2026年1月22日更新

【児山隆監督に聞く】『万事快調(オール・グリーンズ)』制作秘話─南沙良・出口夏希の起用背景とラストに込めた飛躍の意味とは?

このページにはプロモーションが含まれています

2026年1月16日公開の映画『万事快調〈オール・グリーンズ〉』は、松本清張賞を受賞した波木銅の同名青春小説を原作に、『猿楽町で会いましょう』の児山隆監督が映像化した注目作です。鬱屈した地方都市で生きる若者たちの衝動と希望を描き出す、新たな痛快青春映画が誕生しました。 本作の公開を記念し、児山隆監督にインタビューを実施。原作を映画化する上で大切にした空気感や演出の狙いをはじめ、南沙良さん、出口夏希さん、吉田美月喜さんら主要キャストの起用理由、現場で生まれた演技や演出のエピソードなど、制作の舞台裏をじっくりと語っていただいていました。 ※本インタビューの取材風景を収めた動画コンテンツは、YouTubeのciatr/1Screenチャンネルにて公開中です。

映画『万事快調〈オール・グリーンズ〉』作品概要・あらすじ

公開日 2026年1月16日
上映時間 119分
監督・脚本 児山隆
原作 波木銅『万事快調〈オール・グリーンズ〉』
キャスト 南沙良 , 出口夏希 , 吉田美月喜 , 羽村仁成 , 黒崎煌代 , 金子大地

松本清張賞を満場一致で受賞した青春小説「万事快調〈オール・グリーンズ〉」が待望の映画化。未来の見えない田舎町で鬱屈した日々を送る3人の高校生は、この町から抜け出すためには一獲千金を狙うしかないと考え、同好会「オール・グリーンズ」を結成する。 『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』などで知られる南沙良が朴秀美役を、『舞妓さんちのまかないさん』で主演を務めた出口夏希が、もうひとりの主人公・美流紅役。2人とともに「オール・グリーンズ」を結成する岩隈役を、『ルックバック』で話題を呼んだ吉田美月喜が務める。

児山隆監督プロフィール

「万事快調 オールグリーンズ」児山隆監督
◎コピーライト:©2026「万事快調」製作委員会

映像ディレクター・映画監督・脚本家。CM制作、助監督、オフラインエディターを経て2015年に独立。2021年「猿楽町で会いましょう」で劇場映画デビューし、東京国際映画祭スプラッシュ部門、ウディネ・ファーイースト映画祭にノミネート。長編2作目「万事快調〈オール・グリーンズ〉」は第30回釜山国際映画祭Vision部門に選出された。

【原作を映画化する上で】爽快な読後感を映像で表現したかった

映画「万事快調オールグリーンズ」
©2026「万事快調」製作委員会

Q. 初めて原作を読まれた際の感想をお聞かせください 児山監督 単純に面白いと思いました。サブカルチャーを多く扱っている作品っていうのが懐かしくて。2000年代の頃には結構あったように思うんですけど。かつ構造的に起承転結の転と結がすごい速いみたいな、めちゃくちゃ面白い構造になっていて。 既存の表現に対してちょっと中指を立てているじゃないけど、そういう気概で「波木さんはモノづくりやってるんじゃないか」と感じ取れて、それがすごく気持ち良くもあり。読後感も悲壮感がなくて爽快でした。

映画「万事快調オールグリーンズ」
©2026「万事快調」製作委員会

原作を映画化する上でこだわったポイントについてお聞かせください 児山監督 原作にある空気感を大切に悲壮感がないようにしたいと思いました。登場人物たちは辛いこともあるけれど、減らず口叩きながらそれでも前に前進していく様というか。 重大なことを重大だと受け取りつつも、過剰に辛そうにしない感じが気持ちがよくて、そういうものが映像でも表現できたら面白いかなと思いました。

