2026年7月16日更新

【下津監督インタビュー】『NEW GROUP』制作秘話―“組体操”を恐怖のモチーフにした背景、山田杏奈のキャスティング、△と◯に込めた想い

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映画『NEW GROUP』作品概要

公開2026年6月12日(金)
監督下津優太
出演山田杏奈 , 青木柚 , ピエール瀧 ほか
公式サイト公式サイトはこちら

組体操という集団行動を題材に、人間心理の根底をコミカルかつシリアスに炙り出すSFサイコエンタテインメント。多様性が叫ばれる時代に、「集団に埋没する幸せとは何か」を問いかけます。商業映画デビュー作『みなに幸あれ』で国内外の観客に衝撃を与えた下津優太監督の、劇場公開2作目です。

映画『NEW GROUP』あらすじ

『NEW GROUP』
©︎2025「NEW GROUP」製作委員会

ある高校を舞台に、どこにでもいる少女・愛(山田杏奈)は、周りに流されながら日々を過ごしていた。そんなある日、海外帰りで自分の意見をはっきりと口にする優(青木柚)と出会う。 やがてふたりは、校長(ピエール瀧)のもとで繰り広げられる"人間ピラミッド"という名の集団行動に、大きな違和感を抱いていく——。自らの頭で考え行動する「NEW GROUP」を目指す二人の姿を通して、集団に埋没する幸せとは何かを問う、SFサイコエンタテインメント。

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【企画の成り立ち】社会学の一冊から生まれた"人間ピラミッド"

映画 「NEW GROUP」ポスター
©︎2026映画「NEW GROUP」製作委員会

Q. 映画『NEW GROUP』企画の成り立ちをお聞かせください 下津監督 スタートは、監督としていろいろと教養を身につけたいと思い、さまざまな本を読み漁っていた時期でした。その中で『これ一冊でわかる社会学』のような本をパラパラと読んでいたときに、「この社会はさまざまな集団でできている」と書かれていて。社会をそう捉えたことがなかったので面白いなと思うと同時に、集団は見方を変えると怖いものにもなると感じたんです。 ゾンビのように自由に動いている集団もあれば、逆に統率のとれた集団も怖いんじゃないか、と。それを突き詰めていくと集団行動になり、さらに極めると何だろうと考えたときに「人間ピラミッドだ」と行き着いて、人間ピラミッドが登場しました。テーマとしては、山田杏奈さん演じる愛と青木柚さん演じる優、つまり「I(愛)」と「YOU(優)」=私とあなたが、思考停止した人間ピラミッドに立ち向かっていく、という内容になっています。

【脚本執筆】スルスル進むも、悩んだクライマックスの着地

Q. 脚本執筆時に苦労したポイントをお聞かせください 下津監督 脚本を書くこと自体は、意外とスルスル進んでいきました。ただ、最後のクライマックスをどう着地させればいいのかがすごく大変で。最後の落としどころは、少し悩みましたね。

【学生時代の原体験】恐怖に支配されると、思考は停止する

『NEW GROUP』 下津優太
©︎2025「NEW GROUP」製作委員会

Q. 集団や同調圧力の恐怖は、監督ご自身の学生時代の体験が元になっているのでしょうか? 下津監督 僕は体育会系で、かなり厳しい学校で育ちました。厳しい状況にいると「いかに先輩に怒られないか」「いかに先生に怒られないようにするか」ばかりを考えるようになるんです。そうなると、たとえば部活でも本来の練習の目的を見失って、「怒られないようにすること」が目的になってしまう。恐怖に支配されると思考停止に陥るんだと感じました。 その原体験に加えて、今の日本社会もそうした状況に陥っているのではないかと思い、人間ピラミッドを思考停止した日本社会の象徴として描いています。その状況から「目を覚ませ」というテーマを持って制作しました。

【山田杏奈のキャスティング】追い詰められる表情の"美しさ"

