『たしかにあった幻』あらすじ・キャスト解説!河瀨直美8年ぶりのオリジナル脚本映画
河瀨直美監督が8年ぶりに手がけたオリジナル脚本映画『たしかにあった幻』は、日本の臓器移植医療と年間約8万人にのぼる行方不明者問題というふたつの社会的テーマを背景に描かれる人間ドラマです。 「死は終わりではない」という静かな問いを軸に、命がどのように他者へと受け継がれていくのかを見つめる本作は、第78回ロカルノ国際映画祭にてワールドプレミア上映され、河瀨監督のマスターピース(傑作)と評されました。 この記事では映画『たしかにあった幻』のあらすじやキャスト情報を紹介していきます。
映画『たしかにあった幻』作品概要・あらすじ【ネタバレなし】
本作は、“愛のかたち”と“命のつながり”をモチーフに、日本の失踪者問題と心臓移植医療の現実を重ね合わせながら、生と死の境界、その先に残されるものを描いた珠玉の人間ドラマです。
映画『たしかにあった幻』あらすじ

フランスから来日したコリーは、神戸の臓器移植医療センターで働く臓器移植コーディネーターです。小児移植医療の促進に情熱を注いでいますが、日本独自の死生観や倫理観の壁に直面し、理想と現実の狭間で葛藤を抱えていました。 そんなコリーの心の支えは、屋久島で運命的に出会った恋人・迅の存在でした。しかし、彼の誕生日でもある7月7日の七夕の日、迅は突然姿を消してしまいます。 一年後、迅の失踪以前から家族による捜索願が出されていた事実を知ったコリーは、彼の実家がある岐阜へと向かいます。そこで明かされる真実は、ふたりの出会いが偶然ではなかったことを示していました。 一方、心臓疾患を抱え入院していた少女・瞳の病状が急変し、コリーは再び「命の選択」と向き合うことになります。
映画『たしかにあった幻』キャスト解説

主人公コリーを演じるのは、『ファントム・スレッド』(17)、『蜘蛛の巣を払う女』(18)などで知られるルクセンブルク出身のヴィッキー・クリープスです。理知的で成熟した女性像と、孤独や不安を抱える人間的な脆さを併せ持つ難役を、繊細かつ力強く演じきっています。 コリーが屋久島で出会う謎めいた青年・迅役には寛一郎が起用されました。存在と不在の狭間を漂う人物像を、静かな佇まいで表現しています。 さらに、尾野真千子、北村一輝、永瀬正敏といった実力派俳優陣が脇を固め、物語に深みと確かなリアリティを与えています。
監督・脚本は『あん』『朝が来る』などの河瀨直美

河瀨直美監督はこれまで、『あん』(15)で差別と偏見の中に生きる歓びを描き、『光』(17)では喪失の中から生まれる新たな愛を見つめ、『朝が来る』(20)では血縁を超えた母子の絆を描いてきました。 本作『たしかにあった幻』では、これらのテーマをさらに深化させ、「死は終わりではない」という視点から、命がどのように他者へと引き継がれていくのかを丁寧に描き出しています。 臓器移植医療と行方不明者問題という重い現実を真正面から捉えながらも、河瀨監督ならではの自然描写と身体感覚を通して、観る者に静かな希望を残す作品となっています。
映画『たしかにあった幻』見どころ解説

本作の大きな見どころのひとつは、徹底したリアリティに基づく医療現場の描写です。甲南医療センターや国立循環器病研究センターでのロケ撮影に加え、監督・スタッフ全員が白衣や医療服を着用して撮影に臨むことで、現場の空気感そのものが映像に刻み込まれています。 また、屋久島や岐阜の自然風景が、生と死、記憶と不在を象徴するように物語を包み込み、社会問題を扱いながらも一人ひとりの心の揺らぎに寄り添う演出が、河瀨直美作品ならではの魅力として際立っています。
映画『たしかにあった幻』は2026年2月6日公開

『たしかにあった幻』は、失われた命や消えた存在が、どのように生き続けていくのかを静かに問いかける作品です。それは誰かの体の中で、あるいは誰かの記憶の中で、確かに受け継がれていくものです。 社会的テーマを内包しながらも、最後に残るのは深い余韻と「生きること」への肯定です。河瀨直美監督の集大成とも言える本作は、観る者一人ひとりの心に、確かに存在した何かを残していくでしょう。