映画「万事快調オールグリーンズ」
©2026「万事快調」製作委員会

Q. 映画を制作するうえで原作者の波木さんとのコミュニケーションはあったのでしょうか? 児山監督

先程言ったようなことを「大事にしたい」という手紙を編集者の方を通じてお渡ししていただきました。 とはいえ、原作の要は、登場人物が3人以外にも数人の視点で物語が進展していくのですが、それを朴秀美の視点に集約しようと思いました。 そういう脚色はするつもりではあるんだけれども、極力原作の要素を「大事にしていきます」とお伝えして。 その後に波木さんご本人ともお会いしたら「もう好きにやってください」と結構あっけらかんとおっしゃっていただいて。それで勇気を持って映像化をしていきました。

【キャスティング背景】南沙良には不良役が合うと直感がはたらいた

映画「万事快調オールグリーンズ」
©2026「万事快調」製作委員会

Q. 本作のキャスティング背景とキャラ造形でのこだわりをお聞かせください 児山監督

朴秀美役・南沙良

映画「万事快調オールグリーンズ」
©2026「万事快調」製作委員会

南沙良さんは、これまでちょっと暗いとか、自分に問題を抱えているキャラクターはあったんですけど、わかりやすく不良というキャラクターはあまり演じてきてこなかったように思いますし、あそこまで軽口を叩くというか、口が悪い、キャラクターも演じてこなかったように思います。 そんな南沙良さんに、「朴秀美は合っているんじゃないか」と直感的に思いました。これまで演じたことのないキャラクターをやることで「楽しんでやってくれるんじゃないかな」と思って、オファーをさせていただいたら、快諾していただきました。

矢口美流紅役・出口夏希

映画「万事快調オールグリーンズ」
©2026「万事快調」製作委員会

美流紅役の出口夏希さんに関しては本当に駄目元で聞いてみて、そしたら脚本を読んで「すごく興味があります」と言って快諾してくださって。僕らもびっくりして、青天の霹靂というか、「出口さん出てくれるんだ!」みたいな。 キャラクター的にはもう本当にバッチリで、ああいったクラスの明るい人気者で、でも繊細な表情もできて。出口さんはとにかく人を惹きつける魅力が理屈抜きである人だから。そういう意味で「彼女が美流紅だったらすごく良くなるんじゃないかな」と。 この映画にとって南さん、出口さんの出演が決まったことがとにかくラッキーだったと思います。

岩隈真子役・吉田美月喜

映画「万事快調オールグリーンズ」
©2026「万事快調」製作委員会

吉田美月喜さんはプロデューサーの方の提案でお会いする機会があり、面談みたいな感じでお話をさせてもらいました。 その時にプロデューサーの近藤さんが吉田さんに「岩隈ってどう思いますか?」と質問をしたんですけど。彼女が「原作も脚本も読みましたが、私的にまだピンと来てなくて」と応えて。 その時の脚本で、確かに岩隈のキャラクターがちょっと弱かったんですよ。それを言われて「この人は本質的に岩隈のこと分かってるな」と僕が思ってしまって。それで「どうやったら岩隈を吉田さんがしっくりくるようになるだろう」っていうマインドセットに変わって。 これはもう「吉田さんに演じてもらいたい」と思い、プロデューサーの皆さんにもそのお話をさせてもらって吉田さんに決まったっていう感じです。

佐藤幸一役・金子大地

映画「万事快調オールグリーンズ」
©2026「万事快調」製作委員会

金子くんに関しては、もう一回金子くんとお仕事するんだったら『猿楽町で会いましょう』っぽい役じゃないものを「やってもらえたらいいな」と思っていて。

猿楽町で会いましょう
(C)2019オフィスクレッシェンド

それが今回の佐藤というキャラクターなんですけど。「過去にあまりこういう金子くんを見たことないかもしれない」そういう狂気をはらんだキャラクターをずっとできると思っていたんです。だから今回そういった意味で金子くんにお願いすることになりました。

ジャッキー役・黒崎煌代

映画「万事快調オールグリーンズ」
©2026「万事快調」製作委員会

黒崎煌代さんはちょっと魅力的過ぎるというか。黒崎さんも面談させてもらったんですけど、もう会って、開口一番「この役は僕やりたいです」と結構真顔で言ってきてくれて。 「この人だったら絶対にやれるな」とその時に確信に変わりました。映画や色々な監督とかにこれからもっともっと愛される人だと思いますし、「これからの邦画界を背負って立つ人間にきっとなるんだろうな」という何か予感を感じて。そういう期待感やワクワク感を感じさせる人だから、今回ご一緒できて本当に良かったです。