映画「NEW GROUP」
©︎2026「NEW GROUP」製作委員会

Q. 山田杏奈さん(愛役)のキャスティング背景と、撮影中の印象的なエピソードをお聞かせください 下津監督 山田さんはホラー系だと『ミスミソウ』や、清水崇監督の『樹海村』に出演されていますし、最近では『山女』でも苦しめられる役を演じられていました。いろいろと拝見するうちに、山田さんの苦しめられている表情が何か美しく、とても魅力的に感じたんです。 今作でも愛というキャラクターをどんどん追い詰めて、山田さんの魅力を発揮してもらおうと思ってのキャスティングでした。 正直、現場が大変すぎて山田さんとあまりコミュニケーションを取れなかったのですが、内容的にも愛はどんどん追い詰められていきますし、その中で青木柚さんと二人でやりとりしながら演じてくださっていたので、これで成立しているなと。細かいことは説明せず進めました。現場的にも苦しい状況だったからこそ、良い演技になったと思います。

【青木柚のキャスティング】現場を"引っ張って"くれた提案力

映画「NEW GROUP」
©︎2026「NEW GROUP」製作委員会

Q. 青木柚さん(優役)のキャスティング背景と、撮影中の印象的なエピソードをお聞かせください 下津監督 青木柚さんは言わずもがな、素晴らしい演技力の持ち主で、現場でも本当に助けてもらいました。大人数を扱う現場だったのですが、その中でも青木さんが自ら考えて「こう動いたらどうですか」と提案してくれて、かなり助けられました。 映画の内容としても、彼がいたからこそ、まさに劇中のストーリーと同じように愛を引っ張り、そして映画の現場そのものも引っ張ってくれたな、という印象があります。

【愛と優のキャラクター造形】"The 日本人"と、意見を言う海外帰り

映画 NEW GROUP
©︎2025「NEW GROUP」製作委員会

Q. 愛と優のキャラクター造形でのこだわりと、おふたりからキャラクターに投影されたものについてお聞かせください 下津監督 愛は、どこにでもいる「わたしたち(I)」のキャラクターとして設定しました。周りに流されたり、自分の意見を持っていなかったり、持っていてもあまり口に出さない、いわば"The 日本人"のような人物です。 対して優(YOU)は海外帰りで、自分の意見をズバッと言うけれど、周りに合わせるのが少し苦手。その二人が仲良くなり、徐々に一緒に立ち向かっていって、最終的に自らの頭で考えて行動する——それを僕らは「NEW GROUP」と呼んでいるのですが——グループを作っていく。 このふたりが重なり合って進んでいく物語になっています。 キャラクター造形についても、先ほどお話しした大枠しか伝えていなくて、細かいところはお二人とも演技が上手なので基本的に任せて、どんどん撮影していきました。奇想天外なシーンが続くので「ちょっとやりすぎかな」と思う場面も多かったのですが、それを二人がいいところにリアルに落とし込んでくれた印象です。

【ピエール瀧が演じる校長】少ない出演尺に宿る"本物の狂気"

映画「NEW GROUP」
©︎2026「NEW GROUP」製作委員会

Q. 校長役・ピエール瀧さんのキャスティング背景と、キャラクター造形へのこだわりをお聞かせください 下津監督 「ピエール瀧さんが決まりました」と聞いたときは「マジか」と。「本当にご一緒できるのか」という感じでした。実は校長先生の出演幅は結構少なくて、前半にチラチラと登場して中盤でリズムを取るところ、そしてクライマックスだけなんです。 それでいてあの存在感は、やはりピエールさんならではだと思いました。中盤にリズムに乗るシーンがあるのですが、それも現場で回しながら「これが本物の狂気か」とゾクゾク、ワクワクしながら撮影していたのを覚えています。

