内更紗役/広瀬すず
『流浪の月』で広瀬すずが演じるのは、10歳で誘拐事件の“被害女児”となった家内更紗。名前が広く知れ渡ってしまい、成長後も世間に苦しめられる役どころです。 広瀬は李相日監督作『怒り』と主演映画『ちはやふる -上の句-』の演技が評価され、2016年の第40回日本アカデミー賞にて優秀主演女優賞、優秀助演女優賞をW受賞!2019年に100作目の朝ドラ『なつぞら』でヒロインを務めるなど、国民的女優となりました。 2度目のタッグを組む李監督に「この役の気持ちを知ってると思って」と言われたそうで、「その日から、私は毎日なんだか、どこかずっと緊張しています」と明かしています。
佐伯文役/松坂桃李
もう1人の主人公・佐伯文は、更紗の誘拐事件で“加害者”とされた当時19歳の青年。小児性愛者の凶悪犯だと報道され、猛バッシングを受け続けてきました。 演じる松坂桃李は2009年に『侍戦隊シンケンジャー』で俳優デビューし、映画にドラマ、CMなど多方面に引っ張りだこの人気俳優です。 2019年には『孤狼の血』で第42回日本アカデミー賞最優秀助演男優賞、翌年に『新聞記者』で同賞の最優秀主演男優賞を獲得するなど、近年は日本映画界での存在感が増しています。 李組には初参加となり、「正直今は霧の中にいる気分です。ただこの作品に文として参加できる喜びを噛み締めてもいます。全身全霊でいきます」と意気込みを語りました。
監督は『怒り』の李相日
本作の監督を務める李相日は、村上龍原作、宮藤官九郎脚本の映画『69 sixty nine』(2004年)の監督に抜擢され、業界内外で知名度を上げました。 2006年には『フラガール』で第30回日本アカデミー賞最優秀作品賞、文化庁芸術選奨新人賞と数々の賞を獲得し、『悪人』(2010年)や『怒り』といったヒット作を連発! 2017年以来の監督作『流浪の月』では広瀬すずと2度目のタッグを組み、“魂と魂の未来永劫揺るがない結びつき”を描きます。 公式コメントでは原作小説や主演の広瀬と松坂についても触れ、「2人の眼差しが重なり、互いを慈しむ優しさに溢れた時、自分がどれほど心を奪われるのか……待ち遠しくてなりません」と結びました。
2人の関係性を意識しながらもう一度『流浪の月』を観よう!
骨太の人間ドラマを得意とする李相日監督のもと、人気と実力を兼ね備えた広瀬すず、松坂桃李が再共演を果たした映画『流浪の月』。誘拐事件の被害者と加害者、誰にも理解されない2人の繊細で複雑な感情が胸に迫る、まさに珠玉の1作となりました。 それだけに奥が深いので、中には理解できないままで終わった人もいるでしょう。きちんと内容を理解してから観ると、また違う発見があるかもしれません!