【ラップシーンの演出】思いを吐き出せているかが重要だった

Q. 本作の見どころとして、朴秀美のラップシーンがあると思います。このシーンの演出のこだわりをお聞かせください。 児山監督

この映画はラップをして上り詰めていくというタイプのものではないので、テクニックとか上手さとかではなくて、いかにこの鬱屈とした状況の中で「思いを吐き出せるかが重要なのかな」と思ったんですね。 もちろんテクニックの部分だったりは荘子itさんがご指導いただきましたが、重要なのは、テクニック論とかそういうことではなくて「楽しめているかどうか」。 この息苦しい世の中、村の中で、彼女たちが楽しいものはラップしかないというか。だから上手さというよりかは楽しんでやってもらえるように作っていったかもしれないですね。

【画面内のカラー演出】オールグリーンズのつなぎの色は映画オリジナル設定

映画「万事快調オールグリーンズ」
©2026「万事快調」製作委員会

Q. 本作で上履きや背景に緑色が多く使われている印象を受けましたが、その点で意識された点があればお聞かせください。 児山監督 上履きはそうですね「緑がいい」という話になったのと。あとオールグリーンズのつなぎが緑なのは"原作にはないんですよ。 原作はシステムオールグリーンという隠語で、グリーンズとかの言葉が彼女たちが作ってるものを示唆してたりするので、もっと視覚的にわかりやすいそれこそ"オールグリーンズ”というか。だからそこは意識したかもしれません。

【サブカルチャーへの言及】同時代性を意識して『哀れなるものたち』に

映画「万事快調オールグリーンズ」
©2026「万事快調」製作委員会

Q. 本作ではサブカルチャーに対する言及がありますが、美流紅が映画で『哀れなるものたち』を挙げていたのは監督の意図だったのでしょうか? 児山監督 彼女たちが、特に美流紅がそこに言及するものとして「例えば何だろう」と考えた時に美流紅だったらきっと『哀れなるものたち』を観てるかなと思って。(撮影地の)あまや座というあの映画館だったら上映されていたかもとか。 わりと原作は昔の作品が多いというか、2000年代ぐらいのものだったり、それより前のものが多いので。最近の作品を入れ込んだ方が同時代性が出てくるんじゃないかと思いました。

【タイトルが表示されるタイミング】第2部が彼女たちにとっての物語の始まり

映画「万事快調オールグリーンズ」
©2026「万事快調」製作委員会

Q. タイトルが表示されるタイミングが印象的でした。この点でこだわったポイントをお聞かせください。 児山監督 原作を読むと美流紅が「これは私たちにとっての第2部なんだよ」というセリフがあって。第1部は人によって、生まれの差とか、貧富の差とか、状況の差とか、地域とか国とかあると思うんですけど、第2部は任意で決められる。 「今ここからが第2部なんだって自分たちで決めたら、そこから第2部になれる」というのは「むちゃくちゃポジティブなメッセージだな」って原作を読んだ時に思ったんです。 でも第2部ってオープニングではないじゃないですか、第2部なので。だけど「本当の彼女たちの物語が始まるという意味では彼女たちにとっても第2部が物語の始まりなのかも」という意味で、あそこにオープニングタイトルを入れたいなと思いました。

【フィクションとリアリティのバランス】「物語に救われている人たち」に捧ぐラストの現実からの飛躍

映画「万事快調オールグリーンズ」
©2026「万事快調」製作委員会

Q. 本作のフィクション性と現実性のバランスが印象的でした。この点で意識された点についてお聞かせください。 児山監督 ラストはもう「受け入れてもらえるか」のラインをギリギリ攻めたというか。冒頭は、わりとリアルな感じでやっているんですけど。 どんどん彼女たちが悪事に手を染めて、いろんなことがエスカレートしていく中で、現実の痛みと怖さみたいな、痛みもちょっと嘘の部分があるのですが。そこのバランスと飛躍してる部分が「ギリギリこれだったら受け入れられるか」のラインというか。 要はここは願いだったり、思いだったりもっと言えば映画だから。映画ってとどのつまりはフィクションなので、「彼女たちは物語に救われている人達でもある」と思ってるんです。 だからフィクションの中だったら、何をしてもいいはちょっと嘘だけど、現実を飛躍する瞬間があって良いとどこかで思っていて。 今回はラストのあの周辺というのは何かそういう飛躍を許してもらえて、かつ楽しんでもらえたらなっていうせめぎ合いでやりました。