【清水崇監督の出演】"清水祟"という役名に込めた遊び心

清水崇

Q. 清水崇監督の出演経緯と、キャラクター造形についてお聞かせください 下津監督 僕が映画監督デビューしたきっかけも、清水監督が審査委員長を務める日本ホラー映画大賞というコンテストでした。そこからデビューさせていただき、ずっと関係が続いていたので、「どこかで清水さんに出ていただけたら」という思いがずっとありました。 今回はコメンテーターとしてメディアを批判するようなことを言う役なのですが、僕自身が思っているようなことを清水監督に代弁していただいた形になっています。 役名も実は「清水祟(きよみずたたり)」でして。清水監督が取材などで「よく"崇"という字を"祟(たたり)"と間違えられる」とおっしゃっていたのを覚えていたので、その役名にさせていただきました。

【組体操シーンの撮影秘話】日本体育大学の学生たちの協力

Q. 組体操のシーンを、どのように現場で構築していったのか撮影秘話をお聞かせください 下津監督 まずは本当に、特別協力として入ってくださった日本体育大学の学生さんの協力なしには、この映画は完成しなかったと思います。大きく体操部の方々と集団行動の方々、この2チームに協力いただきました。 ピラミッドを組むところや、廊下で組体操をしながら進んでいくところは体操部の方々に。クライマックスで集団行動がクロスしたり、いろいろな陣形を取るところは集団行動チームの方々にお世話になりました。本当に彼らがいたからこそできた映像表現だと思います。

【三角と丸のモチーフ】ヒエラルキーと、上下が入れ替わる形

Q. 三角と丸のモチーフを取り入れた背景をお聞かせください 下津監督 三角はヒエラルキーの象徴としてよく使われる形です。下の人はつらく、上の人は楽で、すごい景色が見える。それに対して丸(球)は、下にもなりうるし上にもなりうる。その意味合いとして取り入れました。劇中で愛が丸いものを集めていたり、おにぎりを丸く潰したりするシーンなども、そのあたりから意識的に「丸」を刷り込んでいました。

【SF的な飛躍表現】"三角、丸、三角、丸……"から生まれた発想

Q. クライマックスのSF的な飛躍表現を思いついたきっかけや、その演出意図をお聞かせください 下津監督 もともと、最後に愛が感情を爆発させて吐露するシーンまでは決まっていました。ただ、人間ピラミッドに対してそれだけでは出力が弱いなと思っていて。 山田さんと青木さんの写真、そしてピラミッドを並べて見ていたときに「あれ?」と。「山田さんは丸顔だな」「丸?」と思い、「三角、丸、三角、丸……」と連想が広がって、そこから最終的な"ある形"を思いつきました。 発想のゼロイチはそうだったのですが、テーマに落とし込んでいくときにも理にかなっていていいなと思ったので、その形で取り入れました。

【掛け声"ヤァー"と"ポーッ"】福岡の学生の掛け声が原点

Q. 旧体制側の掛け声"ヤァー"に対して、新たな掛け声"ポーッ"には意味が込められているのでしょうか? 下津監督 僕は福岡出身なのですが、福岡の学生は立ち上がったり座ったりするときに「ヤァー」と言うんです。芸人のなかやまきんに君さんも福岡出身で「ヤァー」と言いますよね。そこからまず「ヤァー」を発想しました。そして「ヤァーの逆って何だろう」と考えたときに、完全に僕の感覚なのですが「ポーッ」かなと。本当に感覚的な「ポーッ」ですね。

【恐怖とユーモアのバランス】フィンチャーのトーンで撮る"奇妙さ"

映画 NEW GROUP
©︎2025「NEW GROUP」製作委員会

Q. ユーモアと恐怖のバランスで意識されたことをお聞かせください 下津監督 僕自身、究極的には「怖がらせてやろう」とは思っていなくて。何か奇妙なシーンを描いて、それが結果的に恐怖につながっていればいいのかなと思っています。コミカルなシーンも同じで、「ここで大爆笑させてやろう」という意図はなく、恐怖と同じベクトルで、奇妙なものを見て少し「クスッ」とさせてみようくらいの感覚です。 やっていること自体は少しおかしいのですが、映像をデヴィッド・フィンチャー作品のようなトーンで撮るので、結果的に「これ、笑ってもいいのかな?」という、絶妙にシュールなラインに着地しているのかなと思います。

【OPシーンの人物配置】日々感じる危機感を、冒頭に込めて

Q. スキャンダルを追う記者や騎馬戦を組む政治家など、オープニングに印象的な人物たちを配置した意図をお聞かせください 下津監督 この映画の脚本を書いていたのは2年前から1年半ほど前なのですが、当時から「このままいって大丈夫か」と個人的に危機感を感じていました。 メディアの流す情報を鵜呑みにしてそのまま生きているのは、少し危ないんじゃないか、と。そう思い始めたのが今回の出発点になっています。なので、自分が日々感じているようなことを、特にオープニングのシーンで出させてもらった感じですね。

【海外上映時の感想】巻き起こった"ポーッ"のコール&レスポンス

映画 NEW GROUP
©︎2025「NEW GROUP」製作委員会

Q. 海外上映時の印象的な感想をお聞かせください 下津監督 組体操は日本特有のものなので「どこまで伝わるかな」と思っていたのですが、意外とかなり伝わってびっくりしました。特に欧米圏では上映がかなり盛り上がるんです。上映後には「ポーッ」コールが巻き起こって、僕が「ポーッ」と言うと「ポーッ」と返ってくる、コール&レスポンスのような状態になりました。

【音響・音楽のこだわり】仮音楽は『インターステラー』

インターステラー、マシュー・マコノヒー、アン・ハサウェイ
©2014 Warner Bros. Entertainment, Inc. and Paramount Pictures. All Rights Reserved.

Q. 音響・音楽でこだわったポイントをお聞かせください 下津監督 音楽に関しては、仮音楽としてハンス・ジマーさんのサウンドトラックを入れていました。クリストファー・ノーラン監督作品などで知られる世界的な作曲家ですが、具体的には『インターステラー』をあてていて。 そのためとても壮大になっています。ただ、音楽プロデューサーを含む音楽チームが、それに匹敵するレベルで仕上げてくださったので、良い仕上がりになったと思います。

【藤原さくらの主題歌】声なき声を"合唱"で表現する

Q. どのようなリクエストをされて、藤原さくらさんの主題歌が生まれたのでしょうか? 下津監督 劇中では、集団に入ってしまうと声も出せず表情も変えられない、という設定なので、その人たちの声なき声を「合唱という形で表現してください」とオファーさせていただきました。その中で、藤原さんの美しい歌声と、どこか不吉な感じが、いいハーモニーになったのかなと思います。 この映画を見終わった後は「一体何を見せられたんだ」という読後感でエンドロールに入っていくと思うのですが、そこを藤原さんの歌声がすくってくれる。聞きながら「この映画は何だったんだ」ともう一度考え直すのに、素晴らしい楽曲にしていただいたなと思います。

【前作『みなに幸あれ』との繋がり】"比喩系監督"と、HAPPYのTシャツ

『みなに幸あれ』
©KADOKAWA

Q. 前作『みなに幸あれ』との関連性についてお聞かせください 下津監督 前作と比べるとスケールアップして、舞台も高校になりました。自分としては、社会問題や社会に対するものを比喩して表現する"比喩系監督"なのかなと思っています。また、気づかなかったかもしれませんが、1作目『みなに幸あれ』でおばあちゃん役を演じた方が、本作の公民館のシーンにちらっと登場していて、「HAPPY」と書かれたTシャツを着ているんです。その辺りも見ていただけると嬉しいですね。

【今後挑戦したいこと】言語や文化の壁を越えるホラーで、海外へ

Q. 次回作の構想や、下津監督が今後挑戦されたいことをお聞かせください 下津監督 おかげさまで海外映画祭でかなり好評をいただき、いろいろと回らせていただく中で、ハリウッドのエージェント会社から連絡が来て、今ちょうど契約しているところです。 やはりホラーは言語や文化の壁を越えるし、一番可能性があると思っているので、もちろん日本でもやっていきますし、少し海外にも目を向けて、海外のプロジェクトも進めていきたいなと思っています。

▼取材・文:増田慎吾