【XXXの栽培や販売】売買に関しては"子ども"が考えそうなことを大事に

映画「万事快調オールグリーンズ」
©2026「万事快調」製作委員会

Q. 本作であるモノの栽培から売買まで詳細に描かれていましたが、これは専門家による意見を反映したものだったのでしょうか? 児山監督 作り方は博物館の方がいらっしゃって、その方に「こういう感じでやっている」ということを学術的にお伺いしていました。 売買に関しては原作にあったのはそうなんですけど、それと同時に彼女たちは割とストリートの色々なしきたりとかを分からずにやっていると思うんです。 だから、危険だと思いながらも、ネットで調べられるようなことをやっていると思うから、売買に関しては「子供が考えそうなこと」というところを大事にしました。

【現場で生まれたアドリブシーン】3人が集まると自然と役を生き始めていた

映画「万事快調オールグリーンズ」
©2026「万事快調」製作委員会

Q. 本作の撮影中に生まれたアドリブシーンがあればそのエピソードをお聞かせください。 児山監督 3人で話してる場面は、結構どのシーンもアドリブがあって。放課後の教室で3人で同好会を設立するために申請書を書いているところのセリフなんかは、基本的に台本には話してるとしか書いていなくて。 もちろん言ってほしいキーワードは伝えつつ、とにかくあの3人が集まると、自然とそれぞれのキャラクターを生き始めている状況がかなり早い段階に来たのが個人的にも面白かったです。特にオープニング以降の3人のシーンは、どのシーンも現場で生まれたものが何かしら入っているという感じですね。

映画「万事快調オールグリーンズ」
©2026「万事快調」製作委員会

Q. 現場で生まれたシーンの中で監督のお気に入りのシーンについてお聞かせください。 児山監督 クライマックスにピクニックシーンの回想があるんですけど、そこの会話は1から10まで全部アドリブでした。横で喋ってる2人もそうなんですけど、現場で撮りながらあそこのシーンに入れたいなとアイディアが湧いて、本当に素晴らしかったです。

【3人の空気感を生み出すために】岩隈が影のMVP?

映画「万事快調オールグリーンズ」
©2026「万事快調」製作委員会

Q. あの3人の独特の雰囲気を出すうえで準備されたことや意識されたことがあればお聞かせください。 児山監督 3人にはよい意味で伸び伸びやってもらおうと思っていました。南さんはすごく準備してきてくださる方だから用意したものをいかに現場で捨ててもらえるかを意識しました。それは用意してきたものがダメっていう話ではなくて、頭で考えずにやってもらえるように、ある種集中していただけるというか、そういう状況をなるべく作るように努力しました。 出口さんに関しては、現場の空気感とかを大事にされる方だから、南さんとはまた違った意味で無茶苦茶伸び伸びやれるような、あの画面からはみ出すような魅力が出るように。本人が楽しくできるような環境作りを考えていました。

映画「万事快調オールグリーンズ」
©2026「万事快調」製作委員会

そこに吉田さんが3人のバランスを取ってくれたっていうのはちょっとびっくりしました。  南さん、出口さんが素晴らしいのは大前提として3人のバランスを吉田さんが取っていたのは陰のMVPだったんじゃないかなと思います。吉田さんがいたから、あの3人のシーンが良くなったんじゃないかなと。もちろん全員のバランスがあったからっていうのは当然あるんですけど。 本人に確認はしてないですが、僕と吉田さんの中では岩隈がこの3人のバランスを取るっていう、暗黙の了解みたいなものが生まれていたと思います。そこはすごく素敵でした。 ▼取材・文:増田慎吾